民生向けフルHDプロジェクタ製品を他社に先駆けて世に送り出したのはソニーと日本ビクターだった。ソニーは「QUALIA 004」(Q004-R1)を、日本ビクターは「DLA-HD2K」を発売した。 それから1年ほどが過ぎ、この2社は第2世代フルHDプロジェクタともいうべき製品、ソニーは「VPL-VW100」を、日本ビクターは「DLA-HD11K/12K」の投入を開始した。今回は、約1年ぶりにフルモデルチェンジしたフルHDのD-ILAプロジェクタ「DLA-HD11K/12K」の実力を検証した。
■ 設置性チェック
今回新発売となったフルHD対応D-ILAプロジェクタには「DLA-HD11K(以下HD11K)」と「DLA-HD12K(同HD12K)」の2タイプが存在する。映像表示を行なうプロジェクションヘッド部は共通で、これには「DLA-HD10K」という型番が与えられている。 HD11KとHD12Kの違いはセット同梱されるデジタルビデオプロセッサ(DVP)の部分で、ABT製のAVハブプロセッサを同梱するセットがDLA-HD11K(1,695,750円)、ファロージャ製のデジタルビデオプロセッサのセットがDLA-HD12K(2,362,500円)となっている。 それぞれには長焦点距離ズームレンズを組み合わせたバリエーションもあり、価格は変わらないがこの特殊モデルには型番末尾に"L"が付けられる。 いずれにせよ、設置は、プロジェクションヘッド部と各AV機器との接続や映像処理を司るDVP部と別々行なうことになる。
こうしたセパレートシステムは、プロジェクタ(プロジェクションヘッド)部に配線が集中することを回避することができること、そしてプロジェクタ本体サイズに制限されない多用な接続性を提供できることなどのメリットがある。日本ビクターは「この構成はDVP部の交換によるシステム・アップグレードも可能にする」という説明をしたこともあったが、投射系に最適化した映像処理系を組み合わせなければあまり意味がないので、「アップグレード可能」というのも現実味は少ない。 DLA-HD11Kセットには5mのHDMI-DVIケーブルが、DLA-HD12Kセットには5mのDVIケーブルが付属する。天吊り設置をしてその直下付近のAVラックなどにDVPを置くことになるが、1つ問題もある。 詳しくは後述するが、DVPの操作にはDVP専用リモコンを用いることになり、このリモコン操作はDVPに向かって行なわなければならない。そのため視聴位置からDVPが見えている位置に設置しなければならない。DVPを正面スクリーン付近、プロジェクションヘッドを部屋の後部に天吊り設置をするとなると、付属の5mケーブルではまったく足りない。なお、そうした設置ケースに対応するために10m/20m/30mの光デジタルケーブルが純正オプションとして設定されている。 天吊り金具は天井の高さに応じて大中小の3タイプあり、家庭向きの小タイプとして「EF-HT10KS」が用意されている。しかし、189,000円というかなり高い価格設定となっている。
プロジェクションヘッド部の大きさは先代DLA-HD2Kの298×360×134mm(幅×奥行き×高さ)から各段に大きくなり、DLA-HD10Kでは513×558.5×193.7mm(幅×奥行き×高さ)と設置占有面積としては2.6倍となった。重さもDLA-HD2Kの6.2kgに対して、DLA-HD10Kは17kgという3倍近く重くなった。 台置き設置の場合は、台の奥行きが50cm以上必要になり、なおかつ重量も21インチのブラウン管テレビ並にあるので、専用の台を用意する必要があるだろう。試用時に棚板の奥行き約40cm、厚み約15mmのマルチラックの天板に載せてみたが、なんとか設置できたものの、棚板が若干しなり気味で、長期運用は難しそうだ。本棚などの天板に載せた疑似天吊り設置はかなり無理があると思った方がいい。 本体はかなり大きく重くはなったが先代の無骨な感じから比較すると、デザイン的にはだいぶ流麗で美しくなった。ボディはアルミ押し出し成形によるものでデータプロジェクタ流用筐体のDLA-HD2Kとは違って高級感がある。 大きくなった筐体は高級感の演出だけでなく、機能面にもよい影響を及ぼしている。それは圧倒的な静粛性だ。騒音レベルは公称27dBに抑えられており、設置場所から1mも離れると動作音はほとんど聞こえなくなる。筐体を大型化することで冷却ファンの大型低速回転化を実現、エアーフローの密閉の工夫が行なわれたのだ。
投射レンズは前述したように2バリエーションが設定されている。1つは投射距離2~10mを想定した一般家庭向けの1.4の倍短焦点タイプ(1.5:1~2.1:1)で、もう一つは、やや大きめの部屋や小中規模ホールへの導入を想定した投射距離2.5~10mの1.9倍の長焦点タイプ(2.0:1~3.8:1)だ。 100インチ(16:9)の最短投射距離は短焦点タイプで3.29m、長焦点タイプで4.34mとなっている。特に短焦点タイプはエントリークラスの普及機並の投射スペックとなっており、8畳クラスの部屋でも比較的自由度の高い設置ポジションにて100インチの投影環境が得られるだろう。 フォーカス調整、ズーム調整は電動リモコン式。これもDLA-HD2Kから改善された部分だ。スクリーンに密着しながらフォーカス調整が行なえる電動リモコンフォーカス調整機能は、画質マニアにとっては待望の機能だと言える。 DLA-HD2Kになかったレンズシフト機能もDLA-HD10Kには搭載されている。投射レンズの重量に配慮し、確実にシフト位置を保持するために、シフト量はネジで固定する方式を採用している。ボディ上面をよく見ると小さな窪みがあるが、それがシフト量調整用のマイナス平ネジの場所だ。 シフト範囲は上下方向に0%~60%。左右シフトには対応しない。具体的には画面中心位置に光軸が相対するのを0%とし、光軸よりも画面の縦辺の10%分上に煽り気味に投射できるのが60%に対応する。普及機ほどのシフト量ではないが、光軸の下側にも映像が広がるようになったことで設置自由度は各段に広がった。 光源ランプはDLA-HD2Kと同系の超高圧水銀系ランプ(NUPランプ)を採用する。ランプのワット数は先代DLA-HD2Kの250Wに対し、DLA-HD10Kでは200Wに引き下げられている。とはいえ、輝度スペックはDLA-HD2Kの500ルーメンに対し、DLA-HD10Kでは600ルーメンに向上した。これは平行光源を取りやすく最適化した新発光システムと、D-ILAパネルへの導光・光学系に改良を加えたことによる相乗効果によるものだという。 超高圧水銀系ランプは長寿命&低価格が利点なワケだが、ワット数が下がったことで値段も下がり、DLA-HD10K用交換ランプ「BHL5008-S」は26,250円。これはDLA-HD2Kの42,000円よりも大幅に安い。 競合のソニーVPL-VW100が400Wキセノンランプの交換ランプが103,950円であることを考えるとDLA-HD10Kのランニングコストの安さは圧倒的だ。
■ 接続性チェック
プロジェクションヘッド部にある映像入力端子はDVPとの接続に用いるDVI-D端子が1系統あるのみ。 この他、電動スクリーンなどと連動するために用いるトリガ端子(稼働中にDC12V/100mAを出力する)、PCなどと接続して遠隔操作をするために用いるRS-232C端子が用意されている。多様なAV機器との接続には付属するDVPユニットを介することになる。 ・DLA-HD12Kのプロセッサ部 DLA-HD12Kに同梱するファロージャ製デジタルビデオプロセッサLD-HD2KBは先代DLA-HD2Kのものからは一世代新しいものに変わっている。先代のDVPはファロージャ「DVP-1010」がベースとなっていたが、DLA-HD2Kでは最新のファロージャ「DVP-1080」がベースとなった。
立派な接続端子パネルを持ってはいるが、端子のラインナップは意外にシンプルだ。 レガシーなアナログビデオ入力はSビデオ端子、コンポジットビデオ端子がそれぞれ1系統ずつしかない。また、コンポジットビデオ端子はBNC端子となっているが、RCA端子が変換コネクタ付属しない。 コンポーネントビデオ系の入力も1系統のみ。こちらも端子形状はBNC端子となっている。D端子は実装されていない。D端子機器との接続には市販のコンポーネントビデオ-D端子ケーブルやアダプタを利用する必要がある。 デジタルビデオ入力としてはDVI-I端子を装備、HDCP対応のDVI出力AV機器との接続が可能となっている。HDMI端子は実装されていないが、5mのDVI-HDMI変換ケーブルが付属しているので、HDMI出力対応機器との接続にはこれを用いればよい。もちろん市販のDVI-HDMIアダプタも利用可能だ。 この他、D-Sub15ピンのアナログRGB入力端子が実装されているが、DLA-HD12Kシステムとしては投射できない。PC入力を行ないたい場合は前述のDVI-I入力を利用するしかない。なお、出力用のDVI-I端子はプロジェクションヘッド部との接続に用いる。 ・DLA-HD11Kのプロセッサ部 一方、DLA-HD11Kに同梱するABT製DVPは「AVハブプロセッサ」という名前が付けられており、その「ハブ」という名の通り、かなり贅沢な接続性を有している。
レガシーなアナログビデオ入力端子としては、コンポジットビデオ端子、Sビデオ端子をそれぞれ2系統ずつ実装。なお、コンポジットビデオ端子は一般的なRCAピン端子タイプを採用する。コンポーネントビデオ入力はRCAピン端子タイプを2系統装備するが、こちらもD端子はない。 PC入力にも対応するアナログRGB入力はRGB+HVのBNC端子にて1系統を実装。こちらは設定の切り替えで追加のコンポーネントビデオ入力としても利用可能となっている。 デジタルビデオ入力としてはHDMI端子を4系統も実装する。これはDLA-HD11Kの接続性、最大の特長と言ってもいいだろう。 出力用のHDMI端子が1系統あるが、こちらはセットに付属するHDMI-DVIケーブルを用いてプロジェクションヘッドと接続するために用いる。 ユニークなことに、AVハブプロセッサは音声入力のパッチベイ機能も有しており、角形光デジタル音声入力端子を2系統、同軸デジタル音声入力端子を2系統、さらに1系統のアナログのステレオ音声入力端子までを備えている。メニューの「Audio Input」を設定することで、出力映像とは独立した、任意の入力音声を音声出力端子より出力することができる。たとえば表示映像とは全く別の音声を鳴らす、といった特殊再生もできる。 このようにAVハブプロセッサの接続性はかなり強力だ。スクリーンのある正面側にAVアンプを設置し、プロジェクタヘッド側にこのAVハブプロセッサを設置し、なおかつその付近に各種AV機器類を設置してるケースでは、AVアンプまでの中継セレクタ的にこのAVハブプロセッサを活用することもできるだろう。
■ 操作性チェック
電源投入からD-ILAのロゴが表示されるまでが約16.0秒(実測)、HDMI入力の映像が表示されるまでが約21.0秒(実測)であった。先代DLA-HD2Kとほぼ同等の起動時間であり、このクラスだと早くも遅くもない標準的な速度といったところだ。 本体筐体はHD2Kから大幅に変更されたが、残念ながらDLA-HD2K同様、今回も付属リモコンは2つ。リモコンのうち1つは、プロジェクションヘッド制御用で、もう1つは付属するデジタルビデオプロセッサ用のものだ。 プロジェクションヘッド用のリモコンはほぼDLA-HD2Kのものと同じデザインのもの。小振りで持ちやすく、ボタン配置もシンプルで分かりやすいのだが、これ1つだけではDLA-HD11K/12Kシステムのごく一部の機能にしかアクセスできない。 最上部にあるのは電源ボタン。押し間違えないように[ON]と[OFF]の2つのボタンが設けられており、それぞれ1秒以上の長押しで機能する仕組みとなっている。 その下にある[CHP]と[TEST]のボタンはテスト映像を映し出すためのもの。[CHP]はクロスハッチ、[TEST]はカラーパターン等を直接表示することができる。 [CHP]と[TEST]の間に挟まれるようにしてある[LIGHT]はリモコンの全ボタンにオレンジのLEDライトを点灯するボタン。[LIGHT]ボタン自体は蓄光式で暗闇でも鈍く輝くので、リモコンの存在を示す目印にもなってくれる。 その下にあるのはメニューを操作するための[MENU]ボタンと十字ボタンなど。[PRESET]はカーソルで選択した調整し済みパラメータを工場出荷状態に戻すときに利用する。[HIDE]は画面を表示一時的に消し去る役割を果たす。 ZOOMの[T][W]ボタンはズーム倍率を変更するもの、FOCUSの[+][-]ボタンはフォーカスを調整するためのものだ。実質的には、この4つのボタンがDLA-HD2Kのリモコンに新規追加されたものになる。 プロジェクションヘッド側のメニュー構成は基本的にDLA-HD2Kと同じ。 主たる画質調整はDVP側で行なうことになるので、基本的にはプロジェクションヘッド側の画調設定は工場出荷状態でいいはずなのだが、さらにこだわる上級者のために、ガンマカーブの調整、RGBゲイン単位で行なうことができるホワイトバランス(色温度)の調整などが提供されている。
・DLA-HD12Kの操作性
続いてDLA-HD12Kのファロージャ製デジタルビデオプロセッサのリモコンを見ていくことにしよう。 こちらはDLA-HD2Kのデジタルビデオプロセッサのリモコンと寸分違わぬ全く同じものとなっている。 入力切り替えは各入力ソースに対応した個別ボタンが用意されており、希望の入力に一発で切り替えられる。切り替え所要時間はSビデオ→HDMIで約4.0秒(実測)、Sビデオ→コンポーネントビデオで約4.5秒(実測)と遅め。 リモコン下部には輝度[BRIGHTNESS]、色の濃さ[COLOR]、色合い[TNT]、コントラスト[CONTRAST]、シャープネス[DETAIL]という基本画調パラメータの調整用の専用ボタンが配してある。メニューを開くことなく直接調整できるのは調整マニアとしてはうれしい操作系だ。 その下にある[ANAMORPHIC](16:9ワイド)、[4:3](従来のテレビ画面)、[LETTERBOX](4:3映像の中にはめ込んだワイド映像を画面一杯に表示する)の3つのボタンはアスペクト比の切り替え用。ファロージャ製デジタルビデオプロセッサではアスペクト比切り替え操作もその切り替えるアスペクトモードに対応した個別ボタンを用意しているのだ。切り替え所要時間はANAMORPHIC→4:3で約2.2秒(実測)、4:3→LETTERBOXでは約2.5秒(実測)で、若干もたつく感じがある。 ここで調整した画調は1~8の8つのユーザーメモリに記録させておくことが可能。記録の方法は簡単で、[STORE]ボタンを押してそのあと[1]~[8]の数字キーを押すだけ。呼び出し方も同様で[PROFILE]ボタンを押してそのあと[1]~[8]のメモリ番号を入力すればいい。ユーザーメモリはシステム全体で8個で、その時点で選択していた入力ソースの種類も記録してしまう点に注意したい。すなわち、たとえばHDMI映像表示中に画調設定を行ないユーザーメモリに登録し、これをSビデオ視聴中に選択したとしても、入力がプロファイルに関連づけられたHDMI入力に切り替わってしまうのだ。
・DLA-HD11Kの操作性
今度はDLA-HD11KのABT製AVハブユニットの操作性を見てみよう。 こちらのリモコン全ボタンが蓄光式で鈍く発光する。ただし、ボタンに機能名がプリントされていないので暗闇では光るボタンが見えるだけで、どのボタンが何の機能操作に対応するのか分かりづらく、暗闇での操作はやりづらい。 リモコン最下段には各入力に個別に対応したボタンが用意されているが、入力系統が多いだけにそのボタンの数は圧倒的。4系統あるHDMI入力も順送りでなく、[HDMI1]~[HDMI4]という4つのボタンで直接切り替えられる。さすが「ハブ」のリモコン、といったところ。 入力切り替え所要時間はSビデオ→コンポーネントで実測約4.5秒、コンポーネントビデオ→HDMIで実測約3.0秒とあまり早くない。 アスペクト比切り替えは少々ユニークというか、マニアックな操作系となっている。[16:9]、[4:3]という2つのボタンで基本となるアスペクト比が切り替えられ、その後さらに[ASPECT]ボタンを押すことで、映像中のどの部分を切り出して全画面表示するかの選択が行なえる。 切り出す領域として1.33:1(4:3)、1.55:1(14:9)、1.66:1(15:9)、1.78:1(16:9)、1.85:1、2.35:1、User設定が用意されており、たとえば[4:3]を基本アスペクトとして選択して、そのあと[ASPECT]で1.78:1(16:9)を選択すれば、4:3映像中の中央16:9部分を切り出して全画面表示する(いわゆるレターボックス再生)。映像のどの部分をどういうアスペクト比で切り出すかはユーザー設定が可能で、[ZOOM]ボタンでどのくらい拡大するかを設定し、[PAN]ボタンで位置を設定、[BORDER]ボタンで表示不要部分のマスク領域の設定が行なえる。 作り込んだオリジナルアスペクト設定はアスペクトモード専用のユーザーメモリ1~4に記録ができ、作り込んだアスペクトモードの呼び出しは[INPUT ASPECT RATIO]ボタンで順送り式に行なうことができる。このアスペクトモード・メモリにはプリセットとして「Letterbox」等が既に用意されているので、前述したような二段階操作をしなくてもよく活用されるアスペクトモードは簡単に行なえる。なお、アスペクト比切り替え所要時間は1秒以内で比較的高速であった。 リモコン上部左端には使用頻度の高い設定メニューを直接呼び出せる、[OUTPUT SETUP]、[CONFIG]、[PICTURE CONTROL]、[INPUT ADJUST]といった4つのボタンが用意されており、普段の活用はこれらを使えば事足りる。 画調設定の[PICTURE CONTROL]で設定できるのは輝度「BRIGHTNESS」、コントラスト「CONTRAST」、色の濃さ「SATURATION」、色合い「HUE」といった基本画調パラメータに加え、「Y/C Delay」、「CUE-Correction」といったものも用意されている。Y/C DelayはSビデオの輝度信号と色信号の遅延を補正するためのもの、CUE CorrectionはMPEG映像のデコードエラー(CUE:クロマ・アップサンプリング・エラー)の低減にまつわる設定。 なお、意外なことだがこの画調パラメータの設定は機器全体への設定となっており、ユーザーメモリへの記録といった機能が存在しない。([OUTPUT SETUP]で設定できる、出力信号タイプの組み合わせ設定には4つのユーザーメモリが用意されているのだが、ここには画調設定は記録されない)。ただし、画調設定は各入力ごとの管理にはなっている。
■ 画質チェック
映像パネルには0.82インチ、フルHD解像度の1,920×1,080ドットのD-ILAデバイスを採用。D-ILA(Direct drive Image Light Amplifier)は日本ビクター独自の反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の名称。解像度もパネルサイズも同じであるため、D-ILAパネルの世代はDLA-HD2Kと同じだ。 さすがはD-ILA、画素と画素の隙間は非常に狭く、100インチ画面であっても、少しスクリーンから離れてしまうとほとんど画素格子間の隙間が分からない。この高密度な画素描写力は、透過型液晶パネルを採用した普及機とは確かに一線を画している。 公称光出力は先代DLA-HD2Kから100ルーメンアップの600ルーメンを達成。最近の液晶普及機と比較するとこれでもやや控えめだが、蛍光灯照明下でも映像の内容は分かるほど明るい。遮光カーテンを引いて薄暗くする程度で十分映像鑑賞は楽しめる。 透過型液晶の普及機は150W程度の超高圧水銀系ランプで1,000ルーメンを達成しているのに、200Wの超高圧水銀系ランプで600ルーメンは暗すぎると思う人もいるかも知れない。これは本来は赤、緑、青の光の三原色のパワースペクトルに偏りがある超高圧水銀系ランプから、最適なバランスの三原色を取り出すためにフィルタリングを行なっているためだ。この光源色補正光学系システムには「Optimum Color Illumination」(オプティマム・カラー・イルミネーション)という名称が付けられており、光源ランプ直後に組み込まれている。
確かに最大輝度には多少の犠牲があるのだが、フィルタリングの効果は色再現性に現れている。赤、緑、青の純色が非常にパワーがあり、また、白色も本当に白く見える。赤はキセノン系ランプのダイナミックレンジには及ばない感じもあるが、約1/4の価格の水銀系ランプで、これだけパワフルな赤が出せるのか、という感動はある。 この最適化された原色の恩恵は肌色の再現性にも与えられているようで、非常にリアルな肌色が出力できていた。変に赤みを付加した人為的な感じもなく、ランプ特性に振られたクセもなく、まさに「ナチュラルな肌色」表現が実現できているのだ。 色深度も非常に深い。赤、緑、青の原色グラデーションを表示しても階段状の二次輪郭はほとんど感じられないし、無段階の白黒グラデーションからは、DLP系とは違う、液晶系らしい柔らかくなだらかな表現力が実感できる。 この色深度性能から生まれる色ディテールの表現力は、投射系映像機器の中ではトップレベルといってもいいほど。人物アップの人肌表現では細かな皮膚の凹凸の質感や透明感などまでが感じ取れるほどで、見慣れた映像ソースを見た時には映像信号にここまでの色ディテールがあったのかと驚いたほど。 公称コントラストは先代DLA-HD2Kの2,000:1を上回る2,500:1を達成。これは動的ランプ制御や動的絞り機構を組み合わせずに出力されるネイティブなコントラスト値だ。 最大輝度が600ルーメン程度でこのコントラスト値はすさまじいとしかいいようがないわけであるが、この秘密は徹底した迷光低減技術にある。1つは画素間の隙間に入り込んだ光が拡散して迷光となってしまう現象を低減する画素サイズ以下のナノレベルの遮光構造で、もう一つはズーム倍率に連動した最適な四角形の絞りを作り出す投射系レベルの迷光低減機構だ。 この効果は"黒色の黒さ"に現れる。DLA-HD10Kの映像はプロジェクタの映像としては黒が破格に黒い。階調表現においても黒が本当に締まった黒として見えるので、映像表現のダイナミックレンジの高さが実感できるとともに、映像の見え方として鮮烈な立体感が現れるてくるのだ。 DLA-HD10Kには、映像の平均輝度に連動した動的絞り機構や動的ランプ駆動機構を持たないが、確かに、このレベルのコントラスト性能と階調表現能力があれば不要と判断したのも十分納得が行く。 600ルーメンという輝度は、動的な絞りや調光機構を持たないDLA-HD10Kのようなシステムにおいては、暗さと明るさを小細工無しに最大限に両立するための最適解だったというふうにも思えてくる。人間の目は、明るいものを見ると瞳を絞ってしまい、暗さに鈍感になる傾向があるが、DLA-HD10Kの映像は瞳の絞りの開閉を最低限のまま、常に最大限の明るさと暗さが感じられ、脳内が常にハイダイナミックレンジに満たされているという感覚がある。
■ まとめ まず、悩ましいのはDLA-HD11KとDLA-HD12K、どちらを購入すればいいのか? ということ。プロジェクタヘッドは同じなので、事実上、付属するDVPのどっちがお好みかで自ずと決まってくる。 HDMI入力が4系統、他のすべてが2系統以上の入力に対応など、接続性は圧倒的にABT製AVハブプロセッサの方が優れている。価格もこちらの方が安いことから、お買い得感はDLA-HD12Kよりはある。 意外にも画質に関しては「両社優劣付け難し」で拮抗している。ファロージャの方が若干鮮明度が高い印象もあるが、ABTのは信号に忠実な味わいを感じる。 価格差約60万円の価値がファロージャにあるかというのが最終的な判断の決め手になると思う。さほど裕福でない筆者の場合、間違いなくABTモデルのDLA-HD11Kを選択するだろう。 さて、筐体の新デザイン、騒音低下、設置性の向上、輝度スペックアップなどなど、DLA-HD2Kに対して大幅な改善がなされたDLA-HD11K/12Kだが、気になる点も多い。画質面はパーフェクトに近い完成度なのは認めるのだが、約170万円、約236万円の“民生向け”商品として、辛い部分がまだまだ残されている。 まず、1つがリモコン。DVP用1個、プロジェクションヘッド用1個というのは、メーカーの都合としか思えない。常設完了後は電源のオン/オフだけにプロジェクションヘッド用リモコンを使うことになるのはやはり不自然だ。プロジェクションヘッドと付属のDVPとでメーカーが違うのでリモコンの操作系にも統一性がなく、またDVP側のリモコンに「本機ではご使用になれません」というボタンが数多く存在するのもやるせない気持ちになる。 またメニュー表記が日本語にも対応していないので初心者にとっては、その項目の読み解きからして敷居が高いだろう。ここは200万円クラスの商品のオーナーシップを掻きたてる意味でも液晶付きの学習リモコンなどを付けて、DVPとプロジェクションヘッドのメニューは統合すべきだったと思う。 ぜひとも次期モデルはGENESSAなどの日本ビクターが誇る自社映像エンジン技術を統合するなどして、「日本ビクター純正」の「民生向けD-ILAプロジェクタ」になって欲しいと思う。既に競合のソニーのVPL-VW100はそれを実現している。 厳しいことも書いたが、これは圧倒的な画質の完成度の高さと、システム構成の未完成度のギャップがアンバランスに感じてしまったためだ。画質に関しては本当に文句はなし。人為的な映像信号への小細工が少ない分、いわゆる「モニタ画質」を実現している。映像描写に派手さはないが、それだからこそ、映像の制作元の意志をそのまま伝えてくれるポテンシャルを有していると思う。
□ビクターのホームページ (2006年3月16日) [Reported by トライゼット西川善司]
AV Watch編集部 |
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