今年のCES 2004の最新フロントプロジェクタは、DLPが話題を独占した。LCOS系のフロントプロジェクタはソニーがSXRD採用のQUALIA-004を展示していた程度で、期待されていたビクターのD-ILAベースの1080pリアル解像度のフロントプロジェクタも公開されなかった。 透過型液晶プロジェクタの新製品は結構な数があるにはあったが、特徴に欠けており、注目を集めた製品はほとんどない。
そういうわけで、フロントプロジェクタを取り上げる今回は、DLP関係の話題が多くなってしまっているのを、あらかじめご了承頂きたい。
■ 最新DMD HD2+チップ搭載のプロジェクタ続々
HD2+チップは、各ミラー画素面にある“くぼみ”(Dimple)を小径化させることで迷光を軽減させることにより、光力の有効利用化とSN比の向上を達成する。なお、解像度そのものは1,280×720ドットであり、先代HD2チップと変わらない。 単板式ならではのロータリーカラーフィルタは7セグメント化され、回転速度は5倍速(300Hz/9,000rpm)に高速化。7セグメントのうち、6個の領域はRGBRGBで、残りの1領域はダークグリーン(DG)とND(Neutral Density:減光)フィルタを組み合わせた領域に割り当てられている(DG+NDフィルタ)。 映像の輝度情報の多くは緑成分によって再現されており、DG+NDフィルタはそのうちの暗部階調表現を担当するカラーフィルタになる。単板式DLPプロジェクタの映像は、暗部階調部にディザリングノイズが荒れ狂うように見える場合があるが、このDG+NDフィルタの効果によりこのノイズが劇的に軽減される。 このカラーフィルタを駆動するのにあわせ、色信号処理ロジックも改変され、RGBの各原色に対するガンマ補正も、Gのみビット数を増加させているという。単板式DLPプロジェクタの映像表現も一世代分、進化したことになる。
以下の3機種が、今回のCESで展示されたHD2+プロジェクタの最新製品だ。
前モデルで評判の高かった光学絞り機能(アイリス機能)は2段階調整から3段階調整へと強化され、楽しむ映像の特性に応じたモードが選べるようになっている。 投射映像は高いコントラスト性もさることながら、なにより、その解像感に驚かされる。ここで言っているのは光学系の解像感。色収差性能も高く、各ピクセルがぶれることなくきっちりと投射されており、映像中の色境界や細い線分の表現が非常にシャープに見えた。
発売は2004年4月を予定。価格は12,000ドル程度。日本でも近日中に発表されると思われる。
●東芝、人気のTDP-MT8Jに後継機 ランプパワーや光学系に変化はないが、HD2+チップを採用しているために輝度性能とコントラスト性能が向上している。具体的には、先代モデルと比較して最大輝度が1,000ANSIルーメン→1,100ANSIルーメン、コントラスト比が1,400:1→2,200:1となった。
実際に映像を見せてもらったが、確かに暗部階調の表現力がだいぶ改善されているのが実感できた。発売開始は2月から。価格は10,000ドルを予定。
●東芝OEM元のInFocus機もモデルチェンジ 筐体の成形色がシルバーになっているだけで、機能もスペックも東芝ブランドで発売するMT800と全く同一だ。発売時期は2月、価格は10,000ドルで、これも東芝モデルと同じ。
余談になるが、東芝モデルもInFocusモデルともに、筐体デザインはともかくとして、投射レンズの筒が安っぽいのは、解決しほしかった。なんだか掃除機のホースの付け根みたいで、「カールツァイスレンズ」のブランド感がまったく演出できていない。とても100万円クラスの製品の質感とは思えないのだ。改良を期待したいところだ。
■ マランツ、世界初のホームシアター向け3板式DLPプロジェクタを公開 マランツはブース内特設シアターにて、2003年12月に発表したマランツ製3板式DLPプロジェクタ「VP-10S1」の実機の展示とその投射デモを行なっていた。 VP-10S1は3板式DLPプロジェクタとしては世界初の「ホームシアター向け」の製品となる。業務用のホームシアター転用とは違い、たとえば最大輝度を1,200ANSIルーメンに抑えている。映像エンジンに搭載される3枚のDMDチップはHD2チップであり、残念ながら最新のHD2+ではない。 RGBガンマは世界初の14ビット駆動仕様。光源ランプは、キセノン系ではなく、ホームシアター向けと言うことから、あえてランニングコストの安い超高圧水銀ランプを選択している。水銀系ランプは発色に癖があることが知られているが、これを補正するべく、光源ランプに対し色補正フィルターを採用する。これにより、たとえばオレンジに触れがちな赤も、VP-10S1では純色の赤に近い発色が得られる。 可変アイリス機構はないが、投射レンズには固定の絞りが適用されており、コントラスト性能も3,600:1と圧倒的だ。色再現性を追求した設計になっていることもあって、確かに発色は鮮烈で息をのむ美しさがある。しかし、ブースで投射していた映像そのものの品質が良くないためか、3板式の特徴となるはずのリニアな暗部階調表現が実感できず、残念だった。
日本での価格は350万円、既に出荷が開始されている(受注生産)。北米では来月より販売を開始。価格は38,000ドルとなる。
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■ ヤマハ、LPX-510発表 ヤマハは透過型液晶パネルを採用した、液晶プロジェクタの新モデルも公開。型番から察しが付くようにLPX-500の後継にあたるモデルだ。 解像度は1,280×720ドットで据え置かれるが、最大輝度は800ANSIルーメンから1,000ANSIルーメンへと向上。コントラスト比も先代800:1から1,200:1へと進化を遂げた。透過型液晶プロジェクタとしてこのコントラスト性能は上々だ。動作時の騒音レベルが先代30dBに対しLPX-510では27dBに、より動作時の静粛性が強化されている。 実際に映像を見てみたが、しっとりとした色合いで暗部階調表現もアナログ的でDLPとは違ったきめ細やかさが感じられて好印象だった。
■ 三洋、ホームシアター向けハイエンド液晶プロジェクタを開発
型番は「PLV-WF10」となる予定で、北米、欧米で先行してリリースされる。使用パネルは、LP-Z2同様のエプソン製の透過型液晶のD4パネル。ただし解像度は1,366×768ドットであり、PLV-WF10専用設計のスペシャル版が組み込まれるという。 投射レンズは別売りで、ズーム率や焦点距離の異なる10種類のレンズが用意され、設置環境に応じたものが選択できる。筐体デザインは業務用マルチメディア・プロジェクタ「PLC-EF31」のものを流用するが、成形色を黒にすることで、ハイエンド・ホームシアター用の雰囲気を演出する。
スペック的には最大輝度2,000ANSIルーメンで、コントラスト比は1,100:1程度になるという。ランプは2灯式に対応しており、2灯同時点灯させた場合は最大輝度が2倍になる。2004年1月注に発表予定で、価格は13,000ドル程度の見込み。
■ 米国人も大きさにびっくり、ソニー「QUALIA-004」 ソニーブースでは、反射型液晶素子SXRD採用プロジェクタ「QUALIA-004」を展示。リア投影方式のスクリーンに映像を投射するデモ展示が行なわれていた。 展示セクションではQUALIA-004の実機が展示されていたが、来場者の多くはこれが実機だとは思わなかったようで、実機だと知ったときにはかなりびっくりしていた。来場者の1人は「これが実機だとは思わなかった。これは展示ディスプレイ用の巨大模型で、実物の大きさは半分以下だと思った」と笑いながら話していた。 597×745×201mm(幅×奥行き×高さ)のQUALIA-004は、「大きいことはいいことだ」を信条とするアメリカ人ですらびっくりなのだ。北米では2004年2月より販売を開始。価格は30,000ドル程度になるという。
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□2004 International CESのホームページ (2004年1月11日) [Reported by トライゼット西川善司]
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