■ QuietComfort、次の一手 直販サイト、および直営店のみでの販売ながら、確かなノイズキャンセル能力と音質で支持を集めるボーズの「QuietComfort(クワイアットコンフォート)」シリーズ。2005年10月に発売されたブラッシュアップモデルの「QuietComfort 2」(以下QC-2)は、他社の高級モデルが実売2万円台前半で販売されている中、41,790円というハイエンドな価格で突き進む。ノイズキャンセリングヘッドフォンの元祖メーカーとして、市場を代表するシリーズと言っていいだろう。そんなノイズキャンセル市場での新しい動きとして、松下電器が標準でノイズキャンセルイヤフォンを同梱した「D-snap Audio」を発表。昨今はポータブルプレーヤーの機能強化が一段落したイメージもあり、今後は差別化機能としてノイズキャンセル機能を標準でサポートしたプレーヤーは増えるかもしれない。 そんな状況の中、王者ボーズも新たな「QuietComfort」を発表した。その名も「QuietComfort3」。製品名からは、現行モデルである「QuietComfort2」の新モデルと思われるが、実際はハウジングやアームパーツがQC-2よりも大幅に小型化されたバリエーションモデル。QC-2は今後も併売されるため、QuietComfortの選択肢が広がったことになる。 QC-2のユーザーにとっては音質やノイズキャンセル機能がどう変わったのか気になるところ。また、「QC-2が欲しかったけれど、サイズが大きいので躊躇していた」という、女性などにも注目の製品だ。QC-2との比較を中心に、QC-3を検証した。
■ 欠点をカバーする新イヤーパッド 外観から見ていこう。手にすると写真で見るより小さい印象を受ける。QC-2と比べてみると、まずハウジング部が大幅に小型化されていることがわかる。イヤーパッド厚さはそれほど変わらないが、ハウジングの盛り上がりが減っており、全体の厚さも半分程度になっている。カラーリングはシルバーで共通。QC-2の初代はゴールド系だったが、新バージョンではシルバーになっている。基本的な質感はプラスチックで共通だが、光沢部分が多いためか、QC-3の方が高級感がある。また、小型化したことで内部にミッチリとメカが詰まっている密度感があり、所有する喜びはQC-3の方が高いように感じた。
QC-2とQC-3の最大の違いは、イヤーカップとイヤーパッドの形状が異なること。QC-2は小ぶりながら耳を完全に覆うイヤーカップタイプ。QC-3では小型化したことで、平坦なイヤーパッドを耳に押し当てるオンイヤータイプとなっている。 一般的に、イヤーカップを備えたヘッドフォンの方が遮音性が高い。反対に、オンイヤータイプの場合、ホールドはしているが耳に当てているだけなので隙間が生じ、遮音性は落ちてしまう。 QC-3の大きさを考えると、オンイヤータイプへの変更は仕方のないところだが、こうした欠点を補うため、QC-3は特殊な素材のイヤーパッドを採用している。低反発枕などでも採用されているという形状記憶フォームで、非常に柔らかく、指で押すと簡単に埋まっていく。しかし、離すとすぐに復元する弾力性を持っており、ムニョムニョとした物体に耳が優しく包み込まれるような感触だ。 オンイヤータイプのヘッドフォンでは、耳にユニットを接着させるために、バネなどを使ってクランプ圧を強め、アームで耳に押し当てるような構造になる。そのため、長時間利用していると耳が痛くなるなどの問題があった。しかしQC-3のイヤーパッドの着け心地は良く、耳にかかる負担をかなり軽減してくれる。また、耳が埋もれることで隙間も生じにくいため、遮音性の維持や音質への好影響も期待できそうだ。
ハウジングやパッドだけでなく、アーム部も細くなっている。また、ヘッドパットも細身のものに変更されている。両モデルとも収納時にはハウジング部を曲げて平らにできるが、QC-3の方がよりコンパクトに収納できる。厚さが減ったことで、バッグの中のちょっとした隙間に入れることもできるだろう。なお、重量もQC-2の170gから150gに軽量化されている。
電源は、ハウジング部が小型化されたことで、QC-2で使用していた単4電池が利用できなくなり、新たに専用のリチウム充電池が採用された。電池はハウジング上部と一体化しており、引っ張ると簡単に外れる。使用中に外れないかと心配になるが、アームがストッパーになっているため、意図せずに外れることはないだろう。良く考えられた機構だ。
連続使用時間は約20時間。QC-2の新タイプでは約38時間だったため18時間ほど減ってしまっているのが残念だ。単4電池が使えると旅先などでも便利だが、ボーズではQC-3用バッテリの単体発売も4,725円で行なう予定。長時間の外出が多いひとは予備に1つ買っておくといいだろう。 荷物が増えるという意味では、専用充電池になると充電器も持ち歩かなければいけないのが頭の痛いところ。ただ、QC-3の充電器は小さな石鹸程度のサイズなので、それほど問題にはならなそうだ。充電池を取り付けると完全な楕円形となるかわいいデザインだ。充電器はそのままコンセントに装着するタイプとなっている。
なお、今回も本体と付属品を全て収納できるキャリングケースが付属する。ケースもQC-2より一回り小さくなっており、素材も革のようなものに変更されている。QC-3は充電器も収納可能だ。
■ QC-2を超える静寂 それでは使ってみよう。まずはノイズキャンセル機能をOFFにしたまま、ヘッドフォンとしての遮音性能を比べてみる。前述の通りQC-3はオンイヤータイプを採用しており、構造的にはQC-2よりも厳しい状況。実際に比べてみても、やはりQC-2の方が遮音性能は高い。電車の中で着け比べると、ヴーッというモーター音はどちらも消えないが、ゴーッという風切り音はかなり軽減される。QC-2のほうが高音、低音ともに上下に消える幅が広い印象だ。だが、特殊なイヤーパッドが耳にしっかりとフィットしているため、予想していたよりも遮音性能差は少ない。「比べてみると少し違うな」程度のレベル。オンイヤータイプとは思えない遮音性能で、QC-3のイヤーパッドの性能の良さに関心した。
ノイズキャンセリング・ヘッドフォンの基本的なシステム、「マイクで周囲の騒音を拾い、その逆位相を電気的に生成し、ヘッドフォン内で再生。ノイズを打ち消して静かな環境を実現する」というのは、既に一般教養だろうが、キャンセル機能が目立つこともあり、「騒音が聞こえないヘッドフォン」に一番重要なのは、ノイズキャンセル機能なのだと思い込んでいる人も多いのではないだろうか。 確かに電機的なキャンセル機能も重要だが、それと同じくらいヘッドフォンとしての基本的な遮音性能も重要となる。つまり、「外部からの騒音を遮断する遮音性能」(パッシブなノイズ遮断機能)と、「それでも排除できない騒音を電気的に除去するキャンセル機能」(アクティブ・キャンセル機能)の組み合わせが、全体としてのキャンセル性能を決定付ける。
極端な話、あらゆる騒音を完全にシャットダウンできるヘッドフォンであれば、電気的なキャンセル機能など必要ないのである。
差は少ないとはいえオンイヤータイプのQC-3では、QC-2よりもパッシブな騒音除去性能は劣ることになってしまう。そこでボーズではアクティブなキャンセルのパワーを強化。QC-2では低音域のみに適用していたキャンセルを、中高域まで拡大したという。 では、いよいよアクティブ・ノイズキャンセル機能をONにしてみよう。テスト前は「とは言っても機構の違いはカバーしきれないだろう」と考えていたが、QC-3のアクティブ・キャンセル能力はその予想を超えるパワーを持っていた。 電車のヴーっというモーター音もほとんど消え、風切り音はほぼゼロ。時折聞こえるレールのつなぎ目を超えるゴトッ、ゴトッという音が微かに聞こえる程度。そこでQC-2に変更してみると、風切り音の最も大きい中音がかすかに聞こえ、ヴーっというモーター音も消しきれていない。 もっと詳しく比べるため、深夜の静かな室内でパソコンの音や冷蔵庫の音で比べてみたが、低音から中音までがゴッソリ消えるQC-3に対して、QC-2ではアクティブ・キャンセルが効かない中音の連続した騒音が目立つ。他社製品と比べるとQC-2のキャンセル力は高いほうだが、それでも全体のキャンセル能力は確実にQC-3が上回っていた。 感心する結果だったが、それは同時に、かなりアクティブノイズキャンセルを強く働かせているということになる。実際、無音の室内でノイズキャンセルをONにした時に聞こえる「サーッ」というアクティブ・キャンセル機構の動作音がQC-3の方が大きい。耳への圧迫感も、倍とはいわないものの、感覚的に1.5倍ほど強く感じた。個人的には、音楽を聴かずに着けたままくつろぐなら、QC-2の方が好みだ。
例えるなら、QC-2は10階か、せいぜい20階建てのビルのエレベーターを普通の速度で上下しているときの感覚、QC-3は50階建ての超高層ビルを、高速エレベーターで一気に登っている時のような違いだ。あくびをしたり、つばを飲み込んで鼓膜を直すほどではないが……。できればアクティブキャンセルパワーを強/弱で変更できると嬉しかった。ただ、QC-3も音楽をかければ違和感は消えるので、あまり神経質になることではないだろう。 なお、QC-2/3のどちらもケーブルは着脱式となっており、音楽再生ではなく、ノイズキャンセル機能のみを利用することもできる。入力はこれまでと同じステレオミニで金メッキ仕様。なお、QC-2では特殊だったプラグケースがQC-3は汎用的な形になっており、好みのケーブルに着け換えることもできそうだが、ボーズに聞いたところ本体側が4極になっている構造上、付属のケーブル以外ではノイズが出るなどの問題があり、任意のケーブルは使えないとのことだ。
キャンセル機能のON/OFFを行なうスライドボタンは、QC-2の丸い突起から、四角いスライドスイッチに変更されている。ボタンの面積が大きくなっているので、着けたまま手探りでON/OFFする際もQC-3の方がやりやすい。細かな違いだが嬉しい改善ポイントだ。
■ 低音が豊富な音質 再生音を比較してみよう。QC-3は外観に似合わず、QC-2よりも低音が豊富なことに驚く。イヤーパッドを外してみると真ん中が空洞になっており、イヤーパッド自体がスピーカーのエンクロージャのような役目をしているようだ。これによりオンイヤータイプでも高い低音再生能力を持っている。全体的な音色はQC-2と似ているのだが、バイオリンやギターの高音を聞いている際にQC-2で感じた、プラスチックのハウジングの鳴きのような音がQC-3には無い。プラスチックの音は音全体をチープに感じさせてしまうので、この点はQC-3の方が優れている。
豊富な低音はロックやヒップホップなどを聴くぶんには心地良い。だが、女性ボーカルのバラードやクラシック、ジャズなどを再生すると、「低音過多だな」と感じる部分もあった。ピアノソロでは、ピアノの筐体で響いた中低音がヘッドフォンでさらに増幅されるため、全体の分解能が低下。打鍵音や高音が聞きとりにくく、指の動きが見えにくい。バランスの良さではQC-2の方が優れており、幅広い音楽をそつなく再生してくれるだろう。 QC-3の音の傾向に合うソースとして、PSPのUMDビデオで映画を鑑賞してみた。重心の低い音が映画のサウンドにピッタリで、静寂のシーンも多い映画では、ノイズキャンセル機能も非常に効果的。電車の中とは思えないシアターサウンドを楽しむことができた。アクションゲームなどをプレイしても迫力満点だろう。 なお、プレーヤーとの相性か個体の問題かはわからないが、ケンウッドのポータブルプレーヤー「HD20GA7」と接続した時だけ、無音時のサーっというホワイトノイズが大きくなった。QC-2との組み合わせや、他のプレーヤーでは発生しなかったので相性の可能性が高いだろう。 また、これまでのQuietComfortシリーズで指摘していたノイズキャンセルOFF時のスルー出力だが、今回のQC-3でも対応はしていない。QC-2と同様に「ノイズキャンセル機能をONにした状態で最高の音を出すように設計しているので、それ以外のモードは不要」ということなのだろう。また、オートパワーオフ機能も備えていないので、細かい機能面ではQC-2と同じだ。
■ 利用者層を広げる進化、価格が唯一のネックか 小型化したことによる利便性の向上は想像以上で、バッグなどに収納しても邪魔にならず「今日は荷物が多いからヘッドフォンは置いていくか」と考えるようなシーンでも、QC-3ならば気軽に持ち出せそうだ。外観的な圧迫感や主張もかなり弱まっているので、「電車内や街中で大きなヘッドフォンを着けるのは恥ずかしい」という人にもお勧め。女性にも受け入れられやすいデザインだと感じられる。ともすればマニアックに感じられるノイズキャンセリングヘッドフォンの敷居を下げることにもなるだろう。 また、QC-2を超える総合的なノイズキャンセル性能も強烈。飛行機での移動が多い人や、地下鉄通勤の人など、「とにかく最高のノイズキャンセル性能が欲しい」という人にはQC-3をお勧めしたい。音質は好みによるが、QC-3の音質は低音寄りの特徴的なものなので、購入前に直営店などでチェックしてみると良いだろう。 最大の問題は、やはり価格だ。QC-2の41,790円という価格はコンシューマ向けのノイズキャンセリングヘッドフォンとして最高値だったが、それを超える47,250円という値段は気軽に手が出るものではない。小型/軽量化でオシャレになると、価格もライトになるかと期待を抱かせたが、実際は最高値を更新した。2万円台後半から3万円台前半くらいならば多くの人にお勧めできるのだが、価格のみがマニア向けを脱していないのは残念だ。 QC-2の新バージョンをレビューした前回、「小型化や耳掛け式、耳栓式などへの展開もあるかもしれない」と記載したが、今回は偶然にも小型化が実現したことになる。今後の展開としては耳掛け式などで、より低価格なモデルの登場にも期待したいところだ。
□ボーズのホームページ (2006年9月1日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
AV Watch編集部 Copyright (c)2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|