■ 世界初ワンセグ搭載PC 今年4月1日から放送を開始する「ワンセグ」。地上デジタル放送の一部として、携帯機器向けに行なう放送サービスである。これまでは通称としてワンセグと言っていたが、どうやらこれが正式名称になったようだ。携帯機器ということで、昨今はワンセグ対応携帯電話に注目が集まっているが、ワンセグは何も「携帯電話向け」の放送ではない。ワンセグ受信専用機もアリだろうし、従来カーナビなどに組み込まれていた、アナログ放送受信機能の代わりに搭載されるというのもアリ。そしてもう一つの可能性として、小型ノートPCやPDAなどに搭載するという選択肢もある。 今回取り上げるVAIO type Tは、ソニー製ワンセグチューナを搭載することができる、現時点では唯一のノートPCだ。型番は「VGN-TX91PS」(WindowsXP Professional搭載)もしくは「VGN-TX91S」(WindowsXP Home Edition搭載)となる。 なお店頭販売モデルでは、ワンセグチューナ搭載モデルを選択することはできず、「VAIOオーナーメードモデル」のみでの販売となる。発売開始は、1月26日午後3時から。価格は、ワンセグチューナ搭載で本体価格に1万円プラスとなる。従ってベーシックモデルにワンセグを追加すると、最安で174,800円ということになる。 VAIOオーナーメードモデルのみの発売というわけは、地デジと同じくワンセグもまだ日本中で放送開始というわけではないからだ。すでに三大都市圏を始め、いくつかの地域で試験放送がスタートしているが、詳しいエリア情報は、D-paのワンセグ用Q&Aサイトで確認して欲しい。 では新VAIO type Tでのワンセグ受信を、早速試してみよう。なお今回試用しているVAIOおよびソフトウェアは試作段階のものであるため、最終的な性能および仕様とは異なる場合がある。
■ 外見上は全くわからない実装 まず最初にスペックをチェックしていこう。とはいっても、AV Watch的にノートPCの性能を云々しても仕方がないので、ここはワンセグ部分にフォーカスを当ててみる。
本体にはチューナが内蔵されているわけだが、外見からはまったくわからない。特にどこかが出っ張っているわけでもなく、アンテナがなかったら普通のtype Tとまったく見分けが付かない。 そのアンテナだが、ヒンジ部分の右側に付けられている。材質は柔らかく弾性のある樹脂製で、ある程度曲がるようになっている。これはおそらく破損防止のためだろう。 アンテナの先端には、内側に向かって小さなツメが付いている。液晶モニタを閉じたときには、このツメが引っかかって同時に倒れるようになっている。慌ててパソコンを閉じてカバンの中に突っ込んだときに、アンテナだけが立ったままでバキッといっちゃうようなことがないように、ということだろう。細かいところだが、よく工夫されている。
実際の番組受信は、「VAIOモバイルTV」というアプリケーションで行なう。起動すると、テレビ画面やチャンネル情報などが、モニタ右端に整列する。type Tはワイド液晶なので、丁度ワイドとなった余剰分に収まる恰好となる。何か別のアプリケーションを使いながら立ち上げておく、という使い方ができるだろう。バッテリでは、約4時間の視聴が可能となっている。
ワンセグ放送自体は、320×240ピクセル(4:3)、または320×180ピクセル(16:9)で放送されている。だが「VAIOモバイルTV」のテレビ画面は、240×180(4:3)または240×135(16:9)で表示される。実際の解像度より小さいのはAV的には残念だが、モニタ画面に収まりがいいサイズということでこうなったのかもしれない。 なおこのテレビ画面は、別ウィンドウとして表示させることもできる。この場合は、画面の拡大も可能だ。
■ 録画やタイムシフトも可能
次に「VAIOモバイルTV」特有の機能を調べてみよう。どのチャンネルが受信できるかは、当然地上波であるため、地域ごとに異なる。このためVAIOモバイルTVでは、最初にその地域で受信できるチャンネルリストを作成する。 「新規作成」を行なうと、自動的に放送局のスキャンを行なって、受信できるチャンネルが登録されるようだ。手もとの機材では、初期状態でNHK総合、NHK教育、日本テレビ、TBS、フジテレビがすでに登録されていた。新規作成を行なってみたところ、スキャンの途中16%のところから進まなくなった。このあたりは、当然製品版では改善されていることだろう。 アプリケーション画面内には、「テレビ」と「ビデオ」というタブがある。「テレビ」には、現在試験放送中の放送局が表示されている。下のほうにある「更新」ボタンをクリックすると、自動的に各チャンネルに切り替えて番組名などを受信させることもできる。 いわゆるEPGと同じようなことだが、本家「地デジ」のように1週間分の番組がわかるわけではない。どの程度の情報を出すかは各局の判断になるだろうが、基本的には現在放送中の番組と、その先の数番組がわかる程度になるようだ。現時点でEPG情報まで受信できたのは、NHK総合と教育、TBSの3局であった。EPG情報が受信できると、右側に[ i ]のアイコンが出る。
また「ビデオ」のタブがあることからおわかりのように、VAIOモバイルTVでは放送中の番組を録画することができる。番組のファイルは、EPGで番組情報が取得できれば番組名が表示される。
録画できる最大分数は搭載するHDDによるわけだが、ワンセグ放送の総ビットレートは約312kbpsである。1時間番組のファイルサイズは、約140MB程度にしかならないので、それほど大容量HDDでなくても相当録れるだろう。 ただ、現状のVAIOモバイルTVでは、予約録画のようなことができない。現在見ている番組が録画できるだけで、録画停止も手動だ。これはワンセグEPGがどのような形で実装されるのか、まだ見えていないからかもしれない。 また録画ファイルにはDRMがかけられており、録画した機器と録画したソフト(VAIOモバイルTV)以外では再生できない。条件としては、コピーワンスの地デジよりも厳しくなっている。携帯電話でもワンセグが録画できる機種があるが、録画できるのは内部メモリだけで、miniSDカードなど外部メディアには録画できないようになっている。このあたりの利便性も、デジタル放送のコピーワンス問題に次いで議論されるべき問題であろう。
同じ録画関連の機能としては、いわゆるタイムシフト機能がある。常にテンポラリ的に録画を行ない、必要なときに一時停止したり、遡ってもう一度見たりという機能だ。こういうのはさすがにストレージに余裕がなければできないため、携帯電話では難しい機能だろう。ただしこの機能がONの場合は、バッテリでの駆動時間が短くなる。 もう一つ駆動時間に関連する項目として、音質設定がある。「常に高音質で聞く」のチェックを外すと、高音域がカットされたような音声となるが、その分バッテリ駆動時間を若干延ばすことができる。ワンセグの音声は、高域部分を分離したAAC+SBRも利用可能ということなので、SBR部分をデコードしないということなのだろう。もちろんSBR部分もデコードすれば明瞭度は上がるわけだが、ニュースやバラエティ番組程度であれば、高音質でなくても楽しめるクオリティではある。 まだ試験放送ではあるが、TBSはデータ放送も試験しているようなので、試してみた。VAIOモバイルTVでは、データ放送は別ウィンドウが開いて表示される。メニューをクリックすると、接続画面が表示される。
画面ではパケット代がかかる場合があると表示されているが、これは携帯電話用のメッセージである。パソコンではインターネット経由で情報を取得するので、パケット代は発生しない。接続した先では、番組の告知情報などが表示されている。 この中の「TBSモバイル」をクリックすると、今度はIEが起動してTBSの携帯サイトが表示される。これが携帯電話ならば、テレビ画面が消えてこの画面が表示されるわけだが、VAIOの場合は別ウィンドウなので、放送を見ながらこれらの操作が可能だ。ここは携帯電話での表示がメインのため、画面デザインが縦に細くなっている。
■ いろいろな条件で受信 受信状態について、多少言及しておくべきだろう。VAIOモバイルTVの画面内には携帯電話と同じように、受信状態を示す5段階のアンテナ表示がある。1本では映像・音声が出ず、2本以上で出るようだ。屋外の見通しのいい場所ではどの局も受信可能だが、室内での受信はかなり厳しくなる。筆者の仕事机はマンションの4F、東向きの窓際にあるわけだが、その上に置いた状態でアンテナレベルは2~3程度。それより奥に引っ込めてしまうと、受信できなくなる。 また受信レベルは、放送局ごとに微妙に変わるようだ。チャンネルを変えたとたんに映らなく局もあるが、ちょっと設置角度を変えてやっただけで映ることもある。あるいはどうやっても室内ではまったく映らない局もある。このあたりは、設置環境と電波状況によるだろう。 以前テストした「モバHO!」では、すでに都市部でかなりの数のギャップフィラーが設置されているため、室内でも問題なく受信できた。だがワンセグの場合は、地下鉄構内など公共施設内においても、ギャップフィラーを設置するかどうかがまだ検討中。一般家庭やオフィスなどの屋内で受信できる可能性は、今後の議論の動き次第だろう。 次に車の中で受信してみた。これも室内と同じように、ダッシュボードの上など、外に近い場所に置けば受信可能。ダッシュボードに乗せたまま少し走行してみたが、全体的に受信できた時間は3割程度。 結論としてVAIOに搭載のワンセグチューナは、電波障害の多い地上を移動状態で受信する用途には向いていないようだ。むしろ公園やコンコースといった場所に座って見る、つまりパソコンとして文字をタイプしたりできるような安定した状態で受信するものと考えた方がいいかもしれない。
■ 総論 ワンセグ放送は、ハイビジョンが前提となりつつある地デジに比べれば解像度は低いが、小型アンテナで良好な受信映像を得る手段として、大きな可能性を秘めている。もっとも大きな魅力は、なんと言っても地上波と同じものが見られるということだろう。ワンセグで放送する内容に関しては、一部で独自の放送を行なうような意見もあるようだが、それは「モバイル」の意味が全然わかってない。 モバイルであるメリットとは、本来は固定しておかなければならないものが、動かせる状態で使える、というところにある。例えば携帯電話が固定電話と通話ができなかったら、これほどまでに普及しただろうか。 一方「モバHO!」に普及する兆しがなかなか見えてこないのは、コンテンツに魅力がないからである。ワンセグもこれと同様、番組の宣伝のようなものばかり流そうなどとたくらんでいるようであれば、普及しないだろう。繰り返すが、ワンセグ最大の魅力は、地上波と同じものが見られる、という点に尽きる。 その点が確保できれば、モバイルPCとワンセグというのは、非常に相性がいい。モバイルPCに固定アンテナ線を繋ぐのはあまりにも大がかりすぎるが、現状のtype Tを見れば、全く邪魔になっていない。小さなテレビ機能としては、十分に魅力的だ。 ただ今後、ワンセグをさらに活用するとしたら、やはりただテレビが見られます、だけでは済まなくなってくるだろう。地デジとサイマルならそっちの番組表が使えるじゃないか、予約録画もできるんじゃないか、といった方向に考えたくなる。 VAIO type TとVAIOモバイルTVは、PC+ワンセグの可能性を大いに感じさせてくれる。あとは本放送が始まってから、どれぐらい活用フィールドを広げられるかが勝負になるだろう。
□ソニーのホームページ (2006年1月18日)
[Reported by 小寺信良]
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