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4Kも2Kも変わらない? Inter BEE講演から見るアドビ環境による4K/60p製作

 アドビ システムズは国際放送機器展「Inter BEE 2014」に出展し、同社のコンテンツ製作環境である「Adobe Creative Cloud」を中心としたデモンストレーションを行なった。そこでテーマとなったのは、「4K/60p製作環境への対応」だ。

 会場ステージではテーマに沿った解説イベントが行なわれたが、ここではその一つである、「インテル最新環境とAdobe Creative Cloudで実現する4K60P映像制作」に登壇した、モーショングラフィックスアーティストの佐藤隆之氏と、4Kプロデューサー/ディレクターの藤本ツトム氏に話を聞いた。

VFX・モーショングラフィックスを担当した佐藤隆之氏(左)と、今回のプロジェクトで4Kプロデューサー/ディレクターを務めた藤本ツトム氏(右)

4Kでも2Kと変わらない? その真意は……

 佐藤氏はハリウッドでVFXアーティストとして活躍後、昨年帰国。オリジナルの4K作品である「The Moment of Beauty」で高い評価を得た。この作品でも、藤本ツトム氏は撮影のディレクションを担当しており、今回の製作も、その評価を受けてのものとなっている。

 今回はステージデモに合わせ、佐藤氏と藤本氏が協力し、オリジナルの4K/60p作品を作成している。剣道をモチーフにした短いものだが、4Kらしい精細感と60pらしい躍動感となめらかさを兼ね備えた動きが目を惹く、非常にクオリティの高いものに仕上がっている。VFXは控えめなものになっているように見えるのだが、実は床や背景などはほとんどが置き換えられており、かなり手もかかっている。

剣道 -KENDO-

 だが、作品製作にかけられた時間は、撮影からVFXまで含め、1カ月半程度しかない。撮影後の作業時間は4週間を切っていたという。その中では、クオリティと迅速な作業の両立が求められた。

Inter Bee 2014 アドビブースでのステージイベントの様子。作品を上映後、製作過程についての解説が行なわれた
今回の作品製作に使われたPCの構成。特別なものではなく、この構成のモデルも購入することは可能だ

 今回製作に使われたのは、CPUにインテルのXeon E5-2687W(クロック3.10GHz・10コア)を2つ搭載し、OSにWindows 8.1 Proを使ったPCワークステーション。メモリーが64GB、ストレージもSSDという構成だ。ここに、モーショングラフィックス用に「After Effects」、編集用に「Premire Pro」を中心としたAdobe Creative Cloud系のアプリケーションと、3D CGアニメーション用にMAXON Cinema 4Dを組み合わせている。佐藤氏は、「4K/60pなのでもっと困難が伴うかと思ったけれど、意外なほどスムーズに作業が進んだ」と評価する。

佐藤氏(以下敬称略):ハリウッド時代に、4Kや10Kといった解像度の作品も製作した経験があり、「HD(2K)に比べすごく負担が増えるだろうな」と思ったのですが、4K/60pでも、撮影を終えて作業を進めてみると「こんなものか」という印象でしたね。

 もちろん、PCの性能がとても良かった、ということはあります。Cinema 4Dはコア数が速度に効くソフトですし、他方でAfter Effectsはコア数よりも1コアのクロック周波数の方が効いてきます。そうしたことをご相談した上で、今回の3.1GHz・10コア×2という構成をご推薦いただいた、という部分があります。それに、GPUにはNVIDIAのGeForce GTX980を使いましたが、これのCUDAもありがたかった。メディアエンコーダーで書き出す時や、Cinema 4Dでシミュレーションする時にCUDAが使えたので、速度が大きく上がりました。

藤本:プロデューサーとして、クライアント対応から撮影も含めたテクニカルな部分を担当させていただきました。

 実際、メーカーや開発者の方々と話しても、「4K」で解像度が上がることはそう大変ではない、というのですが、やはり一秒30コマを60コマにするのはとても大変、とのことでした。

 でも、実際のワークフローがHDの時となにかが変わったかというと、実は「なにも変わらない」んです。そこは佐藤さんがおっしゃった通りです。特に今回のように、インテルのPCとアドビのアプリケーションで行う限り、HDのワークフローそのままで行けます。

 なにがポイントになるかというとマシン構成です。物理的にパワーアップしないと厳しい。特にデータへのアクセスです。HDDよりはSSDの方が圧倒的に速いです。4Kで撮ればデータ量は単純に増えますから、撮影現場での作業もすべてSSDでまかなえれば、単純にスピードアップします。そこがなかったら、他にどこでもカバーしようがないです。劇的に重いですから。

 今回より重要だったのは、ストレージにSSDを使ったことに加え、作業時に中間コーデックとして「GoPro Cineform」を採用したことだった。プロの映像製作となると、撮影時からすべて非圧縮のRAWデータで扱うのが基本、というのがこれまでの考え方だが、4K/60pの世界ではそれでは回らなくなっていく。

今回のプロジェクトでのワークフロー。アドビのツールを中核としつつ、それぞれの作業の間でデータを受け渡す際、中間コーデックとして「GoPro Cineform」を利用した
VFX・モーショングラフィックスを担当した佐藤隆之氏

佐藤:現実問題として、GoPro Cineformを使っていなかったら、終わっていなかったでしょうね。納品時の完パケのデータは、DPXで181GBありました。ということは、作業時のデータはその何十倍あるわけですから。でも、作業はHDの時と変わらなかった。そこはGoPro Cineformを使っていたからだと思います。

 編集時には、やはり重いので、1/2解像度や1/4解像度で表示し、半分のフレームレートで行なうことが多かったのですが、GoPro Cineformではそれが容易だった、という部分があります。レイヤーが増えるほど重くなるだろうな、と考えていたのですが、そうでもありませんでした。

 GoPro Cineformは、アクションカメラとしておなじみのGoProが提供している中間コーデックだ。特にアドビのソフトウエアでは、4K以上のコンテンツを製作する場合での最適化が進められている。今回はインテル+Windowsの組み合わせであり、アップル系で使われる中間コーデックであるProResが使えない、という制約もあっての選択だが、その一方、GoPro CineformがWavelet変換をベースにしており、多重解像度表現に優れている結果、1/2・1/4解像度での作業の際、時間を大幅に削減できる、という利点もある。

 他方、当然RAWではないので劣化は存在する。

佐藤:品質面も気になったのですが、GoPro Cineformをご推薦いただいた際に画質をチェックして、かなりきれいであることに驚きました。特に、深度が16ビットのものは本当にきれい。テストのために輝度をぐーっと上げたディスプレイでチェックしてみても、問題は感じませんでした。TIFFなどの非圧縮で出したものとも比べてみましたが、総容量を比較するとデータは数倍軽かったので、こちらを選んだ、という形です。

「同じ言葉」が通じるPC系ワークフローの取り込みが4Kでの限界を解決する

 こうした部分は、今後放送が「4K/60p」になり、本格的にコンテンツを作っていくことになると、大きなポイントになる、と藤本氏は指摘する。

 理由は、これまで存在した「業務用」と「PC」の壁だ。品質やワークフローの面で断絶が大きい世界だったが、その垣根は崩れつつある。ネット動画の需要も増え、PC的なワークフローをどう生かすかがポイントになってきているからだ。特に4K/60pのように負荷が大きく、変化の早い部分では、PC的な発想をどうワークフローで生かすかがポイントになってくる。Inter Bee全体を見回しても、そうした風潮は、特に海外製ソリューションから、広がってきている。

藤本ツトム氏

藤本:コスメのCMなどではハイスピード撮影を多用します。そこで、HDで見慣れた表現を、4K/60pでやろうとすると、今あるカメラでの表現だと、半分くらいはあまり効果的ではなくなるでしょうね。「一秒間に1,000コマ」という数字は、今は極端に思えるかも知れません。しかし、CMなどでは、今後はスタンダードになるでしょう。

 今回の作品でも、撮影の一部には、4Kで毎秒1,000コマを撮影できる「Phantom Flex 4K」が使われている。その分データ量は増大する。常にRAWで扱うことが望ましいのは事実だが、そこだけにこだわると全体の効率を下げることになってしまう。

藤本:最近は、今回のような4K製作フローのことを、ポストプロダクションやテレビCM制作チームの方々に話す機会が増えています。

 彼らの世界はすべて非圧縮のデータで進んできました。しかし、4K・ハイフレームレートになると、今彼らがお持ちの機材では、最初から最後まで「非圧縮で」作業するのは難しくなります。逆に、PCべースの機材やアドビのアプリケーションなどをうまく取り込んでいった方が、パフォーマンスが上がることが多くなります。まずそうした「ワークフローの設計」をお互いに理解しあって、撮影チームとVFX・編集の両方が働く必要があります。私は両方に関わっていますが、ワークフローの相互理解があった上にカメラの選定やフォーマットの問題が出てきます。

 フォーマットが変わったから使うマシンが変わる、システムが変わる、ということだと、話が最初に戻ってしまいます。ひとつのマシンで、できるだけカラーグレーディングも編集も、できればコンポジットも、同じツール・同じ言葉でできれば一番理想なんです。特に4K以上であれば。そうすると必然的に、PCで普段使っているアドビのツールがいいな、ということになります。ツールとしても、プロの力を発揮できるよう、成熟度も高まっていますから。

 こうした点は、今回の作品製作にも大きく関連している。撮影時には、前出のPhantom Flex 4Kの他、REDなど複数のカメラを使っている。それぞれでは色特性も異なるため、カラーグレーディングが必要になる。それをできるかぎり撮影の現場で、確認しながら行った上で後のフローに回すには、後工程でも利用しているアドビのツールで、ということがありがたいわけだ。

藤本:今回、カラーグレーディングにはアドビの「Speed Grade」を使っています。正直私は、前回のバージョンまではまったく使わなかったんです。今回は初めて使いましたが、ここまで使いやすくなったか、と思いました。当然、カラーグレーディングまではRAWでシームレスに行って、佐藤さんに受け渡す時に中間コーデックにしました。佐藤さんもコンポジッターとしてはずっと非圧縮でやってこられたのですが、ご自分の目で判断して、GoPro Cineform 16ビットを選ばれました。

 そこで、佐藤氏は少し笑いながら説明する。

佐藤:実は今回、データのやりとりって、みなさんもお使いの、ネット上にある普通の「大容量転送サービス」で行なっているんですよね。私は東京在住ではないのですが、十数分待つだけで作業が行なえるのは、本当に楽でした。

 これから4K/60pが増えて、すべてのチャネルで製作しなければいけない、ということになると、すべてを非圧縮でやっていたら、ほとんどのプロダクションはつぶれてしまうのでは、とも感じます。そうなった時、今回は「個人」として製作しましたが、僕たちがそういう環境の中で製作をリードしてもいいくらいに思います。個人でもここまでできれば、企業の人たちは、もっともっと色々な可能性・やり方があるはずです。ちょっとPC的なやり方を加えるだけで、可能性は広がります。最初に大きなシステムを用意してしまうやり方だけでなく、フレキシブルなところから、少しずつ改善していければ、とも考えます。

藤本:いまやPremireは、映像業界のプロの方も広く使う「標準言語」になっています。ちょっと前までは断絶があったのですが。

 個人のクリエイターさんが現場で撮った映像をポスプロさんが扱う、という形も出てくるでしょう。個人であることのメリットとシステムのあるチームワークのメリットを生かし合うことで、次のステージに行けると思います。そこでは、作業を精査できるプランニングプロデューサーが、色々なセクションで必要になるでしょう。

佐藤:アメリカでは完全に分業制でした。アニメーターとして関わり、仕事のほとんどはAfter Effectsを開いて行なう、という感じでしたね。他方で、撮影などには関われない、といジレンマもありました。撮影に行って意見できれば解決するのに、なぜここでこんなに苦労するんだろう……と。

 しかし、藤本さんとの作品製作を経験し、撮影から関われたことは大きな変化になりました。お互いにコミュニケーションをとって、僕が一人では絶対できなかった領域を手助けしていただき、撮影の時のヘルプも大きな影響があったんです。私がこだわりたい映像と、藤本さんとしてこだわりたいカットとで時々違ったりするんですよね。10%くらいのものなのですが、そこでのやりとりが面白さにつながりました。「The Moment of Beauty」は評価していただけましたが、そこにはそうした影響があったんです。

 自分が担当する部分の前後にもアンテナを張っておくことが、クオリティだけでなく「クリエイティビティ」に通じると考えています。

藤本:そういうやりとりをその場で取り込んで、「じゃあこうしてみましょうか」といったことを、カメラマンがその場でプレビューしながらやれる、というのが重要なんです。その場に同じツールがあって、同じ言葉でコミュニケーションをとれる。過去のやり方では、そうしたことが難しい部分がありました。

 それぞれのパートでの問題を「不具合」としてぶつけ合ったり、不確定要素として単純に排除するのではなく、個々のスキルを使ってカバーし合い、取り込んでどうやっていいものにしていくか。そこに変化があります。HDでは「コスト」としてカットしていた部分を個々のスキルで変えていくことが、重要な変化だと考えます。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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