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第48回:荒削りな機能デザインだが、画質は究極
~フルHD D-ILAプロジェクタ ビクター「DLA-HD2K」~


 LCOSデバイスベースのフルHD解像度プロジェクタといえば、ソニーの「QUALIA004」(Q004-R1)を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、その強力なライバルがビクターよりリリースされていたことをご存じだろうか。それが今回紹介する「DLA-HD2K」だ。

 DLA-HD2Kの映像エンジンには、「D-ILA」(Direct-Drive Image Light Amplifier)というビクター独自のLCOSデバイスが採用されている。このD-ILAという素子自体もQUALIA004のSXRDと同じ素性であることから、まさに好敵手といえる。価格も約250万円と、QUALIA 004とほぼ同等だ。

 ただ、LCOSデバイスは、ビクターの方がソニーよりも早く、'97年から既に量産を行なっている実績があり、一日の長がある。インテルすらもさじを投げたLCOSデバイスにおいて、老舗メーカーはどのような映像を見せてくれるだろうか?


■ 設置性チェック
 ~QUALIA004に比べて圧倒的に小型軽量。動作音は少々大きめ

DLA-HD2Kシステムは映像を投射するプロジェクションヘッド部とインターフェイス/映像エンジンに相当するデジタルビデオプロセッサ部からなる

 DLA-HD2Kの設置スタイルは、少々ユニークだ。DLA-HD2Kシステムは、映像を投射するプロジェクションヘッド部と、各種映像線の接続を一手に引き受けるインターフェイスを備えたデジタルビデオプロセッサ部(LD-HD2K)に分かれており、プロジェクションヘッド部とデジタルビデオプロセッサ部とは付属のDVIケーブルで接続することになる。つまり、DVDプレーヤーやHDDレコーダ等のAV機器はデジタルビデオプロセッサ部と接続することになり、必然的にデジタルビデオプロセッサ部とプロジェクションヘッド部とは離れた位置関係になりやすい。

 5mのDVIケーブルが付属してくるので、プロジェクションヘッド部を天吊り、デジタルビデオプロセッサ部をその下に置くようなスタイルであれば問題ない。しかし、部屋の最前部に各種AV機器が収納されたAVラックがあって、ここにデジタルビデオプロセッサを設置したいという場合、部屋の後部に設置することになるプロジェクションヘッド部とは、付属の5mのDVIケーブルでは長さが足りなくなってしまうことだろう。こうした状況に対応するために、ビクターでは10/20/30/50mの光DVIケーブルを純正オプション(正確には斡旋商品扱い)に設定している。

 いずれにせよ、DLA-HD2Kの設置には、このデジタルビデオプロセッサ部をどこに設置するかという点がポイントになる。なお、プロジェクションヘッド部とデジタルビデオプロセッサ部の接続はDVIベースのデジタル接続となるために、このケーブル長が画質に大きく影響を及ぼすことは無いだろう。

 プロジェクションヘッド部の大きさは298×360×134mm(幅×奥行き×高さ)で、設置面積的にはA4ファイルサイズノートPC1台分程度と性能からするとコンパクト。体積的にはQUALIA004のわずか1/6程度になる。本体重量は6.2kgで、これもQUALIA004の約1/6程度だ。

 天吊り設置の場合も、天吊り金具「EF-HT1C」(68,250円、重量約3.5kg)と組み合わせた総重量は約10kg程度であるため、一般的な照明向けの天井補強で十分天吊り設置が可能だろう。

 台置き設置の場合でも、この大きさであれば一般的な設置台でOK。天板の奥行きが40cmほどあれば、本棚などの天板上に天地を逆転して設置させる「疑似天吊り設置」も十分可能だ。

 デジタルプロセッサ部が分離されている特殊性はあるが、重さと大きさでQUALIA004を諦めていた人にとって、この軽量/コンパクト性は救いとなるだろう。

 しかし、軽量/コンパクトなのはいいとして、ハイエンドホームシアター向けプロジェクタとしては取っ手の付いた無骨なデザインに疑問を持った人も多いのではないだろうか? これは筐体をデータプロジェクタの「DLA-SX21」をそのまま流用しているためだ。

 DLA-HD2Kでは黒塗装を施してシックな面持ちを演出しようとしているのだが、「実売価格で200万円以上の商品」として見ると、QUALIA004の高級感には到底及ばない。有機ELパネルのステータス表示画面や自動レンズシャッター機構など、QUALIA004の本体デザインには贅沢を極めた感があり、オーナーシップを掻きたててくれるが、DLA-HD2Kには残念ながらそうした雰囲気はない。DLA-HD2Kは、オフィスに横たわっているプレゼン用のプロジェクタという感じなのである。このあたりは、次期モデルでは改良を期待したいところだ。

投射レンズはマニュアル調整式

 投射レンズはマニュアル方式の1.3倍ズームレンズ(投射比1.8:1~2.35:1)を採用。100インチ(16:9)画面を最短で4.0m、最長で5.2mで投射可能となっている。最近のエントリクラス向けのプロジェクタの短焦点レンズ採用モデルと比較すると長いが、部屋の最後部への天吊り設置が基本となるこのクラスでは特に問題となる部分ではない。8畳前後からそれ以上の部屋の最後部に設置するケースを想定すれば十分対応できるはずだ。ただ、QUALIA004の場合は、注文時に設置する部屋に一番適した焦点距離のレンズを3種類の中から選択できるため、設置自由度の面ではQUALIA004の方が上だろう。

 フォーカス調整やズーム調整は投射レンズ間近にあるツマミを直に回して調整する方式を採用。QUALIA004は、フォーカス調整やズーム調整が電動式で、リモコンにて操作が可能。確かに、このクラスのプロジェクタは常設を前提とした機械であるため、DLA-HD2Kでは「そうした機能は不要」ということで搭載しなかったのかもしれない。しかし、それが価格に反映されていないので、同じ200万円を出すならば、QUALIA004の方が、得した気分になれるのも事実。

 カテゴリが違うとはいえ、実勢販売価格が100万円代半ばのD-ILAデータプロジェクタの「DLA-G」シリーズが電動ズーム/電動フォーカス機能、電動レンズシフトを備えているため、「DLA-HD2Kの方が価格が高いのになぜ?」という疑問を抱く人も出てくることだろう。

 投射の煽り角は固定で、投射レンズ中心が常に投射映像の最下段になる。つまり投射映像は投射レンズの下には広がらないと言うことだ。DLA-HD2Kには、画質を重視した関係でレンズシフト機能もないため、スクリーンと本体の設置関係には事前に念入りなシミュレーションを行なった方がよい。

DVI-D接続端子はデジタルビデオプロセッサ部との接続専用。実はPCとの直結にも使える 200万円超のホームシアターハイエンド機でデータプロジェクタ然とした取っ手付きはいかがなものか 後部には吸排気スリットが並ぶが光漏れはほとんどない

 さて、D-ILAプロジェクタは光源ランプとしてキセノンランプを採用することが多かったが、DLA-HD2Kでは250Wの超高圧水銀系ランプ(NSHランプ)を採用する。キセノン系は色純度が高い利点はあるものの、その代わり高価で寿命が短いという弱点もある。逆に、超高圧水銀系は色純度がキセノン系に及ばない変わりにランプか安価で寿命も比較的長い。QUALIA004はキセノン系を採用したが、交換ランプはメンテナンスサービス付きで21万円もする。一方、DLA-HD2Kの交換ランプ「BHL5006-S」は42,000円とQUALIA004の約1/4。ランニングコストはDLA-HD2Kの方が圧倒的に低く、優れている。

 なお、詳しくは後述するが、DLA-HD2Kでは超高圧水銀系の色バランスの偏りを特殊光学系で吸収しているため、「キセノンじゃないからDLA-HD2KはQUALIA004に画質的に劣る」と決めつけるのは早計だ。

 動作時のファンノイズはプレイステーション(SCPH-30000モデル、以下PS2)よりもだいぶ大きい。確かに最近のエントリクラスのプロジェクタと比べれば動作音は大きいが、これまでのD-ILAデータプロジェクタのDLA-Gシリーズと比べればもの凄く静かにはなっている。天吊り設置してユーザーと1m以上離れていれば、無視できるレベルだだろう。QUALIA004の方が確かに静かなではあるが、DLA-HD2Kも鑑賞を妨げるほどはひどくない。

 なお、この動作音が大きくなってしまった理由はいくつかあるが、まず言えるのは、使用しているランプがエントリークラスのプロジェクタで使われているものよりも圧倒的に高出力(すなわち発熱量も大きい)なことが影響している。一般的なエントリークラスの液晶プロジェクタが130W前後のランプなのに対してDLA-HD2Kはその約2倍の250W。QUALIA004では、大きいファンをゆっくり回すことで静音性を達成しているが、その分、筐体は大きい。一方、DLA-HD2Kでは小さいファンを高回転で回しているために、動作音が大きいが、筐体は小さくできている。


■ 接続性チェック~アナログ系は各種取りそろえ。デジタル接続はHDCP付きDVI

デジタルビデオプロセッサLD-HD2K

 前述したように、各種AV機器はプロジェクションヘッド部へではなく、デジタルビデオプロセッサ部へと接続するスタイルになる。

 このデジタルビデオプロセッサLD-HD2Kは、ファロージャ自身がプロ用やハイエンドユーザー向けに販売しているデジタルビデオプロセッサ「DVP-1010」をDLA-HD2K向けにファームウェア周りをカスタマイズしたもの。このため、接続端子群も、いわゆる民生向け製品とは雰囲気の違う構成となっている。

 背面パネルを見るとやたら接続端子が多く見えるが、ほぼその半数がモニタ出力端子。このデジタルビデオプロセッサ部はDLA-HD2K専用ではなく、汎用品ベースであることの名残だ。

 実際に入力端子として使用できるのは、ビデオ系では、コンポジットビデオ入力、Sビデオ入力、コンポーネントビデオ入力が1系統ずつで、すべてBNC端子となっている。DVI-I入力×1系統はHDCP対応のデジタルRGB入力に対応する。なお、HDMI出力対応のAV機器との接続には、HDMI-DVI-D変換ケーブルなどを使用することになる。

 モニタ出力端子としてD-Sub15ピン×1系統、BNC×5端子、そしてDVI-I×1端子の3タイプがあり、前者2つはアナログRGB出力、DVI-I端子からはアナログRGB/デジタルRGBの両方が行なえる。別のフラットテレビなどに接続して、同時出力する際などにはこうした端子を活用する。DLA-HD2Kシステムという意味では、プロジェクションヘッド部との接続には、DVI-I出力端子を使うのみだ。

 プロジェクションヘッド側の映像入力用としてはDVI-D入力×1系統のみ。通常は、ここを介してデジタルビデオプロセッサ部と接続することになる。このDVI-D入力にはPC等を直接入力することもできるが、仕様上1,920×1,080ドット/50Hz、あるいは60Hzの解像度しか受け付けないとのこと。

 また、プロジェクションヘッド部にはD-Sub9ピンのRS-232C端子があるが、これはビクターのサポートサイトより無料ダウンロード可能なWindows用ガンマ調整ソフトを利用する際に使用する。RS-232Cを搭載しないPCも多くなってきたが、その場合には市販のUSB⇔RS232C変換アダプタが別途必要になる。

コンポジットビデオ、及び、コンポーネントビデオ入力はRCAピンコネクタでなくBNCコネクタにての接続になる。SビデオだけはS端子(DIN)が使える オリジナルのガンマ特性カーブを作り込めるソフト。設定はPCファイルとしても保存可能なのでDLA-HD2Kユーザー同士でやりとりすることも可能


■ 操作性チェック
 ~リモコンはプロジェクションヘッド用とビデオプロセッサ用の2つ

プロジェクションヘッド部の上面。電源のオン/オフや基本メニュー操作はこの操作ボタンだけでも行なえる プロジェクションヘッド部のリモコン。[FOCUS]ボタンを押せばクロスハッチ画面、[TEST]ボタンを押すと色彩テスト画面が直接呼び出せる

 電源投入後、D-ILAロゴが投影されるまでが実測14.8秒、入力映像が投射されるまでは実測21.5秒であった。最近の機種としては標準的な起動時間と言える。

 DLA-HD2Kの商品セットにはリモコンが2つ付属する。1つはプロジェクションヘッド部操作用、もう1つはデジタルビデオプロセッサ部操作用だ。このようになってしまったのはデジタルビデオプロセッサ部がファロージャからのOEM供給であることが大きな要因だろう。

 プロジェクションヘッド部用のリモコンは[LIGHT]ボタンを押すことで、全ボタンがオレンジ色に発光する自照式。パナソニックのTH-AEシリーズのものに形状、ボタン配列、共に酷似しているのは、ビクターが松下グループの一員だからだろうか。

 このリモコンは、プロジェクションヘッド部の設置時の際に設定が必要不可欠であるリア、フロント、台置き、天吊りといった各投射モードに対応するための上下左右反転設定や、テストパターン表示、色温度、ガンマモードの設定などの、基本初期設定を行なう際に活用する。

プロジェクションヘッドのリモコンから一発呼び出しが可能なテストパターン

 デジタルビデオプロセッサ部のリモコンは、ボタンのほとんどが調整項目を直接呼び出せる、実に映像マニア好みのデザインになっている。

 入力切り替えは、コンポジットビデオ[VIDEO]、Sビデオ[S-VIDEO]、コンポーネントビデオ[YCrCb]、DVI[DVI]と、各入力ソースに対応した独立ボタンがアサインされており、一発で切り換えられる。切り替え所要時間はSビデオ→コンポーネントで実測1.3秒とかなり高速であった。一方、コンポーネント→DVI(HDCP/HDMI)では著作権認証情報のやりとりがある関係か、実測11.2秒とかなり時間が掛かっていた。

デジタルビデオプロセッサ部のリモコン。ボタンの数は多い印象はあるが、その分、アクセスしたい機能へダイレクトにたどり着ける操作性は慣れれば逆に使いやすく思えてくるだろう

 ブライトネス[BRIGHTNESS]、コントラスト[CONTRAST]、カラー(色合い)[COLOR]、ティント[TNT]、ディテール(シャープネス)[DETAIL]といった基本調整項目も同様に、メニュー階層を潜ることなく、対応ボタンを押して瞬時に調整が行なえる。

 設定状態は8個のユーザーメモリに登録することができ、これも[PROFILE]ボタンを押した後にリモコン上のテンキーの[1]~[8]を押すだけで瞬時に呼び出すことができる。[PROFILE]-[0]でファクトリープリセットが呼び出せる操作系もよくできた仕組みだ。

 アスペクト比の切り替えも[ANAMORPHIC](16:9ワイド)、[4:3]、[LETTERBOX]のアスペクトモードに対応したボタンを押すことでワンタッチで切り替えられる。切り替えに掛かる所要時間はほぼゼロ秒でボタンを押した瞬間に切り替わる

 ただ、実際に使ってみて、改善を望みたい点もある。まず第一に、やはりリモコンが2つに分かれているというのが煩わしい。

 常設の場合、一度設定してしまえば、プロジェクションヘッド用リモコンは使用頻度が減りそうなものだが、実際にはプロジェクションヘッド部の電源オン/オフは、このリモコンでしかできない。そのため手放すことができないのだ。

 また、デジタルビデオプロセッサ部の電源状態はプロジェクションヘッド部と連動していないので、電源オン/オフ時は2つのリモコンを手にとって両方の電源を個別に切っていかなければならない。自分で構築したシステムコンポーネントであればこの煩わしさも苦にならないが、システム売りしている商品でこれは頂けない。

 そして、視聴中、使用頻度が高くなるはずのデジタルビデオプロセッサ部のリモコンに発光機能がなく、ほとんど使わないプロジェクションヘッド部のリモコンが自照式というのも合理的でない。

デジタルビデオプロセッサの詳細な設定はOSDで行なえず、小さな表示管を利用しなければならない

 加えて、疑問に思えたのは、入力の黒レベルの設定や各入力端子の信号種別の設定(たとえばアナログRGBか、YPrPbか)などのデジタルビデオプロセッサ本体の動作モードの設定が投射映像のOSDメニューから設定できないという点。設定は[MENU]キーを5秒間長押しして、デジタルビデオプロセッサ本体側の液晶画面を見ながら行なわなければならない。入力信号種別の設定などは設定状態によっては投射映像に映像が消えることもあるため、確かにプロセッサ本体側の液晶画面は重宝する状況もあるにはあるのだが、だからといって動作モードの設定がこの画面だけでないとできないというのには賛成できない。

 たとえば、入力の黒レベルの設定などの切り替えは比較的アクセス頻度の高い調整項目だと思うのだが、これがOSDメニューにはないのは解せない。デジタルビデオプロセッサを部屋の前方に置いた設置ケースなどでは、その設定のたびにデジタルビデオプロセッサの液晶画面にかじりつかなくてはならないからだ。

 ライバルのQUALIA004は、もちろんリモコンは1つで専用デザイン。その全ボタンが自照式であり、その操作性は合理的。操作系設計の面においては、DLA-HD2Kをどうひいき目に見ても、QUALIA004の方が優れていると言わざるを得ない。

デジタルビデオプロセッサ側のOSDメニュー画面
プロジェクションヘッド側のOSDメニュー画面


■ 画質チェック
 ~D-ILAパワーとこだわりの光学機構がもたらす究極の映像美

 DLA-HD2Kのカタログの表紙にデカデカと「1920×1080 リアルハイビジョン」のキャッチコピーがあることからもわかるように、映像エンジンには対角0.82インチ、1,920×1,080ドット、フルHD解像度のD-ILAパネルを採用している。

投射映像の拡大写真。ほとんど格子線が見えないLCOSならではの狭画素ギャップ性に注目。若干だが、赤が下に、青が上にずれる色収差が出ている

 LCOS(反射型液晶)は、一般的な透過型液晶と同じく液晶分子で光の透過率を制御するが、これを一度パネル底面の画素鏡で反射させる構造が特徴。透過型では液晶を駆動する回路が画素周辺に配されるため、これが画素間の隙間となり投射映像に格子状の影を作り出してしまう。LCOSではこの駆動回路を画素鏡の下に隠せるため、この弱点も無い。実際には、この反射画素鏡が格子状に並ぶので、この反射画素鏡間の隙間があるのだが、その隙間は素子レベルでわずか幅0.35μmにしか満たない。

 実際100インチサイズで投射しても、画素間の隙間は1mmにも満たないほど細く、2mも離れてしまうと、単色を表示してもほとんど面にしか見えない。画素形状が知覚されることで感じられる粒状感というものは皆無なのである。


一般的な液晶プロジェクタに用いられている透過型液晶の動作概念図 D-ILAデバイス(LCOS)の動作概念図。ソニーのSXRDもほぼ同じ構造

今回の評価では、QUALIA 004導入記が記憶に新しい伊勢氏宅にDLA-HD2Kを持ち込んでの比較評価も行なった

 公称光出力は500ANSIルーメン。最近の機種にしては暗めなスペック値であり、QUALIA004の半分の値だが、実際には蛍光灯照明下でも映像の概要が分かるほど明るい。今回、QUALIA004と同じ環境で投射テストも行なってみたが、体感上の明るさはほとんど変わらないレベルであった。

 しかし、この500ANSIルーメンというスペックに疑問を抱く人もいるかもしれない。「250WのNSHランプで500ANSIルーメンしか輝度が取れていないのはおかしくないか?」と。これには理由がある。

 DLA-HD2Kでは、光スペクトルに偏りのある超水銀系ランプから、RGBのパワーバランスの取れた純白光を取り出すために、光源ランプ直後に「オプティマム・カラー・イルミネーション(Optimum Color Illumination)」と呼ばれる特殊光学系が組み込まれている。このために、250Wの光エネルギーのうちかなりの部分が、ここで捨てられる事になる。この構造により、キセノンランプに優るとも劣らない色再現性と、安価な超高圧水銀系ランプを使えるという低ランニングコストを高次元で両立させているのだ。


オプティマム・カラー・イルミネーション。これが光源ランプ直後に配される

 なお、このオプティマム・カラー・イルミネーションは、光源ランプからの同心円状の輝度低下(中心が明るく外に行くにつれて暗くなる)を解消するために、光源をパネルサイズに収光させて、輝度を平均化させる機能も兼ね備えている。

 公称コントラスト比は2,000:1。これは動的なランプ駆動制御無しのネイティヴな値だ。このハイコントラスト性能の実現には迷光の低減が必要不可欠だが、DLA-HD2Kでは、この実現に際して素子レベルでの工夫と光学系レベルでの工夫を組み合わせている。

 素子レベルの工夫とは、画素間ギャップからのリーク光を徹底的に低減させる技術だ。画素間ギャップからの光は液晶素子の状態とは無関係に輝いてしまう迷光なので黒浮きの原因となりコントラスト性能に大きな影響を及ぼす。DLA-HD2KのD-ILA素子では、反射画素鏡の下層で遮光構造とることでこれを低減している。


反射画素鏡の下層に遮光レイヤーを配しているのが新生D-ILAパネルの特徴だ

 光学系の工夫は投射レンズにある。最近では迷光を低減させるのに投射レンズに絞りを組み合わせる機種が増えているが、ほとんどの絞りは円形状になっていると思う。投射する映像は矩形なのだから、絞りも矩形であるのが理想なのだが、これがなかなか難しい。というのも、投射レンズのズーム状態と連動して、投射映像の大きさに最適な絞り量にしなければあまり意味がないからだ。

 ビクターは、このDLA-HD2Kのために、ズーム連動絞り機構を組み込んだ投射レンズを新設計したのである。開発陣のコメントをそのまま引用するならば「オプティマム・カラー・イルミネーションと並び、かなり開発に金のかかっている部分」とのことだ。

 QUALIA004では絞りは3段階切り替えのみで、最大のコントラストと最大の輝度ダイナミックレンジを得ることが難しいが、DLA-HD2Kの場合はあらゆる投射距離でベストバランスなコントラストと輝度ダイナミックレンジが得られている。


ズームに連動して矩形状絞りが無段階に変化する投射レンズ

 色温度とガンマ特性は、オプティマム・カラー・イルミネーション、そして映像エンジンレベルで、D65(6,500K)基準にチューニングされており、標準状態で発色の傾向が非常に素直であった。

 まず印象的だったのは原色表現の純度が高いという点。白は純白に鋭く輝き、赤も超高圧水銀系ランプとは思えない鮮烈さを訴えてくる。オプティマム・カラー・イルミネーションの効果は、手応えとして確かなものだ。

 色深度は非常に深く、色のダイナミックレンジも広い。ひいては映像中の色ディテールが驚くほど細かく描写され、例えば、人肌のアップではそのグラデーションの滑らかさだけでなく、その皮膚の下にある血管の薄青さも感じ取れるほどだ。

 階調表現も非常に緻密で滑らか。もっとも暗い黒色は限りなく部屋の暗さに近く、締まる黒が映像に際だつ立体感を与えている。ズーム倍率を変えても階調性や黒レベルに変化がないのはズーム連動の矩形絞りの賜物。

 黒が暗いだけでなくリニアな暗部階調表現が出来ているために映像に吸い込まれそうなほどの立体感が得られるのが新感覚であった。動的なランプ駆動による時間積分的なハイダイナミックレンジ表現ではなく、フレーム1枚1枚がハイダイナミックレンジを実現している。

 例えば一般的な絞り機能付きのプロジェクタなどでは、絞り最大にすると目先のコントラストは稼げるので確かに映像にハイコントラスト感は生まれるのだが、明るい方向のダイナミックレンジの不足感が副作用として顔を出す。QUALIA004でも絞りを最大にするとそんな傾向になる。これに対してDLA-HD2Kでは、それがない。

 例えば木陰の隙間から青空が見えるようなシーンにて。その木陰の人物の描写が立体感に富んで美しい……というのが一般的な絞り付きプロジェクタ。しかし、暗い木の表皮模様はやや潰れ気味で、木の枝の隙間から見える青空は曇り空のように見えることだろう。

 DLA-HD2Kの場合は木の表皮のエンボス感から、鋭い陽光を伴った青空の輝きまでが描写される。暗いシーンでも明るいシーンでも、最大限の暗さと最大限の明るさが表現され、いかなるシーンにおいても常に均一な奥行き感がある。とにかく、現段階で、フロントプロジェクタから投射される映像の究極形に、かなり近いといえる。

 なお、DLA-HD2Kには一般的な民生向けホームシアター機と異なり、「シネマ」、「スタンダード」といったプリセット画調モードは備わっていない。素のままでベストチューンされているため、基本的にはこのまま使うというスタイルが奨励されている。とはいえ、発色の傾向はデジタルビデオプロセッサ部での調整することができるし、プロジェクションヘッド部のガンマ特性は専用のソフトウェアからも調整が可能になっているので、調整マニアも一通りは楽しめる設計にはなっている。

【映像タイプ別のインプレッション】
ソースはDVDビデオの「モンスターズ・インク」(国内盤)。撮影にはデジタルカメラ「D100」を使用した。レンズはSIGMA 18-50mm F3.5-5.6 DC。
 撮影後、投影画像の部分を800×450ドットにリサイズしてから画像の一部分(160×90ドット)を切り出した。

(c)DISNEY ENTERPRISES,INC./PIXAR ANIMATION STUDIOS


●DVDビデオ(コンポーネントビデオ入力)
 DLA-HD2KでDVDビデオを鑑賞して改めて驚かされたのは、DVDビデオには思ったよりも情報が入っていたと言うこと。

 例えば、「アイ・ロボット」のウィル・スミス、「OUT OF TIME(タイムリミット)」のデンゼル・ワシントンのような黒人スター主演の映画を見た際に、彼らの肌の濃淡がしっかり見える。しかも、彼らの褐色の肌の上の髭の生え際の濃淡までが実感できる。

 これはDLA-HD2Kのダイナミックレンジの高い色表現から生まれ出る色ディテール感と、正確な階調表現があってこそなしえる表現だ。とにかくSD解像度のはずのDVD映像に情報量が多く感じる。これまで見えていなかったものが見えてきた感覚だ。テスト環境となった筆者宅を撮影のために訪れた担当編集者も「これってDVDビデオの映像ですよね」と確認をしてしまったほどであった。

DVD-2910側で1080i化してDLA-HD2Kにて投射 DVD-2910側で480p化してDLA-HD2Kにて投射
 
●Sビデオ(NEC AX20/Sビデオ接続)
 今回は貸出期間が比較的長かったこともあり、SD解像度のHDDレコーダ「PK-AX20」をDLA-HD2KにSビデオ入力接続しての視聴テストも行なった。

 デジタルビデオプロセッサ部のDCDi機能により、高品位なスケーリング処理やIP変換が行なわれるため、その表示品質は高い。4:3フレームにレターボックス記録された16:9映像をリモコンの[LETTEBOX]ボタンを押してパネルに全画面拡大表示してみたが、この場合も拡大された事による映像のぼやけ感は最低限に抑えられている。

 DCDiの機能をOSDメニューでカットすることも出来るが、実際にやってみると、そのオンとオフの状態で色エッジ付近に出る虹色のクロスカラーの度合いが劇的に変化する。LDやS-VHSなどのアナログコンテンツの視聴にもDLA-HD2Kは高次元で対応できるだろう。

 
●ハイビジョン/HD映像(ビクターHM-DHX2/D-VHS/HDMI接続)
D-VHSに記録されたハイビジョン(フルHD)版のモンスターインク。解像感の違いに着目
 ロングで捉えた人物の目鼻立ちまでがくっきりと見えている様などを目の当たりにすると、やはり1,280×720ドットの720p解像度のプロジェクタとは別次元の高解像感が実感される。

 そして、この高解像感に、DLA-HD2Kの色再現性と階調表現能力が組み合わされた時の映像美は圧巻であった。例えば暗闇の林の中シーンでは、枝一本一本、葉一枚一枚が立体感を持って見えるほど。

 スモーク(煙)が左右に流れるシーンなどでは、煙の複雑な形状変化がフルHD解像度で精細に描写され、なおかつ正確な階調表現と高い色ディテール性能により煙のボリューム感とモコモコ感をリアルに感じられる。映像の中に空気遠近までを感じる……といったイメージだろうか。

 
●PC(RADEON9800PRO/DVI-D接続)
 デジタルビデオプロセッサを介してのPC接続は1,280×720ドット/60Hzしか正常に映し出すことができなかった。こちらの表示にはスケーリング処理が入るために若干だがぼやけた感じになる。

 一方、DLA-HD2Kのプロジェクションヘッド部自身にはDVI-D入力があり、ここにPCを直結してみたところ、1,920×1,080ドット/60Hzにて表示することが出来た。これは描画解像度と表示パネル解像度が一対一に対応した表示になるので最も美しい表示となる。PCでの常用であれば間違いなくこれを推したい。

 なお、プロジェクションヘッドのDVI-D入力は、このモードのみ対応のようで、例えば1,280×720ドットの720p解像度や、1,024×768ドットのような一般的なPC解像度も、全く受け付けなかった。

 


■ まとめ

 今回は評価期間を長く取れたこともあり、DLA-HD2Kを念入りに使ってみたわけだが、いくつか気が付いた点がある。それは良い点と悪い点が1つずつ。

 まずは良い点から。

中明色を表示しても縦縞が見えない

 D-ILA素子は垂直配向(Vertical Alignment)の液晶モードを使っており、液晶を挟み込む配向膜には無機配向膜が使われている。エプソンのD4/D5パネルのような透過型液晶では、ポリイミド樹脂系の有機配向膜を使い、これにラビング工程で傷つけて液晶分子をなじませるが、D-ILAの無機配向膜ではこの工程が不要。

 そのため、透過型液晶パネルを使った液晶プロジェクタで問題となる、うっすらと見える縦縞状のくすみが、DLA-HD2Kにはない。中明色が左右にパンするような映像を安心して見られるのは、今や絶大な優位点と言える。

 続いて良くない点。

 ファロージャOEMのデジタルビデオプロセッサだが、なぜか、灰色付近の色に若干だが赤や緑の妨害色が乗ってくる。注意深く見ないとわからない上、彩度の高い映像を見ている限りではほとんど目立たない。しかし、白黒映画などを見ていると結構気になってくる。最近のタイトルで、最も確認しやすいのは「ロード・オブ・ザ・リング~王の帰還/SPECIAL EXTENDED EDITION」のディスク1のチャプタ24で、トーンを抑え気味なシーンが続くためこの妨害色が目立ちやすい。背景の雲、廃墟の石壁、ドラゴンの表皮などが赤や緑にうすく点滅する様が見て取れるだろう。

 接続ラインの種別は関係ないようで、DVDプレーヤーとHDMI接続しても、コンポーネントビデオ接続しても出る。スケーリング処理(解像度変換)を行なうと出るのかと思い、HM-DHX2にて1080iのHDコンテンツを再生しても出てしまっていた。すなわちIP変換をしただけでも出るということだ。


PCにてWinDVD6(ハードウェア・デコード・アクセラレーション、ハードウェア・カラー・アクセラレーション、カラーモード:デフォルト)を使って再生した結果。DVDビデオはこれで見た方がさらに高画質化する。DLA-HD2KはHTPC向きか?

 ところが、PCで1,920×1,080ドット/60Hzの解像度を作り、プロジェクションヘッドへ直にDVI-D接続して、WinDVD6でDVDを再生したり、Windows Media Playerにて1080pのWMV HDコンテンツを再生してみたところ、この妨害色現象はウソのように消えてしまった。DVDビデオなど、PCにて再生できるコンテンツは、民生プレーヤーからデジタルビデオプロセッサを通して映すよりも、PC上で再生してプロジェクションヘッドに直接続した方が明らかに綺麗に見える。

 つまり、この妨害色現象はデジタルビデオプロセッサの特性ということができる。デジタルビデオプロセッサの個体差も懸念して別のものを取り寄せたり、DVDプレーヤーを変えても状況は変わらなかったので間違いない。なお、ビクターでもこれは現象を認識しているそうで「DLA-HD2K開発時点でのファロージャチップの限界」ということのようである

 プロジェクションヘッドそのもののポテンシャルは文句の付け所がない究極形に近いだけに実に惜しい。次期モデルがあるのであれば、ビクター自前の映像エンジンである「GENESSA」を組み合わせてチューニングをしたものを見てみたい。また、その際にはオーナーシップを掻きたてられる製品コンセプトを希望したいものだ。もちろん、価格もよりリーズナブルになることを期待したい。


□ビクターのホームページ
http://www.jvc-victor.co.jp/
□製品情報
http://www.jvc-victor.co.jp/projector/dla-hd2k/
□関連記事
【2004年3月10日】ビクター、世界初D-ILAホームシアター用フルHDプロジェクタ
-プロジェクタとDCDi搭載プロセッサのセパレート方式
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040310/victor1.htm
【2003年10月10日】【大マ】ビクター独自デバイス「D-ILA」の実力は?
~ホームシアター参入第1弾「DLA-HX1D」~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031010/dg26.htm
【2003年10月3日】ビクター、初のD-ILA搭載ホームシアタープロジェクタ
-1,400×788ドットのワイドパネルを採用
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031003/victor.htm
【2003年8月25日】ビクター、初のホームシアター向け高精細D-ILAパネルを開発
-フルHD対応プロジェクタを年内に投入予定
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030825/victor.htm

(2005年2月25日)

[Reported by トライゼット西川善司]


= 西川善司 =  遊びに行った先の友人宅のテレビですら調整し始めるほどの真性の大画面マニア。映画DVDのタイトル所持数は500を超えるほどの映画マニアでもある。
 本誌ではInternational CES 2005をレポート。渡米のたびに米国盤DVDを大量に買い込むことが習慣化している。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。

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