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第161回:Ego SystemsのFireWire I/F「QuataFire 610」をテスト
~ 6IN/10OUT搭載の新モデル ~



 Ego Systemsのプロオーディオ向けのESIブランドから、FireWire接続のオーディオインターフェイス「QuataFire 610」が発売される。24bit/192kHzs再生に対応するとともに6IN/10OUTを実現し製品だ。

 すでに発売されているRolandの「FA-101」や。M-Audioの「FireWire 410」と真っ向勝負となるスペックだが、発売直前の最終バージョンを使うことができたので、さっそくレポートしてみよう。


■ コンパクトなQuataFire 610

 これまでFireWire対応のオーディオインターフェイスをいくつかレポートしてきたが、現在人気が高いのがRolandのFA-101とM-AudioのFireWire 410だろう。入出力数に若干の違いはあるが、いずれも24bit/192kHzに対応し、ハーフラック程度のサイズのコンパクトな製品で、FireWireからの電源供給で動作するという仕様となっている。

QuataFire 610 前面

 そんな中、やや後発というイメージはあるが、Ego-SystemsからもQuataFire 610なる製品が登場した。この製品の最大の特徴は、ともかく小さいということ。高さ的には1Uサイズだが、ハーフラックのものと比較して横幅が2/3で、1/3ラックマウントサイズともいえるもの。

 これをラックマウントする人がいるかどうかはわからないが、とにかくコンパクトなのだ。それだけ小さくても、入出力は6IN/10OUTとなかなか充実している上、ヘッドフォン端子も用意されている。さらに、MIDI入出力がこの手の製品としては珍しく2IN/2OUTが装備されている。

 では、そのオーディオの入出力の内訳はというと、アナログが4IN/8OUT、デジタルはS/PDIFコアキシャルが2IN/2OUTで、計6IN/10OUTとなっている。フロントには、最近流行のXLRのマイク、ライン入力兼用のTRSフォンジャック/XLRコンボコネクタを2つ搭載し、コンデンサマイクに直接接続できる+48Vのファンタム電源対応となっている。ただし、FA-101などはバスパワーでファンタム電源を供給できるが、QuataFire 610ではACアダプタが必要となるので注意が必要だ。

QuataFire 610 背面

 一方、リアのアナログ端子はやや貧弱。入力の2チャンネルはRCAピン、出力8チャンネルのうち4チャンネルがRCAピンで、残り4チャンネルはステレオのTRSフォンジャック、つまりすべてアンバランスとなっているのだ。

 ホームユースならば、下手にすべてがバランスのTRSフォンとなっているよりも使いやすいかもしれないが、それをどう判断するかはユーザー次第だろう。ただ、残念なのがその価格。こうしたホームユース主体の設計であれば、より安い価格で出してもらいたかったところだが、実売が6万円前後とのこと。

 すでにリリースされていて、人気の高いFA-101やFW-410がそれぞれ55,000円を切っていることを考えると割高に感じるのは確か。ただ、市場での価格は実際に販売されないわらない。同社によれば、「期待できる価格での販売も考えられます」とのことだ。


■ ドライバの完成度は?

 さっそくPCと接続して使ってみた。今回は、現在Ego Systemsの英語サイトであがっている1.15というドライバをインストールすることで使うことができた(製品版には、この1.15がバンドルされる予定)。

タスクトレイにアイコンが表示される

 例によって、ドライバの設定ユーティリティはタスクトレイにアイコンが表示され、常駐される。これをクリックすると、ミキサー風の画面が現れ、ここで各ポートの入出力レベルがコントロール可能となる。入力ポートの1、2チャンネルの上部にはつまみが2つ表示されるが、これはパンになっているので、左右バランスは自由に設定できる。

 また、ASIOやWDMドライバのレイテンシーもここで設定できるようになっている。設定上は、ASIOもWDMもデフォルトで10msec、最低で2msecに設定できるようになっているが、Pentium4 2.4GHzのマシンでASIOで2msecに設定し、CubaseSX2を使って動かしたところ、バッファサイズが小さすぎるようでうまく動かない。4msecにすると、ようやく動作してくれた。

各ポートの入出力レベルがコントロール可能 レイテンシーは最低で2msecに設定できるようになっている

 一方、サンプリングレートもこのドライバの設定画面で設定する。この辺は製品によっていろいろで、アプリケーション側を設定すると自動的に変わってくれるものもあれば、Roland製品のように、ハードウェア側でスイッチがあり、そこで設定の上、オーディオインターフェイスの電源を入れ直すと変更が反映されるものもあるが、これはドライバ画面で設定する形になっていて、特に再起動などを行なわなくても変更可能だ。

 ただし、ここで48kHzに設定しているのに、アプリケーション側で96kHzなど違うサンプリングレートで動作させようとすると、うまく動かなかったり、最悪PCにリセットがかかってしまったこともあったので、注意が必要。また、このサンプリングレートの変更にやたらと時間がかかったのも気になったところ。見た目上は、すぐに切り替わるのだが、PCの動作が重くなる。Windowsのタスクマネジャーで確認したところ変更中にCPU負荷が100%近くにあがり、これが元の状態に戻るまで約30秒程度かかった。

 とはいえ、他製品のように再起動や、再接続しないで変更できるのは便利だ。切り替え時間についても、ドライバが今後アップデートすることによって、短縮されていくことを期待したい。。


■ 現段階では24bit/192kHz録音に非対応

 とりあえず、落ち着いた段階で、いくつかのアプリケーションで使ってみると、問題なく利用できた。MMEドライバを使うWindowsのシステムでは、マルチチャンネル出力対応であるため、出力ポートを選ぶことができず、ステレオ出力の場合には1、2チャンネルに固定される。ASIOドライバで利用する場合は、ステレオ出力であっても自由に出力先を選ぶことができる。また、WDMドライバの場合でも同様だ。

MMEドライバで利用する場合は、ステレオ出力の場合には1,2チャンネルに固定される ASIOドライバで利用する場合は、ステレオ出力であっても自由に出力先を選ぶことができる

 しかし、サンプリングレートを192kHzにあげると、入力チャンネルがすべて無効になってしまう。つまり、192kHzでの再生はできるが、レコーディングができないというわけだ。RolandのFA-101でも10IN/10OUTあるうち、192kHz動作時は6IN/6OUTに制限されるという問題点はあったが、まったく録音不能というのは少し寂しい仕様だ。

 ただ、今後のQuataFire 610のドライバには、大きな期待もある。現段階のドライバは単にASIO、WDM、MMEのドライバであるにすぎないが、先日紹介したJuli@のようにEgo-SystemsならではのE-WDM対応が予定されているからだ。

 あらためてこのE-WDMについて紹介しておくと、これは、Ego-Systemsが独自で作った仕様で、ASIO、WDM、MMEおよびGigaSampler用のGSIFを統合するとともに拡張したもの。これによって、ドライバ部分にVSTプラグインのエフェクトを噛ませることを可能にしたものだ。つまり、アプリケーション側がVSTプラグインに対応していなくてもドライバ部分で、エフェクトを使えるというものである。

DirectWIRE画面

 さらに、DirectWIREという機能に対応し、ASIOドライバの出力をWDMドライバに入力するといったアプリケーション間でのオーディオデータの受け渡しをも可能にしている。もちろん、この際には外部を通らずドライバ上でやりとりするので、音質劣化がないというのがポイント。

 残念ながら現時点ではE-WDMに対応していないが、FA-101やFW-410へのアドバンテージをとるためにもぜひ早い時期に対応したドライバをリリースしてもらいたところである。

 なお、このQuataFire 610にはJuli@と同様のアプリケーションがバンドルされている。詳細はJuli@の記事を参照してほしいが、Liveの機能縮小版であるAbleton Live ESI、またAAS Tassman ESI、Delay LamaなどのVSTプラグイン。これらだけでも、かなりの価値のあるソフト群ではある。


■ 音質をチェック

 では、ここから実際のアナログ音がどうなのか、いつもと同様の実験に行なった。まずは、アナログの入出力を直結した際、24bit/48kHzの音質。冒頭で説明したとおり、フロントの入力はバランスに対応しているが、出力側はRCAピンのアンバランスのみなので、ここでは、RCAピン同士での接続とした。

24bitの設定にしても16bitまででしか録れていない

 いつものように、SoundForgeで録音してみたのだが、以前起こったように、24bitの設定にしても16bitまででしか録れていないという状況に陥った。通常は、32bitで録音することで、そのトラブルも回避可能なのだが、今回はそうはいかなかった。

 仕方がないので、ASIOドライバでの録音を試みた。ただ、最初にSteinbergのWaveLab5を使ったのだが、どうも別での不具合がでてしまう。そこで、InternetのSound It! 4.0をインストールして試してみたらうまくいった。やや面倒ではあったが、とりあえず録音をSound It! 4.0で行ない、そこで録音されたデータをSoundForgeで確認するという手法をとることにした。なお、同社によれば「WaveLab4」では正常に動作したとのことだ。


無音状態のノイズ

 まずは、無音時でのノイズレベルを見ていただきたい。約-90dBのノイズである。やはり金メッキされているとはいえ、RCAピンプラグのアンバランスで、-10dBの信号だと、どうしてもこの程度のノイズは混入してしまう。

 では、サイン波を使った実験での歪みはどうだろうか? こちらは、S/Nで85dBとなかなかいい結果となっている。さらにスウィープ信号の実験では、高域に行くにしたがって微妙にレベルが下がっているが、ローランドのFA-101とほぼ同等だ。RCAピンでの接続であれば、こんなものだろう。これらの結果を見る限り、音質的には可もなく不可もなく、といったところではないだろうか? 実際に音を聴いてみてもそう大きな特徴はない。特徴がないのがいいことともいえるわけだが……。


サイン波のスペクトラム スウィープ信号

 追加で、RMAAを使った実験も行なってみた。前述したとおり、192kHz時には録音そのものがまったくできなかったので、これを試すことはできなかったが、48kHzと96kHz時の結果を掲載しておくので参考にしてほしい。

RMAAループテスト結果。左から24bit/48kHz、24bit/96kHz

 多少の割高感はあるものの、コンパクトさが非常に大きな魅力な製品である。また、MIDIの入出力を2系統持っているというのも、MIDIを多用するユーザーにとってはうれしいところだ。あとは、もう少し値段が下がってくれることと、バグフィックスされたE-WDM対応のドライバを早くリリースしてくれると、QuataFire 610の存在価値は大きくなっていきそうである。


□Egosystemのホームページ
http://www.egosys.co.jp/
□製品情報
http://www.egosys.co.jp/HP/php/quatafire.php
□関連記事
【5月10日】24bit/192kHz 6in/6out対応のRoland「FA-101」を検証
~ Mac OS X標準ドライバ対応のFireWireインターフェイス ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040510/dal144.htm
【2003年9月29日】M-AUDIO 「FireWire410」を検証する ~ 期待の低価格IEEE 1394オーディオインターフェイス ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030929/dal117.htm

(2004年9月27日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp

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