■ワンセグ対応セカンドモデル登場 東芝「gigabeat」は、国産メーカーのHDDタイプポータブルプレーヤーとしては早くから参入し、地道に製品リリースを続けてきたシリーズである。というのも東芝は、1.8インチHDD製造で独占的な地位を占めており、マルチメディア用途の製品を自社で作り続けるという意義は大きい。もちろん1.8インチHDDの最大顧客はなんといってもAppleのiPodなのではあるが、最近ではマイクロソフトのメディアプレーヤーZuneも東芝が製造するなど、gigabeatの資産が大化けした感もある。 さて、そんなgigabeatであるが、最近の展開を見ると、フラッシュメモリ内蔵で軽量型の「Pシリーズ」、iPod路線の「Sシリーズ」、そしてビデオ視聴をメインに据えた「Vシリーズ」の3ラインナップとなっているようだ。話題のワンセグ対応は、以前から「gigabeat V30T」というモデルが存在したが、どういうわけかレビューのタイミングを逃してしまっていた。 そして今回はVシリーズの最新モデル、「V30E」をお借りすることができた。11月22日より発売されており、店頭予想価格は49,800円前後。gigabeatも昨今では、サブスクリプション型音楽配信サービス「ナップスター」の対応プレーヤーとしても注目を集めてきている。 ワンセグ + Napsterで攻める新しいgigabeat「V30E」を、さっそく試してみよう。
■ 見た目はほとんど変わらないが…… 今回のV30Eは、外見的には前モデルV30Tとほとんど変わらない。見た目的にはショートカットボタンの「QUICK」ボタンが「ワンセグ」ボタンに変わったぐらいである。ただ使い勝手はかなりワンセグ寄りとなっているようである。 今回のVシリーズには、HDDの容量違いで30GBと60GBモデルがあるが、30GBにのみ新カラーの「クリムゾンレッド」が加わった。写真ではかなり派手な赤に写ってしまうが、なかなかデジカメで再現するのは出辛い色だ。実際はもっと暗めで彩度が浅い感じである。
ボディは右側の背面が少し膨らんでおり、この部分にバッテリが内蔵されているようだ。バッテリはユーザーが取り外せるようにはなっていない。左に行くにしたがってくさび形になる、独特のラインがユニークだ。一見すると、背面に何かクレードルのようなものが合体してちゃんと立方体になるかのような印象があるが、そのようなオプションはない。形として面白いことは面白いが、どことなく未完成さを感じるデザインだ。 前面には3.5型のカラー液晶ディスプレイがある。解像度は320×240ドットのハーフVGAだ。ボタン類は上からジョイスティック型のナビゲーションスティック、スタート、バック、ワンセグ、ボリュームとなっている。その下の穴はスピーカーだ。上部には再生、早送りなどの操作ボタンと、電源ボタンがある。ほとんどをGUIで操作するため、ボタン類はシンプルだ。
端子類は左側に集中しており、USBや拡張コネクタ、イヤホン端子類がある。ワンセグの内蔵アンテナも、左側に装備されている。アンテナの全長は約13cmで、根元からL字型に折り曲げられるようになっている。 テレビとして視聴するためにはある程度自立してくれないと困るわけだが、本機には斜めに自立させるためのアクリル製のスタンドが付属している。足を閉じることができるため、付けたままでも邪魔にはならない。そのほか付属品としては、ACアダプタ、USBケーブル、イヤフォン、AVケーブルなどがある。
付属CD-ROMには、Windows Media Player 10(以下WMP10)が収録されている。以前のgigabeatは独自の転送ソフトが付属したこともあったが、近年はかなりWindows Mediaにガッチリ食い込んだ作りとなっている。Windows MediaのDRM(以下WM DRM10)にもしっかり対応しているので、マイクロソフトのサービス戦略に乗っかるのであれば、安心して使える。 専用ドライバなどは、CD-ROM収録のWMP10に組み込まれている。したがってすでにWMP10がインストールされた環境であっても、WMP10のインストーラを起動させる必要がある。ただし無駄にアンインストールしたり上書きするわけではなく、使用環境のうち、足りないドライバ類やDRMのバグフィックスパッチなどがインストールされるだけだ。そのあたりは、良くできている。
■ ワンセグ機としてはかなり感度良好 VシリーズのGUIは、Windows Mobile software for Portable Media Center(以下PMC)に則っている。そのため、Startボタンがあったりするわけだ。Startから表示されるメインメニューとしては、「マイテレビ」「マイミュージック」「マイピクチャ」「マイビデオ」というWindows Media Center Editionあたりでお馴染みのカテゴリが並び、それにワンセグが追加されているという感じだ。
テレビとビデオとワンセグという似たようなものが個別に並ぶため、今ひとつすっきりした感じがしない。Windows MCEとガッチリ組むためには必要なのだろうが、日本ではほとんど普及していないことを考えると、違和感を感じる部分だ。 ただ今回のV30Eは、前モデルよりもワンセグを積極的にフィーチャーしたモデルだ。そういう意味では、前回よりも日本の事情寄りのマシンと言えるだろう。ワンセグ部分のメニュー構造は、「スタート」→「ワンセグ」→「ワンセグメニュー」→「チャンネルリスト」→「テレビ視聴」という具合になっており、正攻法でスタートメニューから行くと、まあ結構遠いわけだ。それがワンセグボタンを押すと、どこのメニューにいても「テレビ視聴」に直接ジャンプする。 ワンセグを最初に使うときは、ワンセグメニューからチャンネル設定などを行なう必要がある。受信エリアを指定する方法、自動でスキャンさせる方法の2種類から選択できる。見つかったチャンネルは、チャンネルの「プリセット」に登録する。プリセットは5つまで設定できるので、国内で移動の多い人は、いろんな場所でのプリセットが保持できるため、便利だろう。
肝心の視聴感度だが、かなり良好だ。自宅のマンションは4Fで、東と西に大きな窓があり見通しもいい環境だが、V30Eは室内のどこに移動しても、問題なく視聴できる。ただ良好に視聴できるのはキー局のみで、MXテレビやテレビ埼玉など関東ローカル局は電波出力が弱いせいか、室内では視聴できなかった。 現在ワンセグ視聴のデファクトは、もしかしたらバッファローの「ちょいテレ」なのではないかと思われるが、この本体アンテナでは、窓から1m以上引っ込むと見えなくなってしまう。これと比較すると、十分な感度が確保されていると言えるだろう。 「ちょいテレ」の場合は、かなり長く延長できる外部アンテナが付属している。V30Eも、オプションで外部アンテナ用のケーブルがあるようだ。だが今後ワンセグが普及するにつれて、複数のワンセグ機器を持つ可能性も出てくる。このような場合に、外部アンテナを共有できるよう、アンテナのコネクタを標準化するなどの動きも、今後は必要になるのかもしれない。
番組視聴中は、ナビゲーションスティックの左右で番組説明やEPGにアクセスできる。チャンネルの変更は、ナビゲーションスティックの縦方向だ。ただしチャンネル変更には、6秒ほどかかる。目的のチャンネルが離れている場合は、いったんチャンネルリストに戻って選局した方が速い。
■ テレビ録画はもうワンセグでOK? ワンセグの魅力は、どこでもテレビが良好に受信できるという点にある。したがってこれまであまり録画に関しては、それほど積極的にフィーチャーされてこなかったように思える。 以前のV30Tでは、番組予約は1件のみで、EPGも利用できなかったという。だが今回は予約は16件まで、EPGも利用できるようになった。 EPGは、各局にチューニング中のみ参照できるスタイルで、地デジの番組表のような感じではない。また、現在放送中の番組を含めどれぐらい先の番組情報まで配信するかは、各局によって、あるいは時間帯によって微妙に異なっている。最長で3時間先の番組ぐらいまでわかる、と思っていればいいだろう。 番組の録画予約は、EPG中の予約したい番組のところでセンターボタンを押すだけである。番組情報を元に予約できるほか、テレビっぽく視聴予約もできる。また毎週の曜日予約にも変更できるので、深夜番組を定期的に録画しておいて通勤時に見る、といったサイクルの利用もやりやすくなった。テレビ予約/視聴システムとしては、これまで地上アナログでできていたことと遜色ない出来だ。
予約録画した番組は、ワンセグメニューの「録画番組再生」から選択する。ワンセグ関連はすべてワンセグの中で完結しているのである。画質に関しては、元々ワンセグなのでそれほど良くはないが、録画によって劣化している感じはない。もちろん録画している時間帯に、きちんと電波が受信できる場所に本体を置いておかなければならないと言う点は、注意しなければならない。
録画番組の再生中は、ナビゲーションスティックの左右で早送り、巻き戻しができる。各録画番組で、レジューム再生をサポートしているところも、なかなかよく考えられている。また「ワンセグボタン」はこのときは「クイックメニュー」用のボタンとして機能する。録画した後でも、音声多重の切り替えができたり、字幕の表示ができたりといったことができるのは、新しい放送を体験しているという感じがする。 なお録画した番組ファイルは、本体をPCに接続しても読み出せないようになっている。あくまでも本体一つで完結するという形だ。反対にPCで録画した番組ファイルなどをV30Eに転送する場合は、WMP10を使って同期転送を行なうことになる。
■ 上品な音楽再生能力 続いてワンセグと並ぶもう一つの目玉、ナップスターとの連携を見ていこう。ナップスターサービスでポータブルプレーヤーへ楽曲を転送するには、月額1,980円の「Napster To Go」のアカウント契約を行なう必要がある。gigabeatをPCに接続し、インストールしたNapsterアプリにデバイスの登録を行なう。1アカウントにつき、3デバイスまで登録できる。登録が完了すれば、Napsterアプリの「ライブラリ」上にgigabeatが現われる。
Napsterアプリの画面右下には、新たに転送のためのエリアが表示される。ここに転送したい楽曲をドラッグ&ドロップすれば、転送されるというわけだ。そのほかにも、転送用のプレイリストを作成しておけば、接続するたびに同期転送を行なうということも可能だ。 ただNapsterアプリの場合、一つのプレイリストに登録できるのは260曲までという制限がある。実際にサービスを利用してみればわかるが、サブスクリプション型サービスにおいて260曲などというのは、結構あっという間だ。自動同期のためにいくつもプレイリストを作成しなければならないというのは、今後のナップスター側の課題だろう。
音楽の再生は、スタートメニューから「マイミュージック」を選択する。ここではアーティスト、アルバム、ジャンル、曲、プレイリストの一覧が表示されるので、そこから選んで再生するというスタイルになっている。「再生リスト」とあるのが、プレイリストだ。転送に使ったプレイリストも、ここから選択できる。 プレイリスト内にある「クイックリスト」は、本体内で作成できるプレイリストだ。いくつかアルバムを選んで連続再生させるなどの使い方が可能。リスト内の曲の入れ替えや個別削除などはできないが、プレイリスト全体を削除できる。このあたりは、iPodの「On-The-Go」の影響を感じさせる。 曲の再生中は、かなり大きくジャケットが表示される。ナビゲーションスティックを右に倒すと、ジャケットの全画面表示、アルバムリスト、再生方式選択画面などに順次切り替わっていく。
gigabeatの再生品質は、実は以前からかなり上質だ。ほかのプレーヤーでは歪みっぽく再生される曲、いつもテストに使っているのは「Kraftwerk」の「Expo2000」という曲だが、これをも余裕で再生できる質の高さを持っている。 だが昨今のgigabeatは、さらに音質が向上している。というのも、数世代前からH2C Technologyという技術を使って、失われた高音域を補完するというアルゴリズムを搭載しているのだ。このH2Cという技術、九州工業大学HIT開発センターと東芝が共同で開発した…とここまで読んで、アレ? どこかで聞いたような、と思った読者は、Zooma!の常連さんであろう。 実は先週レビューした日立マクセルの「Vraison」、どうもこれと技術的ベースの出所は同じようである。もちろん実装方法が、かたやソフトウェア、かたやハードウェアという点も含め、どこまで補完するかなどの違いは当然あるだろう。 では実際に音を聴いてみよう。H2CのON/OFFは、スタートメニューの「設定」にある「Harmonics」という項目で設定できる。切り替えた瞬間に変わるわけではないそうなので、比較がなかなか難しいが、先週のVraisonのように誰が聴いてもわかるほどの劇的な差はない。ただONのほうが、ライドシンバルのような高域のディテールは改善しているのはわかる。Vraisonでは隠れたディテールまで発掘するような効果が得られたが、こちらはあくまでも原音であるCDの音質の再現にこだわったということだろう。
付属のイヤホンは見た目がショボイのであまり期待していなかったが、実際には低域の出が良く、解像感なども含めて意外なほどクオリティが高い。ただ低域の延びが邪魔して、中音域の一部がごちゃごちゃしてしまい、ソースによっては歪みっぽく聞こえるところがあるのは惜しい。イヤーパッドも付属しないので、音漏れも気になるところだ。 そこで前回も使用した、ソニー「MDR-SA5000」で聞き直してみた。キレのいい低域、高域の滑らかな延び、十分な解像感が堪能できる。全体的に音を作った感じがなく、非常に素直な出力と言えるだろう。 機能としてはイコライザも装備されているが、ヘッドホンにある程度の能力があれば、特に使う必要性は感じない。イコライザを使うとちょっと音圧が下がる感じもあるので、多少ガッカリ感がある。
■ 総論 製品シリーズとしては、結構歴史が深いgigabeat。新製品が出ればそれなりに話題になるのだが、これまでiPodやWalkmanの派手な戦略に隠れて、店頭では割と地味な印象がある。だが久しぶりに触ってみると、着実に良いものになってきているという手応えを感じた。 GUIがモロPMCなので日本人にはちょっと抵抗がある作りだが、モノとしては破綻もなく、かなりしっかり作られている。ワンセグの使い勝手向上によって、「テレビ」と「ビデオ」のカテゴリはあまり使い道がなくなってしまう感じもあるが、来年Windows Vistaが普及してくると、また状況も変わっていくのかもしれない。 ワンセグ周りの作りに関しては、これまでのレコーダさながらに使い勝手もこなれており、前作V30Tの反省点をよく生かしている。その前作だが、来年ファームウェアのアップデートが予定されており、V30Eの機能に近くなるという。このあたりのサポートも、旧ユーザーにはうれしいサービスだ。 音楽関係では、これまでWMAを使ったサービスでそれほど成功したものがなかったため、せっかくWM DRM10対応でもあまり意味がなかった。だがNapsterの上陸により、洋楽ファンには俄然魅力が出てきた機能だ。製品内にもナップスターの2週間お試しクーポンが入っている。 音質もH2C搭載により、ほかのプレーヤーにはない高域特性の良さが実感できる。ただ演算次第ではエフェクト的な効果も期待できる技術なだけに、もう少し遊べる要素は欲しいところだ。 全体的にかなりマイクロソフトと強力に組んだ製品なだけに、PCとの連携方法などの部分では、好みが分かれるところだろう。エクスプローラでぽいぽいファイルを放り込めばなんでも再生できるような、韓国製のマルチメディアプレーヤーとは根本的に違う。だが逆にWindowsの流儀に従うと割り切ってしまえば、非常に満足感の高いプレーヤーだ。
□東芝のホームページ (2006年11月29日)
[Reported by 小寺信良]
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