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携帯機器向けの地上デジタル放送、通称「ワンセグ」が正式に開始してから、そろそろ3カ月が経過しようとしている。 当初受信端末は携帯電話のみだったが、7月になり、「VAIO type U<ゼロスピンドル>モデル」や「gigabeat V30T」、カーナビなどの登場により、その利用範囲も広がってきている。 ちょうど手元に、携帯電話・パソコン・ポータブルメディアプレイヤーと、3種の「ワンセグ対応端末」が揃った。今回は「録画」にこだわって、これらの機器をチェックしてみたい。
■ 画質はYouTube並み? 基本的なことになるが、まずワンセグの仕組みから振り返ってみたい。 地上波放送は、1局に割り当てられた電波帯を14に分割して利用できる。この一つ一つは「OFDMセグメント」と呼ばれており、通常の地デジでは12セグメント分が使われる。ワンセグでは、文字通り1セグメント分だけを使う。 1セグメントで伝送可能なデータ量は280~624kbps。ワンセグの場合には、映像と音声に約312kbpsを使う、と定められている。 ビットレートをみればわかるように、ワンセグの画像は決してきれいではない。解像度は最大でも320×240ドット。フレームレートも15fpsである。今時のわかりやすいイメージとしては、YouTubeで流れている映像と同じくらいである。 それが「携帯機器向け」に注目される理由は、アナログと違って安定した受信が可能だからだ。写真は、シャープのボーダフォン向け携帯電話「905SH」で、まったく同じ場所で受信した、アナログ放送とワンセグの受信結果である。デジタル伝送の特性が、そのままワンセグの特性、といっていい。 「ワンセグはキレイ」と言われるが、それはちょっと違う、と考えている。電波状況がよければ、圧縮ノイズの無いアナログのほうがきれいなこともある。「おおよそ満足できる映像が、いつでもどこでも見られる」というのが、「ワンセグの本質」といっていいだろう。
■ 感度は905SHの圧勝 では実際のところ、ワンセグはどのようにつかわれているのか? 市場調査会社のシーズプランニングが6月に、ワンセグ搭載携帯のユーザーを対象に行なったアンケートによると、ワンセグを見る場所は、驚くほど多岐にわたっていることがわかる。 特に興味深いのが、6月18日、ワールドカップの日本・クロアチア戦を放送中の視聴内容だ。なんと30%を超えるワンセグ利用者が「テレビのある部屋」でワンセグを視聴してる。メインのテレビでサッカーを見ながら、気になる別のチャンネルをチェックするために使っているようなのだ。すなわち、「身近なサブのテレビ」というワンセグの活用だ。 そうした利用時に、重要な意味をもってくるのが「受信効率」。今回、自宅(東京大田区のマンション)にて、VAIO type U<ゼロスピンドル>、gigabeat V30T、905SHの3機種をテストした。同じ環境で、同じように視聴するためだ。 結果からいうと、受信効率は機種により驚くほど違った。905SHでは、トイレからリビングまであらゆる場所で良好な映像を楽しめたが、gigabeat V30Tではトイレ、自宅中心部といった窓から遠い場所では受信ができなかった。type Uに至っては、窓際のリビングですらほとんど受信できず、ベランダ近くや玄関でのみ受信可能であった。 以前に日立製のau向け携帯「W41H」をテストした時にも、905SHに似た結果が得られたことを考えると、905SHの受信効率が特別良いというより、gigabeat V30Tおよびtype Uの受信効率が悪い、と評価すべきだろう。 では次に画質はどうか? 大きな差はないが、発色では905SHが、全体の印象ではgigabeat V30Tが、ディスプレイサイズによる迫力ではtype Uが優れている。
■ ながらは「パソコン」が有利 メールとの連携が優秀な905SH 今度はワンセグを「サブテレビ」、「ながらテレビ」と定義した上で、3機種をチェックしてみよう。
特に使い勝手が良かったのがtype Uだ。ウェブを見たりワープロで作業したりしながら、テレビを「ちら見」できる感覚は、思った以上に快適だった。ふつうのテレビパソコンと同じように思えるが、アンテナやチューナを内蔵し、完全な「ワイヤレス」が実現できるのが良い。パソコンを使いながらテレビを見る、という観点でいうなら、ワンセグはtype Uよりもうすこし大きい、ふつうのノートパソコンの方が相性がいい、といえるかもしれない。type Uでは携帯電話との差別化が難しく、むしろ「大きい」、「受信感度が悪い」というところばかりが目についてしまう。 次に良かったのが905SHだ。意外なことに、メールを書きながらワンセグが見られる携帯は、まだ905SHしかない。横画面でテレビを視聴中に画面を縦に回転すると、画面が二分割され、上がテレビ、下がメールの画面になる。機能切り替えにもほとんど時間はかからず、実にスムーズだ。 それに対し、gigabeat V30Tはいろいろと苦しく、動作の遅さが気になってしまう。ワンセグ機能を呼び出し、望むチャンネルに切り替えて視聴するまでに、20秒以上かかる。他は数秒以内だから、差は歴然だ。
■ ワンセグを生かす録画機能 EPGを生かしたVAIO Type U/V905SH ワンセグを実際に使う場合、鍵となるのは「録画」だ。「どこでも見れる」ことがうたい文句のワンセグとはいえ、実際には“いつでもどこでも”便利に活用できるという訳ではない。 たとえば、昼間に電車で移動中に時間をつぶすとしよう。移動中は案外電波が不安定で、ワンセグといえど受信できる時間はそれほど長くない。先日、「W41H」を利用して山手線を1周してみたが、問題なく受信できたのは6割くらいの領域だった。しかも、現在のワンセグ放送は地デジのサイマル放送。自分が見たい番組をやっていればいいが、昼ドラマにもワイドショーにも興味がなかった場合、時間を有効に過ごしている、とはいえないだろう。 だが、録画をメインに据えるとなれば、話は違ってくる。 ポータブルプレーヤーで映像を持ち歩く場合、最大の問題点は「見たい映像をいかに準備するか」だ。テレビパソコンなどで録画時にリアルタイム変換を行なう、などの解決策もあるが、それでも、携帯機器へ映像を転送するのは面倒なこと。毎日続けるにはそれなりの忍耐が必要となる。 是が非でも見たいドラマやアニメ、なら、忍耐も情熱でカバーできるだろう。しかし、業務上見ておかねばならないニュースや語学番組となると、気がつけば面倒になってやらなくなるのがオチだ。 だが、ワンセグで録画すればそうした苦労は解決される。視聴する機器の中に、直接見る番組が蓄積されていくのだから。 ところが、現在のワンセグ機器のほとんどは、「見る」ことで精一杯。携帯電話の場合、初期のモデルでは、本体内のメモリーにのみ蓄積が許されていたため、ほんの20分程度しか録画できなかった。 だが、ここで紹介した3機種は、それぞれ録画機としての特徴を持っている。905SHはminiSDカードに録画できるため、1GBのカードを使った場合、最大5時間20分の録画ができる。type Uやgigabeat V30Tの場合、録画可能時間は桁違いに伸び、gigabeat V30Tの場合、約130時間となる。 ただ、実際に「録画」して使うことになると、gigabeat V30Tはかなり苦しい。同時に1つの番組しか録画できない上に、録画予約待機中には、ワンセグを見るどころか、音楽を聴くこともできないのだ。しかも、録画予約にはEPGでなく、日時を入力する昔ながらの方法。大容量HDDは、ワンセグ以外に使うもの、ということなのだろう。「ワンセグ録画用」としてはおすすめできない。
type Uと905SHは、どちらもネットを使ったEPGで録画する。 type Uが使うのは、パソコンらしく「iEPG」。VAIOではおなじみの、So-net運営の「テレビ王国」と連携しており、ウェブの番組表上で「EPG」アイコンをクリックすることで、録画情報が設定される仕組みだ。
905SHでは、ナノメディアが提供するVアプリの番組表「TVnano/番組サーチ」を経由して録画する。Javaアプリを起動する分、type Uより時間はかかるが、操作はよりシンプルで使いやすい。この点は、携帯ならではの利点といえる。
■ 基本的な著作権保護ルールは通常デジタル放送と同じ デジタル放送の例に漏れず、ワンセグも著作権保護は厳格だ。type Uでは、録画したデータを「ファイル」として取り出すことができるものの、ハード固有のIDを使った暗号化が行なわれており、同一機種であっても、他の個体では再生できない。内蔵メモリ型の携帯電話やほかのワンセグ対応パソコンでも基本的にはこうした個体IDを利用する。 905SHのSDカード録画では、SD-Video規格の「ISDB-T mobile Video profile」で形式で記録しており、miniSDカードとの間で暗号化/認証処理を行なっている。そのため、同規格に準拠した製品が発売されれば、それらの製品と録画したminiSDカードを組み合わせて、録画番組再生が可能となると思われるが、現在のところ905SH以外の対応機器は発売されていない。
録画データは、どちらも1時間で190MB程度。放送データのストリーム記録だから、同じになるのは当然だ。CMカットなどの編集を阻む規則はないが、そうした機能を搭載している機種はない。もっともニーズを考えると、今後もそういう機種が出てくるとは考えづらいが。 なお、ワンセグに関する著作権保護のルールは、すでに述べたように、基本は「個体ID」を使った暗号化。映像の解像度こそ違うが、方法論は通常の地デジと変わらない。厳密さも、地デジと同じだ。アナログ出力に関しても、地デジと同じコピーワンスの原則が適用される。 どの機種もアナログビデオ出力を持つものの、ワンセグの録画映像をビデオ出力を介してテレビで楽しめるのはgigabeat V30TとType Uのみ。Type Uではディスプレイ設定をマルチディスプレイモードにすることで、テレビ出力できる。また、音声のデジタル出力にはさらに厳格な制限がある。905SHとtype UはBluetooth対応だが、ワンセグの音声をBluetoothで伝送することはできない。
【訂正】 個人的には、ワンセグの画質でそんなに著作権保護に神経質にならなくても……とも思うが、著作権者としては「画質に限らず、流させない」というポリシーなのだろう。社団法人電波産業会(ARIB)の技術資料には、「メールやメモリーカードによる流出に留意すべき」との補足情報も付加されている。
チューナと映像のデコーダは1対1で対応せねばならず、「USBでどんなパソコンにもつながる汎用チューナ」を発売するにはかなりの障害がある。 現在、いくつかのメーカーでPCカードやminiPCIカードのワンセグチューナを採用したパソコンが登場しているが、これらもカードとPCは固有IDでひも付けされて管理されており、他のパソコンでは利用できない。W-ZERO3[es]用にUSBで接続するチューナの発売が予定されているが、これも[es]専用であり、他の機種では利用できない。 テレビの著作権保護については、機構を提案し販売するメーカーが責任を負うことになる。たとえば、あるメーカーがどのパソコンでも使えて、録画ができるデジタルチューナを発売した、としよう。万が一それがハッキングされ、番組データが流出した場合、責任を負うのは発売メーカーになる。 「だからあまり冒険はしたくない」(PCメーカー関係者)というのが、メーカーの本音のようだ。 ■ 出来では905SHが圧勝 録画ワンセグはポータブルAVプレーヤーを駆逐するか? さて、ここまで述べた「受信品質」、「操作性」、「録画機能」の3点で評価した場合、一番のおすすめはどの機種になるのか? わたしは、ダントツで905SHをお勧めする。実用的な録画機能を備えている上に、テレビ機能が携帯電話の中に、自然にとけこんでいるからだ。905SHは「AQUOSケータイ」と名付けられているが、その名は伊達ではない。画質がどうこう、という以上に、きちんと「テレビ」として評価できる受信品質と操作性を備えているからこそ、このブランドがあるのだ。 このような話を聞くと、「じゃあテレビとしてだけ905SHを買おう」という人も出てくるかもしれない。しかし残念ながら、905SHは有効なボーダフォンのUSIMカードが刺さっている状態でないと、一切の機能が使えない。いわゆる「白ROM」では使えないのだ。 今後、ワンセグ携帯は第二世代に入り、905SHから学んだ機種が増えてくることだろう。自由に録画できる機種が増えることで、ポータブルメディアプレーヤーとの差別化や競争も激化しそうだ。
□ソニーのホームページ (2006年7月27日)
[Reported by 西田宗千佳]
AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp
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