■ ついに東芝がムービーカメラ参入 AV機器としては、テレビやレコーダでは好調な東芝だが、デジカメではこれまであまりぱっとした成績を残していない。ビデオカメラに関しても、コンシューマではVHS-C時代にOEMで出していたぐらいだったが、一昨年あたりから何かの発表会のおりには、ムービーカメラのモックアップを展示してきた。また以前から東芝は、0.85インチという超小型のHDDを開発してきた。それを使ってどのような製品が出てくるのか注目されていたわけだが、その1つが今回の「gigashot V10」(以下V10)である。
現在V10は東芝の直販サイトでのみ販売されており、モニター価格として59,800円となっている。ちなみにモニタ用のアンケートに答えない場合は、69,800円だそうである。今年1月のCES 2005では、1.8インチHDDを搭載したモデルも発表されていたが、こちらは今のところ新しいニュースはないようだ。 HDD搭載のビデオカメラということでは、ビクターの「Everio」シリーズが先行している。また最近ではSDカード記録の本格ビデオカメラもパナソニックからリリースされ、DVDカメラはキヤノンが参入するなど、非テープ記録型ビデオカメラの開発競争は、かなり熱い戦いとなっている。 イメージングデバイスとしてはキャリアが浅い東芝だが、次世代ビデオカメラをどんな形でまとめたのだろうか。早速その実力をテストしてみよう。
■ シンプルだが質感が高いボディ ボディはCESでお目見えした状態からほぼ変わらず、縦型ビデオカメラをさらにシンプルにしたような恰好。面取りした立方体という作りだが、所々にエッジの立った部分も見受けられ、全体的にちょっと角張った印象を受ける。
上部はつや消しのメタリックシルバー、下部は写真等ではつやありのシルバーに見えるかもしれないが、実際は薄くグリーンを感じさせるパールホワイトとなっている。塗装の平滑感が非常に高く、金属感をあまり感じさせない作りは、なかなか新鮮だ。
光学部から見ていこう。レンズは光学5倍ズームレンズで、35mm換算で38mmから190mm、フィルタ径は30.5mmとなっている。ビデオカメラにしてはズーム倍率が低いのが気になるところだが、ワイド端で38mmという広さは、高く評価したい。 CCDは1/2.5型の1CCDで、総画素数は約519万画素。有効画素数は、静止画で約500万画素、動画で約250万画素(手ブレ補正OFF時)となっている。手ぶれ補正は電子式で、動画にのみに対応する。 レンズ下には静止画用フラッシュ、静止画シャッター、リモコン受光部がある。また別途レンズフードが付属しており、これを装着するとその先に52mmのフィルタなどが付けられる。ただレンズフードを装着すると、物理的にフラッシュが使えなくなってしまう点は注意が必要だ。
液晶モニタ裏面にはステレオマイクが付けられており、また液晶収納部に電源ボタンがある。また液晶の開閉と電源は連動しており、このあたりの作りは三洋Xactiの影響も感じさせる。
液晶モニタは2.0型の20.7万画素で、画角は4:3。ただし862×240画素という、若干変則的なピクセルアスペクトとなっている。液晶下部のパンチングメタル部はスピーカーだ。 操作部はすべて背面に集中している。録画ボタンとズームレバー、メニュー操作用としてジョイスティックとジョグダイヤルを備えている。その下の小さいボタンは「メニュー」、その隣は記録モードと再生モードの切り替えスイッチ。スライド式ではなく、どちらかへノックするとセンターに戻るようになっている。
本機の記録メディアは内蔵の4GB HDDと、SDカードも使用できる。ただし動画はHDD、静止画はSDという分け方はできず、両方をどちらかに撮る、という設定になる。そういう意味では、SDカードはHDDの予備であったり、プリンタなどへの便宜のために付けられているといった感じだ。
付属品も見てみよう。台形のクレードルには、電源、AV出力、USB、LAN端子があり、正面にはAC駆動するときの電源ボタンと、USB、LANの切り替えボタンがある。LANは同社のビデオレコーダ「RDシリーズ」に接続して映像を転送するためのもので、PCと接続できるわけではない。またRDシリーズは「ネットdeダビング」対応モデルに限られる。
クレードルとほぼ同等の機能を持つ、接続アダプタも付属する。LAN端子はないが、底部には三脚用の穴があるので、電源駆動時にも三脚を使うことができる。
■ エンコーダの質が高い動画撮影
では実際に撮影してみよう。本機では録画開始時に、「アルバム」というグループを作成する。つまりHDDにいくつかの、あるいは何日分かのイベントが貯まっても、アルバムという単位でグループ化できるようになっている。SDカードも同様だが、HDDのようにアルバムのテーマは選べない。 動画の画質は、HQ、SP、LPの3段階。さらにノーマルとワイドの違いが加わり、全部で5種類となっている。
ワイドとは言っても単に上下が切れるだけなので、画角としての魅力はあまりない。静止画のほうも、このモード変更に合わせて同じ画角となる。今回のサンプルは、特に断わりがない限りHQのノーマルモードで撮影している。
三脚に乗せてみて気付いたのだが、どうもネジ穴の水平がずれているようで、三脚上では水平が取れていても、映像が左上がりになる。こういう部分はビデオカメラとしては基本中の基本かと思うので、もう少し精度が欲しいところだ。 高画質でもビットレートが6Mbpsということで、動きの激しいシーンはどうなのか気になるところだ。手ぶれ補正ONで歩きながら撮影してみたところ、ブロックノイズのような破綻は見られなかった。動きの激しい部分はぼかして誤魔化しているような感じも受けるが、ビットレートの割にはかなり高画質だと言っていいだろう。 撮影時の操作もなかなか考えられており、十字キーの上下左右がショートカットキーのような形で機能が割り当てられている。各機能はパラメータがクルクル回って現われるなど、なかなか楽しげだ。なお各設定は、動画・静止画共通となる。
ポートレートモードでは、背景をぼかして被写体を浮き上がらせるわけだが、ズーム倍率が光学5倍しかない割には、結構綺麗にボケる。よく見ると菱形絞りの形が若干見えるが、イヤな感じでは目立たない。フレアはレンズフードのおかげでかなり軽減されるが、スミアは結構出やすいほうだろう。
そのほか動画撮影のユニークな機能としては、「REC PAUSE」がある。通常は録画開始から停止までで動画ファイルが1個できるわけだが、この機能を使うと停止したところでチャプタが作成され、ファイルとしては別れずに、1つのままだ。 こうして撮影しておくと、あとでDVDを作成する際には自動的にチャプタとして認識される。ただREC PAUSE機能を使っての撮影中は、シーンモードやフォーカスの種類などは変更できないので、ある程度撮影シーンは制限される。
気になったのは、フォーカスの安定性だ。動いて止まったときや、ズームで行ききったときなど、フォーカスがふらつく。また静止画を同時撮影した直後にも、フォーカスを取り直すような動作をする。三洋Xactiも同じような問題を抱えていた時期があったのだが、こういった細かい部分は、動画撮影に関するノウハウがモノを言う部分なだけに、今後の東芝の課題と言えるだろう。
■ キレのいい静止画撮影
本機最大の魅力は、動画の撮影中でも高解像度の静止画撮影を可能した点にある。動画の方は静止画撮影時にシャッターが降りるようなアニメーションが記録され、音声は継続して記録される。 この機能を持つものはこれまで三洋Xactiしかなかったが、最近になってキヤノンの「PowerShot S2 IS」や、カシオの「EXILIM EX-S500」など各社から登場してきた。ただし、静止画を撮影すると、その間はブラックアウトして、動画(音声と映像)は途切れてしまうといった制限があるものも多い。少なくとも音声が途切れずに静止画が撮れるのは、今のところ三洋と東芝しかないようだ。ちなみに、東芝の開発者によれば、三洋の持つ特許に觝触せずにこの機能を実現した、ということであった。 静止画サイズとしては5M~0.3Mの4段階があり、それぞれクオリティとしてファインとスタンダードがある。4GBのHDDに加え、いざとなればSDカードも使えるとあって、特に画質を節約するメリットはないだろう。 画像は解像感が高く、ズーム倍率が低いこともあってレンズ収差もほとんど感じない。全体的にかっちりした絵で、写真らしい味はあまりないが、非常にストレートな表現だと言える。
静止画でのISO設定は、50、100、200、400固定のほか、200までのオート、400までのオートが選択できる。50、100ぐらいまでならノイズは気にならないが、200を超えると結構厳しい。この日は晴天だったので、オートでもそんなに上がることはないだろうと思っていたら、案外200ぐらいまではすぐ上がってしまう。ISOは50か100の固定にしておいたほうがいいだろう。 手ぶれ補正をONにすると、静止画の画角も80%ほど狭くなる。静止画では手ぶれ補正は働かないのに、それでも画角が狭くなってしまうのは勿体ないような気がするが、両方で同じ画角が撮れるというメリットがある。実際に手ぶれ補正が付いてからの三洋Xactiは、静止画撮影時に補正分のピクセルまで画角が急に広がるため、違和感があった。
最近多くのビデオカメラで搭載が進む、美白モードも試してみた。ISO感度がオートで200となってしまったのでS/Nが悪いのはカンベンして貰うとして、どうもガンマカーブをいじって美白効果を出すようだ。他社のカメラでは、肌色部分を検知してディテールを下げるといった複雑なアルゴリズムを持つものもある。今後はこのあたりの機能にも注目していきたい。 本機には、カラー、コントラスト、シャープネスといった絵の質に関する設定がある。このあたりはデジカメ的な発想ではあるものの、最近ではキヤノンのビデオカメラあたりでも同様の機能を搭載しており、動画と静止画の設定機能に差がなくなってきている。
■ 多彩な再生機能 続いて再生機能を見ていこう。V10を再生モードにすると、最後に撮影された映像が表示される。ジョイスティックを左右に倒すと、撮影した画像を順に見ることができる。ズームレバーをW側に倒すと、画面がヒューッと吸い込まれてサムネイル表示になる。サムネイル画面は、ページ単位に区切られておらず、上下に長くスクロールできるようになっている。あらかじめ動画のサムネイルはファイルとして作られているようで、表示が出てくるまで待たされることはない。また画面のスクロールは、ジョグダイヤルを使って高速に行なえる。
動画のサムネイルを選択すると、サムネイルの状態でも映像が再生される。このような機能はDVDレコーダでは多く見られるが、ビデオカメラではあまり見かけたことがない。 動画再生で面白いのが、拡大再生が可能なところだ。静止画では拡大表示機能を持つものも多いが、動画では珍しい。拡大したまま再生も可能だ。 V10は、動画の編集機能も備えている。と言っても1つのカットのうち、特定ポイントの前を削除するか、後ろを削除するかだけなのだが、それでも撮影後すぐに不要部分の整理ができるのは便利だ。編集時にはジョグダイヤルでコマ送りができる。 PCに転送したファイルでDVDが作れるのはお馴染みの機能だが、V10ではDVD作成時に使用する画像のリストを本体内で作る機能を持っている。オーサリングはPCでやったほうが便利という人も多いかと思うが、とりあえず撮影後の移動中などに、使うカットだけ本体でリストアップしておけると便利なケースもあるだろう。
■ 接続は常駐アプリで手間いらず 付属のPC用ソフトも見ていこう。「東芝デバイス検出」という常駐ソフトがインストールされており、V10が接続されると「gigashot」のバックアップツールが自動的に起動する。これを使えば、PCへのファイルコピーや、CDやDVDへのファイルバックアップが一発で行なえる。また取り込み後は、同梱のACDSee for TOSHIBAという画像管理・閲覧ソフトが起動して、内容を確認することができる。
「DVD作成リストを使ってDVDビデオを作成」は、本体で作成したDVD作成用リストを使ってDVDを作成する機能だ。これを選択すると、同じく同梱のCyberLink PowerProducerが起動して、リストにあるファイルを自動転送する。 転送後は、自動的にDVDのメニューが作られる。あとはちょこっとタイトルなど手直しして次のステップに進めば、もうDVDとして書き出すことができる。 これまでこの手のムービーカメラは、いざDVD作成となるとPCソフトに丸投げみたいなところがあったが、ここまでインテグレートしてあると、手間いらずである。見栄えのいい作品にするにはそれなりに自分で手を入れる必要があるが、インデックス付きバックアップみたいな感覚でDVDビデオが使えるならば、なかなか面白い。
■ 総論 東芝製のコンシューマ用ビデオカメラとしては、ほとんど初号機といってもいいgigashot V10だが、いろいろな面から検証しても、そつなくできている。長い時間をかけて、隙がないように練られた製品という印象を持った。画質面では、最高画質でもMPEG-2で6Mbpsというところが気になっていたが、エンコーダの質でカバーしている。4GBというHDD容量も使ってみると十分で、高画質モードで1時間25分撮れれば、家族撮りなどでは十分。静止画も動画と基本的には同じ傾向で、非常にかっちりしたディテールが印象的だ。解像感を重視する人は、好きな絵だろう。 光学ズームが5倍しかないので、いわゆる運動会カメラではない。その代わりワイド端が広いので、被写体のそばに近づいて撮影しても「画面中顔だらけ」にならない。子供や恋人、ペットなどと一緒に遊びながら撮るのが楽しいカメラだ。 動画撮影中に高解像度の静止画が撮れるという機能も、しっかりと押さえている。個人的にもXactiはこの機能があるおかげで、これまでインタビューなどの取材記録用として重宝してきたが、これなら乗り換えられそうである。 唯一の不満点はバッテリで、デザイン的に拡張バッテリが付けられないのは残念だ。接続アダプタと同じスタイルの拡張バッテリを出してくれれば最高なのだが、なんとかアクセサリとして検討してくれないだろうか。 東芝では、予約台数が5日で1,000台を超すなど、好調なようである。値段の安さで売れているイメージがあるが、実際にモノとしても質感が高く、機能的にも絵的にも、多くの人が満足できるはずだ。 今後東芝がこの製品をどのように伸ばしていくのか、なかなか先が楽しみである。
□東芝のホームページ (2005年10月26日)
[Reported by 小寺信良]
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