小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第720回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

自転車乗り垂涎!? スポーツ用スマートグラス「Recon Jet」。日本独自の課題も

春から注目のデバイス登場

 ウェアラブルタイプのディスプレイはIoT的な文脈と相まって、以前から注目度の高い分野である。その用途は実に様々で、かつて3Dブームのときにはパーソナルな3D空間を楽しめるAV機器として登場した。両眼を覆うゴーグル型ディスプレイという考え方は、のちにVR用ディスプレイの下地を作ったと言えるだろう。エンターテイメント型ということでは、国内企業ではソニー、オリンパス、エプソンなどが以前から商品を出している。

スポーツ用スマートグラス「Recon Jet」。未来を感じさせるデザインだ

 一方でGoogle Glassに象徴されるスマートディスプレイも、大いに期待が高まっている分野である。これは実空間の中に情報をオーバーレイするというスタイルのため、片眼タイプが多い。国内企業では東芝、JVCケンウッドらが取り組んでいるが、どちらかというと両手塞がっている作業者を支援するという、業務用としての利用が想定されており、コンシューマ向けの製品はまだ先、という印象であった。

 そんな中、4月に発表された「Recon Jet」は、サイクリストやランナーのためのスマートグラスとして、大きな注目を集めている。開発したRecon社は、2008年に米国で起業したベンチャーだが、2015年にインテルの傘下となっている。

 当初は5月中旬に発売とされていたが、およそ1カ月遅れの6月12日より、日本でも発売が開始された。販売代理店は美貴本で、ミキモトビーンズ楽天市場店にて88,800円で販売されている。これまで本連載では、 “カメラが付いていればAV機器”という強引な理由でスポーツ向けの製品を取り上げてきたが、Recon Jetも一応カメラが付いている。大手を振ってレビューできるわけだ。

 スマートグラスとして今一番完成度が高いと言われているRecon Jetを、早速試してみよう。

かっこいいスマートグラス

 メガネフレームとボディカラーにはホワイトとブラックの2色があり、今回はホワイトをお借りしている。グラス部分は標準でスモークタイプが付属するが、オプションでクリアタイプにも交換できる。どちらも100% UVカットレンズだ。

レンズをクリアタイプに変更できる
レンズ部は着脱可能

 重量は85gしかなく、ウエアラブルディスプレイとしてはかなり軽量。一般的なメガネが20g程度であることを考えれば、十分納得できる。

本体部は右目側にあり、実質的にはディスプレイ付きのAndroid端末である。ただしOSは独自にカスタマイズされた、ReconOSとなっている。CPUは1 GHz Dual-Core ARM Cortex-A9、メモリは1GB DDR2 SDRAM、ストレージは8GBフラッシュを搭載する。内蔵されているセンサーは3D加速度計、3Dジャイロスコープ、3D磁力計、圧力センサー、IRセンサーと多岐に渡っており、通信系モジュールとしてはGPS、Bluetooth 4.0(Bluetooth Smart)、ANT+、Wi-Fi (IEEE802.11a/b/g/n)を備える。

ディスプレイと本体部は右目側
ディスプレイの脇にアイセンサーも
前方に向けてカメラがある

 ディスプレイ部はWQVGAタイプで、約2mの距離に30インチHDディスプレイが見えると想定されている。また目の方に向かって視線検知用のアイセンサーもあり、視線が来なければ省電力モードになる。

 ディスプレイ部の下部にあるレバーは、ディスプレイの角度調整用で、上下左右に調整できる。ボディ部の下にはシーソー式の操作スイッチがあり、前がEnter、後ろがBackだ。メニュー操作は表側に光学式タッチパッドがある。黒い四角を上下左右に指でなぞることで、メニューの上下左右を操作する。静電式ではないため、グローブをはめた指で操作しても動作する。

ディスプレイ下のレバーで角度調整も可能
本体下部にはシーソー型スイッチが
メニュー操作は光学式タッチパッドをなぞる

 反対側の左目の方に付いている細長いユニットは、バッテリだ。見た目としては左右均等に細長いユニットがあり、ディスプレイ部だけがグラスの方まで伸びているという作りになっている。

 この左右のユニットは、簡単に取り外すことができる。取り外して動作できるわけではなく、レンズの端に噛みついているような構造になっており、レンズを交換する際にはどうしても外さないといけないのである。

本体は簡単に着脱可能
反対側はバッテリーユニット

 レンズの先端には接点があり、レンズ上部の導線を使って本体側に電力を供給する。充電のためのUSB端子は本体側にあり、その際はまたレンズの上を通ってバッテリーへ供給される。

レンズの端に接点がある
レンズの上を通って通電
USB端子は本体側に

セッティングは簡単

 Recon Jetは、単体で動作するウエアラブルデバイスだ。Bluetoothによるスマートフォンとのペアリングも可能だが、必須というわけではない。したがって、基本的な設定はPCなりMacを使って、同社の運営するサービスのアカウントと紐付けし、基本情報を流し込んでやる必要がある。

 公式サイトのRecon Engineでアカウントを作り、Recon Uplinkというツールをダウンロードする。このツールを起動してRecon JetをUSB接続すると、アカウント情報などが流し込まれ、使用できる。サイトは英語だしRecon Jetのメニューも全部英語だが、Facebookアカウントと紐付けすればこれといった入力も不要だ。

Recon Jetとサイトのサービスを繋ぐRecon Uplink
Facebookアカウントと紐付ければ、簡単にアカウント作成可能

 地図も必要なエリアだけ、Recon Jetに流し込むことができる。内部ストレージが8GBしかないため、日本中を網羅するほどは入れられないが、トータルで100,000km平方メートルぶんは収納できるようだ。メモリ残量もわかるようになっている。デフォルトでは大阪、名古屋、東京圏が登録されている。

地図データは任意の場所を切り取って転送

 設定を流し込んだあと、Recon Jetを起動すると、最初に健康と安全に対する免責事項を読むよう促される。どれかのボタンを押すと、先へ進む。続いてスマートフォンとペアリングが済んでいれば、再接続する手続きがある。これは特にペアリングしなくても構わない。

 その後、メインメニューとなる。運動を記録する「New Activity」が真ん中、右に行けば連携SNSからのお知らせを表示する「Notification」、本体設定の「Settings」がある。

New Activityで記録を開始する

 Settingでは、眼球位置の計測メニューがユニークだ。これはディスプレイを見ている位置と、正面を見ている位置の2箇所をキャリブレーションすることで、視線を外すとディスプレイが自動でOFFになる。ディスプレイを見ると間髪入れずディスプレイがONになるので、利用上問題はない。

 動画の撮影時間設定は「Battery Saving」のところにある。おそらく大量にバッテリを消費するからだろう。デフォルトは15秒になっており、30秒、1分の設定が可能だ。

 New Activityから左に行くと、過去の記録が参照できる「My Records」、本体機能を単体で使用する「My Apps」がある。

機能を単体で使用するためのアプリも

 例えばカメラ機能は、Activityをスタートさせればその機能の中で撮影が可能だが、Activityをスタートさせていない状況でカメラ機能を使うためには、別途カメラアプリを起動する必要があるわけだ。Appとしては、「カメラ」、「コンパス」、「ギャラリー」、「マップ」、「ミュージック」の5つがある。ギャラリーではRecon Jetで撮影した静止画や動画の再生が可能だ。再生後はもう一度再生するか削除するかの選択が出てくる。なかなか高機能だ。

カメラ単体での動作も可能

 ミュージックはRecon Jet内に音楽を転送するのではなく、ペアリングしているスマートフォンで音楽を再生すると、曲名などが表示される。曲のスキップやボリュームのアップダウン、ポーズなどがRecon Jetからコントロールできる。日本では自転車に乗りながらイヤホンをしていること自体が違反になってしまったが、ジョギングの際には重宝するだろう。

装着感は良好。ただし難点も

 では早速Recon Jetをつけて、トレーニングしてみよう。New Activityを選択すると、サイクリングかランニングかの選択肢が出てくる。サイクリングを選択すると、GPSで位置情報を計測し、測定がスタートする。GPS測定は非常に早い。玄関から外に出た瞬間スタートできるレベルだ。

使用イメージ

 測定中は、走行スピード、走行距離、経過時間が表示される。画面を右にスライドさせると地図が、さらにスライドさせるとコンパスが表示される。測定画面から左にスライドさせると、カメラにアクセスできる。静止画と動画が撮影可能だ。

 重量が85gしかないこともあり、装着感は非常によい。鼻当てのフィット感もよく、頭全体を丸く挟み込むつる部分の設計もいいので、重たい感じはない。ただ、ジョギングではそれなりに振動が頭部に伝わるので、汗をかいてくると下がってくる。これは普通のメガネでもあることなので、それほどの弱点ではないだろう。

フィット感もよく、軽い
ディスプレイは上目遣いで見れば視界の邪魔にはならない

 見た目としては、白のボディはかなり目立つ。スポーツ向けサングラスではよくあるカラーだが、目の下と横に幅の広い白いラインがあるので“普通のメガネです”という言い訳は通用しない。ヘルメットの造作と相まって、何かのヒーローに変身途中みたいな感じである。すれ違うサイクリストから若干奇異の目で見られることは覚悟した方がいいだろう。黒の方が目立たなくていいかもしれない。

フィット感はいいが、正面から見るとホワイトは目立つ

 ディスプレイの見え方も良好だ。夏の昼間では輝度を上げないと、周囲の明るさに負けてしまうが、きちんとフレーム全体が見える。また距離感も近くを見ている感じはないため、視線移動も自然だ。

 サイクリングではかなりの前傾姿勢となるため、正面は上目遣いで見る事になる。ディスプレイは視線の下にあるので、視界を遮ることは少ない。一方ジョギングではまっすぐ正面を見る事になるため、右目の視界の下半分がディスプレイの影に隠れてしまう。ただ、見辛ければそっちに頭を向ければ済むことなので、ジョギング程度のスピードではそれほど大きな問題はないだろう。

 一方で困ったのが、サイクリング時の後方確認だ。日本では左側通行なので、路肩に止まっている車などを避けるために後方確認する際には、右の後ろを見る必要がある。だが丁度振り返って後ろの車が見える位置にディスプレイが来るため、全然見えない。ロードバイクはそこそこスピードが出るので、体をねじって思いっきり後ろを見ているとバランスを崩して落車し、大ケガをしかねない。

自転車に乗って右後方を振り返ると、ディスプレイが丁度邪魔で見えない

 米国では車は右側通行なので、後方確認も左後ろを確認することになる。これなら問題ないはずだ。日本のように左側通行の国向けには、左右が逆のモデルも必要であろう。さらに進めて考えれば、後方確認用に後ろにもカメラがあると良かった。そうすればバックミラー代わりになるだろう。

 走行中はスピードや走行距離がいつでも確認できるが、そもそもそれほど頻繁に確認しなければならないというものでもない。平地を走っていればスピードもだいたい一定だし、レース中ならともかく、普段のトレーニングでアマチュアがそれほどまでにペースを気にしなければならない必要性は薄いように思う。これは単に筆者がやる気のないサイクリストだからかもしれないが。

 より詳細な情報を表示するために、ANT+とBluetooth Smartにも対応し、それらをサポートした心拍計やスピード/ケイデンスセンサーとも連携できる。対応機種はWebに公開されているので、本格的にトレーニングをしているという人はこうしたアイテムと組み合わせると良いだろう。

 地図データは、走行中にも見やすいように単純化されたものなのかもしれないが、ランドマークが全くなく、道の名前ぐらいしかわからないので、正直自分がどこを走っているのかよくわからない。おそらく地図が必要なケースは、普段走ったことのない道を走る時だと思うが、目標を決めてそこへのルートを示してくれるわけでもない。へーこの道ってこんな名前だったんだーという発見はあるにしても、このおおざっぱ感はアメリカーンなセンスのように思われる。一方スマートフォン側のアプリにはいつもの精度の地図が表示されるので、そちらを併用するほうが無難だろう。

地図はランドマークがなく、道路のみ
スマートフォンアプリのRecon Engage

 SNS的な機能として、自分の現在位置を公開する機能もある。同じRecon Jetユーザーが近くに居れば、その人の位置もわかるようだが、今回のテスト時には近くに誰もいないようだ。

 個人的には、どこか遠出している時なら別だが、普段のトレーニングで自分の位置を誰とも知らぬ相手に公開するのは、ネットリテラシーとしてどうなんだと思う。普段の走行ルートもわかるだろうし、自宅の場所も丸わかりだ。中学生じゃあるまいし、大の大人がそうまでして誰かと友達になる必要はなかろう。

 ディスプレイ部の表側には小さなカメラがある。ここで静止画と動画の撮影も可能だ。操作としては、カメラ撮影モードにすると、ディスプレイにはカメラスルーの映像が表示される。よきところでEnterボタンを押すと、撮影開始となる。

 静止画は1,280×960の4:3サイズで、ホワイトバランスやフォーカス、シャッタースピードなどの設定はない。パンフォーカスのフルオートである。解像度はそれほど高くもなく、ビデオ的な画質だと言える。

静止画撮影。水の様子からすると、シャッタースピードはそれなりに速いようだ
遠景の解像度はあまりよくない

 一方動画の方は、1,280×720/30pで、コーデックはMPEG-4/AVC H.264フォーマットだ。ビットレートは12Mbpsと、720pとしては高いが、レンズがレンズだけに描写には甘さが残る。手ぶれ補正もないようだ。

Recon Jetで撮影した動画。ビットレートは高いが画質的にはもう一歩

 前出のように15秒、30秒、1分の動画が撮影できるだけで、長時間の記録ができるわけでもない。もちろん、内蔵ストレージが8GBで、地図データもそこに入ってるため、録画容量もそれほどない。マイクもあり、音声も記録できるので、走りながらのちょっとしたメモ程度にはいいだろう。ただしある程度スピードが乗ると、風切り音のほうが大きくなってしまうので、過度な期待は禁物だ。

 走行データを公式サイトと同期すると、サイト上でデータが分析され、詳細がわかる。走行中に写真を撮れば、それもページ内に組み込まれる仕組みだ。走行スピードや起伏、平均スピード等のほか、当日の天候や消費カロリーといった計算もしてくれる。走行スピードのグラフをマウスでなぞると、走行ルート上でその位置もわかるので、遠出したときのデータは、かなり楽しいものになるだろう。

サイトでのデータ分析はかなり本格的

総論

 データ表示型スマートグラスは、作り込みが難しい。常時使用するのが前提であるが故に、見た目が変だと周囲の人から奇異の目で見られる事になる。Google Glassはその点で失敗があったように思う。

 人の顔に装着していいデバイスは、今のところメガネぐらいしかない。市民権を得ている形というのが、それしかないのだ。その点で、いかに自然にメガネと一体化するかが、スマートグラスのポイントとなる。

 Recon Jetは、その点を上手くクリアした機器だ。スポーツ向けに限定することで、大型のサングラスと一体化し、違和感を減らしている。左右シンメトリックになるよう、本体とバッテリを分けたのもいいアイデアだ。見た目だけでなく、重量のバランスも取れるので、外れにくくなる。

 操作系としても、光学式タッチパッドは使いやすい。広い範囲で左右に擦るように指を動かせばセンサーに当たるので、手探りであれどこだっけ? となることもない。反応は時々鈍い時もあるが、これはソフトウェア側の問題だろう。

 利用シーンとしては、日常的なトレーニングのデータをとっても、毎回同じようなデータが集まるだけで面白くない。週末に毎回どこかへ遠出をする人や、レースに出場する機会の多い人のほうが、いろんなデータが集まって楽しいだろう。

 写真や動画撮影機能はそれほど鮮明とは言えないが、写真が走行データと共にまとめられるのはいい。自分で撮るのではなく、ステータスが大きく変化したところ、例えばスピードが極端に落ちたところや起伏が激しいところなどで自動的に写真を撮ってくれる機能があったら、コースを振り返ることができてさらに楽しそうだ。

 直販88,800円という価格は躊躇するところではあるが、サイトの作り込みもなかなか良くできてる。スマホなしの単体でこれだけのデータが取れるという、IoTの見本市のようなデバイスであろう。バッテリが4時間程度しか保たないのが、今のところ唯一の弱点かもしれない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。