HD DVDレコーダ「RD-A1」がようやく発表になってから、すでに2週間が経とうとしている。半ば公約化していた「ワールドカップ決勝まで」の発売はかなわず、7月14日に予定していた発売も2週間ほど延期されることになったが、7月27日より発売される予定だ。 そこで今回は、A1の商品企画を担当した、東芝デジタルメディアネットワーク社・デジタルAV事業部 DAV商品企画部 商品企画担当の青山幸司氏にA1にまつわる「なぜ」を聞いた。 ■ プレーヤーとRD-XD91の「ニコイチ」 「他社に作れない」画質と音質 西田:A1の中身としては、ほぼ、「HD-XA1」と「RD-XD91」ベースと考えていいですか?
青山:録画系のハードウエア的には、XD91ベースですね。ソフトウエア的には、XD92DからデジタルW録を除いたみたいなところがありますが。 西田:高音質とか高画質に対するこだわりが凄いようですが、A1はHD-XA1(HD DVDプレーヤー)とどのくらい違うんですか? 青山:そうですね、XA1より、さらに上という位置づけになります。映像系はRD-Z1以上(XA1はX6並)ですし、音については「SD-9500」(2001年発売の東芝のハイエンドDVDプレーヤー)とほぼ近いイメージですね。 音だと、私もフォローしきれないんですけれど、桑原(東芝・DV設計第1部の桑原光孝氏)が詰めてやってますから。2ch再生時のDAコンバータの4器並列駆動などは、9500の3器並列駆動よりいいんです。 西田: なぜDVD-Audioに対応していないんですか? クオリティを考えると、もったいないな、と思うんですけど。 青山:RD系でDVD-Audioをハンドリングするソフトを搭載していないからです。新規に搭載するとなると、それだけでかなりの開発期間が必要となり、断念しました。 西田: 画質面では、特にスケーリングがきれい、と説明されましたが、いままでのものに比べ、見てわかるくらいの違いがあるんですか? 青山:現状、スケーラーについては種類が少ないらしいのですが、その中でベストのものを積んでいる、と言っていいと思います(RD-A1で採用されているのは、アンカー・ベイ・テクノロジーズの「ABT1018」)。それこそ、100万円クラスのDVDプレーヤーに入っているスケーラーチップと同じものを積んでいるので、それに匹敵すると思っていただければ間違いないです。
西田:トータルの商品企画としてお伺いしますが、A1には2つ反応があったと思います。一つは、ハイエンドAVを見ている方々の「100万円でも安い」という声。もう一つは、40万円という価格にダイレクトに反応した「高い」という声。その辺はどうです? 青山:もうそれは、最初からそうなるだろうと予想していました。結局中の部品のクオリティとか、ハードウエアの質とかを理解できる人にとっては相当安いと思うんですよ。でも逆に、機能面を見れば、デジタル放送のW録が無く、RDの91にHD DVDの再生・録画ができるようになっただけ。91と比較して、20万円以上値段がアップするというのは高い、と思われるのでしょう。 西田:スタートの段階でこういうものを作った理由は? 青山:まずはHD DVDのクオリティを最大限まで引き出さないと、新しいメディアを出す理由がないと考えました。 やはり最初の段階なんで、部品なども高いんですよ。そうすると、廉価版でも、かなりの値段になってしまいます。結果、価格の割にかなり中途半端なものになってしまいますので、一発目は「クオリティ追求」でやりたいな、ということです。 この辺に関しては、RD-Z1(2005年3月発売)のスピリットを継承した機種、と思っていただければ。Z1を作った時にも、デジタルチューナを積むためコストが上がるということで、それならいっそ、とその時点での赤色レーザーでの最高峰を目指しました。今回も同じような感じでやりたいな、というのがありました。 つまり、「単にHD DVDを搭載した」だけでなく、クオリティという観点からもレコーダの頂点に立つような機種を目指した、ということです。 今は、HDD/DVDレコーダでクオリティを追求しようとしても、他の製品に比べ機能がほとんど同じであり、「ただ高いだけ」と思われてしまう。クオリティが高いといってもどのくらいなの? と。RD-A1はHD DVDドライブを搭載するため、本質的に高価な機体にならざるを得なかった。それならば、ただHD DVDを搭載しただけではなく、全く新しい最高の機体を目指したいというという声が企画・技術陣からあがました。そこを目指したのがRD-A1です。 そういう意味では、Z1とかA1というのは、Xシリーズと違って専用設計の筐体が使えるというのが大きいですね。XシリーズはいつもRDシリーズのトップではありますが、どうしてもXDシリーズやXSシリーズの中身を変えたもの、一部を良くしたもの、というかたちです。どうしても筐体までは手が回らない。 だからこそ、最高の物が出せました。今後のモデルは、一号機に比べコストダウンも進んでいくと思います。 RD-2000もそうだったんですけど、最初の一号機はかなりぜいたくな作りでやってきているので、そういう流れからすると今までの流れかな、と思っているんです。DVDの時でいえば、X1でブラッシュアップしてコストダウンする、という感じで。Z1に関しても、翌年にX6を出してコストダウンしました。今回も同じイメージです。 それが、従来は初代機でも20万円台で買えていたものが、その倍近いということで、引く人は引くのかな、とは思いますが。 西田:目で見たとき、音を聞いた時のクオリティを追求するのであれば、今後東芝としては、A1を超える機種はなかなか出せない、と? 青山:そうですね。AV回路の潮流的な観点からもアナログ的にここまでこだわったレコーダを今後リリースするかと問われれば、難しいというのが今の感触ですね。東芝として、A1までのものは出てこないと思いますね。 正直なところ、普及型の液晶テレビだと、A1の性能は出し切れないんです。高画質のプロジェクタユーザーでないと、すべての魅力はわからないかもしれない、と感じています。そういうユーザーが、日本にどれくらいいるかはわかりませんが。 プレーヤーのXA1の方が、現実に即したレベルで抑えてますね。逆にA1については、家庭の環境がバージョンアップしていっても、末永く使えると思います。 もっと安いものが欲しい、という人には、2号機以降でフォローしていく、ということになります。
西田:実は発表会の後、片岡さん(東芝DM社 DAV商品企画部 商品企画担当グループ長の片岡秀夫氏)と雑談をしていて、「あの足すごいでしょ? アルミで削り出しで高いんだよ」って言われたんですが(笑)。 青山:XA1のインタビューでも「足がいいでしょ」と言いましたけど、実はこの伏線でもあったんですよ。さらにすごいぞ、と(笑)。 やっぱり桑原なんかも、「ここまで贅沢な筐体を東芝で作れるとは思っていなかった」と言っていますしね。まあ、一般向けの家電メーカーが作る製品ではないですよね。 西田:確かに。デノンやエソテリックとか、あるいはB&Oとか、そういう世界のものですね。 ■ 開発は「時間との戦い」 時間の短さから「ハイエンドモデル」に? 西田:機能面について伺います。レコーダ部とHD DVDプレーヤー部の「なじみ」が気になります。構造的には、完全に切り換えですよね?
青山:そうですね。HD-XA1が中にそのまま入っていて、HD DVDプレーヤーとして使う時には、そちらに機能を切り替えて使います。ですから、それぞれの機能ごとに動作するという感じです。 西田:今のRDに使われている「RDエンジンHD」上にHD DVDプレーヤー機能を実装するのは厳しかったわけですか? 青山:今のRDエンジンだと、HD DVDのアドバンスト機能に対応する部分がありません。RDエンジンにそれを搭載するよりは、XA1とXD91のニコイチの方が、開発が確実でした。HD DVDプレーヤーとレコーダ機能を統合するには、新しいLSIを作らなければ難しいのかな、とも思いますが、その辺は、まだどうなるかわからないですね。 西田:切り換えに時間がかかることに満足はしていなくとも、それが商品性を完全にそぐ、とは判断していないわけですね? 青山:そうですね。ハイエンドの世界で使っている人にとっては、速度よりもクオリティを優先したい、という声が大きいですから。 Z1でも、クオリティ重視のユーザーは気にしていないんだけれど、バリバリ編集するユーザーからは「動作が重い」との不満も聞いています。A1についても、まだ「バリバリ編集する人」というより、じっくり見る人に向けた仕様になっています。 西田:プレーヤー機能としては、XA1と同等といっていいわけですよね? 青山:同等、というか再生部分の基板はほぼ同じです。そのまま入っているわけですから。ただ、出力に関する部分については、前出のようにスケーラーや音声回路のクオリティが上がっているので、1080p対応など、より高画質になってます。 西田:仕様として気になったのが、A1で作ったHD DVD-Rのディスクを、プレーヤー(HD-XA1)にかけても再生できない、という点です。この理由は?
青山:プレーヤー側に機能追加が必要になります。A1ではデジタル放送をMPEG-2のTS(トランスポートストリーム)で記録しますが、XA1はプレーヤーですから、日本のデジタル放送データの再生機能はないわけです。VRモードで録画したものについては、互換情報が書き込まれていますので、プレーヤー側に再生機能を追加すれば、比較的簡単に対応できます。今それを検討中です。 A1でHDVRモードで記録したディスクには、HD DVDの規格上TSのデータとDVD-VRのデータが併存できます。HD DVDプレーヤーでDVD-VRの再生に対応するのは難しくはないと思いますが、TSの方は、あくまで日本の放送としてのMPEG-2 TSをそのまま録っています。北米中心に作っているプレーヤーで、日本の放送に向けた対応を、XA1を作っているタイミングで出来たかというと難しかった。
西田: 逆に言えば、レコーダ側でTSからPSへの変換を行なえばいいのでは? 青山:それは、現時点だとTSからVRにするということになりますので、HDの番組がSD品質になってしまいますし、コピーワンスですから、TS(HD)で残せないことになります。それはHD-Rの使い道としては意味がないですね。それよりは、将来、H.264のエンコードとか、そういうことまでできるようになった時に意味が出てくると思います。 一号機のターゲットユーザーとしては、そういうことより再生映像・音声のクオリティと、“放送をそのまま録れる”ことが大切と考えました。そういうターゲットだったので、RWへの対応も見送りました。いますでに放送は行なわれていますから、それをいち早く録って残せることを重視しました。 まあ、WOWOWのスターウォーズ連続放送(筆者注:8月6日に、6本を連続放送)には間に合わせたかった、というのが正直なところなんです(笑)。
西田:すると、むしろTSをそのまま録って、いままでにDVD-RAMなどに録ったDVD-VRの映像も、変換なしにディスクにまとめられる方がニーズが高い、と考えたわけですね。 青山:そうです。複数枚のRAMを1枚にまとめられること、TSがそのまま記録できることがいいだろう、と。両方を無劣化の元データのまま1枚のディスクに入れられる自由さが、HD DVDの良さだと思っています。 西田:無理を承知で聞きますが、この段階でH.264やVC-1でのリアルタイム・エンコードはやっぱり間に合いませんでしたか? 青山:そうですね。HD DVDへの記録についても、RWの規格化が終わっていないこともあり、まずはRしかできない。ただ、2層はやらないとダメだし、出来そうだ、と。設計としては、R1層でもう少し早く、という話もあったのですが、(容量的に)2層は必須、と考えました。 西田:発売時期として、意識していた時期はありますか? 青山:ワールドカップというのは、プレーヤーの発表の時に藤井(東芝DM社の藤井美英社長)が言っていたので、やはり大きな目標とはしていました。希望として、そこまでで出せるものならば……というのはトップダウンで来てましたので、現場としてやりたいとは思っていました。ただ、「キツイだろうな」とも思っていました。 西田:仕様的な問題としては、デジタル放送が2本同時に録れないことを気にしている人が多いようです。なぜ出来なかったんですか? 青山:それは、映像/音声のクオリティを最優先としたことと、ワールドカップを発売目標にしたためです。 ベースとしてXD91があって、それにデジタルW録を搭載することと、HD DVD録画を搭載することと、両方は開発が難しい、というのが設計の現場から上がってきました。両方やると年末商戦になってしまう。 やはり、冬のボーナスでなく夏のボーナスで、という思いがあったので、「デジタルW録はナシ」、というのは早い段階で決まっていました。ワールドカップ目標で出す、というのが第一義であったために、「デジタルW録」、「RW」、「H.264」は今回はあきらめるということになりました。 西田:A1で録画した、TSで記録されたディスクは、今後出てくるHD DVD機器では再生できるんですか? 青山:まず大事なことは、RD-A1はHD DVD-VRとして規格に準拠したディスクを記録していると言うことです。もちろん、東芝のレコーダでは再生や追記も大丈夫ですが、プレーヤーやパソコンでの再生に関しては、それぞれの商品仕様次第です。 西田:少なくとも、XA1で対応することはない?
青山:TS対応については日本のデジタル放送データの再生機能の追加になりますから、難しい。ただ、東芝の将来のレコーダについては、これまでも旧機種で記録したディスクはすべて再生できているので、大丈夫だとは思います。 例えば、A1でもカートリッジ付きのRAMに対応しています。カートリッジを、他社がどこまでフォローするかわからないですが。 西田:DVD-VRで記録したコピーワンス番組を、書き戻すことはできますか? 青山:できないですね。HD DVDへのお引っ越しは、従来のアナログ放送を録ったもので、ということになります。 西田:RDで作ったビデオモードのDVD-Rは書き戻しOKなんですよね? 要は、現行のRDシリーズの仕様に、HD DVDをプラスした、という理解でいいんですよね。 青山:その通りです。GUIも、XD92系と同じなんですけど、実はあれはHD DVD用に開発していたものを先に積んだだけなんです。「なんで同じなの」と言われるんですが、実際には逆。先に向こうに入れただけなんです。 西田:HD DVD-Rの2層記録はもう大丈夫ですか?
青山:焼けてますよ。実際録ってみると、地上デジタルに関していえば、(ディスクのパッケージには75分と記載されているが)1層でも1時間55分程度で、局によっては2時間録れます。局や放送によってばらつきもありますが、1層でも案外2時間ものもいけるな、という印象ですね。 これがBSデジタルのWOWOWだと、90分いくかいかないかですね。放送時間帯によっても違いますけが。 西田:2層の切り替わりのギャップは? 青山:ないですよ。シームレスに記録し、シームレスに再生できます。VRなどをHDD経由で戻した場合でも、ちゃんとつながっています。最新のRDシリーズだと、DVDの2層もギャップレスですし。他社だとそうなっていない機種もあるようですが。 西田:あと気になるのが、他のレコーダで録画したTSモードの映像を、i.LINKで入力してムーブすることへの対応なんです。今回はできませんよね? せっかくのHD DVD-Rなので、それができるとうれしかったのですが……。 青山:ヘンな話、たぶん(社内では)僕が一番欲しい、と言っていたのではないかと。初期のD-VHSの、コピーフリー時代のコンテンツをディスクにしたかったからなんです。A1についていえば、開発期間の関係からどっちにしてもできなかったんですよ。現場では、i.LINKの重要性については認識しています。 西田:i.LINK入力対応が進まない理由には、相互接続の保証がとてもとても大変だ、ということがあると聞いています。それなら、今のネットdeダビングの仕組みを転用すればどうか、とも思うんですが。 青山:でもそれだと、D-VHSがダメですよね。そういう解決策もあるとは思いますけど、私としてはD-VHSに対応させたいので、i.LINKでまずやりたいな、と思います。 西田: 確かに、巻物の方が傷みますからね。 青山:しかも、D-VHSを購入している人の方が、、真っ先にこういう製品に興味を持ちますよね。やっぱりそちらが先で、ネットワークはその後だろうな、と思っています。 まあ、コピーワンスをD-VHSに録っちゃったものは、もう移動しようがないですけどね。いや、冗談のように言っていたことがあるんですよ。D-VHSを入れた3 in 1の製品を作って、ダビングして巻き戻し時に同時にテープを裂いちゃったらどうか、とか言ってたんですけど、さすがにね(笑)。 ■ A1の完成度には自信 「摩耗しない価値」を大切にした製品 西田:A1の完成度に対する満足度は? 青山:製品としては、このタイミングとしては画質もいいので、90点から95点くらいあげていいのかな、と思います。 発売後は製品の魅力を伝えて、この価格でも買ってくれる方に届けていく、ということになります。それにつれてメディアが使われ、メディアの価格が下がってくれば満点ですかね。 A1は、操作性などの問題はありますけれど、次のレコーダが出ても手放したくない、価値の変わらない機種になっていると思っています。 これって、X1にも言われていることなんですよね。他に買い足したけど、クオリティは高いしデザインの重厚感もあるので、X1は置いてある、と。そういう製品としての魅力のある1号機としては、レベルが高いと思います。 西田:要は、デジタル技術の進展に伴わない、摩耗しない価値の部分を大切にしている、と? 青山:そうですね。今後は、HDMIを中心にデジタル系の出力部分を中心に開発することになりますから。A1については、デジタル出力/アナログ出力、音/画、両方を追求した製品なので、今後はなかなか出せないな、と思います。 他社でも難しいでしょうね。「やっぱりデジタル」といってお茶を濁すことになるのではないでしょうか。 西田:第2フェーズ、普通の液晶テレビを使っている人向けの製品を出す時期は、いつくらいになりそうですか? 青山:まだ先になると思います。海外の開発もありますしね。 西田:次のプレーヤーは年内ですか? 青山:そこまではご勘弁を。次のプレーヤーがまず先行、とだけご理解ください。 □東芝のホームページ (2006年7月13日)
[Reported by 西田宗千佳]
AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp
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