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「シンプル」と「高音質・高画質」がポイント
開発陣に聞く「ブルーレイ DIGA」のこだわり


 連続Blu-ray関連インタビューの最後は、松下電器の「ブルーレイ DIGA」開発陣。大阪・門真の開発現場に赴き、製品の狙いと開発のポイントを聞いた。


■ 「団塊の世代」を狙い打ちするBR100
  懐かしい映像には「録画」が必要

開発担当のビデオビジネスユニット 商品技術グループ 中村和彦参事(左)と、商品企画担当のビデオビジネスユニット・ホームネットワークビデオ商品第一チームの上村英人チームリーダー

 「ブルーレイ DIGA」を製品企画した背景について、商品企画を担当したビデオビジネスユニット・ホームネットワークビデオ商品第一チームの上村英人チームリーダーは以下のように説明する。

 「基本的には、ハイビジョンDIGAの上、大画面テレビをお持ちのお客様で高画質志向、という位置づけです。しかし、正直に言うと、さらに別の意図もある」

 その意図とは、「年代別戦略」だ。50代・60代の団塊の世代は、比較的資産にも余裕がある層。昔見た映画を、VIERAに代表されるプラズマディスプレイでゆったりと、いい画質で見たい、という欲求がある。このニーズが爆発する環境が整った、と松下は見ている。

 従来、BDレコーダなどの新製品を購入するのは、AVが好きでガジェットも好きな30代から40代と見られてきた。それは、DVDレコーダを買ったのがこの世代であったことからも裏付けられる。

 ガジェット好きと団塊の世代、両方にアプローチすることを考えて作られたのが、デジタルチューナをダブルで搭載する「BW200」と、シングルチューナで低価格な「BR100」の2ライン戦略である。

Blu-ray DIGA 2モデルの相違点
品番 DMR-BW200 DMR-BR100
HDD 500GB 200GB
チューナ 地上/BS/110度CSデジタル×2
地上アナログ×1
地上/BS/110度CSデジタル×1
地上アナログ×1
出力端子 HDMI(1080p)×1
D4×1
S映像×1
コンポジット×1
光デジタル音声×1
同軸デジタル音声×1
アナログ音声(5.1ch)×1
アナログ音声(2ch)×2
HDMI(1080p)×1
D4×1
S映像×1
コンポジット×1
光デジタル音声×1
アナログ音声(5.1ch)×1
アナログ音声(2ch)×2
i.LINK i.LINK×1
(DV入力/TS入出力兼用)
-
そのほか Ethernet×1


 「BR100は、団塊の世代に大画面テレビとセットで買ってもらうことを想定している」と上村氏は言う。ハイビジョン録画も重要だが、BD-ROMの映画タイトルを楽しめることも重要。ガジェット好きにはBW200を、シンプルなものを好む団塊の世代にはBR100を、という考え方なのだ。

DMR-BW200 DMR-BR100

 ならばプレーヤーを売ればいいのでは……と思われそうだが、そこにはちょっとした計算がある。「団塊の世代が見たいと思うのは、昔見た懐かしい映画。でも、BDタイトルは当面、最新の映画が中心になるでしょう。となると、BSデジタルなどで放送される名作タイトルの録画が必要になります。だから、『お求めやすい価格のレコーダ』が必要なのです」(上村氏)と説明する。

 カギとなるのは、HDMIでテレビからオーディオシステムまでをつなぐ「VIERA Link」。今春のDIGA/VIERAから採用された機能であり、Blu-ray DIGAのためだけに用意されたシステムではないが、操作性のシンプル化は、「セット売り」に対して大きな武器となる。


■ アナログ録画のBDダビングは「実時間」
  各社で分かれる方針

左より、音担当の商品技術グループ・HD/BDハード設計チームの梅迫実主任技師、映像担当のビデオビジネスユニット・商品企画グループ 甲野和彦主任技師。商品技術グループ・HD/BDハード設計チームの山崎雅弘主任技師

 となると、気になってくるのが録画およびライブラリ化のための機能。アナログ放送やSD解像度時のHDD記録方式はどうなっているのだろうか? Blu-ray DIGAの技術開発を担当した、ビデオビジネスユニット 商品技術グループ 中村和彦参事は、「アナログ放送をHDDに録画する場合は、MPEG-2 PSでの記録になります。ですから、DVDには高速ダビングですが、BDにダビングする時にはTSへの変換が必要になります。変換は等速です」と説明する。

 このあたりについては、ソニーのBlu-rayディスク・レコーダに関するインタビューの時も触れたが、少々わかりづらいので改めて説明しておきたい。

 DVDの場合、映像の記録にはMPEG-2 PS形式が使われる。だが、BDの場合は、MPEG-2に限らず、映像記録にTS形式が使われる。映像の記録形式が異なるため、相互にダビングを行なうには形式変換が必要となるのだ。

ブルーレイ DIGA
HDD録画モード
録画メディアHDD
記録モードDR(TS)
XP(PS)
SP(PS)
LP(PS)
EP 6/8時間(PS)

 ちなみにHD DVDは、アプリケーションフォーマットが、DVD-VRのフォーマットをそのまま内包する形で作られており、DVDでもHD DVDでも、形式変換は必要ない。DVDとの“共存”という点では、BDよりもHD DVDの方が合理的である、ともいえる。

 BDのアプリケーションフォーマット決定に携わった、松下電器 蓄積デバイス事業戦略室の小塚雅之室長は、「これからはデジタル放送が主流。とすれば、映像はいちいちエンコードすることなく、放送波内のデータをそのまま記録するダイレクトレコーディングが主流となる。放送ではTSが使われるので、アプリケーションフォーマットもそれにあわせている」と語る。

 だが現実問題として、SD解像度やアナログ放送の録画はまだ必要不可欠な機能。そのため、BDレコーダでのダビングには、各社の「BD」に関するスタンスが現れてくる。

 前出のように、Blu-ray DIGAはアナログ放送の映像をPS形式で記録する。これは、「わかりやすさを重視。BDはハイビジョン、DVDはSD(標準画質)、というように、メディアで切り分けることとした」(上村氏)ためだ。

ソニーの「BDZ-V9」

 すなわち、HDDからDVDにダビングするときはDVDのDIGAと同じく高速ダビングが可能になるが、BDにアナログ放送をダビングする場合、ダビングには映像と同じだけの時間がかかる、ということになる。例えば、ドラマを1クール分、BDにダビングすると、約12時間かかることとなる。

 それに対しソニーはBD重視。アナログ放送の映像をHDDに記録する際は、TS方式となるため、BDへ記録する時には形式変換が不要であり、高速ダビングが行なえる。だがDVDへダビングするときは、逆に等速で変換しながら、ということになるため、時間がかかる。

 現状では、松下とソニーの選択の、どちらが正解かはわからない。カタログでは見えづらいものの、両者のレコーダは、使い勝手にかなり違いがあるということだけは事実である。購入時には、自分がどちらのニーズを重視するのか、しっかりと認識しておく必要がある。

BD/DVDダビング時の松下、ソニーBDレコーダの違い
松下Blu-ray DIGA
「DMR-BW200/BR100」
ソニー
「BDZ-V9/V7」
HDDからBDへのダビング
ハイビジョン高速(TS)高速(TS)
SD等速(PS)高速(TS)
HDDからDVDへのダビング
SD高速(PS)等速(TS)

 話をBlu-ray DIGAに戻そう。この製品は、編集や録画予約に関する機能がかなりシンプルなものとなっている。そのため、「ディスクに記録する映像に対しては、チャプター設定などは行なえないようになっている」と中村氏は話す。ちょっとシンプルすぎるようにも感じるが、上村氏は「技術的なものではなく、商品企画上、狙ってのこと」と説明。

 「元々DIGAはシンプルな操作性をウリとしてきたのですが、世代を経るに従い、様々な機能を搭載してきた結果、『わかりづらい、使いこなせない』という声もいただくようになりました。そこで、今秋モデルのハイビジョンDIGAから、機能を大幅に整理し、わかりやすさを重視しました。その結果、『シンプルになりすぎた』との不満をお持ちの方もいるかも知れませんが、そういったお声については、今後検討をしていきたいと思います」(上村氏)と語る。

 逆に、BDになったからといって、DVD側と違う機能がない、という点は美点といえるだろう。前出のように、ダビング対象となる映像の種類が「ハイビジョン」か「SD」か、ということでディスクを使い分けるだけ、というシンプルさである。このあたりは、マスを狙う松下のこだわりなのだろう。

 ハイビジョン中心=ダイレクトレコーディング中心となると、録画データの容量は大きくなりやすい。「なので、BDの2層対応は必須と考えました。元々、『大容量』というフォーマットのメリットを生かすにも、2層は必要ですし。実は、今回のドライブは、すでにPC用に使っているものを、AV向けに調整しています。ですから、ドライブに関しては比較的容易に準備ができました」と、中村氏は、ドライブ開発について説明する。


■ i.LINKでのTSムーブに対応も
  動作保証には難題山積

 マニア向けよりも初級者の使い勝手を訴求するBlu-ray DIGAだが、こだわる部分ももちろんある。それが、i.LINKを使った他機種からのダビング/ムーブだ。

 「DVD搭載の『ハイビジョンDIGA』では、せっかくハイビジョンで録画しても、それを書き出す時にはDVDのSD画質にするしかありませんでした。ですから、i.LINKをサポートしてもなかなか価値がでなかった。しかしBDを搭載したことで、ハイビジョンのままライブラリ化することが可能になりました。そこで、まずは自社製品からですが、対応を始めることにしました」と中村氏は語る。現状では、同社製のD-VHSデッキからのコピーフリーコンテンツのダビングと、ハイビジョンDIGAの中でもi.LINK端子搭載モデルからのムーブに関して、公式に対応が公表されている。

 だが実際には、開発の現場では、さらに広い複数の製品を視野においた技術開発が行なわれていたようだ。製品をテストしてみると、同社からは発売されていない、HDV規格のビデオカメラからのダビングや、他社のHDDレコーダからのダビングも可能であった。

 ただ、それが松下側からサポートされることはないし、動作保証が行なわれることもない。i.LINK機器の動作保証はきわめて難しく、どのメーカーも頭を悩ませている。特に問題なのは、コピーワンスの存在だ。ムーブに失敗すると、大切な映像が失われてしまうことになり、メーカー側では保証することができない。


■ CDの音質にもこだわる
  AACの失った高域を補間

 シンプルさの他にも、Blu-ray DIGAがこだわった部分がある。それが音質と画質だ。今春のハイビジョンDIGA以降の製品には、高画質化回路として「美画質エンジン」と呼ばれる機能が盛り込まれている。基本的な部分は、Blu-ray DIGAのそれと大差ないが、BDビデオを1080iから1080pへ変換する機能が追加されている。

 元々美画質エンジンは、地デジなどで顕著なMPEG-2の圧縮ノイズを軽減するなどの目的で搭載されたものだ。当然、HDDだけでなく、BDに記録された映像にも効果は発揮される。開発を担当した、ビデオビジネスユニット・商品企画グループの甲野和彦主任技師は、「BDビデオのそれに比べ、放送映像は比較的ノイズが多い。こういった回路がないと、なかなか良好な画質にはなりません」と搭載理由を語る。今回はデモとして、森や水面といった、特に乱れがちな映像をチェックしてみたが、確かに効果は絶大だ。

 ただし、BDビデオに関しては、1080pへの変換以外の補正機能は働かない。これは技術的な理由ではなく、「ディレクターズ・インテンション(制作者側の意図)を最大限尊重するため」(甲野氏)の配慮だという。

 音質については、さらにこだわりが強い。特に、上位モデルの「BW200」には、音声出力系にこだわりの回路をもりこんだ。音声系の開発を統括した、商品技術グループ・HD/BDハード設計チームの山崎雅弘主幹技師は、まず私にひとつのデモを「聞かせて」くれた。それは、CDをBW200で再生するデモだ。

 ビデオレコーダの音楽機能といえば、「おまけ」的なものが多く、オーディオ並の音質を望むなど無理というのが一般的。だが、BW200の音は実に表現豊かかつ艶やかであり、「おまけ」というにはもったいないものに感じられた。

 映画の音声再生についても良好だ。Blu-ray DIGAには、AACで不可逆圧縮された音楽データから、失われた高音域を補完する機能が盛り込まれている。この機能が功を奏してか、サラウンド再生時の音の広がり、定位感がよりしっかりとした感じになり、臨場感が増していた。

 「結局5.1ch再生といっても、不可逆圧縮で切り捨てられた音です。そこを補完してやることが重要です」と山崎氏は言う。今後、BDでリニアPCMやロスレスの音声データが一般的となれば、DVDの5.1chサラウンドに不満が出ることもあるだろう。その時のために、「音の水準を上げる」ことが、山崎氏たちの狙ったことである。

 だが、それだけのクオリティを楽しむには、当然相応のオーディオシステムも必要となる。高音質化しているとはいえ、テレビ内蔵のスピーカーでは力不足である。

 そのために、BW200では「復活」した機能もある。それは同軸のデジタル音声出力だ。山崎氏とともに音声部の開発を担当した、商品技術グループ・HD/BDハード設計チームの梅迫実主任技師は、「オーディオシステムにはお金がかかるもの。一度投資すると、再度そろえるのがなかなか難しいものです。ですから、今回は満を持して『復活』ということになりました」と語る。


■ BW200に生きる「テクニクス」の血

BW200に使われる高音質コンデンサ。環境対策のために失われた音をとりもどすために、2年半の開発期間が必要だったという

 そして、BW200のオーディオ出力にはもう一つ秘密がある。それが専用開発の音響用コンデンサだ。パーツ開発だけで2年半かかっているという、苦労の品である。

 「実はこれと同等のコンデンサは、以前は存在したんです。しかし、パッケージには塩化ビニールを、配線用の足には鉛をつかっているために、環境対策で使えなくなりました。ちょっとした変化なんですが、環境対応のため、どうしても元通りの音質が出なかった。そこで、環境負荷を与えず、昔通りの音が出るコンデンサの開発をすすめ、今回ようやく搭載にこぎつけました」(梅迫氏)。

 山崎氏や梅迫氏が「昔の」という言葉にこだわるのには理由がある。実は開発メンバーの多くが、元々「テクニクス」でピュアオーディオ機器の開発に携わっていた人々なのだ。開発現場には、テクニクスの高級オーディオが設置され、音声出力の「リファレンス」として使われている。

 テクニクスブランドのオーディオ機器は、2005年に販売が終了している。しかしそのノウハウは、そのままビデオレコーダのチームに受け継がれていたのだ。「BW200は、テクニクスの血を受け継いだレコーダといっていいでしょうね」と山崎氏は語る。

BW200とテクニクス製品

 「レコーダというと『画質・音質には期待できない』という声が多いですよね。でも、今回のBW200では、その声を払拭したいのです。日本では、プレーヤーが市場として成立しづらいので、ならばレコーダで高音質・高画質を狙おう、と考えました。BR100もBDレコーダとしては十分な高音質化を行ないましたが、BW200では、さらに上、現状で最高を目指したわけです」(山崎氏)。

 デジタルの時代になり、誰もが「そこそこのコストでそこそこ満足な音」を得られるようになった。結果、音質の差はわかりづらく、伝わりづらくなっている。テクニクスブランドが消えたのも、そうした状況があってのことだろう。

 だが、そこでノウハウを失っては意味がない。BW200は、松下らしい「継承の力」が、製品に反映された製品、といえるのではないだろうか。


□松下電器産業のホームページ
http://www.panasonic.co.jp/index3.html
□製品情報
http://panasonic.jp/blu-ray/index.html
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(2006年11月16日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、「ウルトラONE」(宝島社)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]



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