■ マイ世界遺産時代の到来 昨年10月に1080iで撮影可能なHDVカメラ「HDR-FX1」(以下FX1)が登場し、「コンシューマでもHD」の時代が到来した。とは言うものの業務機としても使えてしまうポテンシャルを持ったFX1は、価格といいサイズといい、いわゆる普通の家庭で購入するレベルの製品ではなかった。当時は普及モデルが出るにはあと1年ぐらいかかるかな、と予想していたのだが、それよりも早いタイミングで登場してきた。
7月7日(七夕)に発売される「HDR-HC1」(以下HC1)は、1080iで撮影可能なHDVカメラの2号機だ。価格、サイズともにグッと抑えて、ようやく「誰でも買えるHDカメラ」が登場したと言える。店頭予想価格は18万円前後としているが、大手量販店では17万円後半、ネット通販では16万円台で予約が始まっているようだ。 HC1最大の特徴は、297万画素のCMOSを単板で使用した光学系にある。これにより小型化と高解像度の静止画撮影、低消費電力が実現できたわけだ。今年始めにソニーでは、CMOSを3つ使用したハイエンドDVカメラ、「DCR-PC1000」を商品化しているが、CMOSを単板で使用したのは本機が最初となる。 実は、今年4月末のNABのときに、FX1の設計と企画の方々に取材したときに、「次はCMOSで単板ですよねぇ」なんて気軽に聞いてしまったのだが、7月上旬発売ということは逆算すれば、4月末の段階ですでにHC1は試作モデルが完成し、最終調整のタイミングだったはずだ。まさかその通りの製品が進行しているとはつゆ知らず、思えばその瞬間気まずい空気が流れたような気がする。悪いことをした。 ではさっそく誰でも撮れるハイビジョン、HC1の実力をじっくりテストしてみよう。
■ まさにハンディカムサイズ まずはいつものようにボディから見ていこう。HC1にはシルバーとブラックの2モデルがあるが、今回はシルバーのほうをお借りしている。 全体のサイズとしては、500mlのペットボトル大といったところ。もちろんビューファインダ部などの出っ張りはあるものの、大きめのウエストバッグ程度なら入ってしまうだろう。FX1の時は「これ全然ハンディじゃありませんけど」と思わずツッコんだものだが、このサイズなら十分ハンディカムと言える。
レンズはフィルター径37mmのカールツァイス バリオゾナーT*コーティングの光学10倍ズーム。レンズ径の割には鏡筒部が太いが、これはペットボトル大というデザインを優先させたものだという。画角は動画16:9が41~480mm、4:3が50~590mm。静止画では16:9が40~400mm、4:3が37~370mm。 撮像素子は1/3型297万画素CMOSで、原色フィルターを採用。有効画素数は16:9の動画撮影時で198万画素、静止画では4:3撮影時が最高の276万画素となる。手ブレ補正は電子式だが、ON/OFFで画角は変わらない。ちなみにCMOSの形状は16:9ではなく、4:3だという。
動画でズーム倍率がきっちり10倍ではなく12倍なのは、ワイド側では手ブレ補正で使用する領域が少なくて済むため、その分を画像領域で使っているからだ。つまり動画のワイド端は、本来ならば48mmになるところを、CMOSの撮像領域を広く取ることで41mmにまで広げているわけである。 一方静止画撮影時は、動画と違ってフルに手ブレ補正領域を使用する。そのためこのテクニックが使えず、光学そのままの10倍となるわけである。
レンズ周りには、やや大型のマニュアルリングを備える。横のスライドスイッチで、マニュアルフォーカスかズームかを切り替える。
当然ながら電子制御なのだが、どちらも滑る感じが顕著だ。あくまでもオートではダメなときに補助的に使用するということになるだろう。
鏡筒部下には、テレマクロ、拡大フォーカス、逆光補正ボタンが並ぶ。さらにその下には、明るさ/音量レバーがある。撮影時には輝度調整、再生時にはボリューム調整となる。 鏡筒部上部に目立つのは、前後に長いステレオマイクだ。ここには前後左右に4つのマイクが搭載されており、後部のマイクから拾う音を抑え込むことで、上部に付いていながらも前方への指向性が高くなっている。マイクの間には、静止画用のポップアップフラッシュがある。
液晶モニタは、2.7型 16:9の12.3万画素で、タッチスクリーン式のハイブリッド液晶となっている。ちなみにビューファインダはほぼ倍の25万画素となっており、マニュアルフォーカスなどはこちらで見た方がいいだろう。液晶モニタ脇には、ズームボタンと録画ボタンがある。 モニタ内部には画面表示/バッテリインフォボタンがある。電源OFF時でもこのボタンを押せば、バッテリの残量がわかるようになっている。
液晶モニタの下には、各種コネクタ類が集まっている。HDV/DVのi.LINK、USBで1セット、コンポーネント出力とAV出力の集合端子で1セット、それぞれにフタが付いている。その右はACアダプタ端子だ。 背面は電源/モード切り替えダイヤル、スタートボタンがある程度と、比較的シンプル。モードダイヤルは、下に下げると電源オン、さらに下にノックすると動画、静止画、再生と3モードが順次切り替わるスタイル。以前スライドスイッチでこのような操作系のものはあったが、ダイヤル型でこのような操作系は珍しい。スライドスイッチよりも、こちらのほうが使いやすいと感じた。 ズームレバーは左右に倒すタイプで、大きさも適度だ。低速ズーミングは難しいが、素早く画角を変える時には使いやすい。
■ オートでそつなく撮れる ではさっそくHDVによる動画撮影を試してみよう。最近の東京は梅雨入りのはっきりしない天気が続いており、あいにく初日の撮影は曇天であった。原色フィルター単板式は、光量が十分でないと本来の発色やS/N比が発揮できないと言われているが、まあこれもある意味キビシイ条件でどうなるかの参考だと思っていただければ幸いである。
現場は夕刻とあってかなり暗いが、S/Nは問題ないレベル。解像度には問題ないが、発色は現物に比べるとやや弱い。光量が足りないときは、設定の「カメラ色の濃さ」で、若干彩度を上げてやるといいかもしれない。
最高に増感した状態では、さすがにノイズは目立つ。しかしCMOSはCCDよりもラティチュードが広いこともあって、輝度に関してはほとんどオートのままで、手動で調整すべき必要性はあまり感じなかった。 シーンを選ばずに自動追従してくれる点では、誰にでも撮りやすいカメラだろう。またフォーカスの追従も良く、手動で修正するというよりも、動かないように固定するという意味でマニュアルフォーカスを使うケースが多かった。 難点を上げるならば、液晶の解像度が今ひとつで、ワイド端ではピントがちゃんと合っているかどうか確信が持てない。その点ビューファインダの方が解像度も高いし発色もいいのだが、液晶パネルを閉じてしまわないと表示されない。 ところが液晶と閉じるとメニュー操作ができないということもあって、色の濃さやホワイトバランスシフトなど、色に関する調整ができなくなる。できれば両方同時に使えるモードが欲しかった。
画角に関しては、なにぶん横に長いので風景を撮る分にはいいのだが、人間を対象にした場合はかなり離れないと引ききれないケースが多かった。子供など人物撮影をメインに考えるならば、別途ワイドコンバージョンレンズは必須だろう。 一方テレ端は、光学10倍のズームではもの足りない印象があるが、FX1よりも全体的にテレ方向へシフトしていることもあって、さほど寄り足りない感じはなかった。解像度が高いので、きっちり寄り切れなくてもそこそこ絵になってしまうというところが、HDで16:9画角のいいところでもあり、怖いところでもある。詳しくは、動画サンプルで確認していただきたい。 なお今回のサンプルはPC上で確認しやすいように、SD解像度に落として、MPEG-2 8Mbpsでエンコードしたものと、1,440×1,080ドットのWMV HD形式にエンコードしたものの2種類を用意した。
普及機ながら、FX1で人気の高かった機能、ショットトランジションがそのまま搭載されているのは大きなポイントだ。これはA/B2つのセッティングを記憶させておき、この2つの間を滑らかに繋いでくれるという機能だ。ただし、トランジションのスピードまでは設定できない。 記憶できるのは、ズーム、フォーカス、ホワイトバランスの3種のみ。FX1はこれに加えてアイリス、ゲイン、シャッタースピードが記憶できたので、要素としては少なくなっている。だがそれも悪いばかりではなく、例えばゲインなどはトランジションに関係なく自動追従するので、記憶しない方が使いやすいケースもある。 後日、晴天下で追撮してみた。曇天と同アングルであじさいを撮影してみたが、やはりコントラスト、色味共に光量があるほうがしっかりしている。だが逆の見方をすれば、曇天でもこの程度の差で収まっているのであれば、かなり健闘していると言えるだろう。
またスミアのないCMOSということで、思い切って光源入れ込みの構図が作れるのは、大きなメリットだ。また付属のレンズフードも、フレア光源をかなり切ってくれるので、意外に役に立つ。
これから夏にかけて、海山など日差しの強いところに出かける機会も増えるだろう。もちろんワザと狙わなくても、今まで我慢してきたノイズから解放されたという意味では、撮影がずいぶん楽になる。 >
■ HDの解像感が堪能できる静止画機能 次に静止画機能を試してみよう。先のFX1は3CCDということもあって、静止画撮影機能がなかった。だがHC1は単板で2.8メガピクセルあるため、静止画も高解像度で撮れる。言うなれば、従来の単板式DVカメラの使い勝手を、そのままHDにシフトしたカメラなのである。 撮影可能サイズは、1,920×1,440、1,920×1,080、1,440×1,080、640×480ピクセルの4種類。このうち1,920×1,080のみ、16:9画角となる。
16:9画角の静止画は、3CMOSのDVカメラ「DCR-PC1000」でも搭載されていたが、HD対応テレビにピッタリの写真というのは、これからのデジカメの新しいアプローチとして注目しておきたい。だいたいデジカメの写真を全部プリントするという人は、そういないだろう。デジタルの写真を気軽に大きく見るという表示器として、HDテレビは有効なのである。その画角に対してピッタリ収まる静止画という切り口は、テレビに対して親和性が高いビデオカメラらしい静止画機能だ。
という能書きは置いといても、16:9で撮る写真というのは新鮮だ。人物は4:3のほうが収まりがいいかもしれないが、自然物や風景は是非16:9で撮りたい。そう思わせる魅力があるカメラなのである。
またHD解像度であることを生かして、撮影したテープから静止画像を起こすこともできる。テープの再生中に、シャッターボタンを押すだけだ。この場合の解像度は、1,440×810ピクセルの16:9画角となる。さすがに最初から静止画で撮影した画像よりも解像感は劣るが、それでも今までのVGAサイズよりは遙かに大きい。 余談だが、年賀状の時期になると、ビデオで撮った画像を年賀状に使いたいという無理難題をふっかけてくるオジサン、オバサンが出現する。こういう無茶なことを言う人に限って理想が高いので、640×480ピクセル程度の画像を印刷しても、とても許して貰えないのである。だがこれもビデオがHD解像度になれば、現実的な方法となるだろう。
■ 総論 HD解像度のビデオカメラがいきなり普及価格帯に降りてきたことで、HDR-HC1が市場に与えるインパクトは大きい。おそらくコンシューマビデオカメラ史上のマイルストーンとして、長く記憶に残ることだろう。 普及機としての基本性能、「フルオートで破綻なく撮れる」という部分をしっかり押さえながら、ヒストグラム表示を備えていたり、ズームやフォーカス用マニュアルリングを備えていたりと、半マニュアル的な使い方も可能になっているのは、上級者にもうれしい配慮だ。 もっともビデオゲインに関しては、絞りがいくつかもわからないし、どこからNDが入るのか、どこから増感が始まったのかもよくわからない。あくまでもフルオートで多少の味付けができるということであり、それ以上やりたい人はFX1か業務用モデルの「HVR-A1J」を買え、ということだろう。 HDコーデックエンジンはFX1と同じということで、MPEG圧縮に起因するノイズは見あたらない。絵柄で気になるのは、人物撮影ではワイド端が足りない事ぐらいだろうか。 バッテリライフは、付属のものでは実撮影時間が40分と不安が残る。今回のテスト撮影では、3CMOSの「DCR-PC1000」の時のように途中でバッテリ切れになることはなかったが、余裕を持って使いたければ、別途大容量バッテリは必須だろう。 HC1は一般向けに機能が丸められているものの、HDV普及機としては十分過ぎる性能を持っている。これからすべてのコンテンツやデバイスが加速度的にHD化していくタイミングを考えれば、今から買って損はない1台だろう。
□ソニーのホームページ (2005年6月15日)
[Reported by 小寺信良]
AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2005 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|