小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第661回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

8mmワールドを再現! チノン「Bellami HD-1」

小型でレンズ交換。オールドレンズを楽しむ動画カメラ

チノン復活

 チノンはカメラブランドとしてはかなり古い名前で、聞いたことはあるが実際カメラは知らないという人が大半なのではないだろうか。筆者も相当クラシックカメラは触った口だが、チノンのカメラはあまり中古市場でも見かけない。流通量が少ないので、むしろオークションなどを使ってピンポイントで探さないと、なかなか出会えない。

 チノンの前進は大手カメラメーカーのレンズやOEMで知られていたが、1960年頃から始まる8mmフィルムのムービーカメラ時代から徐々にオリジナル製品を出し、1971年の音も録れる「チノンムービーサウンドレコーダー」がヒット商品となった。以降、8mmムービーの世界で大きく伸び、35mmフィルムカメラなども製品化した。

 8mmフィルムのムービーカメラと言えば、筆者の父も物好きなので丁度そのころ8mmフィルムカメラを買った。筆者が10歳ぐらいの時で、姉の運動会などを一生懸命撮っていたものの、結局映写機を買うには至らなかったので、撮影したフィルムだけが残っている。

 つまり、現役で8mmムービーをいじったことがある人は、芸大で映画を勉強したというような人でなければ、筆者よりもかなり上じゃないかと思われる。つまり、若くても60代以上、当時のおとうさん世代なら80代以上である。

 会社としてのチノンは、財テク失敗やバブル崩壊といった要因が重なり、1997年に米コダックグループの傘下に入ることになるが、その際部品製造部門を分社化して独立、のちにコダックからCHINONブランドの商標権を獲得して、現在に至っている。

 さて、今回取り上げる「Bellami HD-1」は、およそ20年ぶりに自社ブランドCHINONのカメラとして復活したムービーカメラである。フィルムカメラのようなスタイルで撮影する独特のフォルムから、大きな注目を集めている。

 ちなみにBellamiとは、同社が1981年にリリースした35mmフィルムの沈胴式コンパクトカメラの名称だ。フルサイズでありながらハーフカメラ並みのサイズしかなく、フィルム巻き上げと同時に観音開きの扉が開いてレンズが飛び出すというユニークな構造で注目を集めたが、日本ではそれほどヒットしなかったはずである。その名前からすればコンパクトデジカメこそ正式な継承ではないかという気がするが、過去のヒット商品を全部盛りしました的な事なのかもしれない。

 まあ実際撮ってみないとよくわからないので、さっそくBellami HD-1を使ってみよう。3月22日から発売されており、価格は89,250円だ。

意外にしっかりした作り

 これまでに類を見ない形状なだけに、昔よくあった中国製の安いMP4カメラみたいなものかと思っていたのだが、実物は結構ずっしりとした重みがあり、外装などもしっかりしている。ただ、黒い部分の光沢のある塗装に平滑感がなく、手油が付きやすいので、ベタベタ触ってると跡がついて安っぽく見えてしまうのが残念だ。

パッケージもなかなかかっこいい
本体ほか各種パーツを組み上げるスタイル

 機能的にはH.264でフルHDが撮影できるビデオカメラで、静止画撮影機能もある。サイズ的にはかなり小さく、昔の8mmムービーカメラのようなゴツさはない。今どきのデジタル技術を使って作られたカメラである。

意外にしっかりした作りだ
ガンスタイルで撮影する

 録画ボタンがピストルのトリガーのようになっており、専用グリップを使ってガンスタイルで撮影する。ミラーレス機でもないのに、これだけ小さいレンズ交換式のビデオカメラというのは見たことがないので、発想としても斬新だ。

 オリジナルのマウントはDマウントとスペックシートには書かれているが、実際にはこのDマウントもマウントアダプタで取り付けるようになっている。ボディ側のマウントはスクリューマウントだが、特に口径は規定マウントではない、オリジナルのようだ。

付属のDマウントレンズを取り付け。実際にはDマウント部分もアダプタになっている
正面にはCHINONのロゴがあり、録画中はロゴが赤く光る
センサーは1/3型で、レンズ交換式カメラとしてはかなり小さい

 Dマウントはダブル8カメラで採用されていたマウントで、本機にはこれの単焦点レンズが1本付属する。焦点距離は4mm/F1.2で、35mmカメラの画角と比較すると、横幅では28mmぐらいになるようだ。絞りやフォーカスも完全マニュアルである。

 撮像素子は1/3型210万画素のCMOSセンサーで、レンズを外すとすぐそこにある。8mmフィルムの映像の撮像面は横幅が4.5mmなので、若干手ぶれ補正領域を加えたとしても、ちょうどいいサイズである。

 記録フォーマットはH.264のMOV形式で、動画の撮影サイズなどは以下のようになっている。

撮影サイズ フレームレート 画質モード
1920×1080 10/15/30fps 高画質、標準画質
1280×720

 なお静止画も撮影できるが、撮影サイズはビデオと同じだ。

ダイヤル兼用の上下キーがユニーク

 ボディ横には、各種コントロール用のボタンがある。電源ボタンからPB(PlayBack)、メニュー、ディスプレイなどボタンサイズは同じなので、手探りではなかなかわかりづらい。上のダイヤルは撮影モードを変えるもので、一番上が動画、順に時計回りに動画マニュアル、静止画、静止画マニュアル、静止画連写、静止画連写マニュアルとなっている。

 その下のダイヤルはメニューなどの設定で、上下左右に倒して十字キーとしても操作できるほか、回転させてダイヤルとしても使える。インターフェースとしてはなかなか便利だが、上下左右に押せるためにダイヤル自体がグラグラしていて、一瞬壊れてるのかと感じさせる不安定さがある。

モニターはビューファインダのみ

 モニターはビューファインダしかなく、こちらは0.47インチ/144万画素の液晶パネル。視度調整はファインダをグルグル回して調整するタイプだが、相当回さないと筆者の視力には合わなかった。

 背面にはDC5Vの外部電源端子があるが、ACアダプタは別売だ。蓋を開けるとSDカードスロットほか、microHDMI、USB、ヘッドフォン出力、AUX端子がある。AUX端子が何に使えるのかは不明だ。

 上部にはアクセサリーシューと、ズームボタンがある。ズームはデジタルズームで、連続可変ではなくステップで12倍まで拡大する。電源は単三電池2本で、本機には充電池と充電器も付属する。

背面を開くと端子類が現われる
上部にはアクセサリーシューも
単三電池2本で動くのもユニーク

 トリガー式の録画ボタンは、押しやすいと言えば押しやすいが、手持ちではブレないようにそっと握るのが難しい。もうすこし出っ張ってたほうが押しやすいだろう。

本体底部には三脚穴があり、ここに付属のグリップを装着できる。グリップなしでも撮れないことはないが、あったほうが安定するし、スタイルとしても8ミリカメラっぽい。

特徴的なトリガー式録画ボタン
底部に三脚穴
付属グリップを取り付けることでガンスタイルに

色々難アリの撮影

 では実際に撮影である。今回は付属Dマウントレンズの他に、別売のCマウント、CSマウント、M42マウントのマウントアダプタもお借りできた。せっかくなので、友人から16mmのボレックスに付いていたCマウントの「KUINOTOR 12.5mm」、「TAYLOR & HOBSON 2.5mm」、「Nippon Kogaku(Nikon) 100mm」のレンズを借り、M42マウントは自前の「PENTAX Super-Takumar 28mm/F3.5」、「同Super-Multi-corted Takumar 50mm/F1.4」を持っていった。

3種類のマウントアダプタもお借りした
今回用意したレンズ群。手前左がTakumar 28mm、左が同50mm。奥の左から順に、Cマウントの12.5mm、2.5mm、100mm
Cマウントレンズは、すべてお借りしたBOLEX H16 Reflexに付いていたもの

 こういうカメラなので、いつもの公園ではなく山で撮ってみたかったのだが、マウントに問題が出て数カットしか撮影できなくなってしまった。

山で撮影した動画(付属レンズのみ)
sample1.mp4(86MB)

 Dマウントレンズもマウントアダプタ経由で装着することはすでに述べたが、この本体側のマウント部分には、もう一つフランジバック微調整用のリングが付いている。元々ここはきちんと調整されて、2本イモネジで固定してあるのだが、このイモネジが緩んでしまって、レンズ交換時にこの微調整リングがズレてしまったのだ。

フランジバック微調整用のリングがズレてしまったので、家に持ち帰って調整しなおした

 このリングもスクリューマウント形式でねじ込まれているだけなので、マウントアダプタを付けたり外したりしているうちに、このリングも一緒に回ってしまうのである。特にM42のレンズは他のマウントのものよりも径が太いので、レンズを持って回していくと、必要以上に強いトルクがかかることになってしまう。

 スクリューマウントのフランジバック微調整に同じスクリュー部材をつかうのはいかがなものかという気がするが、スクリューマウントを設計した当時の技術者はもういないはずなので、なかなかそのあたりのノウハウが伝承されていないのであろう。

 ちなみに昔のカメラは、フランジバックの微調整には薄い銅板の板を挟んで、マウントの回転方向に対して垂直にネジ留めされていたものである。

 このままでは無限遠のフォーカスが合わない。家に帰れば修理工具はいくらでもあるのだが、山ではもうどうしようもないので、撮影は断念せざるを得なかった。

 家に帰って無限遠調整をしたのち、再び撮影した。あいにくの小雨模様でパッとしない絵だが、そんな事情なのでご容赦頂きたい。

 付属レンズはおよそ28mm相当なので、動画としては結構広い絵が撮れる。被写界深度は深く、少し絞ればほとんどパンフォーカスで撮影できる。また近景は最短3cmまで撮影できるので、レンズ1本でも割と楽しめるだろう。

ホワイトバランスオートでは、かなりマゼンタ系に転ぶ傾向がある
ホワイトバランスをマニュアルで取れば普通のバランス
収差もフリンジもあるが、味があることは確か

 オールドレンズの味のある描写が楽しめるが、レンズの質という点では、輪郭にフリンジも出るし、周辺の収差もそれなりにある。昨今のビデオカメラやデジタル一眼の絵と比べるのは、酷だろう。

 お借りしているCマウントのレンズは、元々は16mmフィルム用なので、本機に付けると焦点距離が4倍ぐらいになる。従ってワイドでも中望遠になってしまうし、標準が望遠、望遠は超望遠になってしまう。

カラー撮影以外に、モノクロ、セピアモードもある

 比較的入手しやすいM42マウントのレンズではさらにこの傾向が大きく、元々35mmフィルム用のレンズを8mmの撮像面積で使うため、50mmレンズを付けると三脚なしでは被写体を捉えるのも難しいほどの望遠になる。今回の組み合わせでは、ワイドが撮れるレンズが標準のDマウントレンズしかないので、組み合わせ的には標準レンズぐらいの画角がちょうど抜けることになる。

 DマウントやCマウントのレンズも、昔は見向きもされなかったので中古で数千円で買えたものだが、昨今はマウントアダプタを使ってミラーレスで使う好事家も現われたことで、価格が10倍ぐらいに高騰したままになっている。

古いレンズだがさすがの描画力を見せるPENTAX Super-Takumar 28mm
3本の中では一番描画力が高かった2.5mm/F1.9

 画質モードは今回1080/30pの最高画質で撮影しているが、ビットレートが実測で18〜19Mbpsほどあるにもかかわらず、画質は良くない。特に遠景の細々した木の枝や草の葉などは全体がモッコリしてしまって、精細感はない。

Cマウント、M42マウントレンズも使って撮影
sample2.mp4(106MB)

 撮影時にビューファインダで覗いている限りはそれほど画質は悪く感じないので、撮像素子からの出力は悪くないのだろう。エンコーダの質が、トイカメラ並みというところが弱点、ということになる。

総論

 チノン Bellami HD-1は、立ち位置の難しいカメラである。レトロ趣味という点からすれば、8mmを懐かしいと思う年齢はすでに80代であり、カメラに興味を持ち続けている人ならデジタル一眼レフなどを既に買って満足しているだろう。

 一方筆者世代でも、DマウントやCマウント、CSマウントのレンズの手持ちがあるという人はそうそういない。真面目にやるなら中古で買う必要があるが、レンズはそれほど安いものでもない。もっと若い世代になると、まったく知らない世界の話になってしまい、興味の持ちようが無い。

 つまり、どこの誰をどうターゲットにしているのか、今のところよくわからない。まだ画質が良ければ、「ちゃんと遊ぶ」こともできるのだが、この画質では苦労してレンズを集めても、報われないのではないか。

 小型でレンズ交換ができるビデオカメラという点は面白いが、すでにその部分はミラーレスに取られてしまったあとだ。現状ではただ珍しいルックスのカメラというだけで、実力がついて来ないのがいかにも残念である。質感やスタイルは良く、オールドレンズで動画撮影を楽しむというコンセプトは魅力的なので、今後の進化に期待したい。

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Bellami HD-1

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。