この週末に向けて、CEATECに来場して様々な家電や技術をチェックしよう、と考えている人も少なくないだろう。今回は、個人的に「今年のCEATECを楽しむための豆知識」をお伝えしたい。各社の展示のつながりから、今後のトレンドを読み解くための助けとしていただきたい。 ■ 部分駆動LEDでシャープとソニーが直接対決 今年のCEATECは、例年以上に「年末商戦のお披露目の場」というニュアンスが強い。本当ならば「CEATECで発表」と言いたいところだろうが、このところ「年末商戦」の時期が少しづつ早まっている関係上、「8月末から9月には発表しておかないと、ライバル他社との競合上問題が出る」と考える企業が増えているためだ。 その結果、「年末商戦で対決するモデルを比較する」場としては、なかなか面白い状態となっている。とくに注目は、部分駆動型のバックライトLEDを使った、ハイエンド液晶テレビが比較できることだ。本日発表になったシャープの「AQUOS XS1」シリーズと、ソニーの「BRAVIA XR1」シリーズは、画質面に興味がある方も多いのではないだろうか。大げさなようだが、この2つの製品が登場したことで、液晶テレビは次のステージに突入した印象がある。
同じ部分駆動型バックライトLEDといっても、製品としてみると、シャープとソニーの考え方は少々異なる。シャープが「すべての技術を詰め込んだ最上位システム」として製品化したのに対し、ソニーは「画質のみに特化したモデル」。パネルを垂直統合で作るメーカーと、そうでないメーカーにできる事の差があらわれている。
同じようなコントラスト比をアピールする両社の製品だが、画質の特性はけっこう違う。「ファーストインプレッション」でいえば、全体の再現性ではソニー、一部の発色ではシャープ、という感じである。正確な数値は非公表だが、部分駆動の分割数では、シャープの方がソニーのものより細かいという情報を得ている。そのためか、細部のコントラストの印象はシャープの方が上、という印象だ。発色の素直さでも、シャープに軍配を上げたい。
ソニーは、BRAVIA XR1と同時に、240Hzを採用した「BRAVIA W1」を発表しており、会場でも「世界初の240Hz」を大きくアピールしている。だが、実際の画質を印象でいうなら、W1よりもXR1の方が上だ。特に、映画向けの「クリアモード」設定時には、文字通り「クリア」で気持ちの良い映像となる。このモードの際には、実は画像生成による120Hz駆動を止め、バックライト制御を中心とした再生となる。ビデオソースでは厳しい映像になることも多いようだが、フィルムソースで、しかもクリアな画質をお好みならば、きっと気に入るはずだ。会場では様々なデモが行なわれているはずなので、そのあたりの実力を確かめてみるのも面白いだろう。
■ 「プラズマ拡販」だけでないパナソニックの「3D」戦略 他方、多くの関係者が「あれはすごい」と口をそろえるのが、パナソニックの103型プラズマを使った3D映像展示である。 その技術的な方式などについては、本誌ニュースや本田雅一氏のコラムが詳しいので、そちらをごらんいただきたい。実は特殊な技術を使っているわけではないのだが、「フルHD・30フレーム」と「きちんとしたコンテンツ」がそろうだけで、驚くほど魅力的な技術に生まれ変わる。
日本国内で「3D映像」というと、ある種ギミック的な、「売り文句にはなるが、見てみると不自然でたいしたことのないもの」という印象を持っているいる人も少なくないのではないだろうか。だが、今回の技術は、液晶シャッターを内蔵したメガネをかけなければならない、という制約こそあるものの、多くの人のもつ「3D映像」の印象をうちやぶるだけのポテンシャルを持っている。高速な動画表示性能に向いたプラズマの特徴を生かしたアプリケーションである。 だが、パナソニックの狙いはそれだけではない。パナソニック・蓄積デバイス事業戦略室の小塚雅之室長は、「もちろん、プラズマ戦略にプラスになれば、と思っていますが、むしろ狙いは別にあります」と話す。その狙いとは、BDで「映画館の環境を自宅に再現する」ための武器を、一つ追加することにある。 「BDは、自宅で映画館と同じような体験が出来ることを目標に開発してきました。ハイデフの映像も、ロスレスの音声もその一環。現在アメリカで増えている3D映画を再生できるようにすれば、お客様に喜んでいただけるだろう、という発想です」 将来、ディスク内に「よりリッチに楽しむためのコンテンツ」として収録されるように、というのが、最終的な狙いである。そのため今回展示を行う技術は、すべて「最終的に標準化することを前提」としたものになっている。映像を収録する規格としてはBDを、映像・音声を伝送する規格としてはHDMIを念頭に置き、それぞれの規格を拡張した上で、汎用的に使えるものを狙っている。 「プラズマに向いたアプリケーションではありますが、多くの劇場ではDLPを使って上映されています。DLPのプロジェクタならば、家庭用でも再現が可能になる可能性があります。規格として条件を整えれば、それなりの支持を得られるのではないかと思っています」と小塚氏は語る。 事実、それを思わせる動きもCEATECでは見えていた。三菱電機は、レーザー光源を使ったDLPリアプロを「レーザーテレビ」と称し展示した。日本での発売予定はまだないが、米国では今秋に商品化される。このレーザーテレビのデモでも、「次世代のアプリケーション」として、液晶シャッター方式のメガネを使った3D映像が流された。画質やちらつきの具合などは異なるものの、パナソニックが行なったデモにかなり近いものだ。
またこの技術は、映像再生側にさほど負荷がかからないのも重要な点である。パナソニックで再生に使われているのは、市販のBDプレーヤーのファームウエアに改良を加えたもので、ハード的な変更は行われていない。再生にしろ、HDMIでの伝送にしろ、特別な要素は不要なのだ。フルHDの映像を2ストリーム同時に流すことが必要であるため、LSIなどはそれなりの処理能力が必要なのは事実だが、日本のBDレコーダならば、W録のために元々2ストリームを扱うことが前提となっており、現時点ですら「過大な要求」とはいえない。 パナソニック以外から、BDで3D表示を、という動きは出ていないものの、PS3のように、処理能力に余裕があり、ソフト的にも柔軟な対応が可能なプラットフォームの場合、対応は難しくないと予想される。 もちろん、3Dには色々と課題も多い。一番の問題は、「いかにコンテンツを用意するか」という点だ。パナソニックブースでは、映画やビデオクリップ、スポーツなど、様々なコンテンツを使ってデモが行われている。ただ、そのすべてで一様な「3Dの効果」があるわけではないことも事実だ。 CGアニメを含む映画のように、「どこを見て欲しいのか」という、監督・ディレクターの意志がはっきりした映像では、さほど目の疲れも、映像の不自然さも感じることはない。だが、スポーツのような「作為的に撮影しづらい映像」の場合、映画ほどの自然さや立体感が出てこない印象を受けた。いかに「すごい」とはいえ、すべての映像が3Dに向かう、というのは乱暴なものだな、と再認識した、というのが実情だ。 「あくまで私見ですが、3Dはやはり『映画』に向いている。すべての映像に使うには、まだまだ撮影や制作のノウハウが必要です」と小塚氏も話す。小塚氏が「ロスレス音声のようなもの」というのは、そういった特性によるものなのだろう。
通常の技術では、1画面分、もしくは数画面分の映像をフレームバッファに蓄積、それぞれのアルゴリズムを使って変換する。そのため、メモリも処理能力も必要となり、安価に組み込むのが難しかった。だが今回ビクターが公開した技術は、「数ライン分の映像から、知覚モデルを元に3D化」(同社担当者)するため、大きなメモリ空間も、高い処理能力も必要ない。現在はトレードオフとして、「自然画の3D化に特化しており、CGやアニメには弱い」(同社担当者)という特質はあるが、効果はなかなかだ。 ハリウッドが本気になり、規格化が行なわれ、SDからのアップコンコンバートのような「3D化」技術も出てくれば、今度こそ「3D」へのアプローチも一時的なものではなくなるのでは……と期待したくなる。おそらく、基盤の整備にはハイデフ化以上の時間がかかるだろうが、3Dをギミックでなく、「未来」として感じる時期が、ようやく見えてきたのかも知れない。
□CEATEC JAPAN 2008のホームページ (2008年9月30日)
[Reported by 西田宗千佳]
AV Watch編集部 |
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