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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第351回:ビデオカメラ2008年春モデル総括
~ 確実に浸透するメディアチェンジと高画質化 ~



■ 年々発売モデルが増えるビデオカメラ

 2月から7回に渡り、各社から春モデルとしてリリースされるビデオカメラを順に取り上げて来た。Electric Zooma!は別にビデオカメラ専門ではないのだが、近年2月と9月はほとんど専門誌状態になってしまう感じである。それだけリリース製品が増えてきているわけだ。

 製品数が増えた原因は、記録メディアの多様化にある。カメラとしての性能は同じでも、記録メディアが違えばユーザービリティの面では別製品だ。買う方としても、メーカーは決めているがメディアをどれにするか迷ったり、あるいはメディアは決めたんだけどメーカーが決められないといった具合に、二重の悩みを抱えることになる。

 今回は、本コラムで2月から3月までの間に取り上げた製品を振り返って、それぞれの特徴や全体の傾向を俯瞰してみたい。


■ 撮像方式と画質

 ハイビジョン時代になって、撮像素子は1CMOSか、3CCDに分かれた。CMOSを推すのはソニーとキヤノンで、この2社は自社開発・製造である。日立もCMOSだが、こちらは米AltaSensとの共同開発で、実際の製造はIBMである。一方3CCDを採用するのは、パナソニックとビクターだ。

 CMOSを採用するメリットはいろいろあるが、各メーカーで共通しているのは消費電力である。ハイビジョンに足る200万画素を越える高画素のCCDは消費電力が大きいところから、CMOSへの道が開けた。

 デジカメの世界から見れば、200万画素ぐらいは大したことないと思われるかもしれないが、ビデオカメラはデジカメと違って常時駆動するので、消費電力が問題になるわけだ。従って今後も、CCD単板のハイビジョンカメラは登場しないだろう。

 とは言っても、3社が採用するCMOSにはそれぞれ特徴がある。キヤノンはフルHDのピクセルバイピクセルにこだわり、画素数としては正攻法だ。ソニーはピクセル数としてはとっくにフルHDを突破しているにも関わらず、クリアビッド配列を採用し、実ピクセルよりも高解像度の映像を得るという方向で進んでいる。日立採用のCMOSもフルHDを越えるが、動画撮影時と静止画撮影時で使用するピクセル数が大幅に異なるため、光量が少ない時のS/Nと、2つのモードで画角がかなり異なるというデメリットが目立つ。

 一方CCD派は、58万画素程度の3つの撮像素子を、「画素ずらし」による高画素化技術でハイビジョンに足る画素数を得ている。この程度の実画素数であれば、数が3倍になってもまだ消費電力的には辛くないということである。


画素ずらしでは実績のあるビクター「GZ-HD6」

 画素ずらしという技術は、3つの撮像素子を正確に配置しなければならない。ビクターは早くからこのチューニングを、フジノンの「くさびガラス固定方式」で解決したため、色ずれの少ない画素ずらしを実現してきた。一方パナソニックは特に技術的には唱っていないが、昨今配置の精度が向上し、ビクターとほぼ遜色ない画質を出してきている。

 1CMOSか3CCDか、買う側としては悩むところだろう。今回の製品群を俯瞰すると、解像感の面では1CMOS機の方に軍配が上がる。ハイビジョンのメリットとしては、やはりフルHDなりの解像感は、見所の一つである。また発色の面でも、SD時代の単板式とは比較にならないほどいい色が出せるようになってきた。


ナチュラルな発色がポイント、パナソニック「HDC-HS9」

 一方3CCDのメリットは、ナチュラルな発色にある。一方で解像感は、どうしても補間処理で作り上げるため、甘くなる傾向にある。ハイビジョン映像であることに価値を見いだすということを考えれば、甘い感じのする絵柄は、あまり受けないだろう。

 また3CCD画素ずらしには、静止画が高解像度で撮れないという弱点がある。しかしこちらは、デジカメの低価格化による普及で、あまり問題にならなくなりつつある。それよりも、ハイビジョン動画からの高解像度静止画切りだし機能が重視されるようになるだろう。この点では、ソニーのPicture Motion Browserに搭載した画素補間切りだし機能は、将来性のある技術だ。

 CMOSの将来的な伸びしろに対して、すでにCCD開発は行き着くところまで行き着いており、これから大きなイノベーションが起こる可能性は少ない。長期的に見れば、3CCDの画素ずらし方式はあと1~2年で限界が来るだろう。撮像素子のCMOS化はもはや必然である。


考えられ得る最高を詰め込んだハンドヘルド、ソニー「PMW-EX1」

 現時点で考えられるベストな組み合わせは、フル画素のCMOSで3板式をやることだろう。これを実現したのが、ソニーの「PMW-EX1」である。画質ではさすがに有無を言わせぬものがあるが、これはコンシューマ機ではない。高画質もある程度まで行くと、もはや解像度云々というよりも、「伝わる絵かどうか」の世界に突入する。コンシューマではここを目指すよりも、むしろ現状維持でコストダウンの方向に動いていくだろう。


■ メディアと利便性

 撮影した映像を何に記録しておくべきかというのは悩ましい問題だと思うのだが、意外にも市場の方は「HDD」という答えを出した。テープ、DVDと続いたリムーバブルメディア時代から、取り外せないHDDが支持されたというのは、アーカイブということをさしおいても長時間撮れる方がいい、ということのようだ。


120GBものHDDを搭載したソニー「HDR-SR12」

 HDD容量は30GB、60GBあたりが主流だったが、今年は120GBのモデルが登場している。今回取り上げた中でも、ソニー「HDR-SR12」、ビクター「GZ-HD6」あたりがそうだ。特にAVCHDフォーマットのSR12では、HD-LPモードで48時間、最高画質でも14時間40分の保存が可能だ。

 ここまでになるともはや、アーカイブの考え方も変えざるを得ない。おそらく大半の人は、いちいち中身をイベントごとにバックアップするということが面倒なので、問題をより遠くへ先送りするソリューションに飛びついているのではないだろうか。つまりカメラそのものがアーカイブであり、撮るときも見るときもカメラ本体を使うという考え方である。

 アーカイブに関しては、キヤノンがDVDライターを発売したことで、全社でカメラ直結の光メディア保存というルートが確保された。これはPCレスのソリューションである。

 しかしカメラ本体は、メモリ記録への傾向が強まってきていると言える。これはどちらかといえば、PC寄りのソリューションだ。以前からパナソニックはその路線だが、昨年ソニーがメモリー記録専用機「HDR-CX7」を出したあたりから、ユーザー層もPC派とノンPC派に明確に分かれてきたように思う。


8GB内蔵メモリまで搭載したソニー「HDR-UX20」

 今回ソニーはDVDタイプにメモリを内蔵したり、HDDモデルだがMS Duoにも動画を記録できるといった形で、布石を打ってきた。特に「HDR-UX20」はメモリを内蔵したことで、製品の意味が変わってきた。以前のUXシリーズはDVDに撮影するモデルであったが、UX20はベースがメモリ記録機で、内蔵DVDドライブにバックアップ、という使い方になるだろう。


高い解像感を誇るキヤノン「iVIS HF10」

 一番ドラスティックな変化を成し遂げたのは、キヤノンの「iVIS HF10」だろう。これまでキヤノンは、自社にメディア事業を持たないため、ビデオカメラのメディアチェンジではどうしても他社より1シーズン遅れていた。それゆえに商機を逃していたところは大きい。

 しかし今回は内蔵16GBメモリとSDカードで、メモリしか積まない、という大胆な設計に出た。一見突拍子もないコンセプトに見えるが、実はデジカメと同じ構造になったということなのである。これによってビデオカメラを、小型化技術も含めて自社の土俵に引っ張り込もうという戦略が垣間見える。


BDCAM第二弾となる「DZ-BD9H」

 記録メディアとして革新的だったのが、日立のBDCAMである。前作「DZ-BD7H」の登場は一般紙でも大きく取り上げられたが、カメラとしての設計に疑問が残る作りだった。リニューアルモデルとも言える今回の「DZ-BD9H」では、細かいチューニングにより画質向上を図ったが、動画/静止画切り替えの遅さや動画撮影時の画角が狭いなど、抜本的な改良が必要と思われる部分が残る。

 記録メディアのハイブリッド化、あるいはデュアル化の流れで、今後問題になるのは電源の扱いだろう。バッテリ駆動が基本のビデオカメラで、メディア間のコピー時にいちいちACアダプタの接続が必要というのは、論外である。特にメモリーへのコピーは、PCへの取り込みや印刷の利便性のために行なうわけだが、そのためにわざわざACアダプタを接続するぐらいなら、USB接続するのと大して変わらない。

 そのUSB接続にしても、バッテリ駆動で動作できるのはソニー機だけだ。今後はビデオカメラも、電源に関してはデジカメ並みのハンドリングの良さが求められるだろう。


■ ハイエンドにもメディアチェンジの波

 ビデオカメラの記録メディアは、ノンリニアメディアへ移行しつつある。しかしその陰で旧来のテープ式であるHDVも新製品がリリースされている。ソニーでは「HVR-Z7J」や「HVR-S270J」、キヤノンでは「iVIS HV30」といったモデルだ。

 これらはどちらかといえば、メディアチェンジのリスクよりも、実績のあるフォーマットで画質重視の傾向が強いラインナップである。HDVフォーマットは25Mbps CBR MPEG-2だが、記録解像度は1,440×1,080ドットで、基本的に60iでしか記録できない。24Pで撮影できるものは、記録時に2:3プルダウンなどで60iにして記録するわけである。

 HDVフォーマットにハイエンドモデルが集中するのは、編集を前提とした業務用途を想定しているからである。AVCHDも編集環境は徐々に整ってきたが、業務レベルの編集ソフト、例えばFinal Cut ProやEdius Pro/Neoでは、ネイティブフォーマットのままで編集するわけではない。編集用の専用コーデックに変換する必要がある。

 だがHDVフォーマットは、取り込んだままのネイティブフォーマットで編集が可能だ。テープを取り込むのに実時間かかるというデメリットはあるが、すでに編集システムは十分完成されており、納品まで含めたワークフローもできあがってる。従って業務レベルでは、敢えて新しいフォーマットにチャレンジするメリットがない。

 またHDVフォーマットでも、別ユニットでメモリーに記録するといったソリューションも出てきており、フォーマットの利便性とメディアの利便性の両方を活用する方向も出てきている。

 一見すると、ハイエンドはテープ記録、コンシューマはノンリニア記録という図式だが、今年から来年にかけて、その様相が変わりそうだ。というのも、Pパナソニックが業務用メディアのP2ではなく、AVCHDの業務用機をリリースしてくるからである。

 肩乗せ型の「AG-HMC75」は昨年のInterBEEで発表済みだが、今年4月に米ラスベガスで開催されるNAB 2008では、ハンドヘルドタイプのAVCHD業務用機「AG-HMC150」(日本向けはAG-HMC155)を出展する。AG-DVX100からAG-HVX200に乗り切れなかったユーザーが、これを選択する可能性は大きい。もちろんZooma!は、今年もNAB2008の取材を敢行するので、お楽しみに。


■ 総論

 ビデオカメラ選びのポイントは、画質・記録メディアの利便性・アーカイブ手段の3つのバランスで考える必要がある。それにプラスして、サイズ感、価格、デザインといった要素が加わるわけだ。この春にテストした7モデルの中から選ぶとするならば、ソニーの「HDR-SR12」とキヤノンの「iVIS HF10」は、甲乙付けがたい魅力が詰まったモデルだと感じた。

 SR12は液晶モニタや画像処理エンジン、顔検出機能など、プロ機やデジカメなど他の部署で開発したデバイスを詰め込んで、全体をバランスよくレベルアップしている。まさに総合力の勝利と言えるだろう。ただ個人的には、すでに500万画素OverのCMOS開発能力があるなら、もうクリアビッド配列ではなく、ストレートにピクセルバイピクセルで勝負した絵が見たい。

 HF10は、メモリによる小型化というインパクトでは、パナソニックの「HDC-SD9」と大差ない。だが光学部を妥協せず記憶色をベースとした写真的な絵作りのままで、このサイズを実現した意義が大きい。また以前から使いやすいシャッター優先、絞り優先モードを備えており、「撮影時が楽しい」というカメラの基本的な喜びが味わえるのも魅力だ。HDDモデルに比べて内蔵メモリの容量は少ないが、元々デジカメの写真をPCに取り込んで管理や保存することが苦にならないような人にとっては、問題はないだろう。

 全体的に言えるのは、大容量のメモリカードに動画記録するという手段に対して、どういったアプリケーションが想定でき、またどういうユーザービリティが考えられるのか、まだ各社とも知恵を絞っている段階であろうということだ。

 これまでほとんど自己完結していたビデオカメラの映像を、どれだけ簡単にテレビに、PCに、ネットワークに連結していくか。そしてカメラ本体は、どれだけストイックに撮像機器としての完成度を高めていけるのか。この両方の動きを丹念に観察していく必要があるだろう。

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(2008年3月26日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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