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第230回:リニアPCMの編集やMac対応で使い勝手が向上
~ Hi-MDの存在意義を訴える「MZ-RH1」 ~



 Hi-MD対応の最初のMDウォークマン、「MZ-NH1」登場から約2年。Hi-MDの存在意義を強く訴えるように新機種「MZ-RH1」が発表された。

 iPodをはじめとするHDD、メモリタイプのポータブルプレーヤーが広く普及することで、MDのシェアが低下している中、1GBのメディアに約675曲の楽曲を収録可能とする一方、非圧縮のPCMでの録音も可能にしたことで、新たなニーズを模索している。このMZ-RH1の発売に先立ち、SonicStageも3.4へとアップデートしている。今回は、これとの連携機能も合わせて、MZ-RH1をチェックした。


■ 小さいボディーに多くの機能を凝縮。操作性もいい

MZ-RH1

 Hi-MDはNetMDをさらに大きく進化させた新規格のMDとして2年前に登場したが、これまであまり広まっていないというのが実際のところだろう。

 従来のMDと同じ形ながら、1GBの容量を持ち、ATRAC3plus 48kbpsを利用すれば、1枚のメディアに約675曲も収録できるというのは、画期的であり、DATの後継ともいえる位置づけでリニアPCMの録音再生を可能にしたのも大きなことだった。もちろん従来のMDとの互換性を保ちながら、大きく機能を発展させたことの意義も大きかったとは思う。

 しかし、iPodやウォークマンAを含めたHDDメディアから見れば容量は小さくみえてしまう。またHi-MDで火が付いたPCM録音についても、EDIROLの「R-1」に「R-09」、M-Audioの「MicroTrack 24/96」、そしてもちろんソニーの「PCM-D1」といったメモリメディアに24bit録音できる機材が登場したことで、Hi-MDの影が薄くなってしまったというのが実際のところだ。

 また当初、Hi-MDが発表された段階では、せっかくリニアPCMで録音したデータをPCに取り込んでも、フォーマットが特殊であったため、PC側で編集できないという大きい問題点があった。VAIOであれば、そのままCDに焼けるため、一旦CDに焼いてからリッピングして編集するという手段はあったが、かなり面倒だった。

 しかし、SonicStageのバージョンアップにともなって、リニアPCM録音したデータを、通常のWAVファイルとしてPC側で取り込むことが可能になったり、ATRAC Advanced Lossless、さらにはATRAC3plusの352kbpsに対応するなど、いろいろと進化してきている。

 今回、発売前ではあるが、ソニーからMZ-RH1を借りることができたので触ってみると、改めて非常にコンパクトであることを実感した。モーター駆動部分があるMDではあるが、83.8×14.7×84.4mm(幅×奥行き×高さ)と小さく、電池込みで106gと軽い。容量的に比較するならHDDプレーヤーよりもメモリープレーヤーに近いと思うが、コンパクトさという面で、それほど大きくは変わらない。また再生時間を比較すると、フォーマットによって時間は異なるが、たとえば1GBのHi-MDメディアでHi-LP(ATRAC3plusの64kbps)を使った場合、約19時間もの連続再生ができるので、かなりのスタミナといえるだろう。

 1GBのHi-MDメディア1枚で700円近くするので、結構高いようにも思っていたが、1GBのSDカードなどと比較すれば圧倒的に安い。さらに80分や74分の普通のMDメディアも利用可能で、これを使えば1枚100円以下で購入できるから、コストパフォーマンスは大きく向上する。ちなみに普通のMDメディアの場合、従来のMDフォーマットで利用できるほかHi-MDフォーマットした場合は、扱いは1GBのメディアと同様、PCにとっての外部ストレージとしての使い方が可能になる。容量としては74分で270MB、80分で291MBになる。

 非常に小さいボディーに多くの機能が凝縮されている割に、操作性はなかなかいい。その操作性の大きなポイントになっているのが、本体に搭載された有機ELディスプレイ。これとジョグレバーを用いて操作するため、メニュー構造の操作も分かりやすく、マニュアルもほとんど不要だ。また、このディスプレイには、ステレオのスペアナ表示ができたり、録音時には、レベルメーターとして動作するなど、便利に使える。なお、本体のディスプレイでは、曲名の表示は行なえない。

本体はかなりコンパクト。Hi-MDメディアは、SDカードと比べると大きいが、単価700円前後とコストパフォーマンスもかなり大きい 有機ELディスプレイには、ステレオのスペアナ表示、録音時のレベル表示など使用状況に応じて様々な情報が表示される

付属のリモコンには、主に再生用途向けの機能を備えている

 もちろん、これとは別にリモコンも用意されており、ここにもバックライト付き液晶ディスプレイが備わっている。リモコン側では、エディットやフォーマット、録音といったことはできないが、再生側の機能はいろいろ備わっているので、うまく使い分けができそうだ。

 気になるレコーディング機能を見てみると、まず本体にマイクは内蔵されていないので、外部入力を用いることになる。入力用として接続できるのは大きく3種類で、S/PDIFの光、マイク、アナログラインだ。マイクはプラグインパワーに対応しているので、プラグインパワータイプのコンデンサマイクを利用するのが便利。ソニーでは推奨マイクとしてECM-MS907をあげている。今回はこれもセットで借りることができたので、接続して使ってみたが、音質なかなか良好。16bit/44.1kHzではあるが、24bitか? と感じるほど微細な音までキレイに拾うことができる。

 デフォルトの設定では入力レベルがオートになっていたので、これをマニュアルに変更して有機ELのメーターを見ながらレベル調整をしてみると、よりしっかりと録音できる。また、デフォルトではHi-SPというATRAC3plus-256kbpsに設定されているが、PCMやHi-LP(ATRAC3plus 64kbps)への変更も可能。やはり最高の音で録るならPCMだろう。Hi-SPの音質もかなりいいので、PCMとの違いをどこまで聞き分けられるかは難しいところだが、PCMの場合、80分メディアに約28分、1GBメディアなら約1時間34分録音することが可能だ。

入出力端子は、リモコン+出力端子、マイク入力、光入力及びアナログ入力端子と並ぶ ソニーの推奨するプラグインパワータイプのコンデンサマイク「ECM-MS907」。直販価格は9,000円前後

 なお、録音のレベル設定がオートになっている場合はMIC AGCという設定で通常の録音のモードと、For Musicという音楽録音用のモードを切り替えることができる。For Musicの場合、リミッタが効いて、ライブや楽器演奏などを歪むことなく録音することが可能になっている。

 さらにマイクに関してはSens High、Sens Lowというモードを切り替えることで、入力感度を切り替えられる。これらを状況を見つつ、うまく使い分けることで、よりキレイな録音ができるようになる。

 なお、録音時のバッテリ寿命もかなり長い。フォーマットによって異なるが、1GBメディアを使った場合、PCM録音なら約6時間、Hi-LPなら約10.5時間可能となっている。


■ リニアPCMのWAV変換やMacとの連携にも対応

 ところで、このMZ-RH1に未使用のMDメディアを挿入すると、「BLANKDISK」という表示がされた後、すぐにフォーマットされHi-MD仕様となる。デフォルトではこのようになっているが、メニュー設定でディスクモードをMDに変更しておけば、通常のMDとしてフォーマットされるようになっている。

 MZ-RH1は本体にUSB端子を備えているため、クレードル不要で直接PCと接続できる。とりあえず、ここではソフトウェアを何もインストールしない状態でPCとつないでみたところ、PC側からはUSBマスストレージのドライブとして認識され、普通に読み書きすることができた。Hi-MDフォーマットされた状態で、HI-MD.INDというファイルが生成されるのと同時に、HMDHIFIというフォルダが作成される。ここにHi-MDの音楽データなどが格納されることになるが、これらは専用ファイルであり、中身を見ることはできない。なお、Hi-MDではなくMDフォーマットのメディアを入れた場合には、そもそもドライブとして現れてこないようだ。

 また、MZ-RH1ではWindowsだけでなく、ついにMacにも対応したというのがひとつのポイントとなっている。Hi-MD Music Transfer for Mac Ver 1.0というソフトがバンドルされているが、これをインストールせずにつないだ場合、Windowsと同様にドライブとして見え、普通にファイルの読み書きをすることができた。

Windows上では、特にドライバーなどをインストールしなくても、リムーバブルディスクとして認識される Hi-MDフォーマットを行なうとHI-MD.INDファイル及び、HMDHIFIフォルダが作成される。このフォルダ内に音楽データが格納されるつくり 音楽データはPC上から見れないようになっており、音楽データのやり取りには別途ソフトウェアからの操作が必要になる

 このように、WindowsでもMacでもドライバなしで接続することが可能なのだが、このままでは、単なる外部ストレージとしてしか使うことができず、音楽データのやりとりはできない。音楽データを扱うには、Windows用に用意されているのがSonic Stage 3.4とMD Simple Burner 2.0、Mac用に用意されているが、Hi-MD Music Transferだ。

Sonic Stage 3.4 MD Simple Burner 2.0

 まずはWindowsから使ってみたが、基本的な部分は従来のSonic Stage 3.3と変わりはない。3.4自体は2月にリリースされており、誰でもソニーのサイトからダウンロードできる。主な変更点は以下のとおり。なお、フリーダウンロード版には、MDにアップロードするための「取り込み設定」メニューが付いていないという違いがある。

  • Hi-MD機器へATRAC 192kbps(ATRAC3plus)の転送が可能
  • 録音対応のHi-MD機器やネットワークウォークマンでアナログ録音した曲に加え、デジタル録音した曲も、SonicStage経由でWAV(PCM)形式の保存が可能
  • ATRAC 352kbps(ATRAC3plus)をサポート
  • ミュージックコミュニティが利用可能
  • Yahoo!ミュージックダウンロードをサポート
  • MusicID機能のサポートで既にデータ化された曲の曲情報が可能
  • WAV形式の曲をATRAC Advanced Lossless形式に圧縮したり、ATRAC(ATRAC Advanced Lossless含む)形式の曲をWAV形式で保存できる(DRMのかかっているデータを除く)。
  • 再生中の歌詞付きの曲の歌詞を歌詞ボタンを使って表示できる

 当初はHi-MDで録音したPCMデータをPCに取り込んでも編集することができなかったが、すでに以前のSonicStageでもWAV取り込みが可能になっており、最新の3.4ではS/PDIFで録音したデータまでも取り込むことが可能となっていた。

 これならば、あとでPC側でじっくり編集することができるし、出来上がったデータをオーディオCD作品として焼くこともできるので、安心して使える。実際に試してみたが、画面上で、PCMデータなのかHi-SPなのかなどのフォーマットが確認でき、転送ボタンを押すと簡単に取り込むことができた。

 ただし、単に転送しただけでは、拡張子.omgのOpenMGファイルであるため、他のアプリケーションでは扱えない。そこで、SonicStage上でWAVファイル変換をすると、波形編集ソフトなどを用いて自由に編集できるようになる。なおMD Simpler BurnerはCDからPCのHDDを介さず直接Hi-MDへデータをコピーするソフトだが、ここでは省略する。

リニアPCMデータを一度PC上に転送した後で、再度WAVファイルへの変換を行なう必要がある 一度変換したWAVデータは、波形編集ソフトなどで自由に編集できるようになる。ただしMZ-RH1自身にはこうした編集ソフトは付属していないので、別途用意する必要がある

 もうひとつ、MZ-RH1とSonicStage 3.4で追加された機能が、これまでできなかったMDライブラリのPCへの転送だ。従来からのMDで使われていたATRAC、LP2、LP4と呼ばれるATRAC3のデータをPCにデータとして転送できるようになった。

 以前に手持ちのミニコンポでCDからMDへ通常モードでダビングしたMDメディアをMZ-RH1に入れて、PCと接続。SonicStageでPC側へ送る矢印のアイコンをクリックすると、これまで見たことのなかったダイアログが表示された。これによって、あっけないほど簡単にPCのHDDへコピーできてしまった。

 プロパティで確認すると、この取り込んだデータはATRAC3plusの256kbpsとなっている。しかし、設定を変更すると、通常のWAVファイルとして取り込むことも可能だった。この場合、いったんOpenMGデータとして取り込んだ後、WAVファイルへ変換されているようだ。これなら昔のMDから曲データを転送して、新たにCD-Rに焼きなおすといったことも簡単にできる。

これまで見たことのなかったダイアログが表示された WAVファイルとして取り込むことも可能

 しかも、転送したデータを選択の上、「CD情報取得」のボタンを押すと、GracenoteのMusicIDが機能し、曲情報を付加してくれるので、非常に便利。曲名などはまったく入力していなかったMDでも、いったんPCを介して、書き込みなおすことで、アルバム名や曲名などを追加することが可能になったのだ。

「CD情報取得」のボタンを押すと、GracenoteのMusicIDが機能し、曲情報を付加してくれる

 そして、前述のHi-MD Music Transferを使うことで、Hi-MDに録音した音をMacに取り込めるようになったが、使い方はいたって簡単。

 まずMZ-RH1を接続すると、デスクトップに2つのアイコンが現れる。ドライブのアイコンを開くと、単なるストレージとして扱える。一方、Hi-MD Music Transferというエイリアスのアイコンを開くと、画面にメディアに録音されているデータの一覧が表示されるので、その中からMacへコピーしたデータをドラッグ&ドロップでデスクトップ上へコピーすればいいだけだ。

 ただし、ここでサポートされているのはあくまでもMZ-RH1で録音したデータのみ。DRMのかかっていない曲でも、Windows上でPCやCDから転送した音楽データはMP3なども含めすべてグレーアウトされて、Macへコピーすることはできない。また、反対にMacのデータをHi-MDへコピーすることもできない一方通行になっている。

MacにMZ-RH1を接続した場合、付属の「Hi-MD Music Transfer for Mac Ver 1.0」がインストールしてあれば、起動用のエイリアスが表示されるようになる ストレージとして利用する場合は、特にドライバなどを使う必要はなく、表示されたストレージを開くだけ。Windowsと同様で、音楽データのやり取りは行なえない Hi-MD Music Transferでは、あくまでもMZ-RH1で録音したデータをMac上にコピーするのみ。またコピー後のデータは全てWAVファイルに変換される

 PCMデータもATRACデータもMacへコピーした結果はすべてWAVファイルとなる。なぜAIFFデータではなくWAVデータなのか? という疑問がないわけではないが、現在のMacならWAVで困ることもあまりないだろう。とにかくMacで扱えるようになったのは大きな一歩だ。次はSonicStage for Macintoshの登場を期待したいところだが、OpenMGというDRMをどのようにMacに移植するかという問題があるので、簡単にはいかないのかもしれない。

 MZ-RH1を実際に使ってみると、ポータブルプレーヤーとして使える一方、高性能なPCMレコーダーとしても使え、かなりバッテリー寿命が長いというのが大きな魅力だ。また、SDカードやコンパクトフラッシュといったフラッシュメモリのメディアに比較すると、メディア価格が圧倒的に安いというのも大きいポイントだろう。価格も手ごろだし、PCMレコーダーの選択肢の一つとして考えていい製品だろう。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/himd-rec/
□関連記事
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-Macへも転送可能。音量差の自動調整機能も装備
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http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060201/sony.htm
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http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040802/dal155.htm

(2006年4月3日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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