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第125回:ポータブルHDDオーディオの音質をチェックする
~ その5:「Rio Karma」と「Nomad MuVo2」の音質を検証 ~


 ポータブルHDDオーディオの音質をチェックするこの連載も今回で5回目。これまで、他のネタを挟みながら連載してきたが、今回取り上げる「Rio Karma」と「Nomad MuVo2」を検証することによって、現在発売されている主なHDDプレーヤーは取り上げたことになる。



■ NOMAD MuVo2とRio Karmaの音質を比較

 今回取り上げる、「Nomad MuVo2」と「Rio Karma」はちょっと違うコンセプトの製品。MuVo2は1.5GBの超小型HDDを搭載したコンパクトタイプのものなのに対し、Karmaのほうは20GBのHDD搭載のモデル。

 本来、横並びの比較であれば、MuVo2とRio Nitrus、またKarmaとはAppleのiPodやCreativeのNomad Jukebox Zen、東芝のgigabeat G20であるべきだろうが、製品発売ラッシュが続いたため、やや変則的な順序での掲載となってしまった。

NOMAD MuVo2 Rio Karma

 「Nomad MuVo2」と「Rio Karma」の機能や使い勝手などは、第49回第50回のデバイス・バイキングで、詳しく紹介しているので、そちらを参照にしてもらうことにして、ここでは、あくまでも音質の実験ということに絞っていきたい。

 今回特に興味深いのは、Karmaが4種類のフォーマットに対応しており、なかでもOggVorbisやFLAC の音質ではないだろうか? さすがに4種類もあると、実験そのものがかなり多くなったが、面白い結果が見えてきた。


■ 検証結果は良好なMuVo2

Creative MediaSource

 まずは、比較的わかりやすいMuVo2の方から検証した。

 MuVo2には「Creative MediaSource」というソフトが付属しており、これを使ってMP3へエンコード、転送を行なった。MuVo2の場合、USB 2.0で接続すると、外付けドライブとして認識され、WindowsのエクスプローラでWAV、MP3、WMAをドラッグ&ドロップしてコピーするだけで転送できる。

 MuVo2の実験をするにあたって、気になるのは、HDDのノイズが乗るかどうか。以前Rio Nitrusを扱った際は、コンパクトなモデルで便利ではあるものの、音質面に若干の問題があったからだ。


MuVo2無音状態でのノイズレベル

 それほど気にするべきレベルではないのだが、HDDの回転ノイズらしきものを拾っていて、波形エディタなどでみると、周期的なノイズが見られた。MuVo2もおそらく、Rio Nitrusと同じドライブを搭載していると思われるが、同じような現象が見られるのだろうか?

 これについて、まず無音ファイルを再生させて、そのノイズレベルを測定してみた。その結果、まったく影響はなかった。実際、無音時のノイズレベルが-85dB以下となっており、非常にいい結果となっている。

 続いて、WAVデータを使って、1kHzのサイン波、スウィープ信号、楽曲データについて、従来と同様の実験を行なった。


サイン波のスペクトラム スウィープ信号 楽曲の録音・再生

 サイン波を見ると、高調波が若干出ているが2kHz、3kHz、4kHzといずれも-100dB以下であり、とてもクリアなサウンドといえるだろう。また、スウィープ信号もフラットな特性であり、今まで検証したもの中では、iPodやNomad Jukebox Zenと非常によく似た傾向となっている。楽曲のほうは、原音での分析と比較して8kHzあたりの山がやや欠けた感じになってはいるものの、聴感上とくに目立ったものはなかった。

 以上は、すべて非圧縮の状態での結果。次に、128kbpsのMP3、192kHzのWMAで検証した結果が以下のグラフだ。

1kHzのサイン波
MP3 WMA
スウィープ信号
MP3 WMA
楽曲
MP3 WMA

 比較的違いが見やすいのは1kHzのサイン波のグラフだが、これを見る限り、MP3やWMAに圧縮したことによる波形の崩れが見られる程度であり、とくにプレーヤーを通して目立った影響はないようだ。Rio Nitrusでは、明らかなノイズ成分がかなり見られたのに対し、こちらではそういったものはない。総合的に見ても、このジャンルの製品としてなかなか高品質なものといっていいだろう。


■ 高品質なRio KarmaのOggVorbis再生性能

Rio Karmaはドックにアナログ出力も備えている

 次はRio Karma。この製品はデザイン的にも凝ったもので、USB 2.0に加え、LANのポートを持つなどユニークな製品。また、本体にヘッドフォンジャックがあるほか、ドックにもRCAの音声出力端子を持っている。

 このRio Karmaでも、MuVo2と同様の実験を行なうが、チェックしたのはヘッドフォン端子のみで、ドックのRCA端子については割愛した。

 この実験を行なうにあたっての大きなポイントはなんといってもRio Karmaが4つのフォーマットをサポートしていることだろう。MP3、WMAは当然として、OggVorbisとFLACを搭載しているのが特徴。

 このDigital Audio Laboratoryでも以前検証したことがあったが、OggVorbisはオープンソースの音声圧縮として話題となっているフォーマットで、同じビットレートならばMP3よりも高音質といわれている。

 このOggVorbis形式をサポートするソフトウェアもいろいろと揃いつつあるが、ハードウェアのプレーヤーの登場が遅れたたため、今ひとつ普及というまでは至っていない。しかし、どれだけの性能なのか気になる人も多いだろう。

 一方のFLACはFree Lossless Audio Codecの略で、OggVorbisと同様のオープンソース。ロスレスという名前からもわかるとおり、可逆圧縮で音質劣化がないというのがポイント。現在、ロスレスのフォーマットとしては、Windows Media 9のLossless、Monkey's Audio、Perfect Clarity Audioなどがあるが、こうしたものを含め、ポータブルプレーヤーでロスレスに対応したのはKarmaが初だ。

 さて、最初の実験として、MuVo2と同様にWAVファイルでの測定をしようと思ったのだが、Karmaが対応している4つのフォーマットにWAVが含まれていない。

Rio Music Manager RMMでFLACを作成

 そこで、ここではロスレスのFLACを使ってみることにした。FLACへのエンコードはRio Music Managerを使うことにしたが、一通り触ってみてもWAVファイルから直接FLACへ変換できる機能はない。仕方ないので、手元にあるWAVファイルを一旦オーディオCDに焼いて、それをリッピングしてエンコードすることにした。このエンコード方法として4つの形式から選択できるようになっていたので、ここでFLACを選択してみたところ、あとは簡単にFLACファイルを生成できた。

Karmaの無音状態でのノイズレベル

 の実験結果のノイズレベルを見ると、gigabeat G20と同程度で、-85dBくらいのノイズとなっている。また、1kHzのサイン波の波形は非常にクリアで、高調波、低調波ともにとても低いものになっている。さらに、スウィープ信号もフラットで、楽曲の再生でも自然な音になっている。

 ロスレスなので当然のことながら、MP3やWMAなどの不可逆圧縮と違って、自然な音ではあるが、60%程度の圧縮にしかならない。20GBのHDDにこの音を入れて持ち歩くかどうかは意見の分かれるところだろう。


サイン波のスペクトラム スウィープ信号 楽曲の録音・再生

 やはり本機で気になるのは、OggVorbisがMP3やWMAと比較してどれだけの音質になるかだろう。OggVorbisのビットレートは、デフォルトでは96kbpsになっていたが、MP3と比較するという意味をこめて128kbpsに固定してみた。3つの実験を以下にそれぞれ並べてみたので、ご覧いただきたい。まあ、これはKarmaの性能を見ているというよりも、OggVorbisの特性といった感じでもあるが、違いはハッキリと見える。

1kHzのサイン波
MP3 WMA OggVorbis

 サイン波では、MP3やWMAで1kHzを中心にややボケた形で周波数が分散しているが、OggVorbisではその分散が少なく、よりクッキリした音が出ていることがわかる。

スウィープ信号
MP3 WMA OggVorbis

 同様にスウィープ信号の場合、OggVorbisでは128kbpsであるにも関わらず21kHz程度までフラットになっており、これまで見てきたすべての圧縮の中で一番キレイな結果となっている。

MP3利用時のスイープ信号では奇妙なノイズが確認できる

 なお、MP3については、やや妙なグラフとなっており、再生部分で何かおかしな部分が含まれているようにも思える。11kHzあたりでガクっと落ちている当たりを見ると、サンプリング周波数関連での問題があるのかもしれない。

 実際にスウィープする音を聞いてみると途中から、エイリアスノイズのような発信音が聞かれた。気になったので波形エディタでその画面を見ても、何かがトラブっているように思える。念のため、追試してみたが、結果は同じであった。


楽曲
MP3 WMA OggVorbis

 そして最後の楽曲データでも、やはりOggVorbisがもっとも音が伸びているのが見えてくる。さすがにスウィープのように21kHzまでは出ていないが、20kHzあたりまでは確実に音が出ていて、原音のグラフと見比べても、ほぼ重なる形だ。

 以上のことから考えてもOggVorbisはKarmaにとって、かなり使えるフォーマットといえるだろう。難点はエンコード時間が長く、大量のデータをエンコードすると、MP3やWMAと比較して何倍かの時間がかかってしまうこと。しかし、一度作業してしまえばいいことなので、Karmaを使うのであればCDをOggVorbis化しておくという価値はありそうだ。



■ OggVorbisの利用価値は高い

 以上、タイプの違う2つのプレーヤーを見てきたが、やはりインパクトが大きいのはOggVorbisの性能だろう。オープンソースのコーデックなのだから、これがチップ化されれば、今後普及してく可能性は大きい。OggVorbis対応のプレーヤーは、iRiverが最も積極的に取り組んでいるが、今回Rioシリーズでも対応したことで、今後採用するメーカーが増えるのか、非常に気になるところだ。


□クリエイティブメディアのホームページ
http://japan.creative.com/
□製品情報(MuVo2)
http://japan.creative.com/products/digitalaudio/muvo_sqre/welcome.asp
□Rio Japanのホームページ
http://www.rioaudio.jp/
□製品情報(Karma)
http://www.rioaudio.jp/products/rioKARMA.html
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(2003年12月8日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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