BS/CSデジタルチューナ用のHDDレコーディングユニットとして人気の高いRec-POTに新モデル「Rec-POT S」シリーズが追加された。HDD容量や使い勝手などが改善され、さらに魅力の高い製品として進化した新Rec-POT。今回は、この新Rec-POTが従来モデルからどのように進化しているのか、特徴や新機能を中心に紹介していきたい。
■ 待望の容量増と操作性の向上を実現 Rec-POTは、HDDを利用してBSデジタルハイビジョン放送をデジタルデータのまま録画できるという、非常に画期的な製品であることは間違いない。しかし、弱点がなかったわけではない。例えば、搭載されるHDD容量の少なさ。80GBという容量は、数字だけ見ると十分大容量なのだが、BSデジタルのハイビジョン放送を録画する場合には、最長で約7時間程度しか録画できない。筆者は実際にRec-POTを利用しており、今年6月に開催されたサッカーワールドカップの時もRec-POTが大活躍してくれたが、それでも2試合分の放送を録画するのが精一杯だったため、かなり不満を感じたのも事実だ。 また、Rec-POTの操作を、BSデジタルチューナのオンスクリーンメニュー経由でしか行えない点もかなり不満を感じていた。手持ちのBSデジタルチューナはソニーの「DST-BX500」だったため、Rec-POTに用意されているソニー製BSデジタルチューナ専用HDDユニット互換モードを利用することで、録画した番組が画面上に一覧表示される。このため、多少は使い勝手が向上するものの、基本的な再生コントロールは面倒なオンスクリーンメニュー経由となってしまうため、操作時にいらいらすることが多々あった。しかも、ソニー製以外のBSデジタルチューナではこの録画番組の一覧表示も行えないため、もっと面倒だったのではないだろうか。 しかし、新しく発売された新Rec-POT「Rec-POT S」シリーズでは、これら不満点がことごとく改善されている。 まず、搭載されるHDD容量が、従来の80GBから120GBに1.5倍増となった。また、2003年2月には、240GBとさらに大容量のHDDを搭載するモデルの発売も予定されている。これで、ハイビジョン放送を録画する場合でも、120GBモデルで約10.5時間、240GBモデルでは約21時間と、大幅に録画時間が増えている。
また、録画・再生のコントロールが、付属のリモコンを利用して行なえるようになった。さらに、これまでソニー製のBSデジタルチューナでしか利用できなかった録画番組の一覧表示が、独自機能の搭載によって全てのBSデジタルチューナで利用できる。この点については後ほど詳しく紹介するが、とにかくこの変更によって、Rec-POT Sの使い勝手は従来モデルとは比較にならないほど向上している。
これ以外にも、ボディデザインが変更され、従来よりも高さが4分の3程度にコンパクト化されている点や、本体前面に現在の動作状況やHDDの空き容量などをインタラクティブに表示するLEDインジケータが用意されるなど、大幅なリニューアルが施されている。
ちなみに、録画機器としての基本機能に関しては、従来モデルから大きな変更はない。利用されているシステムは、松下電器産業と米Quantumが共同開発した、MPEG-2トランスポートストリームの記録/再生に最適化したHDD「AVHDD」である点は従来同様。BS/CSデジタルチューナとの接続はi.LINKケーブルを利用して行ない、BS/CSデジタルチューナからは基本的にD-VHSとして認識される。 モード切替スイッチによって、D-VHSモードとHDDモード(ソニー製HDDユニット互換モード)が用意され、D-VHSモード時に録画時に空き容量が足りなくなると、録画済みの番組の中で最も古いものから順に自動的に消去されていく点、消去されると困る番組にロックを掛けられる点なども従来モデル同様。Rec-POT Sシリーズのデイジーチェーン接続ももちろん可能で、複数のRec-POT/Rec-POT Sシリーズを利用して、より長時間の番組録画も可能だ(複数のRec-POTをまたいで1つの番組を録画することは不可能)。 録画可能な番組は、BSデジタル(標準)放送、BSデジタルハイビジョン放送、110度CSデジタル放送(ep放送の録画も可能だが、蓄積型、双方方向番組には非対応)だ。もちろんRec-POT Sを利用するには、利用しているBSデジタルチューナまたはBSデジタルチューナ内蔵テレビにi.LINK端子が用意されている必要があるのは言うまでもない。また、i.LINK端子付きCSデジタルチューナに接続した場合にはCSデジタル放送の録画も可能となる。
■ 「Rec-POTメニュー」とリモコンによって、操作性が大幅に向上 それでは、Rec-POT Sシリーズの最大の特徴である、独自のメニュー表示機能とリモコンを利用した操作方法をチェックしていこう。
Rec-POT Sに用意されている独自メニューは「Rec-POTメニュー」というものだ。このRec-POTメニューは、ソニー製HDDユニット互換モードで、対応するソニー製BSデジタルチューナに接続した場合にのみ表示される録画番組一覧メニューとは異なり、基本的に全てのBSデジタルチューナで表示可能となっている。 それは、このRec-POTメニューがBSデジタル放送のデータ放送用として開発されたコンテンツ記述言語「BML」を利用して実現されているからだ。Rec-POT SからBSデジタルチューナにメニュー表示用のBMLデータが転送され、そのデータがBSデジタルチューナ側で処理されて、テレビ画面上にメニューとして表示されるのである。
Rec-POTメニューによって、画面上にはRec-POT Sに録画した番組の番組名が一覧で表示される。録画した番組を再生する場合には、その一覧から再生したい番組を選択するだけでよい。従来のRec-POTでは、多数の番組を録画した場合に、目的の番組を探すのが非常に大変だったが、Rec-POT SではRec-POTメニューによって、そういった苦労は完璧に解消されたと言っていいだろう。 また、Rec-POTメニューには、録画番組一覧表示メニューだけでなく、プログラムナビメニューと設定メニューも用意されている。プログラムナビメニューは、録画した番組を、チェックを入れた順に再生するためのもので、録画番組のダビング時に利用するものだ。また、設定メニューでは、録画データのオートロック設定や繰り返し再生、スクリーンセーバー機能などの設定が可能となっている。
このRec-POTメニューを呼び出したり、メニューの操作を行なうには、Rec-POT Sに標準で添付されている専用リモコンを利用する。リモコンのメニュー表示ボタンを押すと、テレビ画面にRec-POTメニューが表示されるわけだ。ちなみに、リモコンのメニュー表示ボタンを押して、画面にRec-POTメニューが表示されるには数秒の時間がかかる。実際にソニー製BSデジタルチューナDST-BX500で試したところ、ボタンを押して画面にRec-POTメニューが表示されるまでに約10秒弱の時間がかかった。 Rec-POTメニューの表示にこれだけの時間がかかるのは、Rec-POT S側でBMLデータを作成し、そのデータがBSデジタルチューナに転送され、さらにBSデジタルチューナ側で処理される、という作業が伴うからだろう。ただ、メニュー操作のレスポンス自体は悪くない。通常のBSデジタルデータ放送を操作する場合のレスポンスとほとんど変わらなかった。メニュー操作時に若干のタイムラグを感じることも無くはないが、それでも一度メニューが表示されてしまえば、その後の操作は十分軽快だと感じた。 Rec-POTメニューの呼び出しだけでなく、メニュー操作も全て付属リモコンに用意されているカーソルボタンなどを利用して行なう。BMLデータで作成されているものの、BSデジタルチューナのリモコンを利用した操作はできない。ちなみに、付属リモコンにはRec-POTメニュー操作ボタンだけでなく、再生や停止、頭出し、早送りなどの再生コントロールボタンも用意されている。そのため、BSデジタルチューナのオンスクリーンメニューを利用せずとも、録画番組の再生が可能となっている。さらに、2台のRec-POT Sを利用している場合でも、それらを別々に操作できるように、リモコンコードを2種類設定できるように配慮されている。こういった部分も利用者の利便性を考慮した嬉しい仕様といえる。 ちなみに、このRec-POTメニューとリモコンが利用できるのはD-VHS互換モード(モード3)のみだ。HDDユニット互換モード(モード1)時にはRec-POTメニューが利用できなくなるだけでなく、リモコンも受け付けなくなる。はっきり言って、Rec-POTメニューとリモコンによる操作の方が、ソニー製BSデジタルチューナ側のメニュー機能を利用するよりも明らかに操作性がいいのだが、残念ながらソニー製BSデジタルチューナではD-VHS互換モードでは録画が行えないため、事実上Rec-POTメニューを活用できない。個人的にはこの点が少々残念だ。 また、BSデジタルチューナだけでなくi.LINK付きのCSデジタルチューナも利用している場合には、BSデジタルチューナとCSデジタルチューナとの間にRec-POT Sを接続して利用することで、CSデジタルチューナ経由で録画した番組もRec-POTメニューにきちんと反映されるようだ。これは保証されている利用方法ではないが、実際にBSデジタルチューナとi.LINK付きのCSデジタルチューナの双方を利用している人は試してみる価値があるだろう。
■ 「AVHDD Player」で、PCからの番組名編集やダビング操作が可能 Rec-POTおよびRec-POT Sは、i.LINK接続で利用するHDD録画機器である。そのため、PCに用意されているIEEE 1394端子にRec-POTシリーズを接続し、PCに録画した番組を転送したり、PC側からRec-POTの操作ができれば、もっと便利に利用できるのに、と考えるのは自然なことだろう。 しかし、そこはデジタル接続の録画機器、著作権保護のため、基本的にPCに接続してもHDDにはアクセスできず、録画データの取り出しはできないようになっている。同社が発売している地上波放送用のHDDレコーダ「Rec-On」シリーズでは、PCと接続して録画ファイルの転送やPC側からの録画予約などが可能となっているため、余計に残念に感じてしまう部分でもある。 しかし、そこはPC周辺機器メーカーであるアイ・オー・データ、Rec-POTシリーズをPCに接続して活用することを考えていなかったわけではなかった。Rec-POT Sに同梱というわけにはいかなかったものの、PC側からRec-POTシリーズの各種制御が可能となるRec-POT操作ツール「AVHDD Player」の提供が開始されたのだ。しかもこのAVHDD Playerは、Rec-POT S専用のツールではなく、旧Rec-POTでも利用可能だ。つまりAVHDD Playerが利用できるというのは、Rec-POT Sの特徴というわけではなく、Rec-POTシリーズ共通の新しい特徴、といった方が正しいだろう。
このAVHDD Playerには、Rec-POTシリーズに録画されている番組の一覧表示や番組名の編集、録画番組の削除といった、いわゆるファイル操作機能と、再生や早送りなどの再生コントロール、そして録画コントロールというように、大きく分けて3つの機能が用意されている。この中で注目なのが録画コントロールだ。 Rec-POTシリーズには、ユーザーがコントロールできる録画機能が用意されていない。基本的に録画を行なう場合には、BSデジタルチューナから録画予約を行なうか、BSデジタルチューナのオンスクリーンメニューから手動で録画を行なうしかない。そのため、Rec-POTシリーズに録画した番組をD-VHSにダビングすることは可能だったものの、Rec-POT間でのダビングは不可能だった。つまり複数のRec-POTシリーズを利用している場合で、空き容量を確保するために、録画済みでまだ消去したくない番組を一方のRec-POTに集める、といったことができなかった。 しかし、AVHDD Playerに独立した録画コントロール機能が用意されたことで、BSデジタルチューナのコントロール機能を利用せずともRec-POTの録画のコントロールが可能となり、Rec-POT間での録画番組のダビングが実現した(利用価値はともかく、D-VHSからRec-POTシリーズへのダビングも可能だ)。
ただ、このAVHDD Playerを利用したとしても、Rec-POTに録画されている番組をPCに転送できるわけではない。あくまでも、接続したRec-POTシリーズやD-VHSなどの録画機器の間でのダビングが可能となるだけだ。 また、ダビング作業自体もファイルコピーの感覚ではなく、ビデオのダビング同様、一方で再生させたものをもう一方で録画する、というスタイルである。実際にRec-POTとRec-POT Sの間でダビングを試してみたが、操作自体はそれほど難しいわけではない。AVHDD Playerを起動し、一方のRec-POTのコントロールメニューで再生する番組を選択して再生を開始し、もう一方のRec-POTのコントロールメニューで録画ボタンを押すだけでダビングが可能だった。
ただ、せっかくデジタルデータで保存されているにもかかわらず、高速ダビングが不可能で、リアルタイムでのダビングとなる点は非常に残念だ。ファイルコピー感覚とまでは行かなくても、高速にダビングすることは技術的にそれほど難しいことではないと思うのだが、このような仕様ではデジタルの利点が完全に殺されている。このあたりは色々なしがらみがあるのかもしれないが、ユーザーに不利益を強いるというのは、あまり納得できるものではない。 また、デジタル録画が1回のみに制限されている番組については、Rec-POTに保存した時点でデジタル録画1回分と見なされるためダビングできない。こちらも実際にダビングを試してみたが、録画側のコントロールメニューで録画ボタンを押しても録画は始まらなかった。もちろんこれはAVHDD Playerの制限ではないので仕方がない部分だが、ダビングではなくRec-POT間でのファイル移動のような感覚で利用できれば、もっと便利になるはずだ。高速ダビング機能への対応も含め、今後のソフトのバージョンアップで改善してもらいたいところだ。 ちなみにこのAVHDD Playerは、Rec-POTシリーズのユーザーであれば、アイ・オー・データ機器のホームページで、アンケートへの回答とRec-POTのシリアルナンバーを入力することでダウンロード可能となっている。ただし、AVHDD Playerに関しては完全に非サポートとなっているため、もし手持ちのIEEE 1394カードなどに接続して正常に利用できなかったとしても、動作に関してサポートは受けられない。 筆者が試したところ、メルコ製のPCカードタイプIEEE 1394カード「IFC-ILCB3」では正常に動作したものの、デスクトップに取り付けている格安のIEEE 1394カードでは正常に利用できなかった。ホームページには、対応するIEEE 1394カードなどの情報も用意されているが、基本的に未サポートであるため、トラブルなどに関して対処する自身がない人には、積極的な利用はおすすめしづらい。AVHDD Playerは自己責任での利用となる点をあらかじめ頭に入れたうえで利用してもらいたい。
■ Rec-POTメニューとリモコンの採用で魅力が大幅にアップ 旧Rec-POTユーザーである筆者の心中は非常に複雑ではあるが、とにかく、このRec-POTメニューが用意され、リモコンが付属したおかげで、Rec-POT Sは従来のRec-POTとは比べものにならないほど高い操作性が実現されていることは紛れもない事実である。これだけでもRec-POTからの乗り換えを真剣に考えてしまったほどに便利であり、製品としての魅力は前モデルから大幅にアップしている。 販売価格は、120GBモデルのHVR-HD120Sが7万円前後と、前モデルよりも5割ほど高価だ。また、来年2月に発売が予定されている240GBモデルのHVR-HD240Sは、12万円後半での発売が予定されている。HVR-HD120Sは、前モデルと比較して容量が1.5倍に増えているとはいえ、若干価格が高い印象も受ける。しかし、Rec-POTメニューとリモコンが用意されていることを考えると、この価格差を十分補ってあまりあると言っていいだろう。 年末年始にかけて、BSデジタル放送でも魅力的な番組が多数放送される。BSデジタルチューナやBSデジタルチューナ内蔵テレビを持っていて、この機会にBSデジタル用録画機器を準備しようと考えている人も多いだろう。録画番組の長期保存をそれほど重要視しないのであれば、Rec-POT Sシリーズは非常に魅力的な選択肢であり、広くおすすめしたい製品である。
[Text by 平澤寿康@ユービック・コンピューティング]
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