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大河原克行のデジタル家電 -最前線-
~ 北米市場に戦いの軸足移す松下、ソニー、シャープ、東芝 ~



 新年早々、松下電器、シャープが相次いでパネル生産拠点への大型投資計画を発表した。

 松下電器は、昨年9月から稼働した尼崎の第3工場の隣接地に、1,800億円の投資を行ない、第4工場を建設。これによって、フル稼働となる2008年には月産50万台の生産が可能となり、茨木第1、同第2工場、尼崎の第3工場とあわせて、42インチ換算で92万5,000台の生産規模を実現するという。

CESのサムスンブースに掲げられた生産拠点の様子。第8ラインから第10ラインまでの生産設備計画が明らかにされている

 一方、シャープも今年10月に稼働予定の液晶パネルの生産拠点である亀山第2工場に対して、当初計画に加えて2,000億円の追加投資をすると発表。生産体制を強化するとした。

 もちろん、韓国でソニーとの合弁である液晶パネルの生産拠点であるS-LCDをフル稼働させているサムスンも余念がない。

 先頃、米ラスベガスで開催されたCESのサムスンブースでは、湯井(タンジョン)のパネル写真を表示して、今後の拡張計画を示して見せ、世界的なパネル需要の増大に対応する姿勢をアピールして見せた。



■ 各社とも北米市場を重点市場に

 各社が、これだけ大画面・薄型テレビ向けパネルの生産に躍起になっているのも、日本国内での需要増大はもとより、北米市場の本格的な需要立ち上がりが見逃せない。松下電器、ソニー、シャープといった国産メーカー各社も、北米市場を今年度の重点市場に位置づけており、それを巡る戦いがいよいよ始まろうとしているのだ。

 実際、各社幹部の間からも北米市場の重要性を指摘する声が相次いでいる。北米市場を統括するソニーコーポレイトエグゼクティブEVP・小宮山英樹氏は、「いかに北米で勝つかが、ソニーのテレビ事業復活のひとつのバロメータになる」と語る。一方、米シャープ・エレクトロニクスの藤本俊彦CEOは、「シャープが北米において、いかに早期にAQUOSブランドを定着させ、流通網を確立するかが今後の事業拡大の鍵。その成果は着実に出つつある」と語る。

 ソニーはテレビ事業復活の足がかりとして、北米市場での回復を最優先課題としている。また、シャープも、今後の液晶テレビ事業の拡大は、まだブランドが確立していない北米市場のテコ入れだと言い切る。松下電器がプラズマテレビ用パネルの生産拡大を図ったのも、実は本格的な北米市場の立ち上がりを視野に入れたものだ。今年以降、北米市場の戦いが各社の争点になってくるのは間違いない。


■ 日本の市場の3倍以上の規模を誇る北米市場

 実際、北米市場の大画面・薄型テレビの立ち上がりは急激だ。

 CEAの調べによると、2005年のプラズマテレビの出荷実績は196万台、液晶テレビが402万台。日本では市場が立ち上がっていないプロジェクションテレビでは実に312万台もの市場規模がある。

 これが2006年には、プラズマテレビが291万台、液晶テレビは712万台、リアプロジェクションテレビは271万台の市場が想定されている。プラズマ、液晶の大幅な成長が見込まれているのだ。別の調査では、液晶テレビだけで1,000万台を突破するのではないかとの見方も出ているほどだ。

 この数値からも明らかなように、プラズマテレビでは日本の3倍から4倍の市場規模、液晶テレビでも1.5倍から2倍程度の市場規模が見込まれているのだ。


■ 北米市場での事業立ち上げを優先するソニー

 ソニーは、北米市場でのテレビ事業の復活を最優先している。

 ソニーブランドの圧倒的強みを発揮できるのが、日本よりも北米市場だと判断したからだ。昨年、ハワード・ストリンガー氏というウェールズ生まれの米国人がCEOに就任したことも、ソニーのブランド価値を高める結果につながっている。

 現在、ソニーは、北米の液晶テレビ市場において、30%以上のシェアを獲得している。また、リアプロジェクションテレビでは、グランドベガが好調な売れ行きを見せ、SXRDも同様に高い評価を得ている。

 「米国においては、70インチのリアプロテレビを置けるスペースが家庭内にある。CRTテレビの売れ行きが減少しても、グランドベガが、その分をカバーするといった状況が続いており、テレビ全体の売り上げは落ち込んでいない」と、米ソニーエレクトロニクス社長で、ソニーコーポレイトエグゼクティブEVP・小宮山英樹氏は語る。

BRAVIAはロケットスタートを実現。北米の液晶テレビ市場で30%のシェアを獲得した

 また、「DLP陣営が積極的にリアプロテレビの新製品を投入し、HD化を図ろうとしている。こうした動きもリアプロテレビに対する注目度を引き上げており、結果として、グランドベガに対する注目度が高まる結果になっている」と、ライバルの動きでさえも味方につけてしまう勢いだ。ピッツバーグで生産しているSXRDのリアプロテレビの生産ラインは、5ラインまで増強としており、今後の需要拡大にも対応できる環境を作り上げているという。

 一方、昨年秋に、日本に先駆けて投入した新ブランドのBRAVIAは、日本以上の認知度を得ている。発売1カ月後には、液晶テレビ市場で一気に30%のシェアを獲得。ソニーブランドの強みを印象づけた。


ソニーコーポレイトエグゼクティブEVP・小宮山英樹氏

 「ブランド力、サポート力、流通網という点では他社には負けない。これが絡み合って、北米におけるソニーの強みが発揮できる」と小宮山氏。実際、ソニーの北米におけるブランド力の高さは、日本人が想像する以上のものだ。

 例えば、ソニーが得意とするカムコーダー市場においては、北米市場で50%のシェアを獲得。さらにDVDカムコーダについては、75%のシェアを獲得しているという圧倒的な強さを見せているほどだ。

 BRAVIAも同様にロケットスタートを切った製品といえ、米国での成功を実績として、日本でのマーケティングが「逆輸入」の形で展開されることになりそうだ。

 ソニーは、CESで82インチの液晶テレビを発表したが、「プラズマテレビの領域まで液晶テレビでカバーできるようになってきた。液晶テレビと、既存のグランドベガとの複数の選択肢を用意することで、大画面の領域をカバーできる」という。

 液晶テレビとリアプロジェクションテレビを軸とした薄型テレビの勝ちパターンを北米市場で構築しつつある。


■ プラズマへの集中戦略で50%以上のシェアを取る松下

 一方、松下電器も北米市場の展開において鼻息が荒い。プラズマテレビでは昨年秋には、瞬間風速ながらも50%のシェアを獲得。今年は年間を通じて、50%のシェア獲得に意欲を見せる。

 松下電器は、2005年は、北米におけるVIERAブランド定着に集中的な投資をした。昨年初めに米パナソニックコーポレーションオブノースアメリカ・山田喜彦CEOにインタビューした際、「とにかくすべての投資をプラズマテレビに集中させる。それ以外の製品は後回しでもいいというほどに一点集中させる考えだ」と語っていたが、その言葉通り、「プラズマ、プラズマ、プラズマ」といった号令そのままに、プラズマテレビへの集中展開を加速させた。


米パナソニックコーポレーションオブノースアメリカ・山田喜彦CEO

 これは、かつて山田CEOが国内で担当していたレッツノートのモバイル集中戦略と同様の一点集中戦略を、北米市場向けに展開したものだといっていい。レッツノートが当時の山田事業部長の号令のもと、ビジネスモバイル領域に特化した製品戦略に展開。それがいまの成功につながっているのは周知の通りだ。

 北米でのプラズマテレビ特化戦略はまんまと成功し、2004年にはわずか20%だったシェアが、2005年春には30%に拡大。さらに、6月以降は40%台にシェアが増加し、先にも触れたように、年末には50%を突破するところにまで到達した。「北米で売れているプラデマテレビの2台に1台はパナソニックという市場を作り上げた」と山田CEOは胸を張る。

 黒の色彩表現や応答速度の高さといったプラズマの特性が米国人に受けたほか、積極的な低価格戦略で、液晶陣営や、他のプラズマテレビメーカーとの差を見せつけたのが好調の要因だ。

 「とくに2005年9月以降の価格戦略は異常ともいえるものだった」と対抗メーカーがいうように、松下電器のプラズマテレビは、日本の実売価格に比べて15%から20%程度安い価格で販売されていた。なかには、SD対応機種では、42インチでも2,000ドルを切る製品が用意されていたというから驚きだ。

 その松下電器が、2006年の事業戦略として掲げたのが、HD(ハイディフィニション)である。そのための仕掛けも、昨年後半からすでに開始している。テレビCMなどでは、プラズマテレビの良さを訴えるのではなく、HDそのものの良さを訴える広告を開始。HDそのものの普及を狙った戦略に打って出た。


松下が北米市場向けに6,000ドルで投入したHDカメラ。HD普及の戦略的製品だ

 さらに、これまでは4万ドル以上の価格設定だったために、ハリウッドや大手放送局しか導入できなかったプロ用HD対応カメラのP2シリーズにおいて、6,000ドルという破格ともいえる廉価モデルを追加。これにより、地方の放送局や番組制作会社も導入しやすい環境を作り上げた。これによって、全米規模で一気にHDコンテンツを増やす考えだ。

 この低価格プロ用カメラ戦略によって、全米にHDコンテンツを一気に増加させることで、HDへのシフトを加速。それをプラズマテレビの販売に直結させる。「すでに2005年末のプラズマテレビのHD比率は75%に達している。もうすぐ、誰でもHDを見られるという環境が確立することになる。HDコンテンツが全米に一気に広がることで、当然、プラズマテレビにおけるHD化の比率が高まることになる。プラズマテレビにとって追い風となるのは間違いない」とする。

 CESで発表した103インチプラズマテレビも早ければ今年夏過ぎには市場投入する予定だという。

 「2006年はプラズマテレビの販売台数は前年比3倍を目指す。世界GDPに占める米国の割合は30%強であるのに対して、松下電器の北米の売上げ比率は12%。まだまだ拡大の余地はある」とプラズマテレビ事業のさらなる拡大に意欲を見せている。

 2006年はデジルカメラのLUMIXも拡販も重点課題のひとつで、プラズマテレビやカムコーダとの連動提案も積極化させる考えだ。


■ 北米でのブランド確立が早期の課題となるシャープ

 シャープは、北米市場での認知拡大が今年の大きな課題だ。日本での成功を、そのまま世界での成功へと直結させるには、北米での成功が必須条件となるからだ。

 シャープは、2004年から、北米におけるブランドキャンペーンを展開してきた。放送や出版、オンラインなどでの広告展開のほか、スポーツイベントなどにもAQUOSブランドを積極的に露出して認知度を高める努力をしてきた。そして、NBCとの連携によるキャンペーンによってロックフェラープラザに45インチの液晶AQUOSを設置するなど、放送局と手を組んだキャンペーンにも取り組んできた。この提携の一環として、2006年からは、タイムズスクエアに10年契約でAQUOSの看板を出すことになる。

 「シャープおよびAQUOSの認知度は徐々に高まりつつある。2005年のブランド戦略には一応の成果があったと判断している」とシャープ・エレクトロニクスの藤本俊彦CEOは語る。

 シャープは、米国におけるAQUOSブランドのイメージを、日本同様に高級ブランドとして定着させたいと考えている。そのため、高級品を流通するルートを中心に展開。一般の家電店ルートの開拓は後回しとなっている。

 対抗メーカーは、「シャープの米国における課題は、流通網を確立できていないこと。そして、サポート体制などにもまだ不備な点がある」と指摘する。流通網、サポート網という点では、米国で長年の実績があるソニー、パナソニックの方に一日の長があるというわけだ。

米シャープ・エレクトロニクスの藤本俊彦CEO シャープは、北米でいかにAQUOSブランドを定着させられるかが鍵になる

 シャープは、2005年、大手流通のベストバイとの間で価格設定を巡る意見の対立もあって、現在でもベストバイには製品が置かれていないという状況にある。低価格でシャープのAQUOSを流通したいとするベストバイに対して、高級ブランドとしての定着を図りたいシャープとの思惑の違いが発端だ。

 だが、ベストバイと対立してでも、高級ブランドとしての展開を譲らなかったシャープには、それだけの強い意志を感じる。いよいよ本格的に薄型・大画面テレビ市場が立ち上がる時期を迎えているだけに、シャープが流通網確立、ブランド力確立のために残された時間は少ない。今年がブランド確立に向けた正念場の1年だといっていいだろう。


■ 北米市場で前年比2倍の成長を見込む東芝

 一方、薄型大画面テレビで出遅れていた東芝も巻き返しに余念がない。同社は、今回のCESにおいて、北米の薄型大画面テレビで急成長していることを示して見せ、この分野で松下、ソニー、シャープに追随していることを強調した。

 東芝の発表によると、リアプロジェクションテレビでは、北米市場全体が前年割れの12.7%減であるのに対して、東芝は14.2%増の伸びを見せたとしたほか、プラズマテレビでも業界全体が102.8%増の伸びであるのに対し217.6%増、液晶テレビは122.3%増に対して283.6%増と、いずれも業界全体の2倍以上の成長を遂げている。


東芝アメリカ家電社の松本義広社長

 そして、「今年も北米市場において、引き続き業界全体の2倍の成長を目指し、シェアも2倍に拡大する」(東芝アメリカ家電社の松本義広社長)というように、テレビ事業拡大に意欲を見せる。

 同社では、今年3月を目標に、下位モデルで499.99ドルという戦略的価格設定のHD DVDプレーヤーを投入する計画で、これらの動きとの相乗効果も見逃せない。さらに、今年は、SEDの投入も予定されており、CESの東芝ブースでも、開場直後から閉館時間まで、SEDをひと目見ようと列ができていた。

 HD DVDとSEDという同社の戦略的製品が相次いで投入される年だけに、それと連動した北米市場におけるテレビ事業の躍進が注目されるところだ。

東芝は、CESにおいてSEDを公開。36インチの試作品を3モデル用意して、特製ブース内でデモストレーションを行なった

 北米市場は、薄型・大画面テレビ市場にとって、見逃すことができない市場となっている。いや、むしろ、北米市場でいかに成功するかが、今後の各社の薄型・大画面テレビ事業の行方を大きく左右することになるだろう。

 北米市場の国産メーカー各社のテレビ事業は、今後熾烈化するなかで、果たしてどんな動きを見せるのか。しばらくは目が離せない。


□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□松下電器のホームページ
http://panasonic.co.jp/
□シャープのホームページ
http://www.sharp.co.jp/
□東芝のホームページ
http://www.toshiba.co.jp/
□関連記事
【1月11日】シャープ、2006年度は連結売上3兆円が目標
-亀山第1工場へ150億投資/第2の2期展開も前倒し
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060111/sharp.htm
【1月10日】松下と東レ、世界最大のPDP生産第4工場を建設
-8面取りで年産600万台。5工場で1,110万台体制へ
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060110/pana.htm

(2006年1月26日)


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき) 
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を勤め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch(以上、インプレス)、nikkeibp.jp(日経BP社)、PCfan(以上、毎日コミュニケーションズ)、月刊宝島、ウルトラONE(以上、宝島社)、月刊アスキー(アスキー)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)など。

[Reported by 大河原克行]


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