VHF-LOW帯でのマルチメディア放送に、ISDB-Tsb採用へ

-VL-P会見。3D/5.1chなどワンセグ越える高度放送目指す


VL-P事務局の黒田徹氏

6月16日発表

 

 アナログテレビ放送が終了する2011年以降に、空いたVHF-LOW帯(VHF 1~3ch)で実施されるマルチメディア放送サービス。その放送方式の技術的条件について、情報通信審議会技術分科会放送システム委員会の一部答申案が6月12日に公表され、「VHF-LOW帯マルチメディア放送推進協議会」(VL-P)が推進している「ISDB-Tsb方式」が望ましいとされた。

 現在はパブリックコメントを募集している段階で、7月28日の技術分科会で答申となる予定。これを受けてVL-Pは16日、活動状況などを報告する記者会見を開催した。

 アナログテレビ放送終了で空くVHF帯で、マルチメディア放送に利用できる予定なのは1~3ch(LOW帯)と、10~12ch(High帯)。この内、LOW帯は「地方ブロック向けマルチメディア放送」と呼ばれ、現在のラジオのように全国でブロック単位の放送を行ない、ブロックごとに複数の事業者が参画。地域情報なども盛り込んだ放送が予定されている。

 High帯では、全国で同じ内容の放送が予定されており、2~4事業者が参画。産業振興や有料放送が中心としたものになる予定。

マルチメディア放送の現状。左側のVHF-LOWを使うのが地方ブロック向けマルチメディア放送だ情報通信審議会の動き3つの方式が検討されている

 このマルチメディア放送の方式では、フジテレビやNTTドコモなどが設立した「マルチメディア放送」が、地上デジタル/ワンセグで利用しているISDB-T(Integrated Services Digital Broadcasting-Terrestrial)方式を拡張したISDB-Tmm方式を提案。社団法人デジタルラジオ推進協会(DRP)とVL-Pが、同じくISDB-Tをベースとした、ISDB-Tsb方式を推進。クアルコムが推進する「MediaFLO」も参加し、3方式が採用に向けたアピール活動を行なっていた。

 各方式が対応する映像や音声の仕様に大きな差は無く、多重化方式やIP多重化、伝送路符号化などに若干の違いがある程度。放送波を使ったIPパケット(ネット上のコンテンツ)を配信する機能や、放送波を使ったダウンロード提供技術なども内包しているのが特徴だ。

各方式の映像の解像度、フレームレート、音声符号化などの比較表。ほとんど共通していることがわかる多重化方式やIP多重化、伝送路符号化などで違いがあるISDB-Tsbにおける多重化の概要

 情報通信審議会では3方式について、「いずれも要求条件などを十分に満たしている」とした上で、ISDB-Tmmが13セグメントと1セグメントを組み合わせて伝送する事を可能にし、全国向け放送で想定される大容量の伝送を考慮していること、MediaFLOも大容量伝送に適した方式であること、ISDB-Tsbは地方ブロック向け放送や新型コミュニティ放送の実現に向け、柔軟な周波数割当てが可能なことなどを評価。結果的に「地方ブロック向けマルチメディア放送」ではISDB-Tsbを規定。VHF-High帯では、用途に応じ、ISDB-TmmとMediaFLOによる伝送方式が規定された。

 今後の流れはワンセグ放送の時と同様で、7月に出される答申に基づき、総務省が制定。ここで電波法の枠内での制定は完了するが、その後は民間に移り、ARIB(社団法人電波産業会)が具体的な技術規定を行ない、その後、具体的な放送内容を詳細に規定した技術資料「ARIB運用規定」がまとめられ、メーカーが対応チューナなどの機器が開発できるようになる。


■ 多機能サービスを提案

 こうした流れを受け、VL-Pでは「地方ブロック向けマルチメディア放送」の早期実現に向け、より具体的に放送やサービスの形を検討する段階に入っている。具体的には3月に「サービス検討作業」、「置局検討作業班」、「運用規定策定作業班」を設置した。

 「置局検討作業班」は、実際に各地方ブロック(日本を7ブロックに分割予定)でマルチメディア放送を開始するとして、どのような問題が起こるかをシミュレーションするもの。VHF-LOW帯を使うため、その地域で放送されるFM放送と隣接する事が多く、干渉妨害に留意する必要があるため、ブロックごとに利用できる帯域幅が異なるという。そこでシミュレーションを重ね、2009年秋を目処にブロックごとの帯域幅推定を予定している。なお、作業班ではマルチメディア放送のカバー範囲目標の前提を「FM放送程度の世帯カバー」としており、現行FM放送の置局状況をベースにするという。

 「サービス検討作業」は、“技術的に実現できるかどうか”は別として、参加者が実施したいサービスイメージを提示するもの。後に控える「運用規定策定作業班」が、ARIBに技術資料として提案するための「放送事業者運用規定」の策定にあたり、盛り込む機能要項の“洗い出し”を目的としている。

 会見では、これまで会員各社から提案された50件を超えるサービスが紹介された。音声をメインとし、BMLを使ったデータ放送や簡易動画放送も行なう「デジタルラジオ」、ワンセグよりも高画質な動画放送などの基本サービスに加え、様々なアイデアが披露されている。

 代表的なところでは、MPEGサラウンド規格を用い、AAC/HE-AACの音声データにMPS拡張パラメータを加えて放送。MPS対応受信機では5.1chのサラウンド放送が楽しめ、非対応チューナでは普通のステレオ再生ができる柔軟性を持った「サラウンド放送」サービス。

 裸眼立体視技術を活用し、3D表示放送を行なう「立体視映像放送・視聴サービス」。サッカー選手の動きや、製品の形状データをメタデータとして伝送し、3D表示デバイスで立体表示する「3DCGサービス」。放送に視聴者がリアルタイムでコメントを寄せ、コミュニケーションができる「視聴者参加型サービス」。ショッピングやオークションサービス。渋滞の要因や回避路も提供できる高度な交通情報システム、緊急地震速報、デジタルサイネージやデジタルフォトフレームへのコンテンツ伝送も提案されているという。

MPEGサラウンドを使った5.1chサラウンド方式が提案されたメタデータで形状や動きを送り、受信機側で3DCGとして再現する技術同じ番組をリアルタイムで楽しんでいる人同士が、コメントを寄せ合い、交流できるサービスも検討

 受信機側ではダウンロードやプッシュ配信への対応。EPGサービスへの対応、マルチメディア放送内のコンテンツ共通で利用できる利便性の高いユーザー管理・課金・決済・認証システム。車載機器での利用を想定し、ブロック放送のエリアを跨いでも、同じ番組を自動的に検索して継続視聴する受信機能、ダブルチューナを使った機能案なども紹介された。

 なお、「運用規定策定作業班」では第1期の活動として、音声や映像のリアルタイム放送サービスの運用規定を軸に、2009年末を目処に運用規定を策定。2010年夏を目処にARIBに資料を提出する予定。第2期には、前述のダウンロードやIPコンテンツの伝送などの規定を進め、「放送に間に合う形でまとめていきたい」(VL-P事務局の黒田徹氏)としている。

電子書籍や電子コミックなどを放送波を通じて一斉配信するアイデアも車載機器には放送エリアを跨いでの移動中でも、同一番組を継続視聴するためのチューニング機能が提案されている今後の検討スケジュール

(2009年 6月 16日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]