■ 「究極」を目指したHD DVDが登場
プレーヤーの販売が苦戦していることもあり、国内では、ヒットに恵まれていないHD DVDビデオソフト。しかし、新HD DVDレコーダ「VARDIA RD-A600/300」の発売を目前とし、再生環境の選択肢も徐々に増えつつある。 新レコーダの発売にあわせたわけではないのだろが、バンダイビジュアルよりアニメ「FREEDOM」の第1巻がHD DVD化された。バンダイビジュアルはHD DVDとBlu-rayの双方をにらんだ次世代ディスク展開を図っているが、同社の次世代タイトルとしては、第1弾となる製品。また、バンダイビジュアルと、マイクロソフト、メモリーテックが協力し、「究極」を目指したというディスクだけに、その実力は注目される。 ただし、発売された「FREEDOM」は「北米版」で、総合アニメサイト「.ANIME」での限定販売となる。価格は5,040円。アニメのパッケージソフトとしてはさほど高価ではないが、それでも本編が25分と短いだけに、やや割高感がある。 ただし、初のネットワーク対応など、HD DVDのインタラクティブ機能「HDi」を活用したさまざまな機能に加え、マイクロソフト/メモリーテックが注力したというVC-1の高画質化などのノウハウが投入された期待のタイトル。さらに、HD DVD/DVDのツインフォーマットとなっていることも注目だ。 なお、DVD層もリージョンフリーとなっているため、北米版ながら日本向けのDVDプレーヤーでも問題なく再生できる。 ■ 豊かな色情報が印象的。再生にはファームアップが必要
早速ディスクの再生と行きたいところだが、その前にファームウェアのアップデートを行なう必要がある。というのも、ネットワークに対応するためには、各プレーヤーで最新のファームウェアを適用する必要があるのだ。 東芝のHD DVDプレーヤー「HD-XA2/XF2」では、FREEDOMの発売に合わせて26日に最新ファームを公開し、ネットワークに対応した。 また、HD-XF2/XA2のファームウェア Ver1.3では本編の再生すらできなかった。この際に最新ファームウェアを適用しておきたい。 Xbox 360 HD DVDプレーヤーにおいても、「ネットワーク機能の修正と品質の向上を図った」という最新バージョンが提供されており、Xbox Liveにアクセスした際にアップデートが実行される。アップデートを行なうことで、FREEDOMのHDiネットワーク機能が利用可能となる。 FREEDOMの舞台は、恒常化した異常気象により地球文明が崩壊した2015年、月面には100万人規模の都市が建設された。月に取り残された人々は共和国エデン建国を宣言し、都市の拡張を続けていた。 EDENに住む少年タケルは、15歳で義務教育を終え、他の子供たちと同様に束の間の休暇を得ていた。ビークルと呼ばれる月独特のマシンを仲間と組み上げ、自由を感じていたタケルだったが、ある時、エデンが秘密にしていた真実に触れてしまう。 全6巻のうち、今回HD DVDで発売された第1巻は物語の導入部。速さに執着する主人公のタケルと、親友のカズマ、メカニックのビスの3人は、ビークルの改造とレースに熱中し、ライバルのタイラを倒すべく日々奮闘している。そんな時、タケルはカズマの妹チヨに恋心を抱きレースに招待。かくしてレースの火蓋がきって切られるのだが……。 本編は25分と短いので、正直もう少し楽しみたいところで終わってしまう感じは否めないが、映像品質は非常に良い。アニメにありがちな、輪郭線周りのブロックノイズなどは全く無く、輪郭が不自然に強調されることもない。 解像度が高いのはもちろんだが、鮮鋭さだけでなく、画素あたりの色の深さ、豊かさが印象的。暗い坑道を照らす小さな明かりなど微妙な陰影が多い作品なので、繊細なグラデーションの表現のために、ディスプレイ側の性能がかなり重要といえる。 ツインフォーマットなので、DVDとの違いも簡単に比較できる。DVD層もオープニング映像は厳しいものの、HDに肉薄する情報量を感じさせるシーンもあり、かなり高品位ではある。それでもHD DVDと比べると画素あたりの情報量の違いはいかんともしがたいものがある。やはり、HD DVDの豊かな色調を見た後だと、若干物足りなさを感じてしまう。 音声はドルビーデジタル・プラス 5.1chとリニアPCM ステレオで収録。ビークルのモーター(?)の加速感と、それに同期して空気が歪むような音響が非常に気持ちが良い。タケルたちが参加する「チューブレース」のシーンでは、自然な包囲感とは全く違う、前後左右の感覚を見失ってしまうような、不思議な移動感を表現している。ビークルの音と相まって、ユニークな音響空間が体験できる。 ■ HDiネットワークやPinPなど次世代感あふれる機能
本編再生中にメニューボタンを押すと、ポップアップメニューが現れる。このあたりはアドバンストコンテンツのHD DVDであればごく当たり前の機能だが、このメインメニューにはTUTORIAL、SETUP、EXTRAS、BOOKMARK、DOWNLOADの各項目が用意されている。TUTORIALはインタラクティブ機能の操作方法案内、SETUPは字幕や音声設定が可能。 ただし、北米版のためメニュー項目などが日本語化されていないのが残念だ。メインメニューは基本的な単語なのでさほど問題はないが、ブックマーク機能のボタンの使い方説明など、翻訳しながら使うのも面倒だ。また、近年の作品では珍しく、ポップアップメニュー内にチャプタメニューがない。実際にはチャプタが切ってあるのでリモコンでスキップ/バックが行なえるほか、後述するブックマーク機能を「自作チャプタ」として利用することも可能だ。 ・初のHDiネットワーク機能を搭載
最大の特徴といえるのが、世界初というHDiを使ったネットワーク機能。HD DVDプレーヤーがネットワークに接続されていれば、ディスクから専用サーバーへアクセス可能。FREEDOMの第1巻ではSD解像度の日本版テレビCF(15秒/15MB)がダウンロードできる。 また、HD DVDディスクにあらかじめ収録されているが、再生できないようにロックされている「プロローグ」(6分8秒)と、「第1話予告」(68秒)も、ネットワークへ接続することで解除キーの受け渡しが行なわれ、再生できるようになる。 プロローグにはドルビーデジタル5.1chバージョンと、リニアPCM 2chバージョンが収録されており、映像は1080pで収録。第1話予告は1080iとなっている。特にプロローグは、第1話以前のタケルやタイラの歩みや関係性がしっかりと描かれているので、ぜひチェックしておきたい。 これらのネット対応コンテンツを再生する際には、メニューの[DOWNLOAD]の項目にアクセスする。プロローグや予告については、実際のコンテンツはディスク上にあり、ライセンスキーだけをダウンロードしている(約2MB)だけではあるが、[DOWNLOAD]以外からは、これらのコンテンツにはアクセスできないようになっている。 ダウンロードしたテレビCFはSD解像度のため、本編に比べると画質的には見劣りする。今後、「オンライン上の特典は不定期に更新される」とのことで、更なるコンテンツの拡充に期待したい。せっかくのシリーズものなので、2~6話の予告編などが用意されていればいいと思うのだが。 また、コンテンツをダウンロードするため、保存するための領域に制限があることに注意したい。HD DVDプレーヤーにおいて、Persistant Storageと呼ばれる領域だ。HD-XF2やHD-XA1の場合は約130MB、Xbox 360 HD DVDプレーヤーの場合は約180MBの容量が、プレーヤー内のメモリに確保されているようだ。ダウンロードしたコンテンツについては、FREEDOMディスクを入れて、DOWNLOADの項目から削除(DELETE)できるようになっている。今後、コンテンツが増えた後のため、コンテンツを別のストレージ機器に転送する機能などの搭載にも期待したい。 ・絵コンテを確認できるストーリーボード
本編再生中にリモコンのAボタンを押すと、本編中では表示されない、スタッフクレジットが確認できる。また、Bボタンを押すと「ストーリーボード」機能が表示される。これは、本編を右側に表示しながら、そのベースとなった絵コンテを左側に表示。シーンにあわせて絵コンテも切り替わり、製作者がシーンに対しどのような意図を持っていたのかが確認できる。 絵コンテを元に、制作時に加えられた演出がリアルタイムで確認できるなど、なかなか楽しめる。また、絵コンテに加えられた演出だけでなく、基本的な台詞やシーンの構成は絵コンテそのものであることが確認できる。映画製作においていかに絵コンテが重要なのか、ということが理解できる特典ともいえる。 また、ストーリーボード利用中でも、そのままリモコンでメニューボタンを押すと、本編の再生中の画面に戻るようになっている。シームレスに本編/ストーリーボードを切り替えられるので、ストレス無く操作できる。 ・超強力なPinP機能
また、EXTRAからは、次作の予告編のほか、PinP(2画面機能)での3DCGシミュレーションビデオが視聴できる。 FREEDOMで導入された3DCGを、制作時のアニメーションチェック画面と最終的な本編映像と見比べられるというコンテンツ。HD DVDビデオ発売時から、特徴のひとつとして訴求されていたPinPだが、このPinPが従来のものとは比べ物にならないほど、強力な機能をもっている。 まず、Aボタンで子画面サイズを7段階に変更可能。最大時には親画面とほぼ同じ大きさまで拡大できる。さらに上下左右ボタンで自由に子画面の位置を設定可能で、Bボタンを押すと子画面の透明度を4段階に切り替えられる。本編と子画面を同サイズにして子画面を本編に透過させるなど、さまざまな比較ができるようになっている。 さらに、Cボタンを押すと、親画面と子画面を完全に切り替えたり、左右に並べて表示することができる。親子を切り替たまま再生できるなど、力が入ったPinP機能となっている。 ・ブックマーク機能は背景画像設定も可能
ブックマーク機能も搭載。本編再生中にリモコンのCボタンを押すことで、お気に入りのシーンを最大7つまで保存できる。保存したブックマークは、メインメニューのBOOKMARKの項目からすぐに呼び出だせるため、チャプタメニュー的に活用することも可能だ。 また、トップメニューを呼び出した際に、設定したブックマークを画面の背景画としてスライドショーで表示できる。お気に入りのトップ画面が作れる機能ともいえる。こうした細かい作りこみがなされているので、機能をあらかた試すだけでも楽しめる。 なお、ブックマークしたポイントはプレーヤーごとに管理されるため、他のプレーヤーで利用する際には、再度ブックマークを設定する必要がある。HD DVD関連イベントなどでは、ネットワークを介してブックマークを管理したり、友人に転送できるなどのデモを行なっているので、そうした拡張にも期待したい。 ■ 次世代感あふれるディスク
映像/音響面が非常に優れているのはもちろんだが、機能も含めて、“次世代感”があふれるディスクに仕上がっている。「次世代光ディスク」で提案されてきた、画質/音質以外の機能的な楽しさが、わかりやすく、実際に役立つ形で実装されている。本編が25分と短いので、世界観を提示した段階で終わってしまっている感があり、物足りなさはあるが、リモコンをいじっているだけで驚きがあるディスクだ。HD DVDというフォーマットの能力を体感するためには、現時点で最も優れたディスクといえる。 価格は5,040円。本編の短さを考えると割高ではあるが、HD DVD再生機器を持っている人であれば、十分に楽しめる付加価値は備えている。それだけに、メニュー画面やパッケージなどのが英語となっていることや、販路が限られていることは残念だ。また、全6巻のシリーズ作品ながら、国内のHD DVD化スケジュールがアナウンスされていないところも、不安は残る。 ともあれ、HD DVDのフォーマットとしての実力が気軽に体験できる作品なのは間違いない。画質や音質、そして作品としてのクオリティはもちろんだが、高機能と使いやすさなども、パッケージとしての価値を向上させてくれる。プレーヤーの普及は必須条件だが、RD-A600/300の発売で、HD DVD再生対応機のインストールベースは確実に増えると思われる。画質/音質、機能とさまざまな面から、魅力的な作品が投入されることを期待したい。
□バンダイビジュアルのホームページ (2007年6月26日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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