小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第803回
NAB取材班、グランド・キャニオンで星空のタイムラプス撮影に挑む!
2017年5月10日 08:00
星を追う
4月20日から10日間ほど、NAB取材のために渡米した。会期以外にも日程に余裕を持たせたのは、グランド・キャニオンまで足を伸ばし、夕景や星空を撮影しようと考えたからだ。今回はそんな方法論とその結果をお伝えしたいと思う。
グランド・キャニオンと一口に言うが、実際にはアリゾナ州北部を東西400kmぐらいに渡って拡がる渓谷だ。したがってビューポイントも沢山ある。今回はグランドキャニオンでも比較的東側のタヤサンから入ったあたりを目指す。
NAB会場があるラスベガスからは、直線距離ならほぼまっすぐ東に270kmだ。だが陸路ではまっすぐ行けないので、南側に大きく迂回して入る事になる。
実は10年ほど前にも、ラスベガスから車でグランド・キャニオンまで入ったことがある。当時は途中からRute66という街道を通るため、片道でおよそ8時間ぐらいかかった記憶がある。朝出発しても、現地には1時間程度しかいられず、そこから戻るともう夜だったものだ。今はその部分をフリーウェイ40号線でバイパスできるため、ノンストップならおよそ4時間程度で行けるようになっている。
40号線に乗る前に、Rute66にある街を散策してみたが、なかなか趣のある街並みだった。両方のおいしいとこ取りしながら行くのがいいだろう。
グランド・キャニオン内にもホテルはいくつかあるが、観光地だけあって結構いいお値段である。そこで今回はグランド・キャニオン入り口から30kmほど南に下ったヴァジェという街にあるモーテルに宿を取った。
ラスベガス市内を11時半頃に出発、宿にチェックインしたのが夕方4時半頃である。そこで撮影道具をセットアップし、車でグランドキャニオンへ入ったのが5時半。日の入りは6時15分頃の予定であったので、カメラを構える頃にはもはや夕方の風景であった。
まずは夕景から
駐車場から徒歩1分も行くと、そこはご覧のように柵も何もない崖っぷちである。当日は谷から拭き上げてくる大変な強風で、カメラはその辺の石を使って固定しないと倒れてしまうほどであった。幸い谷に向かって吹き込んでは来ないので、谷に向かって落ちるようなことはなく、安全と言えば安全である。
今回は筆者以外に、4人のカメラマンが同行している。それぞれが思い思いのアングルと目的をもって夕景を撮影した。
筆者は動画をソニーの「RX100M3」で、写真をパナソニック「DMC-G7」で撮影した。またiPhone 7 PlusをDJI Osmo Mobileに取り付けて、4Kでの動画撮影も行なった。
まずは手始めに、RX100M3で撮影したタイムラプス映像をご覧頂こう。
同機は2014年発売とすでに3年前のカメラだが、カメラ内にアプリがインストールできるようになっている。タイプラプスもカメラアプリで撮影するわけだが、最新機能がどんどん追加されるので、古いカメラでも最新機能が使えるのがポイントだ。
タイムラプスアプリも、初期の頃は単に連番静止画を一定間隔で撮影するだけのものだったが、アップデートにより「アングルシフト」という機能が搭載され、撮影後に自由にエリアを決めてズームインやズームバックができるようになった。動画としてはHD解像度までしか対応しないが、連番静止画は高解像度で撮影されているため、ズームインしても画質劣化に悩まされることはない。
この動画も、撮影後に範囲指定してズームインしたものである。途中飛行機が短い飛行機雲を作りながら横切り、最後は月が姿を表わすあたりでベストなアングルとした。これを光学的にやろうとすると、そこそこ高価な機材が必要になるところだが、コンパクトデジカメでもなかなかいい動画が撮れる。アプリはαシリーズにも対応しているので、ワイドレンズで撮影すれば、もっと画角のバリエーションが拡がるだろう。
夕景のタイムラプスの場合、光量がどんどん少なくなっていくので、露出をどのぐらいまで追従させるかが悩みどころとなる。露出オートにした場合、いつまでもカメラのほうで露出を追いかけてしまうので、いつまでも暗くならない。ということは、映像的にも“終わりどころ”が見えない映像になってしまうし、なによりも暗くなるにつれてS/Nがどんどん悪くなる。
ソニーのタイムラプスアプリでは、露出オートのほか、追従性としてLo、Mid、Hiの3段階が選択できる。今回はLoを選択しており、ある程度のところで追従を諦めて暗くなるように設定している。
もう一つ、iPhoneでも純正カメラアプリでタイムラプス撮影してみた。こちらは露出設定のようなものが何もないので、日が沈んでからもかなり露出を追いかけている。だがS/Nが劣化する前に諦めて暗く落とすアルゴリズムになっているようだ。
今回はOsmo Mobileで固定したわけだが、タイムラプスで早回しにすると、風に吹かれてジンバルがゆっくり振られているのがわかる。タイムラプスではあるのだが、手持ちで撮影しているような揺れ感が面白い。
グランド・キャニオンは気軽に車で行けるので、一見すると平たい大地が下に向かって削れているように見えるが、実際には標高2,000m以上の高地である。したがって4月下旬とはいえ、日が暮れると気温は零下まで下がる。
一応ダウンジャケットなどの防寒具は用意していったのだが、それでも強風と気温低下による冷え込みは凄まじく、とても夜までこのままではいられないということで、モーテルまで退却することにした。途中ステーキハウスで食事したのち、午後11時頃からモーテルに近い空き地にて、星空の撮影を行なうことにした。モーテルから漏れる明かりが多少あるとはいえ、肉眼では2mぐらい近寄らないと人がいるのがわからない程度の真っ暗闇だ。
流れる星を撮る
星空というのは、肉眼では結構星が見えるのだが、カメラで普通に撮影しても星は写らない。中にはソニー「α7S II」のように上限ISO 409600まで上げられるカメラもあるが、通常のカメラで撮影する場合には長時間露光しないと、肉眼で見えるようには撮影できない。
だが星は地球が自転するために、北極星を中心として同心円状にゆっくり回っている。長時間露光をするにしても、10秒程度なら星はまだ点として写るが、それ以上になると長く流れてしまう。20秒程度でも、もはや点ではなくなっているのがわかるはずだ。
ある意味それを逆手にとって、星が流れる様を撮影する方法もある。今回筆者はRX100M3のアプリ「スタートレイル」を使って、星が流れる模様を撮影した。
このアプリには3つのモードがある。「明るい夜空」「暗い夜空」「カスタム」の3つだ。普段首都圏近郊で撮影する場合は、「明るい夜空」を選択しないと星が写らないのだが、今回初めて「暗い夜空」を使って撮影した。画面下部には電線や何かのタンクが綺麗に写っているが、肉眼ではこれらは全く見えていない。モーテルから漏れる明かりの反射だけで、これだけ写るわけである。
残念ながら撮影中に、近隣の方だろうか、空き地脇の道に車が入ってきたため、中断することになったが、さすが鼻をつままれてもわからぬほどの暗闇だけあって、かなりハイコントラストで空と星を撮影する事ができた。
星を止めて撮る
これだけでは面白くないので、今回は、お二人のカメラマンに、それぞれ別々の方法で星空撮影にチャレンジしていただいた。
カメラマン猿田守一氏が使うのは「赤道儀」だ。前出のように地球の自転によって星が動くので、20秒以上の長時間露光は難しい。だが長時間露光すればするほど、肉眼では見えない星も見えてくる。そのジレンマを解決するのが、赤道儀である。
これは地球の自転を打ち消す方向、すなわち自転とは逆回りでゆっくり回転する電動雲台だ。これにカメラをセットすれば、20秒以上の長時間露光でも星が流れることなく、綺麗な点として撮影する事ができる。その代わり、地面というか地上にあるものは、ゆっくり動くことになるので、流れて写る事になる。
今回使用するのは、ケンコーの「SkyMemo S」というポータブル赤道儀。希望小売価格5万円となっているが、人気モデルゆえに実売価格はこなれており、ネットでは3万5,000円程度で購入できるようだ。
SkyMemo Sは、極軸望遠鏡と、電動雲台が合体したものだ。基本的な動作原理としては、底部にある接眼レンズから覗いて北極星に照準を合わせ、モードダイヤルを「校正追尾モード」にすれば、星を追従してくれるというわけである。ただ正確さを期すためにはそれだけでは済まず、事前に様々な調整を加えていく必要がある。
まずは現在地の経度を補正する。各国には標準時を規定する子午線があり、撮影地はそこからプラスマイナス何度ずれてる、という設定法だ。撮影ポイントは西経112度08分19秒なので、それにセット。GoogleMapで撮影地点をポイントすれば、そこの緯度経度が一発でわかるので、設定は楽である。
続いて撮影日時をダイヤルで設定し、それから初めて北極星を探してロックする。さらに細かくは、年によって多少北極星の位置がずれるため、それを補正するための歳差誤差補正を行なうわけだが、写真撮影程度であればそこまで細かく合わせなくても撮れるようだ。
今回猿田氏が使用するカメラは、パナソニックのGH5。レンズは「LUMIX G X VARIO 12-35mm / F2.8 ASPH. / POWER O.I.S.」である。絞り開放F2.8、ズームはワイド端12mm(35mm換算24mm)でシャッタースピードは60秒。
画面の左やや下に天の川が写っている。肉眼ではぼんやりとした雲のようにしか見えなかったが、カメラで撮影してみると天の川であることがわかった次第だ。赤道儀のおかげで1分間の露光にも関わらず星は綺麗な点となっている一方で、地面はブレている。このブレは、赤道儀が動いているからだ。また地面の水平がずれているが、これは赤道儀が自転と逆方向に回転するためで、地平線は時間と共にどんどん傾いていく。
超低速タイムラプス
もう1人のカメラマン、柳下隆之氏が使用するのは、水平方向の超低速パンが可能なSyrp「Genie mini」である。
ニュージーランドの新進気鋭撮影器具メーカー「Syrp」では、以前「Genie」という電動雲台を発売していた。これは雲台の下にヒモを巻き取るワインダーが付いており、これとスライダーを組み合わせることで、パンと同時に電動ドリーも可能だった。Genie miniはそのワインダー機能をなくし、シンプルにパンだけができるようにして小型軽量化したモデルだ。
2~3年ほど前にタイムラプスが流行ったので、低速で動く電動雲台は沢山ある。Genie miniのポイントは、アプリを使って回転角と時間をセットするだけで、スピードが自動的に設定されるところだ。
さらにカメラと同期ケーブルを接続することで、動作中でも一時的に回転を静止し、その瞬間にシャッターを切るといった連係動作も可能にしている。雲台が動いているときに長時間露出すると、1枚1枚の写真が流れてしまうが、こうした連携機能により、綺麗な静止画の連続体が撮影できるわけだ。
同氏が使用したカメラは、富士フイルムのX-T2で、レンズは同じくフジノンの「XF10-24mmF4 R OIS」。テレ端10mm(35mm換算15mm)で、絞り開放F4 、シャッタースピード13秒で、およそ3時間撮影している。
こちらも天の川をくっきりと捉えているが、動画になっているとその有り様もよくわかるスーパーショットとなっている。
総論
今回カメラマンお二人にご協力いただいたおかげで、単に星を撮るとはいっても方法論によっていろんな表現ができることがわかった。今回はNAB取材がメインなので、重い機材を避けたため、使用したものはどれも3万円台で買える簡易的なものだ。それでも普通に三脚を構えるより、ワンランク上の撮影ができる。
一番の条件は“開けた真っ暗な場所”という事になるが、これから季節も良くなる。海や山へキャンプに出かける事もあるだろう。そんなとき、ちょこっと機材を持っていき、寝てる間にタイムラプス撮影を仕掛けておけば、肉眼では見られない夜の顔が撮れる。
この春夏はぜひ、「1ランク上の夜空撮影」にチャレンジしてみてはいかがだろうか。