■ バンビ・覚えていますか?
誰しも、幼い頃に見た映画というのは妙に記憶に残っていたりするもの。当時の思い出とともに鮮やかな記憶となってよみがえってきたり、あるいは歳をとってから見返すと以前とは異なる作品の魅力に気づくこともある。 現在、子供向けの映画の定番として(もちろん大人も楽しめるが)、真っ先に思い起こされるのは、「となりのトトロ」や、「千と千尋の神隠し」などの、スタジオジブリの一連の作品と、「ファインディング・ニモ」や「モンスターズ・インク」、「ライオン・キング」などのディズニー作品だろう。 そして、今回取り上げるのは「バンビ」。「白雪姫」、「ピノキオ」、「ファンタジア」、「ダンボ」に続くディズニーの長編アニメーション第5作目として'42年に公開された名作中の名作だ。生き生きとしたアニメーションと美しい背景画については、手塚治虫が何十回も見返したという伝説も残っている。 当然幼少の頃に見ているものかと考えていたのだが、よくよく思い返してみるとストーリーを全く覚えていない。そのことに気づいたのは、AV Watchで以前レポートしたDVD「バンビ」の試写会の記事を読んだからだ。もっともこのDVD「バンビ スペシャル・エディション」の大きなウリの一つが、大幅なデジタル修正による高画質化なのだが、個人的に気になったのは以下のポイント。 > 知名度は高いが、実際のところ、その物語をちゃんと知っている人は少ない。 とのこと。「バンビって女の子じゃなかったっけ?」と、ストーリーを全く覚えていないことに気づいた次第。もしかして見ていないのかも? ということで、とりあえず買ってみることに。 価格は3,465円。ちなみに、先着で「バンビ」と「フラワー」の指人形がもらえるキャンペーンも実施しているのだけれど、20日に新宿の大手量販店を回ったところ、ほとんど全ての店で売り切れていていた。そんなに欲しいと思っていた訳ではないが、手に入らないとなるとかなり悔しい……。
■ バンビは王子様。独特の色彩がデジタル修復で復活
DVDの再生を開始するといきなりブエナの他のDVDのCMが始まる。ファインディング・ニモなどの最近のディズニーDVDはCMから始まることが多いが、せっかくDVDを買っているのだから、いきなり宣伝というのは是非やめていただきたい。 ストーリーはとてもシンプル。森のプリンスとして生まれた小鹿のバンビは、母や森の仲間達の愛を受けて成長する。仲間に囲まれながら、言葉や歩き方を覚え、周囲の環境について学び、森の様々な事柄に興味を持ちながら、すくすくと成長していく。前半は、花や水などの自然とのほのぼのとした出会いの感動や、愛くるしい声が特徴のウサギ「トンスケ」や、リスの「フラワー」、可愛らしい女の子鹿「ファリーン」などとの交流がユーモアたっぷりに描かれる。 とにかく、この森の表現が非常に丁寧で印象に残る。水彩画のような独特の色彩が、森の豊かな木々や水の様子をしっかりと捉えている。彩度は高くなく、写実的な表現と言うわけでもないだが、妙にリアリティを感じさせてくれるのだ。 急なスコールなどの気象変化や四季も織り交ぜて表現され、楽しみながらのんびり見ることができる。初めて見た雪の感動など、子供の頃に忘れていたような素朴な出会いや発見をバンビと一緒に追体験していくうちに、バンビと同じ素朴な喜びや感動が懐かしく思い出される。 バンビや森の仲間達の動きも実にユーモラス。ややデフォルメされた独特の誇張がユーモラスで、非常に生き生きとした動きが印象的。特によちよち歩きのシーンや。湖でのスケート(?)シーンなどの動きの滑らかさなどは、本作の大きな魅力の一つといえるだろう。
ほのぼのと成長するバンビが魅力の本作だが、成長するにつれて、人間などの外敵との接触や、森の仲間との別れを経験する。森のルールを覚え、困難を一つ一つクリアしていくバンビ。自然とふれあいながらの「成長」も本作の大きなテーマとなっている。 注目されるのは、9,500時間も費やして修復されたという映像だが、「非常に素晴らしい」の一言につきる。彩度を抑えながらも透明感のある背景画の魅力が、森の生活をみずみずしく表現しており、ブロックノイズやモスキートノイズは皆無。 輪郭はクリアというわけでもないのだけれども、彩度を抑えた色調表現とともに、何ともいえない独特の透明感が味わえる。DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレートは6.72Mbps。
音質については、日本語、英語ともドルビーデジタル5.1chを用意。ビットレートは448kbps。5.1ch音声はいずれも「ディズニー・ホーム・シアター・ミックス」仕様。DVD化にあたって新たにオリジナルの音声をミキシングし直し、「一般家庭のホームシアター環境で、最新の大型映画館に匹敵する臨場感が味わえる(ブエナ・ビスタ)」というもの。 解説だけ聞くと、包囲感をきちんと出す方向のサウンドデザインと思われたが、実際は、包囲感だけでなく、草のかすれる音や森のざわめきなどもきっちりとリアチャンネルから独立して聞こえる。なかなかアクティブなマルチチャンネル設計となっており、60年前の作品とは思えない。 その中でも、最も注目されるのはアニメーションの動きにあわせた音楽の方かもしれない。メイキングでは「自然そのものを擬人化して音楽にしている」と解説されるとおり、バンビなどの動きなどにあわせた音楽が特徴で、ストーリーに独特の効果とリズムを与えていく。
■ 本編より充実している特典
本編は70分と短いものの、特典ディスクも付属する。最大の特典ともいえるのが、本編ディスクに収録されている「バンビが誕生するまで」。ウォルト・ディズニーと製作チームによるスタッフ会議を再現したもので、会議の議事録からシーンにあわせて解説されるというもの。 バンビは'36年から製作が開始され、'42年に公開されたが、その制作時の会議の模様を、ウォルト ディズニー スタジオアーカイブから発見された会議の議事録から抜き出し、ウォルト・ディズニーを含む当時の製作チームのコメントとシーンを照合しながらストーリーを進めていく。冒頭の森のシーンを写しながら、「(最初のシーンは)朝の森から始めよう。不思議な謎めいた雰囲気で、観客を引き込こもう。撮影はマルチプレーンカメラで。」といった具合で、解説が進む。 各スタッフがシーンの意図を解説しながら、演出方法を相談。例えば「6匹のウサギのうち、他のウサギとは違う特徴ある子ウサギを入れよう。声に特徴を持たせて親しみを持たたい」などの提案とともに、トンスケが登場するなど、キャラクターの登場や演出意図が詳細に語られるので非常に面白い。 アニメーションについては、ウォルト・ディズニー自ら「生命力に満ちあふれていれば多少の誇張が受け入れられる。とにかく“ぬいぐるみ”にはしたくない」などと目標を語っている。また、シーンチェンジの意図などが詳細に語られるほか、描き方や表現の目標、演出方法なども語られるので、彼らの意図がどこまで再現されたかというのも一つの見所となるだろう。 特典ディスクには、メイキングやゲームなどを多数収録。メイキングは約53分の大作となっており、ストーリーや作画、声優、音楽などの様々な点からバンビの成り立ちについて説明される。バンビの52年後に公開される「ライオンキング」のスタッフも大いに下敷きにしたことを認めるなど、バンビの後世に及ぶ影響が語られる。 作画については、ウォルト・ディズニーの意志として「リアリズムと詩情」をキーワードに解説。各アニメーターの担当部分や、5年前の作品「白雪姫」との比較で、鹿の動きの進化が語られるのも面白い。実際の作画に当たってはウサギや鹿をスタジオ内で飼ったり、解剖学の観点から鹿の骨格を徹底的に分析した。 声優についてはオーディションで決めたと言うが、かわいらしい子供声が魅力的なトンスケ(Thumper)役のピーター・C・ビーン氏など当時4~6才ぐらいの子供が60才を超えたおじいさんになっているのはなかなか感慨深く、バンビの積み重ねてきた年月を感じさせる。また、独自の質感の背景画を担当したタイラス・ウォン氏の功績についても長時間にわたって解説され、賛辞が送られている。さらに、製作当時の'41年にあったスタジオ内のストライキなどの模様や、戦時になり戦意高揚映画を作ることになるなど、バンビ製作、公開当時の模様がさまざまな視点から確認できる非常に良くできたメイキングとなっている。 もうひとつの重要な特典が「バンビ修復プロジェクト」。今回「バンビ スペシャル・エディション」としてDVD化されるために、大幅なデジタル修正プロジェクトが立ち上げられており、その作業内容を解説したものだ。 フィルムのデジタル化については、クリーンルームでの作業し、フィルムを超高解像度でPCに取り込む。その後はノイズ除去の工程で、まずはノイズ除去用ソフトを用いて、フィルムの汚れを消去。さらに、技術者が自動的に修正できなかった汚れを取り除く。 ノイズの除去後は、色補正の工程に移り、社内ライブラリ内の原画を参考に作業を進めとたという。いずれの工程でも強調されるのが、「忠実な再現」ということで、実際の原画などの参考資料も確認しながら、いかに忠実な再現に苦労したかが確認できる。 そのほか、未公開シーンや四季の森を楽しむゲームなども収録されており、特典ディスクだけでも一日で楽しむのは不可能というぐらいの量がある。
■ 鮮烈な色彩とシンプルなストーリーが魅力
個人的には「バンビのストーリーを確認しよう」というのが当初の目的だったが、60年前の作品とは思えない、映像の美しさには驚かされた。せっかく特典ディスクが付属するので、できれば修復前の映像と比較できる特典なども欲しかったところ。 ストーリーは知っている、という人も再度見てみると、今回の「スペシャル・エディション」の画質には驚かされるだろう。記憶の中の画質とは大幅に異なる鮮烈な色彩体験となるのではないだろうか。 ストーリーもシンプルで明快で、誰にでも楽しめるというディズニー作品らしい安心感もある。子供と一緒にというのはもちろん、大人が見ても十分に楽しめるし、大人だからこそ楽しめる、懐かしむことができるポイントも大いにある作品と感じた。バンビが女の子と思っていた人にも是非お勧めしたい。
□ブエナ・ビスタのホームページ (2005年3月22日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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