■ 注目機能を搭載したヤマハの新世代AVアンプ
YPAOとは、スピーカーから出力したテストトーンを付属マイクで拾い、そのデータをもとに、各スピーカーのレベル、距離、周波数特性などの補正を行なうというもの。手順だけを追えば、パイオニアの「MCACC」と機能的にほぼ変わりなく見える。パイオニアの独壇場ともいえたこの分野で、ヤマハがどういうアプローチをとっているのか気になるところだ。 もう1つの特徴は、国産機としては初めて最新フォーマット「ドルビープロロジック IIx」(PL IIx)に対応したこと。2ch、ドルビーサラウンド(4ch)、5.1chの各コンテンツを、6.1ch、または7.1ch化して出力する。6.1/7.1chが当たり前になったAVアンプ市場の現況にマッチしたフォーマットといえる。 ただ、5.1chを強制的に6.1/7.1ch化すること自体は、従来の6.1/7.1ch AVアンプでも可能だった。これまでにも多くの機種が、2chやドルビーサラウンドソースをNeo:6や独自の音場プログラムで6.1/7.1ch化できる。PL IIxとは、ドルビーによる「Neo:6対抗」フォーマットといっても良く、ドルビープロロジック II(PL II)の置き換えフォーマットといえる。
なお、AX2400ではシリーズ初の「THX Select」準拠を謳っている。それでいて、ヤマハ伝統の「Cinema DSP」をフル装備するほか、フロントエフェクトスピーカー(本機ではプレゼンススピーカーと呼称)も接続できるなど、従来からの特徴もしっかりと継承。THXで新しい層にアピールすると同時に、古くからのファンにも気になる存在といえる。
定格出力は120W×7ch(6Ω)。デジタル音声入力8系統、アナログ音声入力11系統を備え、映像入力もコンポーネント/D4×2系統、S映像/コンポジット×7系統と充実している。S映像とコンポジットを色差信号に変えて出力する「ビデオコンバージョン」機能も搭載。さらには学習機能付きリモコンが付属するなど、標準価格15万円の中級機としては充実した基本仕様だ。 サラウンドフォーマットは、PL IIxに加え、ドルビーデジタル EX、DTS-ES、DTS 96/24など最新フォーマットのすべてに対応。ヘッドフォンによるバーチャルサラウンド再生「サイレントシアター」も搭載している。USB入力やi.LINKといった特殊な装備はないものの、DVDビデオを中心としたホームシアター用途で、不足を感じることはないだろう。 スピーカー端子はプレゼンススピーカーL/Rのみネジ式ではないが、すべてバナナプラグに対応。フロントLRのみスピーカーA、スピーカーBの2系統の切り替えが可能で、スピーカーBを別室に設置するZONE出力も設定できる。また、スピーカーA、スピーカーBの同時出力によるバイワイヤリング接続も可能だ。なお、スピーカー端子は7ch+プレゼンス2chだが、サラウンドバック1本の6.1ch環境の場合、サラウンドバック出力はLchのみ使用する。
■ 精度の高いYPAO。パイオニア同様、利用価値は高い
補正までの流れは、以前試したパイオニア「VSA-AX5i」と大差ない。しかし、周波数特性がAX5iの5バンドに対し、AX2400は最大7バンドと細かいところに安心感を感じる。また、補正タイプを5種類から選択できるのもAX5iにはない特徴。具体的には、フロントスピーカーに合わせて補正する「FRONT」、各スピーカーの特性を均一にする「FLAT」や、低域、中域、高域のそれぞれを重点的に補正する「LOW」、「MID」、「HIGH」を選択できる。 また、各スピーカーとサブーファのクロスオーバー値を検出するテストもある。AX5iでは80Hz固定、またはマニュアルで指定していたため、結局は補正結果を見ながら手動で調整することが多かった。その点、AX2400の方が初心者に優しく、補正による安心感も高い。 さらに違いを挙げれば、各項目ごとに結果を確認しリトライできる「SKIP」もAX5iにはない。さらに、実行したいテストを個別に選択できる点も便利。スピーカーの接続チェックなど、一度確認できれば当分実行する必要のないテストを省略できる。 なお付属のマイクは金属製で、AX5iの付属マイクに比べるとかなりずっしりしている。形状も安定させやすく、裏面には設置用の三脚穴が設けられている。 今回はAX5iの試用時と同じスピーカーを使い、YPAOを実行してみた。周波数特性は「FLAT」を選択。補正後の音色は、AX5iと多少異なる印象となった。主にDVDビデオの映画ソースを再生してみたが、締まりとパンチが感じられたAX5iに対し、AX2400は、どちらかといえばしっとりとした雰囲気。それでいて、細かい音まで克明に表現する。どちらかといえば、AX2400の方が映画らしい音場と言えるかもしれない。 もちろん、移動感や包囲感に何ら問題はない。手動でのスピーカー調整も可能だが、一度YPAOを使うと、以後は自分の腕を信じられなくなるくらい、YPAOによる補正はしっかしりしている。先行するMCACCと比較しても、大きな弱点は見られなかった。 YPAOで困るのは、補正結果をもとに周波数特性をマニュアルで追い込みたいときだ。マニュアルでの調整も可能だが、その場合は補正結果をいじるのではなく、最初から作成しなければならない。AX5iの様に、補正結果のコピーをもとに手を加えるモードがあると面白かったと思う。
ただ、ヤマハによれば、補正結果で得られた周波数特性をパラメトリックイコライザで変更するのは煩雑すぎるため、こうした仕様に落ち着いたという。好みの補正を行いたい場合は、自動補正結果をベースにはできないものの、グラフィックイコライザによるマニュアル補正が適切だと判断したそうだ。なお、周波数以外の項目(レベルや距離など)は、補正結果をベースに変更できる。
■ プロロジック IIxはドルビーサラウンドに効果あり AX2400のサラウンドモードは、大別すると映画ソース向けの「Cinema DSP」、音楽ソース向けの「HiFi DSP」、ストレートデコード、それらにリ・イコライザなどを付加する「THX Cinema」に分けられる。このうち、PL IIxが属するのはストレートデコードだ。 ストレートデコードは、その名の通り、Cinema DSPなどのヤマハ独自の音場プログラムを付加せず再生するモード。ドルビーデジタル、DTS、AACといった5.1chならそのままデコードし、スピーカー出力する。5.1chソースを6.1/7.1chで出力したい場合は、リモコンの[EX/ES]ボタンを押せば良い。また、ドルビーデジタル EX、DTS-ESのフラグを検出して自動的に6.1/7.1ch出力を行なう「AUTO」も設定できる。 PL IIxは、2chとドルビーサラウンドソース(4ch)でのみ働いた。5.1chソースの7.1ch化については、従来通り、上記の「EX/ESボタンを使用してくれ」ということなのだろう。 2chの音楽ライブDVDを視聴したところ、PL IIの分離感はそのままに、より後方の包囲感が安定した印象を受けた。音の曇り具合もPL IIと同程度で、真剣に聴き込まない限り問題はない。また、7.1ch化の威力は大きく、一度7.1chを聴いたあとにサラウンドバックスピーカーを外すと、とたんに物足りなさを感じる。なお、2chソース再生時にリモコンの[STEREO]ボタンを2度押すと、各種スピーカー設定が無効になり、フロント2chにのみ出力する「Direct Stereoモード」になる。 次に、DVDビデオのドルビーサラウンドソースをPL IIxで聴いてみた。サラウンドバックチャンネルからかすかな音声を確認でき、反響音などが多少リアルに感じられるようになった。ドルビーサラウンドソフトを多数所有しているなら、便利に利用できるかもしれない。 なお、2chの6.1/7.1ch化は、従来通りNeo:6でも行なえる。となると、PL IIxとNeo:6との差が気になるところだが、私の環境ではほとんど音の差を感じられなかった。PL IIxの方がほんの少し張りがあり、分離も少しだけ鋭いかな? という程度だ。PL IIxは「絶対に必要」な機能ではないが、2chの音楽DVDやドルビーサラウンドソースで選択肢が増えるのはうれしい。
■ 中級AVアンプの選択肢として手堅い選択肢 AX2400には学習機能付きのリモコンが付属している。マクロも10ステップまで登録可能なので、利用価値は高い。ボタンはボリュームや再生・停止・一時停止など一部が蓄光式で、現在の入力を示す液晶表示窓にもバックライトがついているなど、シアター用途も考慮されている。欲を言えば、DVDプレーヤーを学習した場合によく使うカーソルボタンやスキップボタンも、蓄光や自発光ボタンにして欲しいところだ。 一見、DTS 96/24を最後にフォーマット対応競争が一段落したかのように見えるAVアンプ市場だが、取り急ぎ、新たな目標としてPL IIxの搭載が掲げられたようだ。一体型AVアンプの次のトレンドをいち早く実現したAX2400は、ミドルクラスAVアンプにおける注目製品といえる。
□ヤマハのホームページ (2003年11月6日) [AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]
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