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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第373回:ついに登場したPanasonicの次世代カムコーダ「HDC-HS100」
~ 3MOSは単板CMOSを越えるのか ~



■ ついにCCD時代終焉?

 ハイビジョンカムコーダの撮像素子は、もはやCCDではないというのが業界全体のトレンドである。ソニー、キヤノンを筆頭に、日立、ビクターがCMOS化する中で、Panasonicだけが3CCDを維持していた。

 ハイビジョンになるとCCDが辛くなるのは、主に消費電力の問題である。CCDもSDサイズぐらいなら大したことはないのだが、ハイビジョンサイズになると電力消費が大きい。Panasonicは画素数の少ない3CCDを使って画素ずらしを行なうことで、消費電力と解像度のバランスを取ってきたわけだが、ここに来てついにCCDから離脱することになった。

 この夏・秋向けの新モデルでは、他社がCMOSの単板で進める中、従来からのこだわりで3板式のMOSに挑戦、独自性を出している。Panasonicが開発したLiveMOSは、歴史を遡ると04年に携帯用カメラのνMaicovicon(ニューマイコビコン)から始まるようだ。翌'05年には当時世界最小となる2.0μm画素のMOSセンサを開発、受光面積を大幅に拡大し、かつ低消費電力という、CCDとCMOSのいいとこどりというのが特徴だった。実際の製品は、'06年にデジタル一眼の「LUMIX DMC-L1」がある。

 ただ静止画と動画用では特性がかなり違うので、今回搭載されたLiveMOSは当然動画用にチューンされたもののはずだ。つまりLiveMOSの動画版は、今回の製品が最初と言っていい。

 この7月に発売が開始された新モデルは、SDメモリータイプの「HDC-SD100」と、HDDとSDカードのハイブリッド「HDC-HS100」の2タイプ。今回はHDD搭載のHDC-HS100(以下HS100)をお借りしている。

 新しい撮像素子は、どんな絵を見せてくれるのだろうか。早速テストしてみよう。


■ 三板ながら小型路線は維持

 まずはいつものようにデザインから見ていこう。三板式とはいいながらも、全体的なサイズ感は普通の単板CMOS機と変わりない。ビューファインダを省いて小型化を図るカメラが多い中で、ビューファインダ有りでこのサイズというのは、相当頑張っている。ボディは光沢感のある黒で、HDDが格納されているグリップ部はマット地になっている。

 レンズはおなじみライカ・ディコマーで、フィルタ径は37mm。動画、静止画共に35mm換算で42.1mm~505.0mmの光学12倍ズームレンズだ。本機には静止画専用のモードがなく、静止画も16:9画角の1,920×1,080ドットになる。


ビューファインダまで付いても、かなりコンパクト 静止画用フラッシュを備えるが、静止画専用のモードはない


撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)
撮影モード ワイド端 テレ端
動画(16:9)
42.1mm

505mm
静止画(16:9)
42.1mm

505mm

 注目の撮像素子は、1/6型3MOSで、総画素数61万×3。有効画素数は52万×3となっている。CCD時代からすると、画素数は少し増えているが、劇的というほどではない。

 前面には静止画用フラッシュ、外部マイク端子がある。マイクは5.1ch仕様だが、設定でステレオズームマイクやガンマイクにも変更できる。おそらく後方から拾った音の差分を取って前方の特性を伸ばすのだろうが、なかなか面白い機能だ。

 またレンズ部にはマニュアルリングを装備している。ダイヤル脇のボタンで機能を割り付け、ダイヤルで調整するというスタイルだ。


レンズ下に外部マイク端子 マニュアルリングと機能割り付け用ボタン

 内蔵HDDは60GBで、最高画質では約7時間40分の撮影が可能。さらに4GBのSDHCカードも付属している。各画質モードは、春モデルから変わっていない。

動画サンプル
モード 解像度 ビットレート 記録時間
(60GB HDD)
記録時間
(4GB SDHC)
サンプル
HA 1,920×1,080ドット 17Mbps 約7時間40分 約30分
ezsm39.m2ts (22.5MB)
HG 13Mbps 約10時間10分 約40分
ezsm40.m2ts (18.5MB)
HX 9Mbps 約15時間20分 約1時間
ezsm41.m2ts (16.1MB)
HE 1,440×1,080ドット 6Mbps 約23時間 約1時間30分
ezsm42.m2ts (10.5MB)
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 液晶モニタは約30万画素の2.7型で、モニタ部周辺にはボタン類が全くない。メニュー操作のコントローラは、液晶内側に付いている。円形のボタンのように見えるが、十字キーになっている。


液晶部にはボタン類がなくシンプル コントローラは液晶内側に

 十字キーとしての作りは悪くないが、メニュー操作の場合は画面の上下左右と十字キーの上下左右が90度ずれることになるので、操作はちょっと難しい。以前このあたりの操作性を改善するため、カメラ後部にコントローラを付けて画面方向とコントローラ方向を一致させたのがPanasonicで、当時高い評価を得た。以降他社もこれに追従したわけだが、その本家本元がまた元に戻ってしまった。やってることがまるで、3年で部署が変わって引き継ぎもしていかないお役所のようである。

 十字キーの上には、機能面で今回の目玉とも言える「おまかせiA」ボタンがある。これは顔認識、明るさ、コントラスト、距離を認識して、そのシーンで最適な露出やコントラストを作ってくれる機能だ。何を認識したかに応じて、人物や風景、スポットライト、ローライトといった認識モードに自動的に変更する機能も備えている。

 また下部には、D端子とアナログAV端子がある。この部分は手動で開閉するが、SDカードスロットはレバーを引き上げるとスプリングで開く。おそらく開閉が頻繁に行なわれるだろうということで、こういう作りになっているのだろう。


後部にビューファインダと液晶モニタの切り替えスイッチがある

 背面に回ってみよう。ビューファインダを装備しているほか、その脇にはEVF-LCDのスイッチがある。LCDにしておくと、液晶モニタの開閉により自動スタンバイになるわけだが、EVFにすると液晶の開閉ではスタンバイモードにならなくなる。機能としてはキヤノンHG21に近いが、HS100はLCDとEVF両方は点灯しない。

 モードダイヤルはシンプルで、録画-OFF-再生の3モードしかない。以前は記録先をHDDにするかSDカードにするかをダイヤルでセットしたのだが、今回はメニューで保存先を指定できるようになっている。しかし相変わらず、静止画はSDカード、動画はHDDといった振り分けはできず、どちらか一方のメディアに撮るしかない。


HDMIとUSBは相変わらずバッテリを外した奥にある

 HDMIやUSBなどのデジタル系端子は、バッテリを外した奥にある。これは前回同様で、HDDの映像をPCに取り込んだり、撮影した映像をテレビで見るときには、いちいちバッテリを外してACアダプタを接続しなければならない不便さがある。

 ただ改善された部分もある。以前はHDDからSDカードへ映像をコピーするにも、いちいちACアダプタを接続しなければならなかったが、今回はバッテリ駆動時にもコピーできるようになった。必要なシーンだけSDカードにコピーして、VIERA等に突っ込んで再生するといった手順が、スムーズにできるようになった。


■ 撮像素子は悪くないと思うのだが…

 では早速撮影してみよう。本機は24Pデジタルシネマも引き続き搭載しているが、今回はデジタルシネマカラーのみONで、24Pは使用していない。というのも、おまかせiAモードにすると、自動的に24Pのメニューが無くなってしまうからである。おまかせiAと24P撮影は、排他仕様になっているようだ。

 今回も撮影日は曇天で、光量としてはソニー「HDR-CX12」の時に近い。しかし今回のMOSは低照度に強いということなので、条件としてはちょうどいいだろう。

 全体的なトーンで見ると、肌の発色などは問題ないが、緑の発色がびっくりするぐらい強い。すでに現場での目視のイメージを突破した緑だ。何もエフェクトなどをかけたわけではないのに、なにかCGっぽい感じがする。たぶん緑を原色方向へ引っ張りすぎなんだと思うが、もはや三板式のメリットである正確な色バランスとは言えない絵になっている。

 解像感はやや甘めで、他社の写りから比べるともう少ししゃっきり感が欲しいところだ。人物での撮影では、一番気になる顔の輪郭部分にボコボコとしたブロックを感じる。念のために断わっておくが、今回も他社と同じく最高ビットレートで撮影しているため、エンコードによるブロックではないと思われる。

 ハイビジョン黎明期と違って、低画素の撮像素子を使った画素ずらしというテクニックそのものが、もはや現代のフルハイビジョンに耐えうる限界に来ているように思う。三板式にこだわるなら、それぞれの画素数をハイビジョン相当まで増やした真っ向勝負を期待したい。

 Panasonic製MOSのウリとしては、CMOSに比べて画素単位での受光部面積が広いので、ダイナミックレンジが広いという点が上げられる。暗部の表現に関しては、光量の少ないシーンでもむりやり持ち上げるようなことはせず、黒が綺麗に落ちている。S/Nに関してもNRで過度に消している感じもなく自然だ。元々レンズが高コントラストなので、その特性に合うのだろう。


緑の発色が嘘みたいに鮮やか 解像感は甘めで、もう少ししゃっきり感が欲しい 暗部表現は黒が綺麗に落ちて悪くない

 今回の機能的な目玉である「おまかせiA」は、なかなか良くできている。iA無しと同アングルで撮り比べてみたが、iA有りのほうが全体的にうまくガンマを調整し、白飛び、黒つぶれを回避してうまくラティチュードの中に押し込めてくれる。

 ただその反面、かなりペタッとした絵になるきらいもある。映像というのは、多少飛んだり潰れたりしても高コントラストのほうが印象がいい場合もあるわけだが、そのときはボタン一つで簡単に解除できる。結果的にどちらがいい絵か、2つの候補を示してくれることになり、あまりカメラに詳しくない人でも絵作りに一歩参加できる余地を残した点で、実装が上手い。

おまかせiA ON おまかせiA OFF


かなり現物に近い色が出ている

 HDR-CX12では発色が厳しかったキバナコスモスのオレンジは、かなり現物に近い色が出ている。ただ撮影中の液晶表示ではかなりギトギトで、ホントに大丈夫かと思ってしまった。広色域に対応した液晶モニタの装備は、今後各メーカーの課題となるだろう。


sample.mpg (372MB)

room.mpg (243MB)
動画撮影のサンプル 室内サンプル。順にiAあり、iAなし、オートスローシャッター
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2で出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。



■ マニュアル機能はもう一息

 次に操作感全般について述べてみたい。本機の特徴として、マニュアルリングを装備したマニュアル撮影も上げられている。操作可能な機能は、ズーム、フォーカス、ホワイトバランス、シャッタースピード、アイリスの5つ。


ボタンを押してマニュアルリングへ機能を割り付ける

 レンズ脇のマニュアルレバーを下げると、マニュアルズームに、もう一度下げるとマニュアルフォーカスになる。頻繁に使う2つの機能にすぐアクセスできるのは、なかなか便利だ。その下のマニュアルボタンを押すと、他の3つにアクセスできる。使用中はボタン類が液晶の後ろで全然見えないのだが、ヒンジから少し離れているので、手探りで操作しても使いにくい感じは少ない。

 絞りとシャッタースピードの関係は、業務用機のように完全に各パラメータがバラバラになるわけではない。これは以前のPanasonic製コンシューマ機からそうなのだが、シャッタースピードを設定する場合、絞りは露出に応じて自動追従となる。一方絞りを設定する場合は、シャッタースピードは1/60に固定される。絞りを固定したのち、露出に応じてシャッタースピードを調整することができないわけだ。個人的には、深度表現を行なうために絞り優先モードを使う頻度が高いので、このマニュアルモードは使いづらい。

 再生環境としては、本機もHDMI-CECというか、ビエラリンクに対応している。ビエラ以外ではどうなるか、東芝REGZA 37Z3500で試してみたところ、リモコンの十字キーでの操作は可能であった。一方REGZAリモコンにある、再生・早送りといった操作ボタンは、全部使えなかった。HS100の場合、ほとんどの操作は十字キーで行なえるので、実質的な操作には問題ない。


メディア間のコピーには重複に注意

 本機にはHDDからSD、SDからHDDへのコピー機能がある。PCへの取り込みに際しても、いちいちバッテリを外してACアダプタを繋ぎ直すのも面倒なので、SDカードへコピーして取り込むという用途で使う人もあるだろう。

 メディア間のコピーは、ビデオ&写真、ビデオのみ、写真のみの3パターンがある。このうちビデオ&写真のコピーに関しては、重複チェックをしていないようだ。つまり先にコピーした動画がSDカードに存在した場合、また同じ動画を全部コピーしてしまう。同じ動画がいくつも存在すると、バックアップするにしても混乱の元になるので、このあたりは機能を整理したほうがいいだろう。


■ 総論

 カメラというのは、各社撮れる絵にいろいろな個性があるからこそ面白いというのは事実である。だが今回のHS100の絵は、あまりにも個性的すぎて、賛否が分かれるところだろう。特に緑の発色に関しては、よく言えばパリッとしてるが、悪く言えば嘘くさい。いずれにしても、もう完全に現場とは別ものになってしまっている。

 画質面で言えば、新撮像素子は確かに高コントラストで暗部のS/Nも悪くないが、三板の画素ずらしでなければ、もっといい結果が出せたように思う。結局画素ずらしによって作り出されるキレの甘い絵をしゃっきりさせようといろいろいじった結果、逆に他の部分が悪くなってしまったような印象を受ける。

 シーンを自動的に判断するおまかせiAは、使ってみると確かに効果がある。特に人物撮影では、顔の発色や輝度に大きな効果がある。子供などを追いかける場合は、基本的にONのままで問題ないだろう。

 ビデオカメラというのは、写真のカメラと違って、撮影を楽しむと言うよりも家電の領域に近いものであるのは事実だ。小さくて三板ということに注目が集まるが、ここまでの過剰な絵作りというのは、筆者個人としては正直受け入れがたいものがある。

 「愛情サイズ」というキャッチフレーズで大きくセールスを伸ばしたPanasonicだが、今後はサイズだけでなく、美しく記録できるほうにも、愛情を感じさせて欲しい。

□松下電器のホームページ
http://panasonic.co.jp/
□ニュースリリース
http://panasonic.co.jp/corp/news/official.data/data.dir/jn080618-4/jn080618-4.html?ref=news
□製品情報(HS100)
http://panasonic.jp/dvc/hs100/
□製品情報(SD100)
http://panasonic.jp/dvc/sd100/
□関連記事
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-感度が従来比2倍に。シーンモードの自動選択ボタンも
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080618/pana.htm
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~ 絵作りが変わって好印象の春モデル ~
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(2008年8月20日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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