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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第587回:コンデジの行方を占うニコン「COOLPIX S800c」

〜Android搭載のコンデジは吉と出るか〜


■拡張するAndroidワールド

COOLPIX S800c

 AndroidといえばGoogleが開発したもの、というイメージで捉えている人も多いことと思うが、実際にはLinuxをベースに開発された、オープンソースのモバイル端末向けOSである。現在はタブレットはもちろんのこと、音楽プレーヤーや電子書籍端末などにも搭載されており、応用製品はさらに増えていくだろう。

 その中の一つとして、今後はデジカメも加えられる。Android搭載のデジカメというコンセプトは、すでに昨年から具体的な製品開発が進んでおり、今年1月のCESでは米ポラロイドがAndroid搭載のコンパクトデジカメ「SC1630」の実動モデルを出展している。年内には発売と発表されたが、まだ発売されていないようだ。


CESで展示されたAndroid搭載のデジカメ、ポラロイド「SC1630」 裏側はまるっきり普通のAndroid端末

 そんな中、いち早く発売に漕ぎ着けたのが、ニコンだ。COOLPIXはちょっと変わったカメラもラインナップし、根強いファンを持つシリーズだが、COOLPIX S800cはAndroid搭載デジカメとして、9月27日より発売が開始されている。店頭予想価格は4万8,000円前後となっているが、ネット通販の最安値では3万円台半ばまで下がってきているようだ。

 スマートフォンのカメラ性能も上がってきている中、カテゴリ分けが難しいところではあるが、ガチなコンパクトデジカメにAndroidを搭載したという点では、タブレットでもないしスマートフォンでもなく、新ジャンルの商品と言ってもいいだろう。

 コンパクトデジカメもすでに以前ほどの勢いはなく、差別化が難しくなってきている現状もあるわけだが、そこの起爆剤としてAndroidというのは、割とアリなんじゃないかと思っている。

 今回はカメラ性能もさることながら、マジなカメラ+Androidで可能になることを色々テストしてみよう。



■見た目は本当にデジカメ

 まずデザインである。S800cはホワイトとブラックの2色があるが、今回はホワイトのほうをお借りしている。昨今のコンパクトデジカメは、フラットなボディに沈胴式のレンズが収まるといったデザインが主流だが、S800cはレンズ鏡筒部へ向かってボディが盛り上がっているようなスタイルだ。

 鏡筒部の径も昨今のデジカメとしてはそれほど大きくなく、ボディの中にキレイに収まっている。ただ個人的にはそのへんがちょっと一周回って古くさいような印象を受けるのだが、感じ方は人それぞれかもしれない。正面から見れば、どこをどう見ても普通のデジカメにしか見えないあたりも、せっかく他社にない先進性をもう少しデザインでアピールして欲しいところだ。

見た目はまったくデジカメ 鏡筒部に向かって盛り上がるボディ
レンズ脇の2の穴がマイク

 レンズは35mm換算で25〜250mmの光学10倍ズームレンズで、F3.2〜5.8。手ぶれ補正は、静止画では光学式と電子式の併用が可能、動画では光学式のみとなる。レンズ左肩にある2つの穴が、ステレオマイクだ。

 撮像素子は1/2.3型総画素数1,679万画素のCMOS。内蔵メモリは、画像保存領域が約1.7GB、アプリケーション領域が約680MBとなっており、スマートフォンやタブレットなどに比べればずいぶん少ない。それでも普通のデジカメでは内蔵メモリなど数枚撮ったら終わりぐらいの容量しかないのに比べれば、メモリーカードを忘れていっても1日のイベントだったらそこそこ撮り切れてしまうぐらいの容量は持っている。

ディスプレイは有機ELを採用

 背面は殆どが有機ELディスプレイで、3.5型のタッチパネル。ボタンはカメラに関するものはなく、Android 2.3としては標準の3ボタンのみ。

 上面には電源とシャッターボタン、ズームレバーがあるのみだ。端子類は正面から見て左側に集中しており、HDMIミニと独自形状のUSB端子がある。ストラップホールが端子の真ん中にある。

 底部のフタを開けるとバッテリとSDカードスロットがある。三脚穴の横の穴がスピーカーだ。


端子類はこの2つだけ このあたりの作りは普通のデジカメっぽい 三脚穴の左にある小さい穴がスピーカー

 Android端末としては、バージョン2.3.3で、CPUは1.6GHzシングルコアのCortex-A9。スペックとしてはやや低い感じがするが、余計なアプリが何も入っていないので、操作感は悪くない。ただ、昨今はスマートフォンでも画面は4型が主流になってきており、3.5型はちょっと窮屈な感じがする。

 端末の動作としては、カメラとAndroidが同居しているため、若干複雑だ。考え方としては、カメラ撮影モード、カメラ再生モード、Androidモードの3モードがあるという感じだ。電源OFFの直前にどのモードだったのかで、次回電源投入時にどのモードで立ち上がってくるかが決まる。

カメラ撮影モードは高速に起動する

 カメラ撮影モードの起動はなかなか高速だ。すぐに撮影できることはできるが、動画モードへの切り換えなど、設定操作はすぐにはできない。10秒ぐらい経つとAndoridが機能するので、そうなってはじめて他のモードへの切り換えなどの操作ができる。

 これがスマホなら、電話の待ち受けをしないといけないので、Androidがスタンバイに落ちるという状態がないわけだが、カメラではバッテリ節約のために、一定時間でAndroidを落とすようだ。しかし、電源を切ってすぐ再投入した場合は、Androidは裏で起動しているので、すぐにフル機能が使える。




■「iPhone 5を越えて当たり前」が求められる

 デジカメとAndroidが融合した使い方として、ニコンのオフィシャルサイトでは高品位な写真がSNSにアップできるところを訴求している。ということは、競合はスマートフォンという事になるわけで、当然“スマホよりもよく写る”がポイントになってくる。そこで、今回は9月21日より発売が開始されたiPhone 5と撮影比較を行なってみた。

 まず静止画だが、iPhone 5が3,264×2,448ドット、光学ズーム機能なしで、画角は35mm換算で33mm固定である。一方S800cが4,608×3,456ピクセル、画角はワイド端で35mm換算25〜250mmの光学10倍ズームが使える。

テレ端25mmの広さが魅力のS800c 同じ位置からiPhone 5でHDRなし。発色はナチュラルだが、空の明るさに引っぱられて全体が暗い iPhone 5でHDR ON。全体のトーンはまとまっているが、肌の発色は若干わざとらしい

 純粋にカメラスペックだけ見れば当然S800cのほうが上だが、iPhone 5はHDRが使えるほか、パノラマ撮影にも対応した。ソフトウェア処理で実現するカメラ機能があるという点では、iPhone 5なりの使い方ができる。

S800cのテレ端。発色がナチュラルだが、背景のボケの荒れが気になる
S800cの動画メニュー

 ただ、iPhone5では画面が16:9になった関係で、静止画撮影時はディスプレイで見ているよりも、上下とも広い範囲が写る。

 テレ端では、さすがニコンらしいキレと肌色の発色の良さを感じさせる一方で、ボケ味が汚いのが気になる。コンパクトデジカメとは言え、最近は深度表現もその良さがわかる人が増えてきている中で、そこは残念ポイントだ。

 ところが動画になると、印象が逆転する。iPhone 5は左右の画角が少し狭くなるものの、ほぼ画面の見た目どおりの画角が撮影できる。発色もナチュラルで、解像感も高い。

 一方S800cのほうは、コントラストがきつめで、あきらかにディテールが潰れている。解像感も低めで、圧縮に起因されるノイズも見られる。ビットレートはiPhone 5が約17.5Mbpsなのに対し、S800cは最高画質でも約14Mbpsと、一段低めであることも一つの要因ではあるだろう。


【動画サンプル】
IMG_1488.mov(25.5MB)
【動画サンプル】
DSCN0002.mov(18.9MB)

iPhone 5での動画。解像感が高い S800cの動画。あまり解像感はない
編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 ただそうはいっても、見たいもの、見せたいものをズームで寄れるということは、圧倒的な表現力の違いが生まれる。広角側ならそれほどの差はないかもしれないが、やはり光学10倍ズームがあることは大きい。

 音声に関してはS800cの方が周波数特性も良く、明瞭感がある。ただ無指向性のようで、広範囲の音を拾っている反面、正面からの音が強く入るということでもない。音声フォーマットは、AAC 2ch/48kHz/128kbpsだ。

 iPhone 5は、人の声あたりの特性が良く、声を録るのには向いている。ただ、自然音の集音にはあまり向いていない。まあそもそもコミュニケーション主体のデバイスなので、そこが録れればいいという狙いもあるだろう。フォーマットはAAC 1ch/44.1kHz/64kbpsとなっている。

【動画サンプル】
DSCN0020.mov(105MB)
【動画サンプル】
IMG_1506.mov(131MB)

S800cは音を全体的にまんべんなく拾う iPhone 5は人の声に特性を絞っている
編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
【動画サンプル】
stab.mp4(40.5MB)

歩行時の手ぶれの比較
編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 手ぶれ補正は、S800cは光学の手ぶれ補正が効くのに対して、iPhone 5は手ぶれ補正がない。しかし双方の動画比べてみると、ほとんど差がないことがわかる。画角が広いので、歩きによる手ブレが感じられないということもあるだろう。加えてカメラの手ぶれ補正は、テレ側で狙ったときにブレを押さえるというアルゴリズムなので、広角側はあまり効かないのかもしれない。

 ただS800cは、なんの動作音かわからないが、「チョキチョキチョキ…」という音が入るところが気になった。




■Androidアプリとの連携

 カメラなのにSNSへの写真投稿がスマホ並みに便利、という機能を実現するために、S800cではカメラ再生モードの時に、Wi-FiのON/OFFボタンと、Androidアプリへの送信ボタンを設けている。

 最初は本当にスッピン状態なので、TwitterもFacebookもインストールされていないが、写真がいじれるアプリを入れると、送信ボタンに出てくる。TwitterやFacebookは、それぞれのアプリ側でログインしておけば、カメラ再生画面から各アプリの投稿画面をダイレクトに読み出しに行く。

再生モード画面。アプリへのリンクボタンがある 画像から投稿アプリを選べる
専用アプリでスマホへのWi-Fi転送も可能

 Wi-Fi対応のデジカメはいくつか出始めているが、その多くはスマートフォンにアドホック接続して写真を転送し、SNSに上げるのはスマホから……というアプローチを取っている。S800cも、専用アプリを用いてスマホとアドホック接続し、写真を転送するソリューションを用意している。ただそれよりも、アプリさえ入れればデジカメから直接送れるのが、Android搭載のメリットである。

 撮影した写真の加工に関しては、iOSはかなりの種類のアプリが揃っている。Appleが提供するiPhotoもかなり高機能だ。Androidは写真の加工に関しては、もう一歩アプリの種類は少ないが、できることはほぼ同じぐらいだと思われる。

 いくつか試した中では、「Instagram」や「AfterFocus」といったアプリは、カメラ再生画面から読み出して普通に利用できる。アプリを先に立ち上げて写真を選ぶのではなく、最初に写真を選んだ状態からアプリに投げられるという順序は、スマートフォンと同じ使い勝手だ。

 一方動画編集では、iOSはAppleのiMovieを筆頭に、「Avid Studio」、「Reel Director」、「Pinnacle Studio」など、錚々たるメンバーでの戦国時代に突入し始めている。それに対してAndroidは、未だ定番アプリ定まらずといった状況ではないだろうか。

 1クリップをトリミングできるアプリに「AndroVid」や「VidTrim」などいくつかあるようだが、複数のカットを繋いでストーリーを作っていくようなアプリは「ムービーの編集(Movie Editor)」や「MovieAid」ぐらいと、非常に少ない。Movie Editorは複数のクリップが繋げられるだけで、各カットのトリミング機能がないなど、本物の映像編集からはほど遠い。機能的にはMovieAidが良さそうに見えるが、S800cではちゃんと動作しなかった。動画のクリエイティブツールがないというのが、現時点でのAndroidの弱点なのかもしれない。

 アプリ側からカメラにアクセスするアプリも複数あるが、スマートフォン的な感じで動作する。例えばSkypeは、ちゃんとカメラの映像を使ってチャットもできる。モニターが後ろにしかないので、自分撮りしながらの会話はちょっと難があるが、風景を見せながら通話というのには、カメラ画質が良いのでなかなか面白い。ただ光学ズームのコントロールが効かないので、広角のみでしか使えないのは残念だ。

 Ustreamも、Skypeと同じような扱いである。ただこちらは、ズームレバーをいじると電子ズームになる。おそらくアプリ内にそういう機能があるのだろう。今後はこの手のアプリに対してのカメラのコントロールをどうするかが、一つの課題と言える。

 なお本機にはHDMIミニのコネクタが付いているが、手持ちのケーブルではコネクタの持ち手部分がつっかえて差し込めないという事態が発生した。他の製品と比較してみると、フタのサイズはだいたい同じようなものだが、受け側のコネクタの位置が、表面から奥まりすぎているのが原因のようだ。

Ustreamでは、デジタルズームのみ可能 端子が奥まりすぎていて、ちゃんと刺さらない

 しょうがないので、ケーブル側の持ち手部分をグラインダで削って差し込めるようにしてみた。レビューするのも一難去ってまた一難で、色々大変なのである。これでてっきりAndroidのミラー画面が出力されるのかと思ったら、カメラ再生画面しか出力できなかった。カメラスルーも出ない。まあ普通のカメラは大抵そうなので、そんなものと言えばそんなものだが、ちょっと残念だ。

 最後にバッテリについて言及しておく必要があるだろう。バッテリそのものは一般的なデジカメと同じで、小型ながら交換できるタイプのものだが、普通のデジカメよりは電源消費は大きい。カメラと切り換えながらWi-Fiを使ったり、Android端末としてSNSを使ったりしていると、いいとこ2時間ぐらいしか保たない。

 本当にカメラとしてしか使わないのであれば、それほど不自由はしないかもしれないが、本機の場合はどうしてもAndroid端末としてある程度の時間使うことになる。デジカメ同様のバッテリ容量のままでは、実用として厳しい。予備のバッテリか、外部給電できるバッテリを持参する必要があるだろう。



■総論

 S800cは、本格的なデジカメにAndroidを組み合わせた製品としては、国内メーカーとしては初めての製品と思われる。単にOSをこれに替えました、というレベルではなく、カメラ機能をどうやってAndroid側に渡すか、というところになかなか苦労の跡が垣間見える製品だ。

 これがベストの形、というところではないにしても、特に目立った矛楯もなく、うまくまとめてきたなという印象である。あとはせっかくのカメラ機能を、どこまでAndroidのアプリにコントロールさせるのか、あるいはAndroidをうごかしつつ、カメラは外付け同様の別物として動かせるか、というところで、今後考え方が分かれるところだろう。

 ネットへの接続に関しては、以前ならWi-Fiに対応しただけでは、という話だったが、iPhone 5でのテザリングが解禁となったことで、事情は俄然変わってきた。別途モバイルルータや無線LANスポットなどの契約なしに、この手の製品がガンガンに使えるようになるのは、業界としては大きいはずだ。

 日常的なネットワーク端末として使うには、バッテリ容量に不安が残るところだが、そもそもユーザーがどういう使い方をしていくかがこれから試されていく製品なだけに、これで十分というケースもあるかもしれない。

 最初のAndroid端末がこれ、というのはちょっと物足りないかもしれないが、コンパクトデジカメの可能性を開拓するファーストステップとしては、良くできている。このようなアプローチは、一つのトレンドを作っていくのではないかという予感がする。

(2012年 10月 10日)

= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]