トピック

4KとコンテンツでCATVに提案を続けるパナソニック。STBビジネスのトップに戦略を聞く

 パナソニックは、29日に開幕した「ケーブル技術ショー 2014」において、4Kやリモート視聴などの新機能を備えたSTBを出展。ハードウェアに留まらず、CATV局に向けた新しいコンテンツやビジネスの提案も活発で、特に今年はHMDのOculus Riftを使った「全方位パノラマ映像」や、スマホを活用して地域の店舗と連携するO2Oサービスなど、CATV局のユーザー拡大に向けた提案も積極的に進めている。

 9月に規格化の完了が見込まれる第3世代STBや、'15年3月のデジアナ変換終了など、CATV業界全体にとっても重要な局面を控えた現在の取り組みについて、同社AVCネットワークス社のSTBネットワークビジネス ビジネスユニット長 理事を務める安藤誠氏に話をうかがった。

パナソニック AVCネットワークス社 STBネットワークビジネス ビジネスユニット長 理事の安藤誠氏

地デジ開始10年の買い替えに、第3世代STBがチャンス

――今年のケーブル技術ショーで大きなトピックとなっているのが、9月に策定が見込まれる第3世代STB規格関連だと思います。これはパナソニックにとっても大きなチャンスとなりそうでしょうか?

パナソニックブース

安藤:そうですね、我々は第3世代STBで4K対応とそうでないものの2つを提案していますが、いずれにしても2020年の東京オリンピックに向け、次の世代として第3世代がキーになってきます。そうした中で、日本特有のHybridcast、リモート視聴機能も入れ込んで、確実に次の大きなボリュームになってくると言えます。4Kを一つのキーとして、第3世代STBで市場はもう一段盛り上がっていくのではないでしょうか。

 特にSTBはリプレイス(置き換え)の時期に入っています。地デジが東京・大阪・名古屋で始まった2003年から10年経ち、そろそろ入れ替えが必要。デジタル化の初期にテレビを買った方が買い替えで4K対応テレビに切り替わっていくタイミングです。

――今回のパナソニックの展示は、こうした業界のトレンドだけでなく、HMDのOculus Riftを使って提案している「全方位パノラマ映像」や、全国一斉の番組を放送するという「ケーブルアワー」など、従来のCATVの常識に囚われないアグレッシブな展示も目立つように思います。

安藤:米国は、タイムワーナー(CNNなどを傘下に持つ)や、コムキャスト(NBCユニバーサルなどを持つ)のように自社でコンテンツも持っているのに対し、日本はJ:COMさんがJ SPORTSなどをお持ちですが、日本全体で見ると“コンテンツ発信力”という意味で少し弱いのが課題といえます。4Kは一つのタイミングであり、我々は「ザッピングポータル」(番組のサムネイル一覧を並べたポータル画面から選局する)など、地上波ではできないことをケーブルがやることが大きなチャンスだと思っています。

4K対応STBの試作機
HMDを使った全方位パノラマ映像
ケーブルアワー

 加えて「サービスから収益になる」方法として、スマホのO2O(Online to Offline)サービスで、スマホアプリからリアルの店舗に誘導するという試みも進めています。CATV局ならではの、地元のお店にスマホアプリのユーザーを誘導するツールとして使えないかと思っています。要はCATV局さんのお役に立つことであれば、ハードウェアをやることだけではなく、サービスでもお役にたてるだろうと考えています。

 今のCATVにとって、顧客の解約防止はすごく重要なことであり、ARPU(顧客1人あたりの売上)を上げていくための道具立てをできるだけ提案していく。それが「電力の見える化」(テレビ画面やタブレットで家の電力使用量が分かる)や、「ザッピングポータル」などの狙いです。

スマホ連携のO2Oサービス
ザッピングポータル
テレビとSTBで電力使用量を確認

 日本の人口が減ってくる中で、CATVの有料多チャンネルを契約している800万世帯は、月々の料金を何年間も払っている優良なお客様。こうした方々から月々100円でも300円でもいただくことができたり、Eコマースで安心して物を買っていただけることはすごく大きなことです。

 今回、STBでのICカード連携のデモも行なっていますが、ケーブル業界ではIDを統一するという動きが出ています。ケーブルの特徴は、リージョン(場所)がバラバラなので競争しないということ。例えば都市圏でJ:COMに契約している方が地方へ転勤になったときに(NTT回線などに乗り換えることなく)そのまま同じIDを使い続けられ、CATV業界内でシフトできます。そのきっかけとなるのが、'16年から導入される政府のマイナンバー制度です。そのカードで、例えばケーブル顧客のIDと連携させることができれば、転勤や、一人暮らしを始めるタイミングなどで顧客を逃がさないことにつながっていくのではないでしょうか。

デジアナ変換の終了の影響は?

──2015年3月には、CATVのデジアナ変換の終了が迫っています。これに対して、STBの販売が伸びるといったことは期待できるのでしょうか?

安藤:アナログ停波するとデジタルしかないので、当然STBの置き換えが加速するチャンスだと思いますが、対象は、今まで一番安い値段で見ていたお客様ですので、置き換えにはかなり安いボックスが必要になってきます。地上波のアナログ放送が終わるときに、変換ボックスが5,000円で売られていたようなことをもう一回期待されているかもしれませんが、それはビジネスとして厳しい。ただ、そこにボリュームがあるのなら、我々も取り組んでいかなければなりません。

 パナソニックで一番ローエンドのSTBが「LS200」(TZ-LS200P)です。これくらいの値段に合わせていくのは難しいですが、需要があればそこに対して考えなければなりません。

──例えば、デジアナ変換の終了に対応できないユーザーに対して、CATV事業者が、メーカーから買い取って安価または無償で提供するといった動きは考えられるのでしょうか?

安藤:事業者が期待されるのは、単なるBS/地上波だけの視聴だけでなく、多チャンネルやIPサービスの利用などです。これを見据えた先行的な投資としてそういった考え方もあるかもしれません。そういったことも、事業者と一緒に考えて行ければ。STBも「安かろう悪かろう」ではダメですが、双方向性があって(利用者の了解の上で)視聴履歴を取れるといったCATVならではの特徴が必要です。

 視聴履歴を取ることができれば、いろいろと興味深いデータが出てきます。例えば一日の視聴ログを調べた時に、平日と休日の視聴状況を時間帯で見ると、その人が学生だったりサラリーマンだったりが分かってきます。また、何カ月間かのデータを見て、休みの日の夕方にテレビを観ない日があると、外食する傾向が分かり、そこに合わせてクーポンを出すと近くのお店への来店喚起ができるかもしれない。“ビッグデータ”とまでいかなくても、手作業でやっただけでもこれだけのことが分かる。ケーブルは限られた800万世帯というですが、それは全世帯とつながっている価値であり、業界のポテンシャルは高いのではないでしょうか。

CATV業界におけるパナソニックの強みとは?

──パナソニックのSTB市場シェアは63%でトップとのことですが、CATV業界でここまで伸びてきた強みとはどこにあるのでしょうか?

現行の同社STBラインナップ

 我々がこの業界で力を持てたのは、端末だけではなく、センター(ヘッドエンド)との両方をエンドツーエンドで手掛けてきたことにあります。例えば我々が納入しているCASシステムはデファクトとなっており、EPGについても規格化はARIBが行なっていますが、そのシステムは我々が担当させていただきました。

 (デジタル化した)'03年のセンター系のシステムを納入したことで、これまでの10年間をやってこられたと思っています。当時に比べて業界の規模も倍以上に伸び、我々も成長しましたが、10年経つとまた新しいものが必要となってきます。顧客を獲得できて右肩上がりになっても、次の提案をするために「新しいエンドツーエンド」が必要になってくるのです。

 私はそれが“クラウド”だと思っています。我々が提案しているモバイルを使ったEコマースや、電力の見える化などは、全てクラウドにつながっています。クラウドサービスが次の「新しいエンドツーエンド」になっていくと考え、それにケーブル業界もキャッチアップしていく必要があります。我々はそこで“黒子”となっていければと思っています。

(中林暁)