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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第218回:夏休みの工作シリーズ
「紙で作るピンホールカメラ くま35」
~ 光の不思議を体験できる逸品 ~


■ くま?

 毎年恒例となってきた夏休みの工作シリーズである。思い返せば最初は水中撮影にチャレンジみたいな企画モノとしてスタートしたはずだったのだが、真空管アンプを作ってからというもの、だんだん方向性が違ってきてしまい、今ではすっかり工作がメインになってしまっている。

 今回の工作は、「ピンホールカメラ」。おそらく小さい頃に、カメラの原理として図などを見たことがある方もいらっしゃるだろう。針先のような小さな穴を通して入ってきた光で写真を撮るという、アレだ。

 構造的には簡単なので、まるっきりの自作でも可能なのだが、どうもおっくうだという方のためにいいモノが出た。それが、ユニークなカメラの通販で知られる鈴木商店の、自分で組み立てるピンホールカメラ「くま35」である。

 一般的にピンホールカメラでは、ブローニ判や4×5判といった比較的大判のフィルムを使う例が多いのだが、「くま35」はその名前どおり35mmフィルムが使用できる。フィルムも入手しやすく、現像やプリントが即日でやってもらえるということもあって、使いやすいだろう。

 紙とプラスチックのパーツで組み立てるというこの「くま35」、さっそく試してみよう。



■ ピンホールカメラのそもそも

 小さな穴で風景が写せるという原理自体は、今から約2,000年前のギリシャ時代にすでに発見されていたという。実風景を写す道具という意味では、カメラの原理としてピンホールという説明はある意味正しいのだが、写真機として一般のカメラと同じかというと、実はかなり違う。

 通常のカメラにはレンズがあり、沢山の光を集めて感光物に撮像する。そこにはフォーカスという概念、つまり綺麗に結像する部分と結像しない部分が出てくる。ある意味で、光を面で捉えていると言える。

 一方ピンホールカメラは、あちこちに向かって散らばる光を、小さな穴によってフィルタリングし、撮像面に描画していく。これは、光を点で捉えていることになる。つまりピンホールカメラで撮影された写真は、実は点描なのである。また、すべての空間の光を点で捉えていくという構造から、フォーカスという概念が存在しない。どこにでもピントが合っている、究極のパンフォーカスなのである。

 レンズを使うカメラでは、広角になるほどレンズの精度が問われることになる。形の歪みや色収差といった問題が大きくなってくるのだが、レンズを使って光を曲げないので、レンズによる歪みの影響を受けないのも特徴だ。ピンホールカメラというのは、レンズを使うカメラとは違った体系に存在するカメラと言えるかもしれない。

 実は最近、ピンホールカメラはじわじわと広がりを見せ始めている。調べてみると、「PHaT PHOTO」というフォトマガジンも、ブームを盛り上げるのに一役買っているようだ。今年5-6月号のVol.27がトイカメラ・ピンホール特集で、付録として「zebra」というピンホールカメラのキットが付属していた。またこの8月にはイベントも開催されたようである。

 この「zebra」を設計したのが「シャラン」という会社で、ネットでもP-SHARAN STD-35というピンホールカメラを、980円で販売している。鈴木商店のくま35も、絵が違うだけで、カメラ自体は同じだ。ただ鈴木商店のほうは、布製トートバッグとおためしフィルムが付属して、1,780円となっている。



■ 工作はカンタンだが

 ではくま35の中味を見てみよう。ご覧のようにA4サイズの厚紙3枚と、プラスチックパーツ、両面テープ、黒テープ、ピンホールシート、輪ゴムが入っている。

くま35のパッケージ内容 強度が必要な部分のみプラスチックのパーツ ピンホールが開いたシートを貼り付けるようだ

ピンホールが開いたシートを貼り付けるようだ

 布製トートバッグは、底部が16cm×16cm、高さが23cmという角柱型で、くま35用とするには若干大きすぎる。何か撮影小物などを入れるという感じだろうか。おためしフィルムは、コニカミノルタの業務用カラーフィルムで、ISO 100の24枚撮りであった。

 さっそく組み立ててみる。くま35の構造としては、中心にフィルムホルダー部があり、それを前ケースと裏ブタで挟み込むようになっている。紙製ということで強度が心配されるが、厚さ0.9ミリの上質な厚紙で、強度が必要な部分は二つ折りにして二重にするなど、設計が工夫されている。

 また紙部品の切れ込みもしっかり入っており、切り離すときに破れたりすることはない。もちろん綺麗に作るためには、台紙からちぎるよりも、ちゃんとカッターで切り離した方がいいだろう。くっついてた部分のバリなどもカッターで削っておくと、より綺麗に組み立てられる。

 部品の接着は、付属の両面テープと黒テープだけですべて行なえるので、別途ノリや接着剤などを用意する必要もない。基本的には、いろんな大きさの箱を作っていくだけである。

まずは裏ブタを作成 中心になるフィルムホルダー部

 難を言えば、組み立て説明書の図解が非常に込み入っており、読みづらい。工作のレベルとしては小学生でも可能な程度だが、この説明書の組み立て手順を追うのが難しいだろう。子供にやらせるのであれば、大人が側についていたほうがいい。

 ピンホールシートの位置決めは、正確に行なう必要がある。台に黒テープで固定するのだが、あまりホール寄りにテープを貼ってしまうと、組み立てたときに黒テープが覗いてしまって、ちょっとかっこ悪いことになるので注意したほうがいい。実際に、そこで失敗してしまった。

説明図が込み入っており、順番が追いにくい 暗箱となる部分にピンホールシートを貼り付ける

 紙は黒なのだが、折り曲げたり切り抜いたりした断面は、白くなってしまう。光が通る可能性がある部分は、乱反射を防止するために、黒マジックでこの断面を塗る必要がある。うっかり手を滑らすと、表面に黒いマジックの跡がべーっと着いてしまうので、この作業は慎重に行なう。

 プラスチックのパーツは、紙では強度的に無理な部分で使用されている。具体的にはスプール軸や、ツマミの部分だ。よく中の構造を見ると、パーフォレーションを噛むスプロケットがない。つまりフィルムのカウンターなど存在しないということである。

フィルムホルダーに暗箱部をくっつける。だいぶカメラらしくなってきた 前ケースをくっつけて、ほぼ完成

 またシャッターは、単なる紙のフタを上げ下げするだけという構造である。だがピンホールカメラの場合は、露出時間が非常に長いため、このような上下運動は手ブレする可能性がある。そのためシャッターではなく、遮蔽板を使った撮影方法が紹介されている。

完成。組み立て自体は、丁寧にやると2時間程度かかる 本体はフィルムホルダーと前ケースで二重になっている シャッターを上げるとピンホールが見える仕組み



■ 手応え感ゼロ

 次はいよいよ撮影である。フィルムの装填は、通常のカメラと変わりない。ただ金属部品が全くないので、えー! こんなんでOKなのーという感じである。裏ブタはほんとに箱と同じなので、ヘタをすれば撮影している間に開いてしまう可能性がある。そのために黒い輪ゴムが付属していたわけで、フィルム装填後はこいつでパチンと止めておく。タダでさえ脱力系のデザインなのに、さらに安っぽさがプラスされてくる。

 巻き上げノブには目印が打たれており、フィルムの巻き上げの目安となる。取り始めは2回転で1枚分のフィルムが送られ、8枚ぐらいから1回転で1枚送られるようになる。スプロケットがないので、そのあたりはかなりアバウトっていうか、アバウトじゃないところなど存在しないぐらいアバウトなカメラである。

 露光時間は、裏ブタに目安が書いてある。それによると、ISO 100のフィルムでは晴天で2~3秒、ISO 400では1~2秒となっている。最近はもっと高感度のフィルムも手軽に手にはいる。フィルムの感度が上がれば、露出時間もそれだけ短くなり、手ブレの可能性も減るだろう。

目印を目安に、最初は2回転で1枚 露光時間の目安は裏ブタに書いてある

画角はなんと20mm。笑ってしまうほど広角である

 だがこの露出時間の長さも、ピンホールカメラの魅力の1つである。つまり動いているものが消えて、静物だけが映るというわけである。この面白さを取るか、手ブレ対策を取るかは、その人の考え方次第だ。今回は付属していたISO 100のフィルムのほかに、ISO 800のフィルムで試してみた。なお、現像したフィルムをスキャンして、デジタル化している。

 まずいつものように画角だが、なんとレンズもないのにfが20mmもある。ファインダなどなく、適当にそのあたりに向けるだけで、大抵のものは入ってしまう。フォーカスは原理的に存在しないのだが、全体的にもやっと甘い感じで、現代のしゃっきりくっきりした画質とはまったく違う。

 だいたい撮影時の気合いからして違う。普通のカメラがパシャッとかカチッとか音がして、「びしっと今のアングルを捉えました!」という手応え感があるのに対し、くま35はフタをパカッと開けて2秒ぐらい数えて閉じるだけあり、「ダルッとその辺が映ってしまいました」って感じで手応え感ゼロなんである。

 右の写真はISO 800のフィルムで撮影した。露光時間は約1秒だが、水面の揺れなどがだいぶならされて、鏡面のようになっている。露光が遅いカメラならではの映像だ。

 左下の写真もISO 800だが、いくら露光が短いとは言え1秒はあるので、木の葉など風で揺れるものは輪郭も甘くなってしまう。どの動きを消すとか面白いかまで、きちんと計算して被写体を選ぶと、面白い表現ができそうだ。

 露出はまったくのカンに頼るほかないのだが、逆光の撮影は難しいのだと改めて思い知らされた。ついうっかり同じタイミングで露出してしまい、オーバーになってしまっている。デジカメやビデオカメラでは絞りやNDなどで自動的に補正してくれるので、つい加減を忘れてしまいがちだ。

 次はISO 100のフィルムに変えてみた。フィルム自体のクセもあるだろうが、やはりこのぐらい原始的なカメラになると、露出が長いほうが色味もしっかりするようである。

風があると、木などの被写体は辛い 逆光は露出オーバーで失敗 ISO 100に変えて撮影。色味とコントラストがはっきりする

 もちろんこのカメラの場合、三脚は必須である。ただくま35には底部に三脚用のネジ穴などないので、単に三脚のヘッド部に乗っけるだけである。もう少しちゃんと固定しようと思ったら、大きめの輪ゴムで括り付けるなどの工夫が必要だろう。

 だが冷静に考えてみると、大のオトナが三脚のヘッドに輪ゴムでクマ模様の箱を括り付けて右往左往している様は、かなり引く。

 露出時間が長くなると、それだけミスも多くなる。ブレないように本体をしっかり握っていたら、ちょっと気合いを入れすぎて三脚ごと揺らしてしまった。なにせ本体がやたらと軽いので、簡単に動いてしまうのである。

 箱の奥行き以上近づかなければ、接写も可能だ。次の写真は花から15cmぐらいに近づいて撮ったが、撮影時はまさかこんなに広角で撮れるとは思ってなかったので、えらくユルい構図になってしまった。

力が入りすぎて豪快にブレてしまった ある程度接写も可能



■ 総論

 AVの世界というのは、一般にコンテンツを見たり聴いたりするだけなのだが、そこに工作という要素が加わると、とたんにクリエイティブ領域に突入するわけで、ある意味自分にしか価値がなかったりする。

 くま35、というかピンホールカメラで撮れる写真は、あんまり狙った通りにならないし、失敗もする。おそらくフィルム1本撮って、満足いくショットは3~4枚ぐらいしかないだろう。そういう無駄が、人によっては全然面白くないかもしれないし、また今のデジカメなどは大変便利なものであることを痛感するわけだ。

 だがレンズがなく、まさに空気を通ってきただけの映像というのは、ある意味存在している世界そのものを正確にキャプチャしているわけで、妙に心がなごむ。今回は現像の都合からカラーフィルムで撮影したが、モノクロフィルムも結構いいだろうと思う。フィルムの仕上がりが待てないという人は、ポラロイドからもピンホールカメラが製品化されている。

 ピンホールカメラは、ある意味ゼイタクな遊びだが、人生のすべてがスピーディでリアルタイムでなければならないわけでもない。たまにはゆっくりこういう写真でも撮って、なごんでみる時間も必要ではないだろうか。


□鈴木商店のホームページ
http://www.suzuki-shop.com/index.html
□製品情報
http://www.suzuki-shop.com/kuma35press/index.html
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(2005年8月31日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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