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ケンウッドが“当たり前”に作った、初のハイレゾカーナビ「MDV-Z702」を体験

 カーナビとしては初めて“ハイレゾ”対応を謳ったケンウッドブランドの「彩速ナビ MDV-Z702」シリーズがこの春、登場した。スマートフォン並みのスムーズなタッチ操作ができるなど、ナビ機能自体の評価が高い同シリーズだが、もともと音質にも定評がある。今回の新しいMDV-Z702シリーズはそれに加えて、192kHz/24bitのWAV/FLACに対応した。クルマの中で、これまでの一段も二段も上の音質が楽しめる製品というわけだ。

ハイレゾ対応カーナビ「彩速ナビ MDV-Z702」

 ハイレゾ熱が高まりつつあるホームオーディオの分野に比べると、カーオーディオのハイレゾ化は少しばかり遅れており、“いよいよ”という雰囲気だ。しかし、JVCケンウッドによれば、ハイレゾ対応の“下準備”は既に以前のモデルから整っていたのだという。それは一体どういうことなのだろうか?

 JVCケンウッド カーエレクトロニクスセグメント 音質開発部 音質研究室のシニアスペシャリスト高橋 憲一氏と、同カーインフォテインメントBU 第一商品企画部のシニアスペシャリスト渋谷 英治氏、CEセグメント インフォテインメント開発部 商品技術部 電気設計グループの舟見 剛氏にカーナビの音質に対する取り組みについて伺った(聞き手:日沼諭史、山崎健太郎)。

「彩速ナビ MDV-Z702」の開発に携わった3人に話を伺った

前モデルですでにハイレゾ対応していた!?

 インタビューのため東京都八王子市にある同社事業所を訪れた筆者らが通されたのは、四方の壁と床面に無数の木材が並び、「限りなくフラットな音」に改造したというタンノイの大型スピーカーが設置された、リスニングルームのような“測定室”。クルマ向け製品のためにセッティングされた測定室であり、MDV-Z702をはじめクルマ用のカーナビ、カーオーディオ製品の音質を検証するのに用いられているのだという。

社内に設けられたカーナビ、カーオーディオ製品の音質検証に用いられる測定室
タンノイの製品をベースに改造したスピーカー
ステージの床下には吸音などのためおがくずが敷き詰められていた
大部分のカーオーディオ関連製品の音決めに携わっている高橋 憲一氏

 音質開発部の高橋氏は、この部屋でほぼ全てのカーオーディオ関連製品の音をチェックし、音決めしていく役割を担っている。音決めの際にポイントとなるのは、「どんなクルマに搭載しても相関性があるように音をチューニングする事」だという。

 以前からレコーディングなどで生音に触れ、「保存メディアがCDになって、(オーディオ機器のソースとしての)音質レベルが下がった」と感じていた高橋氏にとって、近年のハイレゾの広がりは「やっと来た」待望の進化だったと語る。

 そのハイレゾにカーナビで初対応する「MDV-Z702」シリーズの企画が立ち上がったのは、2013年の夏頃。しかし第一商品企画部の渋谷氏によれば、CD音質を超える音源を再生可能な機器という意味では、すでに前モデル「MDV-Z701」が96kHz/24bitに対応(内部処理時に16bitにダウンコンバートし、その後24bitに戻して出力)しており、以前から“ハイレゾカーナビ”と謳うこともできたと打ち明ける。

ハイレゾ対応カーナビを企画した渋谷 英治氏

 ところが、表だってそのように謳うことはしなかった。「彩速ナビは今回で5世代目になりますが、JVCもケンウッドもオーディオを生業としていますので、カーナビ/オーディオを手掛ける開発者も音や映像に対する思い入れがものすごく強いのです。お客様にハイレゾ対応製品としてお渡しするには、我々として“最低限”やらなくちゃいけないというこだわりがあります」と渋谷氏。その“最低限”とは、単にハイレゾファイルが再生できる事ではなく、内部のチップをはじめとするハードウェアをハイレゾ対応とし、内部処理も全てハイレゾで行なって出力する、“100%ハイレゾ対応”だ。

 目的地までルート案内するのがメインのカーナビとはいえ、同社の彩速ナビでは「AVナビゲーションという形で音楽をクルマの中で楽しむ、そこに対するこだわりは初代機から強くあった」と述懐する。他社に先がけて早くからFLACの再生をサポートするなど、ユーザーニーズの多いオーディオフォーマットにいち早く対応してきた事や、カーオーディオのために専用に用意された測定室が存在することも、その言葉を裏付けるものと言えるだろう。

 さらに、同社グループには膨大なコンテンツを抱えるビクターエンタテインメントもある。音のプロである多数のスタジオエンジニアが在籍し、大量のマスター音源をリファレンスとして利用しやすい環境にあることも、音質へのこだわりを突き詰めていける環境的な強みとなっている。

クルマに求められるヘビーデューティ仕様のハイレゾ対応DACチップ

 ただ、いかにプロフェッショナルをそろえ、十分なコンテンツがあり、開発者に情熱があったとしても、それら“ソフト”面だけでハイクオリティなハイレゾ対応カーナビが作れるわけではない。ハイレゾカーナビを実現するための“ハード”、つまりハイレゾデータを処理するチップも必要だ。

 今回MDV-Z702シリーズで採用されたのは、旭化成エレクトロニクス製の32bitプレミアムDACで、型番は「VERITA AK4490」。SoCで最高192kHz/24bitのWAV/FLACファイルを処理し、DSPもハイレゾデータに対応する処理能力を持ち、途中で16bitなどにダウンコンバートせず、高音質を保ったまま補正などもかけられる。非ハイレゾ音源や圧縮音源も192kHz/32bitにアップサンプリングしてから再生する事で、あらゆる音源を可能な限り高音質で聞ける仕組みだ。

中央に見えるのが旭化成エレクトロニクス製の32bitプレミアムDAC「VERITA AK4490」
クルマ向けとしては耐久性の高いハイレゾ対応チップも欠かせなかったと舟見 剛氏

 192kHz/24bitの再生やアップサンプリングが可能なDACやDSPは、ホームオーディオの世界では今や珍しくない。が、カーオーディオとホームオーディオではそもそもの使用環境が大きく異なることを忘れてはならない。屋内と違って直射日光や炎天下、あるいは極寒にさらされることのあるクルマでは、その中に設置されるカーナビシステム自体も高温や低温に耐えられなければ製品として成り立たないからだ。

 「ホームオーディオ向けのチップは、一般的に気温マイナス10度〜プラス70度あたりまでが使用可能範囲として設定されているものが多い」と国内商品技術部の舟見氏。一方、カーオーディオ用はマイナス30度〜プラス85度と、より広い範囲をカバーするのものが採用の基準となる。この条件に当てはまるチップは現段階ではかなり限られ、MDV-Z702シリーズに用いるチップとしては、旭化成エレクトロニクスの製品がその条件を満たすものだった。

ハイレゾのためだけではない“基本音質”向上のためのノウハウが凝縮

 もちろんスペックだけでDACが決まったわけではなく、舟見氏によれば「数社のチップの音質を比較した」上でチョイスしたという。デジタル音声信号を処理するDSP「AK7738」(旭化成エレクトロニクス製)も、そうした吟味の結果選ばれたものだ。

 このようなハイレゾ対応DACとDSPがあれば、スペック的にはハイレゾ対応の製品は作れるだろう。しかし、単にチップを搭載しただけでは「出てくる音は(ハイレゾのクオリティとは)全然違います。そこに血みどろの開発ノウハウの塊がある」という。

筐体内部のオーディオ部の全体像

 舟見氏が語るのは、社内にあるという“基本音質”という考え方だ。ハイレゾに対応するかどうかに関係なく、これまでどの製品においても、必ず同社として一定以上の音質クオリティを担保でき、基本音質をクリアしたモデルだけが製品化されるという。「その考えをベースにずっと開発を続けていますので、今回のMDV-Z702が“ハイレゾ対応だからどこかに特別な工夫した”という事はありません」という。つまり、どのモデルであっても音質向上への取り組みには妥協しないという姿勢だ。

 例えばカーオーディオの場合、ホームとは異なり、エンジンやイグニッションといった部分から盛大なノイズがオーディオ回路に入り込んでしまう。それを防ぐために、MDV-Z702では1つのカーバッテリから引き込んだ電源は、トロイダルコイルやコンデンサでフィルターしつつ、複数のレギュレーターで電源を分離するなど、ホームオーディオとは異なるノウハウを駆使してノイズ対策されている。

左上に見えるのがレギュレータと放熱板
すぐ近くにトロイダルコイルとコンデンサーが配置

 高橋氏によれば、駆動に使う車載バッテリのメーカーはもちろんのこと、銘柄やシリーズが変わっただけでも音は変化するという。そのため、最も“素性の良い”バッテリに合わせるのではなく、“どんなバッテリであっても変わらない高音質で聞けるよう、ノイズ対策や音質上のチューニングを施す”のがカーオーディオ開発では重要だという。

 MDV-Z702の筐体に目を向けると、オーディオ部が筐体の下部に、ナビ部が上部に来る「セパレートシャーシ」となっている。これは、シールド効果によりナビ部のデジタルノイズの影響や熱が発生しやすいパワーアンプやナビ部の排熱を効率的に処理する事で、オーディオ部に影響しないようにする設計だ。

 さらに、全体を覆う金属フレームの天板部分には、大きな×印のエンボス風加工が施された「音質天板」となっている。高橋氏いわく、「コンピューターシミュレーションで、金属の振動が早く収束するのはどんなデザインなのか、数カ月かけて解析した」結果がこの×印であり、ハイレゾに対応した今回の機種以前から採られている工夫だ。

ナビ部の基板を載せた状態にすると、放熱板付近に排熱用のファンが来るようになっている
下のオーディオ部と上のナビ部を組み合わせたところ
天板の×印も、筐体の振動低減に大きな意味がある

 「こうした細かな積み重ねが高音質につながっています。単純にチップがあれば、という話ではありません」(高橋氏)。

 高音質に向けてケンウッドが従来から行なってきた“当たり前”の取り組み。その延長線上に今回のハイレゾ対応があっただけであり、ハイレゾ化だからといって、同社にとっては特別に身構えて作るというものではない……という事なのだろう。あくまでも“音質を向上させる多数の要素の1つ”としてハイレゾを捉えているようにも感じられる。

明らかに臨場感が違う、MDV-Z702のハイレゾ再生

 では、実際にMDV-Z702の奏でる音はどんなものなのだろうか。測定室で、男性のジャズボーカル曲、チェロの無伴奏曲、和太鼓のサウンド、打ち込み系の女性ボーカル曲の4曲について、CD音源と192kHz/24bitのハイレゾ音源とで聞き比べることにした。

測定室でCD音源とハイレゾ音源を比較試聴
一般的なカーバッテリで駆動していた

 ジャズボーカルやチェロについては、曲が始まった直後に音場の広がりが明らかに違うことが分かる。CD音源では、耳だけでなく体全体に威圧感を与えるような粗雑さのある音の波が、ハイレゾでは一切なく、奥の方まで見通せるかのように澄み切り、そのおかげでレコーディング時のその場の状況を立体的に感じ取ることができる。

 空気を揺るがすような低中音を轟かせ、総毛立つような迫力を味わえた和太鼓も、ハイレゾならではの体験だった。打ち鳴らした重みのある低音の響きの中にも、わずかな、しかし豊かな変化、表情が存在し、太鼓の皮の揺らぎが伝わってくるかのような微妙なニュアンスさえも表現している。

 音場の広さに加え、音像と音像の間にある空間の余裕もハイレゾの方が広く、音像がくっつかず輪郭が際立つ。打ち込み系の女性ボーカル曲のように音が密集する楽曲は、ハイレゾで聞くと音の“ほぐれ”が良く、緊張することなく開放的な気分で聴いていられる。

再生中の画面

 CDクオリティの音源でも、再生時には192kHz/32bitにアップコンバートされており、ハイレゾ音源を聞かなければ十分以上の音質だと思ったかもしれない。ところが一度ハイレゾと聞き比べてしまうと、CD音源はやはり繊細なニュアンスに乏しく、大味な印象を受ける。このままずっと聴き続けていたいと思うハイレゾに対し、CDは“聞き疲れ”してしまう。正直なところ、「CD音源にはもう戻りたくない」と思えるほどだ。

 ナチュラルな音で自然に聴いていられるハイレゾは、ホッとして、聴いていると気持ちに余裕をもつことができる。もしかすると、CD音源よりも快適にドライブできるだけでなく、安全運転にも繋がるのではないか……と感じた次第だ。

ノイズの多い車内でも快適に聞ける「ドライブイコライザープラス」

 しかしながら、これはあくまでも測定室で聞いたもの。同じような音場、音質を、狭いクルマの中で再現することはできるのだろうか。

 渋谷氏は、「クルマの場合は車種ごとに(車内の形状や素材などが異なるため)音が違います。音楽を聞く環境としてはある意味劣悪で、特性として見た時はデコボコ。しかし、限られたスペースで機密性も保たれているので、劣悪ではありますが、最高の自分のリスニングルームでもあります」と話す。そして、こうした“癖のある”環境で良い音を聴くためには、補正を加えることが重要になってくるという。

 補正、つまりはイコライザなどで音を調整していくわけだ。渋谷氏は、「日本人の場合は全フラットにするのが良いという感性や先入観がありますが(笑)」と前置きしながら、それでもベストな音質を楽しむためには、“その車種に合わせたチューニング”が不可欠であると説く。

イコライザ画面

 特にクルマで問題となるのが、走行中に常に発生するエンジンノイズやロードノイズ。これらをいかに音楽を邪魔しないようにするかが、カーオーディオでは第一の課題となる。MDV-Z702に搭載されている「ドライブイコライザープラス」は、長く音質にこだわってきた同社ならではの技術を盛り込んだもので、走行中のノイズで聞こえにくくなる音域を自動調整して、最適な音質で再生できるようにする。

 他社製品によくある、車速に合わせたボリューム調整機能ではない。「スピードを出そうが停まろうが、聞いている人に気付かれないように一定に制御している」のが大きな特徴だと渋谷氏。他社製品では、周囲のノイズが増えるとそれに負けないようボリュームを上げてしまうことがあるが、ドライブイコライザープラスの場合はほどんどドライブ中にボリュームを変えることがないか、逆にボリュームを下げていくことになるほどだという。「ユーザーからも、今までと比べて“全く疲れない”という声をいただいています」とのこと。

どこにいてもリアルな音場を再現する「リスニングポジション」と「フロントフォーカス」

 タイムアライメント、MDV-Z702シリーズでいえば「リスニングポジション」の機能も重要だと渋谷氏は話す。車内に設置された2〜4個のスピーカーは、ドライバーから見ると前後左右で対称の位置にあるわけではなく、それぞれ耳からの距離に違いがある。この距離の違いをもとに各スピーカーから発する音の遅延(ディレイ)を調整し、耳に届くタイミングなどを合わせることで、音像定位を正確に合わせるのがタイムアライメントだ。

左がリスニングポジション機能の設定項目

 「車種によってはスピーカーが下にあったり、上にあったり、ルーフに付いていたり、ツイータが分かれていたりします。場所によっては音が完全に食い合ってしまったり、音が重なったりして、むちゃくちゃな状況になってしまう事もあります」(渋谷氏)。

 MDV-Z702ではそういった環境に応じて、スピーカーごとに手動でディレイ値を設定できるだけでなく、容易にベストなリスニング設定に近づけるための「簡単設定」も用意している。「スピーカーを交換するくらいなら、純正のままでリスニングポジション機能を使ったほうがはるかに良くなることもある」のだとか。

 ただ、リスニングポジション機能は、音像定位を一定のリスニングポイントに合わせるものであるため、ドライバーや特定の1人だけが聴くには適していても、それ以外の場所に座る人にも同じようにベストな音場を作るのは困難だ。これに対しては、新機能の「フロントフォーカス」が活用できる。

フロントフォーカス機能のカスタマイズ画面

 「フロントフォーカス機能は、設定画面上ではタイムアライメントと同一の画面に並んで表示されるので簡易設定と勘違いされる方もいらっしゃいますが、今までとまったく違う機能」と高橋氏。この技術のベースとなっているのは、マイクを大量に並べて録音し、再生時には、マイクと同じ数だけスピーカーを並べて再生する事で、音場全体を伝送する「波面合成技術」だ。NTTなどが研究を進めているもので、それを車内の4つのスピーカーで、「音楽で定位を固定するという用途に限定して」応用したものだ。

 フロントフォーカスを利用することにより、音源は運転席の先、3〜4mあたりのところに作られるイメージとなる。「そこからスピーカーまでの距離を当てはめてディレイ値を決めていくやり方」で、ドライバーだけでなく、助手席や後部座席の人にとっても違和感のない音像定位を再現できるという。実際に特定の車両で丁寧にチューニングを施して一般のユーザーに体験してもらったところ、「まるでコンサートホールにいるかのよう、という感想もあり、肯定的な意見を沢山頂いた」と胸を張る。

フロントフォーカス機能の仮想音像イメージ

 ドライブイコライザープラスやタイムアライメント、フロントフォーカスといった機能は、車内での高音質再生を追求する以上、使いこなしたい機能だ。同時に、高機能なDSPを備える事で、ハイレゾ再生でも補正機能が利用できるという点は見逃せないだろう。

 ちなみに、ハイレゾ再生や、こうした補正処理をかけた状態でも、「彩速ナビ」の特徴である、地図操作の高速レスポンスは損なわれないという。

 ところで、既にクルマに取り付けられているスピーカーユニットを変更せず、MDV-Z702のみを“ポン付け”したとしても、ハイレゾによる音の変化を実感することはできるのだろうか。

 渋谷氏は、「実際のところ、スピーカーを変更していなくても差はもちろん出ます」と断言する。乗用車に純正で搭載されるスピーカーには安価なものもあり、「クセをもったスピーカーユニットでは、そのクセが表に出てきてしまうことがある」(渋谷氏)が、純正スピーカーでもクセのない綺麗な音を出すものも多く、その場合は、高音質化をより実感しやすいと語る。

 「弊社が過去に作ってきた機種と比べても、今回のモデルにおける“音のクオリティアップ”は大きく、すぐにお分かりいただける」と高橋氏も太鼓判を押す。ハイレゾによってスタジオ音源、いわば原音に近づいたことで、「音のエネルギーが今まで以上に感じられる。それによって、クルマでのリスニングでもいい効果が得られているのではないか」と分析する。

DSD対応は「企業秘密」。いずれはナビ音声もハイレゾに?

 最後に、今後の製品展開についても聞いてみた。今回のモデルは192kHz/24bitのWAV/FLAC対応だが、DSDに対応する計画については「企業秘密です(笑)」と一言。ハイレゾ対応にあたっても、クルマに最適な形を慎重に検討してきた同社だけに、DSD対応も「それなりにじっくり考えなくちゃいけない」(渋谷氏)と話す。

 他社からはBlu-rayドライブ搭載機種も発売されているが、これについては「クルマにBlu-rayの再生機能を搭載するかという話は、以前からあります。積もうと思えば積めますが、問題は画質面で本当に求められているのかという事。車載モニタのサイズは、大きくても10インチ程度で、解像度もほとんどがVGA。モニタの解像度を上げると暗くなりますので、(ナビに最優先で求められる)視認性が損なわれてしまう」という問題があるからだ。「必ずしもディスクメディアのようなパッケージである必要性があるのか、という時代に差しかかっていると考えています」。

 ところで、ハイレゾ音源の再生が可能になったことで、実用的かどうかは別として、カーナビの音声案内をハイレゾにすることは今後あり得るのだろうか?

 舟見氏によれば、MDV-Z702ではナビ音声とハイレゾ音源の処理は別系統となっており、「パワーアンプの最終段でアナログにしてからミックスする仕組み」になっているという。ナビ音声が音楽再生に影響を与えないようにという配慮だが、逆にナビ音声はハイレゾ化されていないわけだ。

 なんでも、ナビ音声については“ファン”が付いていることもあり、シリーズのこれまでの声と大きく変えると、違和感を感じるユーザーも少なくないのだとか。ハイレゾ化するとなると、音声データの容量も数GB単位で膨れ上がると見られ、コスト的にもまだ現実的ではないと渋谷氏。しかしその一方で、「音声合成がもっと進んで、音楽におけるVOCALOIDのように、違う形で実現できればより面白いことができるのでは」とも語る。

 “初のハイレゾ対応カーナビ”として登場したMDV-Z702シリーズ。その開発の裏側から見えてきたのは、ハイレゾ対応にあたって特別な事をしたのではなく、“音にもこだわるカーナビ”を開発し続けてきた同社が、その音質向上の取り組みの過程としてハイレゾの再生にも対応したに過ぎないという“音にこだわる姿勢”だ。開発陣の話からは、今後も続いていく高音質化の過程における一歩でしかないという余裕も伺えた。

 ハイレゾ対応機として、オーディオファン注目のMDV-Z702シリーズだが、それに留まらず、同社のカーナビが将来的にどんな形で進化していくのか、これからの動きにも注目したいところだ。

音にこだわりを持つ開発陣が手がけるJVCケンウッドのカーナビ、今後の展開にも期待したい

 (協力:JVCケンウッド)

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、現在は株式会社ライターズハイにて執筆・編集業を営む。PC、モバイルや、GoPro等のアクションカムをはじめとするAV分野を中心に、エンタープライズ向けサービス・ソリューション、さらには趣味が高じた二輪車関連まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「GoProスタートガイド」(インプレスジャパン)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)など。