ようやく離陸した次世代DVD「HD DVD」。文字通りの初物プレーヤーである「HD-XA1」は、初回出荷分(発表会場では約1,000台と説明された)をほぼ完売し、月末の再出荷を待っている状況だという。 規格争いに公約ギリギリの発売と、なにかと話題でもあったこの製品。連載の第一回目は、この製品の企画担当者である、東芝デジタルメディアネットワーク社・デジタルAV事業部 DAV商品企画部 商品企画担当の青山幸司氏に、「初代機」の裏話を聞いた。 ■ 「初物」だからできる高級志向 -実は「X」の系譜だったHD-XA1 西田:販売は好調のようですね。 青山:一部店舗では、お待ちいただいているような状況ですね。今月末には、潤沢に出回る予定なのですが。 西田:一見して、贅沢な作りですよね。編集部でばらしてみたわけですが(笑)、その辺がはっきり見えました。 青山:一号機に関しては、やっぱり贅沢をしたい、という意識があったんです。HDD・DVDレコーダの一号機である「RD-2000」とか、デジタル放送対応一号機の「RD-Z1」と同じ考え方なんですが。 今は、家電の値崩れが速くて、昔のVHSデッキのように「高価で贅沢な仕様」の製品がなかなか作れない。高性能機が出せる土壌がないんです。一号機というのは、やりたいことがやれるチャンスなんです。だから、けっこうお金をかけて作りましたよ。音質を良くするためには、それなりに重くないといけませんから。 それに、エクステリアも大切だと思ってます。XA1って、円筒状のしっかりした足(真鍮製インシュレーターのこと)がついているでしょう? 高級AVって、こういう足じゃないと(笑)。「RD-Z1」なんかもこういう足ですよね。営業の現場からは「どうだろう?」という声もあるんですけれど。
西田:妙にお金がかかっているリモコンも? 操作感が良くて、かなり好印象なんですが。 青山: まさに。こんなにお金がかかったリモコンは、もう作れないかも知れません。どっしり重くて、ヘアライン仕上げで。ホームシアターで使うことを考えて、光センサーによるバックライトを仕込んだんですが。光るのがじゃまなようなら、切れるようになっているのでそちらで対応してください。反面、バッテリーの持ちは少々悪くなってしまいましたが。 西田:画質も良好ですね。 青山:XA1の絵作りは、弊社の高級DVDプレーヤー「SD-9500」や「RD-Z1」を担当した桑原(筆者注:東芝・DV設計第1部の桑原光孝氏)が担当しています。彼が、DVDレコーダを経て次のステップとして手がけたものです。 西田:ということは、さきほどの「足」の話じゃないですけれど、XA1はRDの「X」、「Z」系の系譜、ということになるわけですか。 青山:そうですね。実際、製品企画はレコーダもプレーヤーも、一緒のチームがやっていますから。 我々の絵作りの考え方は「ナチュラル」。ディスクに入っている映像を、できる限りそのまま出し、ソースの良さを素直に出すことを目指しています。お化粧しないスッピンの美しさ、とでもいいますか。他社とは少々違うかもしれませんね。 西田:HDMIでは、DVDのソースをアップコンバートして表示できますが、その際の画質は? 青山:その点は、非常に重視しています。現在はまだ評価中ですが、今後アップコンバート性能に優れたチップを選定し、採用することを含め研究中です。 ■ XA1は「米国向け」のローカライズ版 -レコーダは日本主導で開発中
西田:米国では、オーディオ部分を低価格化した「HD-A1」もありますが、日本では投入されませんでした。なぜですか? 青山:元々、XA1をベースに低価格化したのがA1です。アメリカでは、プレーヤー市場が大きくなると予測されるので低価格機が必要、という判断です。 日本では、レコーダ市場がメインになると予想されます。ですから、プレーヤーだけで2ライン、というのはあり得ないですね。 西田:プレーヤーはあくまで米国主体、ということですね。 青山:はい。商品企画的にもアメリカ主導で行なっていて、それを日本にも導入している、ということです。 西田:XA1をプレーヤーとして見ると、ちょっと不満な点もあります。CPRMに対応したディスクが再生できない。日本向けとしては弱いのでは? 青山:ごもっともです。我々も認識しています。ハードの仕様的に言えば、HD DVD向けのAACSのキーは入っていても、CPRMのキーは入っていない、ということなんです。 これは、アメリカ向けに作っていた弊害なんです。XA1は、アメリカ向けに作って日本向けにローカライズ、という形になっているので、どうしても日本独自の仕様を入れてもらえなかった。主たるマーケットの声が大きくなってしまいますからね。 でも、レコーダは日本メインですから、こちらの意見もたくさん取り入れてもらえます。だから、CPRM対応については、レコーダをお待ちいただければ、と思います。 西田:気になるといえば、ディスクのマウントにかかる時間が遅いのも……。 青山:そうですね。まだドライブが第一世代ということもあって、時間がかかってます。今後改良できるとは考えています。 西田:DVDとのツインフォーマットディスクで、再生コンテンツを「HD DVD」と「DVD」のどちらにするかを、ディスク挿入時にしか選べないのも気になりました。 青山:現状では、いかんともしがたいです。Advanced Contentsの場合は、映像の解像度変更を行なう際も、再生を一旦止め、ディスク先頭から再生しなければならいない点に気がつかれましたか?(XA1では、リモコンで480i/480p/720p/1080iから出力解像度を切り替える)。 実は、ディスク毎に「どの解像度で出力を認めるか」が決まっているため、それを読み出すために、ディスクの先頭へ戻しているんです。 西田:今回、テストのために頻繁に切り替えながら見たので、確かに面倒でした(笑)。 青山:解像度変換については、今後もこのままだと思います。 西田:XA1は、Intel CPUのプラットフォームを使っています。これは、当初から予定されていたことですか? 記憶にある限り、私が最初にデモを見たのは2004年のことです。この頃から、いまのプラットフォームで動いていたわけですか? 青山:正確な時期はわかりませんが、色々試行錯誤はしていました。ただし、かなり初期から「Pentiumが有力だ」という話は聞いていました。 西田:でも、(HD映像の)デコードは別チップですよね? 青山:アドバンスト機能で、動画に動画を重ねて表示するには、非常に強力なプロセッサが必要なんですよ。HD映像を2つ同時に扱うようなものですから。 西田:「夜桜」などで採用されているAdvanced Contentsでの表示ですね。それに対し、付属の「バイオハザード」などはStandard Contentsですね。 青山:ただ、今後は、Adnvanced Contentsが主になりそうです。 西田:Advanced Contentsには、ネットを経由して予告編をダウンロードしたり、オンラインショッピングを行なうという機能もあります。現状はまだそのようなコンテンツはありませんが、利用にはアップデートなどが必要ですか? 青山:いえ、機能としては、すべて実装済みです。ただ、そういうソフトが出てきた時に、本当に問題なく動くかどうか、チェックが必要になってきます。規格の解釈には幅がありますから。その結果、アップデートによる修正が必要になることもあるでしょう。 西田:では最後に。日本ではレコーダが主になる、とのことですが、いつくらいになりますか? 青山現在鋭意開発中です。もう少しお待ちいただければ。こちらは、日本主導ですから(笑)。 □東芝のホームページ (2006年4月20日)
[Reported by 西田宗千佳]
AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp
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