■ 本格HDVカメラの立ち位置
ハイビジョンカメラのリリースが、いよいよ本格的になってきた。市場ではDVカメラ、DVDカメラも売れてはいるが、もう来年にはハイビジョンでなければ相手にされないところまで行くのではないかと予測している。 もちろん売れ筋としては、10万円台の普及モデルということになるだろうが、その一方でハイエンドはどこまでやるのか、というのは気になるところである。ハイエンドとは言っても、プロ機・業務用機まで見ればキリがない。コンシューマ機でのハイエンドである。 ただコンシューマハイエンド機と業務用低価格モデルは、ユーザー層としてあまり境目がないのも事実だ。過去ソニー製品でも「DCR-VX1000」や「DCR-VX2000」といったコンシューマ機も、業務用途で使われてきた経緯がある。すなわちコンシューマハイエンドとは、ハイアマ~業務ユーザー中心という独特の顧客層を抱えているのがわかる。
さて、11月11日はPS3の発売騒ぎでエラいことだったのも記憶に新しいところだが、ソニーのハイエンドHDV「HDR-FX7」(以下FX7)もこの日から発売されている。2004年にソニー初のHDV機「HDR-FX1」(FX1)がリリースされたが、その後継機となるモデルだ。店頭予想価格は38万円前後だが、ネットでは30万円程度まで下がっている。なおバッテリ及び充電器は別売である。 FX7ベースの業務用機は、「HVR-V1J」というモデルがあるので、ここではFX7はコンシューマ機という前提で話を進めさせていただく。もちろん業務~プロが使うことは否定しない。あくまでも何をどう使うかは、ユーザーが決めることである。 ソニーが繰り出すコンシューマHDVカメラの最高峰、FX7を早速試してみよう。 ■ 大幅な小型化を実現。ワイコンがバヨネットに対応!
FX1もハンディカムと言いながら全然ハンディなサイズではなかったものだが、FX7はFX1に対して体積比で40%減、重量25%減を達成した。FX7のサイズ感としては、DVカメラの名機VX2000と同等といった感じだ。ボディはマグネシウムダイカストで、FX1よりも明るいグレーとなっている。
では順に光学系から見ていこう。レンズはもちろんカール ツァイス「バリオ・ゾナーT*」レンズで、光学20倍ズームを実現。画角は35mm換算で37.4mm~748mmと、若干FX1よりも狭くなっている。解放F値はワイド端で1.6、テレ端で2.8。
ただFX7は、ワイコンの取り付けで革命的な仕掛けが施されている。なんと0.8倍の専用ワイコン「VCL-HG0862」(44,940円)が、バヨネットマウントで取り付けられるのである。 これまで交換レンズならバヨネットが当たり前であったが、コンバージョンレンズはフィルタと同列の扱いであったため、スクリューマウントであった。だがレンズ固定カメラではワイコンの取り外しが頻繁に行なわれるため、これが非常に面倒だったのだ。これがバヨネットで一発マウントになったのは大きい。今後ぜひ標準規格にして、ほかのモデルにも取り入れて欲しいものである。 撮像素子は、1/4型 112万画素クリアビッドCMOSセンサーを3つ使った3CMOS。SD時代は「DCR-PC1000」で3CMOSをやったが、HDではFX7が初めてだ。有効画素数は104万画素だが、同社によれば、3つの撮像素子から画素補間する画素ずらしとは異なり、各色の撮像素子が独立して高精度な画素補間を可能にした新システムにより1,920×1,080ドットを得ているということだ。内部処理はすべて解像度1,920×1,080ドットのフルHDで行なわれている。 側面の操作部を見てみよう。リング部はマニュアルフォーカスとズーム。その後ろには「明るさ/アイリス」ダイヤルがある。以前のモデルでは明るさダイヤルが液晶モニタの根元にあって、液晶を開くと操作がし辛かった。これが前になったのは大きい。ていうかこの問題は2000年発売のVX2000から延々言われてきたことなのだが、6年かかってようやくユーザーの意見が取り入れられたことになる。
また表示が「明るさ/アイリス」となっているように、「明るさ」として動作するか、「アイリス」として動作するかを選ぶことができる。「明るさ」に設定した場合は、アイリスを開けていって、開放後はビデオゲインで増感するという連続した動きになる。 NDフィルタは1/4と1/16の2段階。FX1は1/6と1/32だったので、全体的に薄めになっている。フォーカス関係は、本体底部にマニュアルとオートの切り替えボタン、拡大フォーカスボタンがある。また「明るさ/アイリス」ダイヤルの下に、プッシュ式のオートフォーカスボタンがある。 液晶モニタは3.5型のクリアフォト液晶プラス。「HDR-HC3」と方式は同じだが、FX7はタッチスクリーン式ではないので、その分、見え方はクリアだ。 機能を自由に割り当てられるユーザー設定ボタンは外側に3つ、液晶内部に3つある。VTR操作ボタン類も液晶内部にあるため、ボタン類が多く感じられるが、あまりいろんなボタンが機能を兼用していると使いづらい。だがFX7はあまり兼用ボタンがなく、好感が持てる。 液晶下には、メモリースティックDuoスロット、USB、HDMI端子を装備。そのほかヘッドホン端子、ピクチャープロファイル、ステータスチェックボタンがある。このあたりの使い勝手はあとで見ていこう。 背面はオート/マニュアルの切り替えスイッチと、ゲイン、シャッタースピードなどマニュアル操作やメニュー操作用のボタン/ダイヤルが並ぶ。このあたりは、VX2000およびその業務用モデル「DSR-PD150」あたりから伝統の設計だ。
グリップ部の電源ボタンはシンプルで、カメラとビデオの2モードしかない。本機は静止画も撮れるが、ビデオ撮影中に無制限に撮影できるため、静止画専用モードを持たない。 ズームレバーは比較的大きめで、ズーム操作もラクだ。フォトボタンは、静止画を撮る必要がない場合は、拡大フォーカス用のボタンに変更することもできる。
■ クセのない絵に幅広いパラメータ
FX7はその使い勝手の良さが売りのモデルであるが、まずはハイビジョン初の3CMOSの画像が気になるところだ。テスト撮影は晴天、曇天2回に渡って行なった。 全体的なトーンとしては、さすがにハイエンド機ということでかなりニュートラルな色味だ。それをベースにして、自分で色を作っていけるといった作りになっている。
曇天でも発色の良さは申しぶんない。また晴天下でも実物の強い発色に負けず、きちんと収められるだけのキャパシティがある。ただ無理に色を出そうとして設定をいじるとのっぺりした感じになるので、注意が必要だ。 解像感はビデオ特有のカリッとした感じではなく、標準では若干シネマっぽい柔らか目の作りだ。だが遠景の細かい部分を誤魔化している感じはなく、描写は丁寧である。硬い絵が好みであれば、「ピクチャープロファイル」内でシャープネスを設定することができる。
3CMOSの特徴は、強い光源に対してスミアが出ないということである。試しに夕日を撮影してみたが、これまでのCCDカメラでは、まずあり得ない映像が撮れる。夕焼けぐらいならCCDでも撮れるが、夕日そのものが撮れるというのは驚異的だ。
また絵作りの広さも、FX7の特徴だろう。6つのピクチャープロファイルに、好みの設定をプリセットさせることができる。なお工場出荷時には4種類のプリセットがあらかじめ仕込まれている。各パラメータ可変範囲と、プリセットの設定は以下のとおり。
パラメータの種類としては、これ以上が設定できるカメラもあるが、コンシューマ機としては妥当なところだろう。なお業務用機のHVR-V1Jでは、さらにニーポイントや黒色補正といったパラメータがある。 昨今の流れとして、シネマトーンガンマを採用しているが、本機には、24Pといったプログレッシブ撮影モードはない。またガンマが変わるだけで、カラーマトリックスの変更は行なわない。それ以上を求めるならば、HVR-V1Jを選ぶということになるだろう。 圧縮ノイズは、すでに手慣れたMPEG-2ということもあって、水面なども破綻は見られない。だが案外手持ちで撮ったような何気ないカットにブロックノイズを感じることもあり、そういう意味では割と油断ならないカメラかもしれない。
■ 使い勝手にこだわった作り
FX7は、コンシューマ機には珍しく、フルマニュアルの操作性にこだわったカメラである。その点をチェックしてみよう。 まずハイビジョンカメラで問題になることが多いフォーカス周りだ。オートフォーカスは当然備えているが、AF中にもフォーカスリングを動かせば、その通りに追従する。半マニュアル的な使い方ができるのは面白い。またフォーカスリングも大きいため、手動でのフォーカスのフォローもラクだ。 拡大フォーカスは、ボタンを押している間だけ2倍に拡大してフォーカスをアシストしてくれる機能だ。カラーとモノクロに切り替えることができる。個人的にはあまり使わないが、ピーキング表示も輪郭部が赤や黄色に設定できるため、従来の白よりも見やすくなっている。 動作モードとしては、オートかマニュアルの2つしかない。マニュアルでも一度に全部がマニュアルになるのではなく、アイリス、シャッタースピードなどを個別にマニュアルにできるため、いつでもアイリス優先、シャッター優先として使える。このあたりの設計は、FX1譲りだ。 ただFX7の場合は、オートでもかなり制御が効くようになっている。「AGCリミット」では増感の限界を指定できるため、暗い場所でも増感しない、あるいは6dBまでは許す、といったこともできる。またアイリスにもリミッタがあり、明るい場所でもF4以上絞らない、といったこともできる。要は明るい方、暗い方両方の状況に対して、動作制御ができるわけである。
またモニタには、オート時でもアイリス、ゲイン、シャッタースピードの現在値が常時表示される。オートでやらしておいて、ダメだと思ったらマニュアルに切り替えるといった使い方ができる。 さらにモニタは、液晶とビューファインダの同時点灯が可能になった。これまでは明るい場所でちょっとファインダを覗くだけでも、いちいち液晶モニタを閉じなければならなかった。すでに録画を開始している場合は揺れたり音が出たりするので触れなかったのだが、ひょいと覗き込めばいつでもしっかり絵柄を確認できるというのは、非常に便利である。 ユーザー設定ボタンが6つもあるのは、なかなか便利だ。よく使う機能を仕込んでおくだけでなく、ピクチャープロファイルも割り当てておけるので、トーンの変更もボタン一発である。またユーザー設定ボタンの1~3は、切り替えでショットトランジション用のボタンとしても使える。
ショットトランジションは2点間の設定を滑らかに繋いでくれる機能で、ズームやフォーカス、ホワイトバランスなど、一人では同時に変更できない設定を、決められた時間で行なってくれる。ズームやパンと一緒に使うと、複雑なショットが簡単に撮影できる。 トランジションタイムは3.5秒から15秒まで、0.5秒刻みで設定できる。単に滑らかなズーム機能としても使えるし、なかなか使い出のある機能だ。各ボタンの設定や現在のステータスは、「ステータスチェック」ボタンで一覧表示を見ることができる。オーディオレベル表示もここで確認できる。 ■ パワーアップしたスペシャル機能
最後にいくつか特殊機能について触れておこう。FX7の一つの特徴として、「デジタルエクステンダー」という機能がある。 過去プロ用ビデオカメラでは、カメラとレンズに挟み込むような形で倍率を上げる「エクステンダー」というものがあった。コンバージョンレンズと違って、装着したままレンズを入れたり外したりできるのがポイントである。超アナログな仕掛けなので、レンズを半分だけ入れると拡大前と拡大後の映像がずれて一緒に写るという、万華鏡のような摩訶不思議な映像が撮れたりしたものだ。 デジタルエクステンダーは、いわゆるデジタルズームの一種なのだが、操作性としてはエクステンダーに近い。つまり光学ズームが行ききった先にデジタルズームがあるのではなく、ONでズーム全域が1.5倍拡大されるのである。倍率を1.5倍に留めたのは、このぐらいが画質的に限界という線なのだろう。
実際にテレ端で試してみたが、ON/とOFFを比べれば、さすがに画質が若干落ちているのはわかる。だが光学20倍をさらに1.5倍するわけだから、30倍まで寄れることになる。この映像的なインパクトは絶大で、多少画質は落としても、ここまで寄れるというメリットは大いに感じられる。ワイコンもワンタッチだし、画角に関しての自由度はかなり高いカメラシステムとなっている。 またHC3から搭載されて好評な「滑らかスロー録画」は、今回秒数が2倍に拡張されて、6秒間になった。4倍に拡張されるので24秒のスローモーションとなる。画質もHC3の時から若干アップした。
静止画に関しては、このクラスのカメラとしてはあまり積極的に使うユーザーも少ないだろう。なにせFX1には静止画機能がなかったぐらいである。FX7は録画中に、静止画を無制限で同時撮影可能になった。ただ単板式の高画素な撮像素子を搭載するモデルではないため、1,440×810ドットとなっている。
FX7のフォトボタンは、多くのデジカメやビデオカメラで採用されている二段式ではなく、押したらすぐに撮れる一段式だ。軽く押しただけであっけなく撮れてしまうため若干拍子抜けするが、動画をメインで考えたら、撮影中にショックがなくスルリと撮影できるのは重要だ。それほど高解像度でもないため、撮影時のメモ代わりといった用途になるだろう。 また本機は、テープ再生中にフォトボタンを押すことで静止画を切り出す機能も備えている。編集時の整理などに使えるだろう。今回の静止画のサンプルも、この機能を使って切り出している。 ■ 総論
DVカメラ時代は、ソニーのコンシューマ機でフルマニュアル撮影が可能なものというのは存在しなかった。すなわちこれまで業務用機との境目は、そこだったのである。だがHDV時代になって、最初のFX1でフルマニュアルを可能にした時点で、流れが変わってきた。FX7も、その流れを汲む製品である。 もちろんこれだけの価格、これだけのサイズであるからには、運動会だけを撮るようなパパママカメラではない。山や風景や、自分で撮りたいものがある人のためのカメラ、ということになるだろう。オートでの絵作りはソニーはかなり上手いほうだが、ショットとしての完成度にこだわると、それだけでは済まない。そういう時のために、マニュアル機能がいるわけである。 FX7ではさらに踏み込んで、絵作りの領域まで可変できるパラメータをピクチャプロファイルに仕込んだ。パラメータも波形モニタなどを持ち出さずに触れるような部分をうまくピックアップしており、その点でも上手く作ってあるという印象だ。 今回ワイコンは試せなかったが、バヨネットによる着脱とデジタルエクステンダーの併用で、画角の自由度はかなり高い。いろいろなシチュエーションに柔軟に対応できるという意味でも、使いやすさにこだわっただけのことはある。 映像としては、画素補間ではあるものの、解像感は問題ない。安定した映像であれば、さらにディテールを強く出しても破綻はないだろう。単板のクリアビッド配列は、R/B色画素が少ないところが色表現の物足りなさに繋がっていたが、三板式にすることでその部分をうまくクリアしてきた。ただ色を強く出すと若干のっぺりした感じになるので、押さえどころは自分で判断しなければならない。 今年はAVCHDが発売され、テープの時代に陰りが見え始めていると言われてはいるが、MPEG-2でテープ式というのは枯れた技術でもあり、安心して使える環境だ。FX7は凝った撮影をしたいハイアマユーザー、あるいは人員削減で自分でカメラを回さなくちゃいけなくなったディレクターなど、いろいろな層にフィットするカメラとなるだろう。
□ソニーのホームページ (2006年12月20日)
[Reported by 小寺信良]
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