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第294回:YAMAHA製品専用バンドルソフト「Cubase AI4」を検証
~ Cubse 4ベースの実用性の高い無償ソフト ~




Cubase AI4

 先日YAMAHAの「n12」を紹介した際、そのバンドルソフトである「Cubase AI4」についても紹介すると約束したまま、結構な日にちが経過してしまった。

 実はこのCubase AI4が最初に発表されたのは今年の1月。今更ということで、タイミングを逸したような気もするが、今後もひとつのキーとなる重要なソフトなので、改めて紹介しよう。



■ YAMAHA製品専用のバンドルソフト

 まず、機能の詳細などを紹介する前に、Cubase AI4の位置づけを見ていこう。

 ご存知のとおり、Cubaseの開発元である独Steinbergは現在、YAMAHA傘下にあるわけだが、YAMAHA専用のOEMソフトとして登場したのが、このCubase AI4だ。

 AIは人工知能の“Artificial Intelligence”ではなくて、“Advanced Integration”の略とのこと。そしてAI4というネーミングからも想像できるとおり、これはCubase 4をベースにしたソフトで、オーディオエンジンやユーザーインターフェイスなどは完全にCubase 4と共通のものとなっている。

 もちろん、Cubase AI4はWindowsおよびMacのハイブリッド。Vistaにはまだ正式対応はしていないものの、問題なく動かすことはできる。また、MacはPowerMac G4/G5でもIntel MacでもOKだ。

 ちなみに、Cubase 4の下にはCubase Studio 4というものがあり、価格はともにオープンプライスだが、実売でいうとCubase 4が11万円程度で、Cubase Studio 4が7万円前後。そのCubase Studio 4の下のラインナップとしての位置付けとなっている。それでいて、Cubase AI4自体は無償のバンドルソフト。かなりお得感が高い。

 ここで、YAMAHA以外でも各社のオーディオインターフェイスなどにはCubase LEがバンドルされているので、これとどうちがうのか疑問に思うかもしれない。実はCubase LEは「Cubase SX1」をベースにしたものであるため、Cubase AI4と比較すると3世代も前のソフトとなる。そのためユーザーインターフェイスも機能も、オーディオエンジンの性能もCubase AI4のほうが格段上なのだ。

 では、近いうちに各社のオーディオインターフェイスバンドルのCubaseがCubase LEからCubase AI4に置き換わるかというと、そうはならないらしい。Cubase AI4はあくまでもYAMAHA製品にのみバンドルされるソフトであり、他社へのOEMは予定されていないとのことだ。


インターフェイスは、Cubase 4と共通 Cubase LEのベースは3世代も前の「Cubase SX1」で、インターフェイスなどもかなり異なる

 このCubase AI4が最初にバンドルされたのは、YAMAHAのフラッグシップシンセサイザであるMOTIF XSシリーズ「XS6/XS7/XS8」だった。その次にバンドルされたのは先日も紹介したデジタルミキサー「n12」、「n8」と、USBミキシング・スタジオ4製品「MW12CX/MX12C/MW8CX/MW10C」。さらに、MG166CX-USBに搭載されるなど、まだ少ないながら徐々に増えているという状況だ

 USBミキシング・スタジオ「MW8CX」が実売3万円弱だから価格面から考えると、これがCubase AI4を入手する一番安い方法といえそうだ。実際、性能面からいえば、単体で3万円以上の値づけがされてもいいソフトなので、かなりお得なセットといえるだろう。



■ 基本機能はほぼCubase 4相当。トラック数などに制限

 さて、さっそくCubase AI4をインストールしてみると、これまでのCubaseシリーズと同様、Syncrosoftのライセンスシステムがインストールされるため、プロテクトがかかっていることが分かる。しかし、これまでのCubaseシリーズのようなUSBドングルは添付されていない。では、どうなっているのか?

 Licence Control Centerを見ると、ドングルのライセンスではなく、PC本体にライセンスが割り当てられる。また、YAMAHA製品が接続されていなくても、問題なく起動できるようだ。なお、Cubase AI4起動時に正式登録の可否を聞いてくるのだが、とりあえず登録しなくても、30日間もしくは300回までは利用できるようになっている。


通常のCubaseシリーズ同様、Syncrosoftのライセンスシステムがインストールされる Cubaseシリーズでは、USBドングルにライセンスが割り当てられるが、Cubase AI4では、PC本体に割り当てられる 正式登録しない場合、起動回数300回まで、または30日間しか利用できない。

 実際に起動させ、デモデータを読み込んでみたが、この画面を見る限り、確かにCubase4そっくり。基本的な機能、使い方はCubase 4とまったく同じなので、すでにCubase 4を使っている人なら、まったく違和感なく、すぐに使えるはずだ。


VSTインストゥルメントはHALionOneのみバンドルされる

 Cubase AI4とCubase4、Cubase Studio 4の違いについては、Steinbergのサイトに詳細な相違表が掲載されているので、そちらをご覧いただきたいのだが、Cubase Studio 4との最大の違いは、やはりプラグインだ。

 ソフトシンセであるVSTインストゥルメントでは、HALionOneのみのバンドル、またプラグインエフェクトのVSTプラグインでは25種類という制限があり、MIDIプラグインについては対応していない。とはいえ、VSTインストゥルメントおよびVSTプラグインを追加することはいくらでもできるし、フリーウェアでもかなりいいものが数多くあるので、自分で追加することで、この差はかなり挽回できるはずだ。


VSTプラグインは25種類で、MIDIプラグインには対応していない

 ただしVSTインストゥルメント・ラックのスロット数が2つしかないのは、ちょっと痛いところ。とはいえVSTインストゥルメント・トラックのほうは16個まで使えるので、これを利用すれば最大16種類までのソフトシンセが利用できるので、とりあえず複数のソフトシンセを同時に鳴らすことは可能だ。

 ちなみに、このVSTインストゥルメントのトラック数はCubase 4およびCubase Studio 4が無制限となっている。同様にCubase 4およびCubase Studio 4のオーディオトラック数、MIDIトラック数も無制限であるのに対して、Cubase AI4はそれぞれ48トラック、64トラックとなっている。かなり大編成の曲を作るとなると厳しいが、通常の利用なら大きな支障はないだろう。

 そのほか大きいところでは、Cubase 4になって追加された目玉機能であるサウンドフレーム機能がないこと。正確にはまったくないわけではなく、HALionOneやエフェクトのプリセットなど、VST3対応のプラグインのプリセット選択にのみサウンドフレーム機能が使えるが、メディアベイ機能や、トラックプリセット機能は使えない。

 また、MIDIマシンコントロール(MMC)が使えなかったり、ReWire2が利用できないなど、同期面もちょっと弱いが、スタンドアロンで使うのであれば、これについても問題はないだろう。


VSTインストゥルメント・ラックのスロット数は2つ サウンドフレーム機能は、VST3対応のプラグインのプリセット選択時のみ利用できる

 編集機能においては、タイムワープ機能やピッチシフト機能などがないなど、実用上、多少の不満はあるが、逆にいうと、それ以外の機能はほとんどみんな備わっているから、改めて非常に強力なソフトであることを実感する。

 なお、実はCubase Studio 4にはない機能をCubase AI4が備えているという面もある。それはStudioConnections関連だ。Cubase 4はTotalRecallとAudio Integrationに対応しているのに対して、Cubase Studio 4はいずれにも未対応。それに対してCubase AI4はTotal Recallには対応しているのだ。これはやはりYAMAHA製品にバンドルするソフトだから、というのが理由にあると思われるが、こうした面を見ても強力である。



■ YAMAHA以外のオーディオインターフェイスとも連携可能


RolandのEDIROL製品や、M-Audio製品とも連携が可能

 もうひとつ気になるのは、とりあえず起動できたとしても、YAMAHA以外のオーディオインターフェイスで利用できるか、ということ。ここにおいても、とくにプロテクトはないようで、EDIROL製品でもM-Audio製品でも問題なく使うことができた。

 では、n12などと連携して使う場合は、どのようにセッティングするのだろうか? これにはちょっとした手順がある。それは、まず先にCubase AI4をインストールした後に、「Extentions for Steinberg DAW」というツールをインストールするのだ。

 これはCubase 4で追加された機能の一つで、VSTのプラグインとはまったく別に、機能拡張するためのもの。実際、これをインストールすることにより、n12やn8の「Cubase Ready」ランプが点灯し、Cubase側からのコントロールが可能になるのだ。

 また、これをインストールすることにより、テンプレートが追加されたり、オーディオインターフェイスの設定、VSTコネクションの設定、フィジカルコントローラの設定なども自動的に行なわれ、ユーザーは何のセッティング作業をしなくても、すぐに使えるようになる。


Cubaseからのコントロールが可能になると、n12の「Cubase Ready」ランプが点灯 テンプレートが追加される オーディオインターフェイスの設定も可能に


VSTコネクションの設定 フィジカルコントローラ設定


Cubase 4作成データが、Cubase AI4で開けないのが残念

 なお、使ってみてちょっと残念に思ったのが、Cubase 4とのデータの互換性。Cubase AI4で保存したデータは、なんら問題なくCubase 4で開くことができるのだが、反対にCubase 4で保存したファイルはCubase AI4で開くことができないのだ。

 基本的に同じ構造のソフトなので、Cubase4にしかないプラグインなどが使われていたら、うまく動作しないのは当然としても、そうでないデータであれば、互換性を持たしてほしかった。バンドルソフトだから、多少の制限を持たせたかったということなのかもしれないが……

 とはいえ、これだけよくできたソフトだから、これからCubaseを使っていきたいという人にとっては、非常にコストパフォーマンスも高く、強力なソフトといえるだろう。またすでにCubase 4やCubase Studio 4を使っているユーザーにとっても、自宅でCubase AI4を、スタジオなどでCubase 4を、といった使い分けも可能となるので、有効利用ができそうだ。


□Steinbergのホームページ
http://www.steinberg.net/714_0.html
□製品情報(Cubase 4)
http://www.steinberg.net/1026.html
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(2007年8月27日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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