■ MPEG-2カメラ戦国時代 ほんの数年前まで、ビデオカメラというものがこれほどまでに多様化するなど、誰が想像できただろう。映像の圧縮方式としてMPEG-2が広く認知され、DVDレコーダの台頭によりその評価が高まるにしたがって、ビデオカメラの世界でもDVDやHDD、メモリなど様々な記録方式のカメラが登場した。DVDはソニーやキヤノンの参入により、本格ビデオカメラへの道を歩み始めたが、メモリやHDDに記録するスタイルは、どちらかといえばデジカメからのアプローチが行なわれてきた。その中にありながら、ビクターのEverioはビデオカメラ側からのアプローチとして、独自の地位を築いている。 当Electric Zooma!でも、Everioの初代モデル「GZ-MC200」、3CCD搭載のフラッグシップ「GZ-MC500」と扱ってきているが、今回はその最新にして最上位モデル「GZ-MG70」(以下MG70)をいち早くお借りすることができた。 過去のモデルとの最大の違いは、HDDがリムーバブルなマイクロドライブではなく、完全に内蔵する形となったところである。取り外し機構がないぶん小型化できるのは言うまでもなく、マイクロドライブでは実現できなかった大容量HDDを搭載しての登場となっている。 よりマス市場向けとして、一般的なビデオカメラとして製作したというMG-70を、早速チェックしてみよう。なお今回お借りしているのはまだ試作モデルということで、最終的な仕様とは異なる場合があることをお断わりしておく。
■ 小型DVカメラ? まずデザインから見てみよう。初代Everioではビデオカメラのミニチュアのようだと表したわけだが、今回のMG-70はさらにその印象が強まり、もうどこに出してもおかしくないビデオカメラというイメージとなった。従来モデルの特徴でもあった光軸背面固定の液晶モニタがなくなり、一般のビデオカメラと同じく右サイド格納型となった点が、余計にその印象を強めているわけだが、ドライブ部の小型化によりサイズバランスに不自然さがなくなっている点も大きい。
ボディバランスの良さは、ホールドしてみたときによくわかる。従来モデルでは、ドライブ部を握ったその横から光学部がドーンと出っ張っていて、片手では水平が取りにくいほど重心バランスが悪かった。だがMG-70では、光学部も含めて掌中にあるという感じのバランスになっており、手に馴染む。ただし従来機の特徴であった、光学部の回転機構はなくなっている。 光学部から順に見ていこう。レンズはフィルター経30.5mmで、F値は1.8~2.2の光学10倍ズーム。画角は35mm換算で動画48.7mm~487mm、静止画38.9mm~389mmで、初代Everioと同スペックとなっている。また今回も動画では、ワイドモード時に画角が広がる「高精細16:9ワイドTVモード」を搭載している。画角の35mm換算値は資料がないが、過去の例と比較すると、おそらくワイド端で約39mm前後ではないかと推測される。
CCDは1/3.6型の212万画素1CCDで、撮像エリアは動画では123万画素、静止画で200万画素。静止画の最大撮影サイズは、1,600×1,200ピクセルとなっている。内蔵HDDは30GBで、最高画質の動画でも約7時間の撮影が可能。また静止画では、最高画質/最大サイズで9,999枚撮影可能となっている。
前面には静止画用フラッシュと、ステレオマイクを装備。レンズ部のリングはデザイン的なもので、フォーカスリングのような機能はない。 本体右側を見てみよう。液晶モニタは2.5型、11.2万画素。液晶内側には、動画・静止画切り替えのスライドスイッチがある。以前のEverioでは、この切り替えがプッシュ式のボタンで、しかもボイスレコーダ機能まで付いていたので、普通のカメラとは若干違った操作感だったのだが、このあたりはより親しみやすいように変更したようだ。 またメニュー操作はジョイスティックではなく、十字ボタンに変更されている。前モデルでは画面と操作スイッチが同一面にあったので、上下左右の動きが直感的であった。今回は液晶モニタと90度操作方向が違うので、その点では前モデルのほうが使いやすかった。 また本機では、電源OFF時でもバッテリの残量がわかる「インフォボタン」を装備した。既にソニー製のビデオカメラではお馴染みの機能だ。
上部には、電源兼用のモードスイッチがある。前モデルのMC-500では、スイッチの並びが「切」-「録画」-「再生」となっており、撮影しようとするたびに勢い余って再生までスライドしてしまったものだが、今回は「切」-「再生」-「録画」の順になっており、オリャッとスイッチを動かせば録画で止まる。目立たない部分だが、操作性は確実に良くなっている。 背面は非常にシンプルで、バッテリと録画ボタン、端子類としてAV集合端子とUSB端子がある程度だ。左側のドライブ部はほとんど何もなく、DC端子があるだけ。また今回はグリップベルトが、完全にビデオカメラと同レベルのしっかりしたものとなっている。
底面にはSDカードスロットがあり、動画も静止画もHDDに撮っていいのだが、便宜を考えてSDカードにも撮影できるようになっている。また三脚用のネジ穴は、従来モデルのとんでもない位置ではなく、ちゃんと光軸センターに付けられている点は高く評価したい。
■ 持ちやすさが魅力の動画撮影 では実際に撮影してみよう。今回の動画撮影は、「高精細16:9ワイドTVモード」を中心に行なっている。まず画角に関してだが、ワイドモードに設定しても液晶モニタがスクイーズ表示でしか表示できないため、画角が決めにくい。この点は初代Everioからずっと変わっていないのだが、ビデオカメラとして広くアピールしたいのであれば、今回こそ改良すべきタイミングだったろう。ワイド端は4:3では十分とは言い難いが、16:9ワイドではまずまずの画角が確保できる。光学10倍はもう一歩寄り足りない感じもするが、ハンディでの使用がメインと考えれば、妥当だろう。ズームに頼るなら足を使って近くに寄れ、ということである。 UltraFineの画質は細部まで破綻が少なく、従来MPEGが苦手とされている水面などを撮っても荒れた感じは少ない。一応低画質モードもあるが、これだけ容量があれば、画質を気にしつつわざわざビットレートを落として記録する必要はないだろう。電源さえ確保すれば、従来のビデオカメラではあり得ない長時間撮影も可能だ。
前モデルのMC500では撮影モードダイヤルがあったため、細かい使い分けが可能だったのだが、本機では初代Everioと同じくマニュアルモード内の設定メニューにすべて集約されている。設定の変更が面倒な分、あまりマニュアルで撮るタイプのカメラではない。 しかし従来機のクセであった、白飛び気味のAEが改善されており、オートでも妥当な露出で撮れるようになった。そういう意味では安心できるカメラになっている。また前モデルのMC500では、録画ボタンが二段押しの二段目でしか録画がスタートしなくなってしまい、撮りっぱぐれが多かったのだが、今回は初段でスタートするように戻っている。 難点があるとすれば、AFの追従だろうか。どうも中央部のみで測距しているようで、中抜けの構図などでは後ろにフォーカスが合ってしまい、いちいちマニュアルでフォーカスを合わせる必要がある。特にテレマクロ使用時にこの傾向が顕著で、背景をぼかすなどヘタに絵作りしようと思うと、とたんに面倒なことになる。
基本的にはワイド端でわーっと撮ってしまう使い方のカメラなのだろうが、今後こういう光学系の弱点が改善できないのであれば、AFとマニュアルの切り替えボタンが必要だろうし、フォーカスリングも必要だろう。 スミアに関しては、さすがに光源入れ込みでは出てしまうものの、平均的なビデオカメラと同等には抑えれられている。またフレアはかなり抑えれられているものの、今回はレンズフードがないため、アングルによっては出るケースもある。 発色に関しては、光量があるところでは十分だが、木陰では若干浅めのところから、カラーフィルタは補色なのかもしれない。液晶の発色が若干つぶれ気味なので、撮影時には不安があるが、実際にはかなり現場に忠実な発色だ。
どうもこれだけ本体が小さいと、つい格安のMPEG-4カメラのようにナメてかかりがちなのだが、コントラストの高い被写体ではハッとするほどいい絵が撮れる。ビデオカメラとしてはもはやイロモノではなく、かなり「本物」だ。
■ アルゴリズムが異なる静止画の絵作り 次に静止画機能を試してみよう。同時期に発売されるラインナップでは、本機が最上位機種となるわけだが、その理由はHDDが最大であることももちろんだが、CCDが2Mピクセルであることが上げられる。1,600×1,200ピクセルで撮りたければ、このモデルしかないわけだ。今回の新Everioでは、新開発の画像処理エンジン「メガブリッド」を搭載し、動画と静止画を別アルゴリズムで処理している。そのためか、静止画の色味の傾向は、動画とは若干異なっている。 今回のテスト撮影では、夕刻の時間にホワイトバランスを「はれ」で固定しており、暖色傾向の色味を狙っている。ビデオの方はまさにそのような色味になっているわけだが、静止画の方は若干それよりもグリーンが強めに出ている感じがする。
輪郭のキレは全体的に眠い感じで、もう少しディテールにシャッキリ感が欲しい。もっとも画質に関しては、まだ試作機の段階であるため、製品版では改善されている可能性もある。
二段押しのシャッターボタンは、明確なクリック感が少なく、アレ、ここで二段目かな? と探っているうちにイキオイ余ってシャッターが降りてしまうということもあった。おそらく二段押しのような繊細な動作は、人差し指では可能だが、親指の感覚ではちょっと難しいのではないかと思う。 撮影時の懸念として、バッテリの保ちが大丈夫かという点を心配する方もいることだろう。確かに連続撮影時間50分、実撮影時間25分は心許ない数値ではある。だが実際に撮影してみたところ、液晶モニタを閉じれば電源OFFになる機能のおかげで、あまり意識せずに正味1時間ちょっと歩き回っての撮影ができた。
■ 多彩な再生機能 続いて再生機能を見てみよう。再生モード時に、ズームレバーをテレ側にするとサムネイル表示になるというのは、デジカメなどでよくある表示方法だが、本機では動画でもこのサムネイル表示に対応している。またさらにズームレバーをテレ側に倒すと、日付順のインデックス表示となり、すばやく目的の映像にたどり着けるように工夫されている。
最高画質でも7時間以上撮れてしまうことから、おそらく数日分のシーンが常にHDD上に残るはず、という前提で設計されている点は、なかなか親切だ。 動画の再生は十字キーのセンターボタンで、左右が早送り、上下がスキップとなっている。また音のボリュームの調整にズームレバーを使う点はユニークだが、合理的だ。また前モデル同様、簡単なプレイリスト編集機能も装備している。 一方静止画のほうでは、再生ボタンを押すことで簡単なスライドショーを表示できる。1枚ずつ表示しているときは、ズームレバーを使って拡大表示も可能だ。この拡大過程も非常に滑らかで、画面右下に小画面が表示され、場所移動もわかりやすい。またインフォボタンを押すことで、EXIFデータの一部も表示できる。前モデルに搭載されていたヒストグラム表示は、無くなったようだ。
静止画のプリント機能としては、USB直結によるダイレクトプリント機能もあるが、コンビニなどでもプリントできるよう、HDDに記録した静止画をSDカードにコピーあるいはムーブする機能もある。撮影時にSDカードは必須ではないが、あとでの利便性を考えると、本体にスロットが付いていたほうが確かに便利だ。 USBでPCに接続した場合、本機はUSB接続のマスストレージという扱いになる。ファイルはSDビデオ形式(MOD)になっており、動画ファイルは本機を接続したまま直接読み出してもいいし、PCのHDDにコピーして編集することもできる。動画編集用ツールとしては、CyberLinkのPowerDirector Expressが付属、またDVD作成ツールとしては、同じくCyberLinkのPowerProducer Goldが付属している。
同梱のアプリケーションは当然MODファイルを直接読み込めるが、拡張子をMPGに変更すれば、通常のMPEG編集ソフトでも編集できるようだ。ただし音声がドルビーデジタルなので、DVD-Video系の編集ソフトに限られるだろう。 今回は同梱のPowerDirector Expressで編集したサンプルをご覧いただこう。
■ 総論 今回のGZ-MG70は、一般のビデオカメラユーザー向けに開発したというだけあって、従来のEverioが持っていた「ちょっと変化球」ではなく、まったく普通のビデオカメラと同じ、というところを前面に出した作りとなっている。Everioの1つの特徴であった光学部回転機構がなくなったのは残念だが、十分なストレージ容量の魅力がそれを上回る。液晶モニタの扱いも普通のビデオカメラと同じなので、特に違いを意識する必要はない。動画品質ではDVカメラに勝る感じではないが、ハンドリングの良さで使用フィールドが広がることを考えれば、妥当なトレードオフだろう。 惜しむらくは、せっかくランダムアクセスメディアを採用しているのに、あまりにも操作性がテープ式のビデオカメラと同じ過ぎるところか。例えば日立のDVDCAMのように、再生と録画がモードレスのような発想もあってよかっただろう。 気になる点は、AFである。動画撮影時ではフォーカスが合うのに若干の間があるほか、テレ端での立体的な構図では、手前の被写体を無視して奥にピントが合うケースが多い。いくらビデオカメラライクとは言っても、軽快な動作を必要とする子供撮りなどは辛いかもしれない。 今回のMG70は、2Mピクセル機として手堅くまとまっている印象だが、値頃感と光学スペックでは同時発表の「GZ-MG40/50」も見逃せない。GZ-MG40はストレージ容量、CCDサイズともにMG70に劣るが、15倍光学ズームでワイド端も若干広く、F1.2と明るいレンズを採用している。どうしても静止画の2Mピクセルにこだわるなら別だが、ビデオカメラとしてはこちらのほうが安心できるかもしれない。
いずれにしてもEverioはここにきて、まじめにビデオカメラとしての道を歩み始めたようだ。今後DVDカメラとHDDカメラは、ビクターの言うようにうまくDVカメラと棲み分けていくのだろうか。筆者としては、画質ではなく利便性で、DVカメラを徐々に淘汰していくのではないかという気がしている。
□ビクターのホームページ (2005年8月24日)
[Reported by 小寺信良]
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