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壁や天井に音を反射させる5.1chシステム
音波ビームによるカジュアルシアター進化形
ヤマハ 「YSP-1」
発売日:12月上旬
標準価格:157,500円


■ 期待の「サウンドビーム」カジュアルシアター

 いままでバーチャルサラウンド技術を各社が競ったり、無線や赤外線でリアスピーカーをワイヤレス化したりと、カジュアルなマルチチャンネル再生環境実現のための取り組みは多く見られた。しかし、今のところ大きな市場とはなっておらず、現在のホームシアターの多くは、5.1chのパッケージセットや、AVアンプなどの単体機器の組み合わせなどが主流といえるだろう。

 そうしたカジュアルシアター市場に向けてヤマハが提案するのが今回取り上げる「デジタル・サウンド・プロジェクタだ。その第1弾となる「YSP-1」は、1ユニットで5.1chサラウンド再生が可能なスピーカーシステム。薄型テレビの下部などにフィットする一体型筐体ながら、音の反射を利用し、5.1chサラウンドを実現するのこと。

 DSPを用いて独自のサラウンド音場を生成する従来のバーチャルサラウンド系の仕組みと異なり、「指向性の高い音をビーム状に放出し、部屋の壁や天井などに反射させ、5.1chサラウンドを実現する」という。

4cm径のユニットを40個搭載している(写真は技術解説用のカットモデル)

 そのため独自のデジタルアンプと4cm径40個の小型フルレンジスピーカーユニット、11cm径2個のウーファユニットを1つのエンクロージャに内蔵する。ビーム状の音波は、点音源を近接配置すると、互いの放出する音波が干渉し合い、指向性の強い音波が生まれる現象を利用。近接配置した40個のコーンユニットから、指向性が極めて高いビーム音波を作り、各ユニットをディレイ制御し、部屋の壁や天井などに反射させて5.1chサラウンドとしている。

 技術的にも興味深いが、A&Vフェスタで体験したところ、従来のバーチャルサラウンド製品とは一線を画す、明確なリア定位が印象に残った。同社ではこの「デジタル・サウンド・プロジェクタ」を「薄型、大画面テレビとの組み合わせ想定した新しいジャンルの商品」と位置づけ、積極展開を図るという。単体販売のほか、OEMビジネスも含め、2007年には100億規模のビジネスを目指しており、AVソリューションの大きな柱のひとつに育てていく考えだ。薄型テレビを買えば、デジタル・サウンド・プロジェクタが付いてくるという、将来像を思い描いているようだ。

 その期待の製品の第1弾「YSP-1」の価格は、157,500円とあまりカジュアルではないが、AVアンプと5.1chスピーカーのセットと考えれば、とび抜けて高価というわけでもない。



■ シンプルな外観

 外形寸法は1,030×113×192mm(幅×奥行き×高さ)、重量は13kg。薄型で重量もさほど重くはないものの、細長く持ちにくいので、設置は2人以上で行なったほうがいいかもしれない。

 本体のデザインは非常にシンプル。40個のコーンユニットと2つのウーファを搭載していると考えると非常にスリムに感じる。エンクロージャは密閉型。独自のデジタルアンプを内蔵しており、出力は2W×40ch、20W×2ch。

 入力端子は、DVD(同軸デジタル)とAUX(光デジタル)、TV(光デジタル)、TV(アナログ音声)、VCR(アナログ音声)。ドルビーデジタル、DTS、AACのデコーダを内蔵しており、DVDプレーヤーなどとデジタルケーブル1本で接続するだけでサラウンド環境が構築できる。出力はサブウーファプリアウトとコンポジットの映像出力を各1系統装備する。リモコンはYSP-1の操作のほか、テレビのチャンネル変更なども行なえる。

本体デザインはシンプル 右端に入力切替やボリュームボタンを装備 中央に表示管を備えている
背面。壁掛け用の穴なども備えている 3系統のデジタル音声入力やサブウーファ出力などを装備 リモコン。ビームモード切替やナイトモードボタンを備える。テレビリモンとしても利用できる


■ リアチャンネルのリアルさに驚き

 スタイリッシュな外装の「YSP-1」だが、外形寸法は1,030×113×192mm(幅×奥行き×高さ)とかなり大きい。ヤマハでは「42型の薄型テレビに最適」と説明しており、25型のCRTテレビと組みあわせて利用してみると、かなり収まりが悪い。

 今回8畳強の部屋でテストしてみたが、適切なスペースを確保することが難しい。CRTの上に置くと明らかに不安定なので、とりあえず幅120cm、高さ70cmの机に設置した。

 なお、ヤマハでは以下の条件の部屋の場合、十分なサラウンド効果が得られない場合があるとしている。

壁掛け設置例。42型テレビに合わせたサイズとなっている

 テストした部屋では、後方に180cmの金属ラックがあり、プロジェクタなどを設置しているほか、2つのCD/DVDラック、2つの本棚、布団、ソファ、ダンボールに詰めた書籍などが混じる、サウンドビームには厳しそうな環境。とりあえず簡単に片付けて、セッティングした。なお、オプションとして壁掛け用の取付金具「SPM-K1(5,250円)」が2005年2月に、専用ラック「YLC-SP1(105,000円)」が2005年1月に発売される。

 設置後にまずは設定。セットアップはビデオ出力を利用してOSD上で行なう。また、表示量は限られるが、本体前面の表示管でもセットアップが行なえる。

 OSDを立ち上げるとMEMORY/EASY SETUP/MANUAL SETUPの3つの項目が現われる。USER1は「6畳から16畳の中央設置」、USER2が「6畳から16畳のコーナー設置」、USER3が「12畳以上の中央設置」となる。


OSDのトップページ MEMORYからモードを選ぶだけで簡単なセットアップが可能 本体の表示管でも設定が行なえる


 とりあえず、テスト環境だと基本的にUSER1の条件に当てはまるので、テストトーンを出力してみる。フロントL/Rとセンターチャンネルのセパレーションもしっかりしているが、何より驚きなのはリアL/Rからの音がしっかりと聞こえること。実際に壁を反射した音を聞いているので当然といえば当然なのだが、あたかも後方のスピーカーから鳴っているような感覚は、従来のバーチャルスピーカーでは体験できなかったものだ。ただ、左側の窓際にテレビラックなどを置いていたためか、若干左の音が弱かった。そのため、テストトーンを聞きながらスピーカーレベルを補正した。

EASY SETUP画面

 EASY SETUPでは部屋のタイプ(ROOM TYPE)と、スピーカー位置(SP POSITION)、部屋のサイズ(ROOM SIZE)を設定する。

 ROOM TYPEは長方形/正方形、SP POSITIONは、左/中央/右の壁沿いの設置か左/右のコーナー設置から部屋に適したものを選択する。ROOM SIZEは6~10畳のSMALL、11~18畳のMID、19~28畳のLARGEが用意されている。とりあえずOSDに従って設定すれば、間違えることは無いだろう。テストした環境ではほぼUSER1に近い設定になったようで、同様にテストトーンを聞きながら左リアを若干補正した。


ROOM TYPE設定 SP POSITIONはセンター置き、コーナー置きなどが設定可能
ROOM SIZEを設定して、セットアップを完了

5ビームモードのサウンドビーム投射イメージ

 簡単にセットアップが終わったので、DVDプレーヤーやデジタルチューナなどを接続して試聴。さまざまなサウンドビームモードが用意されるが、メインとなるのは5.1ch用の「5ビーム」だろう。このモードでは、センターチャンネルの音は正面に向けて真っ直ぐに放出、左右のフロントチャンネルはYSP-1と視聴者の間にある左右の壁に反射、リアの左右チャンネルは視聴者の真横あたりの壁に一旦反射させ、その音をさらに視聴者後ろの壁で反射、背後からの音を実現しているという。

 DVDを再生してみると、「スパイダーマン 2」の摩天楼を移動するシーンなど、上下左右の強烈な移動感がしっかりと再現されるし、「ブラックホーク・ダウン」の戦場の包囲感も通常の5.1chシステムとほとんど変わりなく感じられる。リアチャンネルのみが鳴る背後の物音なども、きちんと出力されるのも印象的。リアスピーカーが「実際にありそうな」感覚というのは、バーチャルサランド系サラウンドとはまったく次元の違うものだ。

 音質については当初は若干不安もあったが、映画を見ている際に不満を覚えることはほどんとない。「ビーム音波を放出する角度は、各ユニットをディレイ制御することで実現している」とのことで、不自然なディレイなども危惧されたが、普通にDVDを試聴した際にはまったく知覚できない。小口径ユニットのスピーカーを採用したリアル5.1chシステムなどより、はるかにダイナミックなサラウンドを楽しめると感じた。

 音質面であえて不満を挙げれば、出力を上げると低域が若干弱く感じること。もっともエンクロージャの容積や11cm径のコーン型ウーファ×2という構成から考えれば、健闘していると思う。サブウーファプリアウトも備えているので、低域の不足が気になる場合は、サブウーファを追加してもいいだろう。

再生モードは5.1chに加え、ステレオ+3ビームや、3ビーム、ステレオなどを用意

 また、再生モードは5.1ch用の5ビームに加え、ステレオ+3ビーム、3ビーム、ステレオなどを用意。視聴者の数や再生するソースにより選択できる。ステレオ+3ビームはフロントL/Rとセンターチャンネルを直接リスナーに向けて投射、リアチャンネルを左右に反射させて投射するモードで、音楽DVDなどに応用できるモードとなっている。リアへの移動感や定位感がなくなるものの、5ビームとは異なる穏やかな音場感があり、ソースに応じて利用してもいいだろう。

 なお、ステレオ入力音声を5.1ch化するドルビープロロジックIIやDTS Neo:6も搭載している。また、ダイナミックレンジを圧縮し、深夜の試聴でもセリフを聞き取りやすくしながら、音漏れを防ぐ「ナイトリスニングモード」も搭載している。



■ マニアックなビーム設定。自動音場補正が欲しい

 基本的な使い勝手は平易で、さほどサラウンドシステムに知識のない人でも説明書を読めば問題なく使えると思われる。ただ、気になる点もあった。というのもプロジェクタで視聴するためにカーテンを閉めて再生するとカーテン側(テスト環境では左側)のバランスが変わってしまうのだ。

MANUAL SETUPのトップページ

 5ビームモードではリアだけでなく、フロントL/Rも壁投射を利用しているため、カーテンを閉じるとだいぶ印象が変わってくる。テストトーンを出力してみると明らかに、リアのスピーカーレベルが低く、音像も曖昧になっている。スピーカーレベルはEASY SETUPでも簡単に設定できるのだが、それだけではどうも左右のチャンネルが均等にならない。

 そのため、MANUAL SETUPで設定し直したが、この項目がなかなかマニアック。大きくわけで、「SOUND」、「BEAM」、「INPUT」、「OPTION」とあるのだが、このうちSOUNDはサブウーファ設定や、スピーカーレベル、トーンコントロール、INPUTは入力端子の設定、OPTIONはOSD設定など、通常のAVアンプなどでも見かける項目だ。しかし、SOUND MENUの設定だけだけでは、左右のバランスが取れないのだ。


SOUND MENUでダイナミックレンジやスピーカーレベルを調整 BEAM MENUでサウンドビームを制御 壁からの距離などを設定する

 そこでBEAM MENUでBEAMの制御設定を行なうこととなる。BEAM MENUの項目にはリスニングポイントまでの距離や壁までの距離、スピーカーの高さ、部屋の幅/奥行きを設定する「PARAMETER」と、ビームの指向性を制御し、水平/垂直方向の角度や、出力されてから跳ね返るまでの距離の設定などを行なう「BEAM ADT」、部屋の音響設定を行なう「ROOM EQ」、チャンネルごとの高域/低域設定を行なう「BEAM TONE」、L/Rの信号をセンターに振り分けて左右の音が不自然な場合に利用するという「IMAGE LOCATION」などが用意されている。

 項目が多すぎて戸惑ってしまうが、説明書には「カーテンなどの吸湿性の高いものがある場合は、BEAM TONEで該当するチャンネルのTREBLEレベルを上げる」と書いてあるので、部屋のサイズなどをしっかりと設定した上で、BEAM TONEやBEAM ADJの「HORIZ.ANGLE(水平方向のビーム角度調整)」などを調節してみると、しっかりとバランスが取れるようになった。

設定した内容を保存

 BEAM ADJの設定でもだいぶ音が変わるのでなかなか楽しめる。設定した内容は3つまで保存できるので、カーテンを開けたときと、閉じたときの設定などを保存しておくといいだろう。

 非常にセットアップのし甲斐があって、AVマニアには面白いと思うが、製品のターゲットとするカジュアルユーザーにはやや敷居が高いかもしれない。必ずしも自動音場補正機能が万能だとは思わないが、こうしたカジュアルな製品にこそ、自動音場補正が必要とされると思う。もっとも実際にセットアップしてみて、ビームの設定がある分、普通のAVアンプより複雑で、開発も難しそうだということは理解できるのだが……。



■ 画期的なカジュアルシアター製品

 いままでもカジュアルなシアターへの取り組みは多く見られたが、バーチャルサラウンドでは慣れるまでに時間がかかり、リアルな移動感を得るには今一歩たりない。ワイヤレススピーカーもケーブルが不要な代わりに電源ケーブルが必要となるなど、使い勝手に対して何かしらのトレードオフを要するものだった。

 しかし、YSP-1は、カーテンの有/無などでの音の違い以外の取り回しは非常にシンプル。さらに、設置してしまえば存在をほとんど意識することなく利用できる。カジュアルなシアター環境を構築するには非常に適したシステムだ。

 また、既に5.1chシステムを構築している人にとっても、DVDなどを本格的に見る場合はシアターシステムを利用、ザッピングしながらデジタル放送の映画やスポーツ中継などを見る場合はYSP-1を利用するという使い分けもいいだろう。むしろ、テレビの標準機能として内蔵すると使い勝手はさらに向上すると感じた。

 すぐに効果が体験できるし、手軽という意味では、他に比べるものが無いぐらい優れた技術であるからこそ、37/32型などもう少し小型の平面テレビ向けのモデルなどのバリエーションも欲しい。

 ともあれ、「デジタル・サラウンド・プロジェクタ」の登場は、今後のカジュアルシアターシーンを大いに進展させそうな可能性を感じさせた。今後どのように市場に浸透していくのか、期待される。


□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.yamaha.co.jp/news/2004/04111601.html
□製品情報
http://www.yamaha.co.jp/product/av/prd/ysp1/
□関連記事
【11月16日】ヤマハ、壁や天井に音を反射させる5.1chシステム
-音波のビームを放出し、1筐体で5.1chを実現
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041116/yamaha.htm
□関連記事
【9月22日】A&Vフェスタ2004【会場レポート1】
ヤマハ、フロント1スピーカーで5.1ch対応の新システムなど
-デノン/マランツは新AVアンプなどを出展
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040922/avf02.htm

(2004年12月24日)

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]


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