■ いつの間にかフォトストレージが熱い! フォトストレージというデバイスも、デジカメ写真愛好家の間ではその存在はずいぶん浸透したようだ。ただフォトストレージとは言ってもその方向性は2つに分かれており、一つはソニーの「HDPS-M10」やバッファローの「HD-DPM20U2/CR」のように、写真のディスプレイを持たないタイプ、もう一つはエプソンPシリーズのように、写真ディスプレイを備えるタイプのものがある。フォトストレージにもなるということでは、Apple iPodや一部のマルチメディアプレーヤーも存在するが、エプソンのPシリーズはなんといっても、「Photo Fine」という高精細液晶ディスプレイを備え、ビューワとしての機能が非常に高いという点で、他社を大きく引き離している。 2004年に発売された「P-2000」、その上位モデルの「P-4000」もなかなか好調のようで、現在も両方のモデルが売れ続けるという、息の長い製品となっている。 そのエプソンのPシリーズに、ハイエンドモデル「P-4500」が登場する。型番は少ししか上がっていないが、外観や機能はかなり違っている。店頭予想価格は7万円半ばの見込み。 P-4500が単純なフォトストレージであれば、AV Watchではなく僚誌デジカメWatchでやるべきなのだが、今回は以前からの特徴であった動画や音楽再生機能に大きく手を入れているのも見どころだ。 現行ラインナップの基礎となったP-2000の発売から2年、エプソンのPシリーズはどのように進化したのだろうか。さっそくテストしてみよう。ただしお借りしているのは試作機なので、量産機とは仕様が異なる可能性もあることをお断わりしておく。
■ ストレージとしてはかなり大型 以前のP-2000も、当時出ていたマルチメディアプレーヤーと比べて比較的大型だったと記憶しているが、今回のP-4500もかなり大きく見える。実際の寸法はP-2000/4000から縦横厚みそれぞれ1mm程度増えただけだが、ボディ全体が平坦化したこともあって、そう見えるようだ。
肝心の液晶モニタは、3.8型透過型低温ポリシリコンTFT液晶ディスプレイで、212ppiという高密度は変わらない。ただし今回は白色LEDバックライトの設計を見直し、P-4000に比べて1.5倍高輝度化している。 操作ボタンが画面右側に集中している作りは変わらないが、ボタンの配置が若干変更されている。以前は「Print」ボタンが最上位にあり、頻繁に使用するであろう「Menu」ボタンと「Home」ボタンが離れているなど、「会社の政治的な要因」でボタン配列が決まっていたような部分があった。だが今回は、上から「Home」と「Menu」ボタンが順に並び、操作が把握しやすくなった。 「Print」ボタンに変わって登場したのが「Tag」ボタンである。これは画像に色つきのTagを付けることで、写真の分類を楽にしようという新機能である。詳しくはあとで試してみよう。
メモリカードスロットは上部にあり、対応カードはSDカードとCFカードのみ。フォトストレージを使うような層はデジタル一眼レフのユーザーが多いため、こういうチョイスになるのだろう。それ以外のカードは、CFカードアダプタなどを使用することになる。HDDはP-4000と同様で、80GBとなっている。
AV Out、USB、DCなどのコネクタ類が左側にある点は変わらないが、ヘッドホン端子だけは上部にある。また今回は音楽再生機能の補助として、リモコンとイヤホンが付属している。リモコンはメニュー操作まではできないが、再生、スキップ、ボリューム調整といった基本的な操作が可能だ。 スピーカーは背面ではなく、底部に移された。やはりこの形状から机に平置きするケースが多いのだろう。
バッテリはP-4000などで採用されていたものと同じだが、省電力設計が進んだため、動作時間は若干延びている。目安としては、フル充電で約50回/50GBのデータ転送が可能で、動画再生3.3時間、音楽再生5.9時間というスペックだ。
■ 写真管理を強化した作り まずは最もメインの機能である、フォトストレージ機能について見ていこう。メモリカードを上部スロットに差し込むと、まずバックアップを取るか、それとも見るだけかという選択になる。P-2000の頃は「アルバム」というプレイリストのような機能があり、それにこだわりすぎるあまり、物理的にファイルがどこに格納されているのか、わかりにくかった。だが今回は「バックアップデータ」というエリアに取り込み日でフォルダが作られて、そこに格納されるようになった。
このバックアップデータの内容は、同梱のコンテンツ管理ソフトウェア「Epson Link2」を使って、PC内のバックアップフォルダに自動で転送するようになっている。転送後にはP-4500から画像を削除するという設定も可能だ。 つまり写真を常時本体内に貯めておいてスライドショーで鑑賞しましょうね、という大きなお世話的傾向を減らして、純粋に一時的な保存場所として使いたいという、プロユースに近い使い勝手を強化したように感じられる。 もちろんプロユースとしてPシリーズが積極的に使われているという一番の要因は、やはり群を抜いた液晶モニタの性能だろう。かなり目を近づけないと液晶のドットが見えないほどの高精細で、まるでライトボックスでポジを見ているかのような滑らかな表現だ。さすがにこの点ばかりは、画面を再撮しても意味がないのでサンプルは掲載しないが、ぜひ店頭の実機で見て欲しい。
写真の表示中に「Display」ボタンを押すと、詳細なEXIF情報が確認できる。さらにもう1押しすると、白飛びや黒つぶれなどの部分を反転表示してくれる。この表示も、ゼブラのようにベタで潰してしまうのではなく、その中でもどれぐらい階調が残っているかがわかるような表示になっており、じっくりブツ撮りするときなどに目安になるだろう。
液晶の表示で若干気になったのが、下から見たときの視野角が狭いことだ。フォトビューワとしては、もちろんちゃんと正面から見るべきなのであるが、クライアントなども含めて複数の人で写真を確認する場合、テーブルにおいて議論するというケースもあるだろう。 この場合、写真を逆側から覗き込むケースはほとんどないわけだから、正面よりもやや下から覗き込むことになる。このときに、ちょうど視野角の狭い方向から見ることになってしまうのである。 液晶というのはカンタンに上下逆に取り付けられるものなのかは知らないが、少なくともフォトビューワの場合、上からの視野角よりも、下からの視野角を重視した方が使い勝手がいいのではないかと思う。 また液晶パネル表面が、非常に反射が多い。綺麗な表示とノングレア加工は相反するのは承知だが、自分の顔や服のカラーを反射してしまっては、正確な色味が判断できない。 ただこのあたりは、自分でフィルタを貼るなどして対処できる部分でもある。ある意味ユーザーに下駄を預けたということだろう。 最近はビデオカメラでも高解像度の写真が撮れるようになってきており、画角が16:9の画像も増えてきている。こういう画像は1枚表示では問題ないのだが、サムネイルでアスペクトがおかしくなってしまうのは残念だ。
■ ちょっと便利なTag機能 写真関連機能で新しく追加された、Tag機能を試してみよう。これは特定の写真に対して、9種類の付箋紙のようなものを貼れる、という機能である。ただ貼れるだけでは利用価値はないのだが、Tagを貼ったものはあとでグループ化してまとめて見ることができる。例えば写真をチェックしていきながらOKカットを選ぶ、という用途にも使えるだろう。使い方はカンタンで、まずTagボタンを長押しして、ボタンに割り当てるタグを選ぶ。タグは色分けされているが、名前も自由に付け替えることができる。あとは1枚ずつ写真を見ていきながら、OKの写真が出てきたところでTagボタンを押せば、画面右に小さなタグが付けられる。 タグを付けた画像は、Homeメニューの「タグ」のところに分類される。以前の「アルバム」に相当する機能が、こういう形で合理化されたということのようだ。
ただこうやってアルバムを作れるのはいいのだが、いかんせんそれが生かされるのがP-4500本体内だけというのが惜しい。例えばTagを付けてOKカットを抜き出しても、その写真だけをまとめてパソコンのほうに転送する、という機能がない。 いったんアルバム内の写真を別フォルダにコピーすることはできるので、それを使ってフォルダに抜き出したのち、手動でPCにコピー、ということになるが、もう少しスマートな方法が欲しい。プロユースまで視野に入れての製品としては、もう一歩使い勝手の面で踏み込んで欲しかった。
■ 文句なしで最高画質の動画再生機能
続いて動画再生機能を見てみよう。以前のモデルでは、動画再生機能はオマケ的な意味合いが強かったが、P-4500では搭載プロセッサも強力なものに変更し、もはやオマケ機能ではなくなっている。
液晶がVGA解像度を持つため、VGAサイズの動画も無理なく再生できるのが強みだ。特にP-4500はDivXの再生を公式にサポートし、Home Theater Profileに対応したファイルが再生できるようになっている。
再生品質はさすがVGA解像度をこれだけのサイズに凝縮するだけあって、現行のマルチメディアプレーヤーの中では文句なしの最高画質だ。たぶんそれだけで7万円出す人はそうそういないかと思うが、フォトビューワとしての能力にプラスしてこの動画再生品質だったら、満足度は高いだろう。
8MbpsのMPEG-2も再生できるため、パソコンで録画したテレビ番組もそのまま鑑賞できるのが強みだが、1ファイルサイズが2GBを超えられないという制限がある。4Mbpsでも1時間程度で2GB近くになってしまうことを考えると、80GBものHDD容量を持ちながら、惜しい制限だ。 上記以外のコーデックのファイルは、付属ソフトである「Epson Link2」を使って転送すれば、自動的にMPEG-4に変換してくれる。画質は高、中、低のほか、任意のビットレートに設定可能。プリセットのビットレートは、それぞれ3M、2M、1Mbpsだが、任意設定では4Mbpsまでサポートする。
MPEG-4関連では、今年になって三洋Xactiがハイビジョン映像をMPEG-4で録画できるようになった。だがP-4500では、ハイビジョンサイズのMPEG-4再生には対応できていないようだ。
■ 素性は悪くない音楽再生
続いて音楽再生を見ていこう。本機で再生できるのは、MP3とAACだ。AACはiTunesの標準コーデックとして広く普及しつつあるが、iTunes Music Storeで購入したような著作権保護付きの音楽ファイルは再生できない。 WMAやWAVのような非対応のものは、やはり「Epson Link2」を使って転送する際に、自動的にAACに変換される。ただ変換プリセットでは、サンプリング周波数が32kHzになっているので、任意設定で44.1kHzに設定した方がいいだろう。
曲の選択は画面が広いため、現在選択中のディレクトリよりも下位のディレクトリまで表示してくれる。一般の音楽プレーヤーよりは、特定の曲は探しやすいかもしれない。
付属のイヤホンは、テレビ番組の鑑賞程度では問題ないが、音楽再生では性能的に全然ダメなので、自分でいいものを選んで繋いだ方がいいだろう。 いつもリファレンスで使っているSennheiserのMX500で試聴したところ、非常に解像感の高い再生が楽しめた。そのままでは若干中音域が厚いが、フォトビューワーとはいってもなかなか侮れない音質だ。 プリセットされているEQはノーマルを除いて6種類で、その他に6バンドのグラフィックイコライザが付いている。プリセットはどれもかなり極端にチューニングされており、個性が強い。イヤホンの特性を補間する程度であれば、カスタムでグラフィックイコライザを使った方がいいだろう。 ただ曲の再生直前に、ボソッと言うノイズが入るのは気になる。また前モデルで問題であった曲間の空きもあまり改善されておらず、ここでも前の曲の終わりと次の曲が始まるところで、ボソッ、ボソッと言うノイズが2度入る。 さすがにこれは再生機としてはあんまりなので、製品版では改善されている可能性は高いが、一応指摘しておこう。
プレイリストに相当する再生リストは本体では作成できないが、「Epson Link2」で作ることができる。このリストはスライドショーのBGMとして指定することもできるあたり、iPodなどをよく研究しているようだ。
■ 総論 エプソンは近年、高精細液晶技術を使ってリアプロやプロジェクタを次々と製品化しているが、この高精細技術が別の面でうまく結実したのが、フォトビューワであろう。価格は7万円台と安くはないが、フォトビューワとしてこの液晶に勝てるものは今のところ存在しない。今回のP-4500は、P-2000/4000からもう少しプロユース寄りの製品を目指したということで、Tag機能の採用や自動転送など、工夫点も多い。地味な機能ではあるが、特定の画像にパスワードをかけて隠す機能もある。使い方はイロイロ考えられるが、プロユースなら競合他社の仕事しているのがうっかりバレないようにするといったことも、重要だろう。 ただ本体の作りとしては、面積はともかく、厚みと重さが気になる。まあプロカメラマンならば撮影時の荷物も相当なものなので、これぐらいは誤差のうちだろうが、趣味のアマチュアカメラマンにはかなりかさばるサイズである。また雨天の屋外使用も考慮すると、水滴の入りやすいメモリーカードスロットが上か? という疑問もある。 バッテリの持ちはまずまず満足できるレベルなのだが、次はこの液晶を使ってもう少し手軽に利用できるフォトビューワがあってもいいかもしれない。 いずれにしても、今後フォトビューイングという分野は、山のように蓄積した膨大なデジカメ写真を整理・分類・鑑賞するという意味において、一つの産業を形成するのではないかと予測している。 いつまでもプリンタで写真印刷でもないだろう、という新しい出口を、エプソン自身が探しているということなのかもしれない。
□エプソンのホームページ
(2006年3月22日)
[Reported by 小寺信良]
AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp Copyright (c)2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|