鳥居一豊の「良作×良品」

第137回

5万円以下、手軽にオーディオを始められるアクティブスピーカー3機種。ヤマハ、Edifier、フォステクスを聴く

左からヤマハ「HS4W」、Edifier「QR65」、フォステクス「PM0.3BD」

ペア5万円以下、オーディオ入門にピッタリなアクティブスピーカー3機種を聴く

アクティブスピーカーとは、内部に駆動のためのアンプなどを搭載したスピーカーのこと。パソコンなどと組み合わせて、デスクトップのような最小スペースで音楽を楽しめることが特徴だ。もちろん、本格的なオーディオシステムのように使うこともできる。

初めてのオーディオというと、プレーヤーとアンプ、スピーカーなどのセットを揃える必要があるが、アクティブスピーカーならば、既に持っているノートパソコンやスマホがあれば、すぐにオーディオ趣味をスタートできる。手軽に始められることも大きな魅力だ。

そこで、手に取りやすいペア5万円以下で、注目のアクティブスピーカー3機種を揃えてみた。オーソドックスな意味での2ウェイのブックシェルフ型で、デスクトップだけでなく、オーディオ用スピーカーのようにも使えるモデル。なによりしっかりとした音の実力を備えているものを選んだ。用意したのは、フォステクス「PM0.3BD」(実売約3万4,650円)、Edifier「QR65」(同4万9,880円)、ヤマハ「HS4」(同2万9,700円)だ。

音楽鑑賞からDTM、インターネット配信までカバー、フォステクス「PM0.3BD」

PM0.3BDは、フォステクスのなかでも比較的コンパクトなサイズのモデルながらデジタル(Bluetooth/USB)とアナログ(ステレオミニ)を備えたモデル。PC用スピーカーのほか、一般的なオーディオ機器、ポータブルプレーヤーとの接続なども可能になっている。

ユニットは、75mmコーン型ウーファーと19mmソフトドームツイーターによる2ウェイ構成で、アンプ出力は15W+15W。サイズはもっともコンパクトで110×133×212mm(幅×奥行き×高さ)となっている。Bluetooth接続の場合は対応コーデックはSBC、AAC。USB接続の場合は最大96kHz/24bitまで対応する。

背面には電源端子をはじめ、左側スピーカーとの接続用端子、サブウーファー出力、ステレオミニ入力、USB-C端子がある。

ユニークなのは、背面にディップスイッチがあり、未入力状態だと自動で電源がオフになるオートスタンバイ、音質モードの切り替え(VOICE/MUSIC)を備えること。MUSICモードは音楽鑑賞やDTM、VOICEモードはネット配信などの声を中心したモニター用の音質となっているそうだ。試聴ではMUSICモードを選択している。

PM0.3BDの前面と背面。左右の接続ケーブルは付属の専用ケーブルを使用する

スタジオモニターの血統を受け継いだ硬派なコンパクト、ヤマハ「HS4W」

HS4Wはヤマハのプロオーディオ向けスピーカーで、多くの音楽スタジオでニアフィールドモニターとして活躍しているモデルの現行シリーズ。入力はTSフォーン/XLR兼用端子、RCA端子、ステレオミニ端子の3つでアナログ入力のみ。ミキサーなどのプロ向けの機器との接続にも対応することが特徴だ。

ユニットは、25mmドームツイーターと11.4cmコーン型ウーファーの2ウェイ構成。サイズは今回の3モデルの中ではもっとも大きく、150×213(L側)/203(R側)×240mm(幅×奥行き×高さ)となる。

アナログ入力のみの装備となっているほか、特徴は背面のスイッチでROOM CONTROL(500Hz以下の調整に使用。0/-2/-4B)、HIGH TRIM(2kHz付近を調整+2/0/-2dB)の調整が可能になっていること。これは部屋や置き場所による音質を微調整するもので、さまざまなスタジオに持ち運んで使うスタジオモニターに備わる装備。一般用としても低域や高域の音質調整として使うことができる。試聴ではどちらも0dBのままで使用している。

HS4Wの前面と背面。TSフォーン/XLR兼用端子をはじめとするアナログ入力専用の装備。右側スピーカーとの接続も一般的なスピーカーケーブルだ

充電機能まで備わったデスクトップ向け小型スピーカー、Edifier「QR65」

Edifierはパソコン用のコンパクトなスピーカーを中心にラインアップしているメーカーで、今回の3モデルの中で、もっともコンシューマー機に近いモデル。

一番の特徴はミラー加工されたアクリル製バッフルに内蔵されたイルミネーション機能。自分で自由に色を変更できるほか、再生する音楽に連動して色や動きが変化する。イマドキというか、ピュアオーディオとしてはいかがなものかと思う人もいるかもしれないが、実は音も良い。

ユニットは、30mmシルクドームツイーターと70mmアルミドームウーファーによる2ウェイでアンプ出力は15W×2(高音用)、20W×2(中低音用)の総合出力70Wだ。

入力はアナログ(RCA)とUSB-A、そしてBluetoothに対応。Bluetooth接続ではLDACコーデックもサポートしている。デジタル入力は最大96kHz/24bitまで対応する。また、サブウーファー用出力端子も備える。

特徴的なのが、3ポート(USB-C×2、USB-A×1)の給電用USB端子を持つこと。TurboGaN充電技術を採用しており3ポート同時使用時最大60Wの給電が可能だ。

また、デスクトップでの設置用にスタンドも付属する。アルミ製のシンプルな作りだが強度は十分。約10度の角度で斜め上を向いた設置ができるので、パソコンなどとの組み合わせにマッチする。

サイズはアクティブ側が141.5×216.8×213mm(幅×奥行き×高さ)、パッシブ側が130×212×213mm(同)。

QR65の前面と背面。R側スピーカーとの接続ケーブルは専用の同軸ケーブルを使う。下部にあるのが充電用USB端子
QR65に付属するデスクトップ用スタンド。斜め上に向けた設置ができる

コンパクトスピーカーながら、低音もしっかり。フォステクス「PM-0.3BD」

さて試聴だ。まずはもっとも小さなフォステクスPM-03BDから聴こう。

試聴では、一般的なスピーカーと同じように2m弱の距離で設置して聴いているが、デスクトップを想定した1m弱の近接試聴でも聴いている。接続はすべてアナログ接続で統一した。再生機器はLINN「MAJIK DS」(旧型)とFIIO「K9 AKM」だ。音質モードはMUSICとしている。

スタンドに設置した状態。標準的なスピーカースタンドに置いてみるとちょっと小さめにも感じるが、鳴りっぷりは十分

まずは2m強の間隔で聴いてみたが、思ったよりも低域は出てスケール感もある、音量的にも問題はない。クルレンツィス指揮ムジカ・エテルナによる「チャイコフスキー/交響曲第6番」の第3楽章を聴くと、音色は自然で中域に厚みのある鳴り方をする。

各楽器の音色や質感はしっかりと描くが決して解像感の高さを主張するような音ではない。どちらかというとコンサートホールで生の演奏を聴いている感じの聞こえ方だ。ティンパニの連打はちょっと曖昧になりがちで、さすがにローエンドまで力強さを求めると不足はある。

「サラ・オレイン/One」から「ボヘミアン・ラプソディ」を聴くと、声には厚みがあり、コーラスとの描き分けもしっかりとしている。声の質感や抑揚も丁寧に描くし、オペラ調に高い声を出すところも耳障りになるようなクセっぽさはなく、しなやかに聴かせてくれる。

「宇多田ヒカル/SCIENCE FICTION」の「二時間だけのバカンス feat.椎名林檎」は、ふたりの声の違いを明瞭に描き分ける。ボーカルとコーラスを入れ替えながらうたうのだが、ボーカルでの声の張りとコーラスの時のハーモニー感が自然だ。

特に解像感が高いとか情報量の多い音という感じではないのだが、自然でバランスのいい再現になる。歌い方のニュアンスの違いやブレスの入れ方など、歌い手の特長がしっかりと出る面白さがある。

今度はQobuzで、カラヤン/ウィーン・フィルによる「ホルスト/組曲「惑星」」を聴いた。サイズが小さいわりに木星らしい雄大なスケール感も出ているのは立派だ。各楽器の音色も自然でコンサートホールらしい音の広がりなど音場感も十分。バイオリンが何人居るとか、フルートがどこにいるかといった精密な解像感はないが、カラヤンらしい精密感のある演奏の魅力をしっかりと描くし、情報量として不足はない。

「米津玄師/Plazma」でも声は明瞭で、音数がいっぱいの伴奏もガチャガチャした音にならず適度に整頓されていて聴きやすい。ボーカルがしっかりと立つバランスだ。

試しにVOICEモードでも聴いてみたが、声の帯域を中心としたバランスになるようで、声がよりクリアになる。そのぶん、音場の広がりなどは狭くなる。配信などの音声のモニター用とのことだが、もともと声の再現に魅力のある音なので、ボーカル好きならば好ましいと感じるかもしれない。

また、近接試聴では音場の広がりよりも声や各楽器の音色がよりはっきりと耳に届くので、近接試聴+VOICEという組み合わせはなかなか良さそうだ。

原音をそのままストレートに鳴らすモニター調の音という印象があり、ニュアンスの変化などはなかなかリアルに再現する。それでいて過度に情報量を重視した鳴り方にならず声を中心に聴きやすい音でまとまっている点は好ましい。モニター的にも使えるし、音楽鑑賞用として聴いても聴き疲れせずに気持ちよく楽しめるところはよい。

サイズのわりにしっかりとした低音が出るので、デスクトップなど狭いスペースに置きたい人にも合うだろう。

モニター調の色づけのない正確な音。ヤマハ「HS4W」

今度はヤマハのHS4W。モニタースピーカーらしく背面にはROOM CONTROLとHIGH TRIMの音質調整も備わっているが、今回はどちらも「0」の状態で聴いている。

「チャイコフスキー/交響曲第6番」を聴くと、脚色なしのストレートな鳴り方だと感じた。木管や金管といった楽器の音色も正確だし、弦楽器らしい音の艶もきちんと出る。

この曲はさまざまな機器で聴いているが、極端に言うとそれらの平均値のような印象だ。あまり良いイメージに感じない人もいるかもしれないが、スピーカー自体の音色的な主張や個性をあまり感じない。そういう意味では真面目な音とも言える。

ヤマハ「HS4W」。真っ白な姿はリビングにも似合いそう。ただし音はやや辛口

サラ・オレインでは声の再現も正確だし情報量も十分。コーラスは本人を中心に左右に2人ずついるが、それがきれいに並ぶ。このあたりの音像定位の正確さは見事。

宇多田ヒカルと椎名林檎のデュエット「二時間だけのバカンス」も、ボーカルとコーラスの位置関係や歌唱の違いがよくわかる。音像の定位や伴奏とのバランス、歌い方の違いなどをきちんと再現する音だ。

Qobuzでの「ホルスト/木星」を聴くと、カラヤンらしい精密感というか、オーケストラの演奏者を一糸乱れずに指揮しているような厳格さがよく伝わる。音楽を楽しむ道具としてスピーカーをみると、真面目な音とか面白さがないとも感じるのだが、この曲を聴いていると、カラヤンらしさがよく伝わる。

HiFi用スピーカーも現代では色づけのなさ、原音忠実が重視されていると思うが、モニタースピーカーのそれは一線を画するレベルにあることが改めてわかる。

「米津玄師/Plazma」はダイナミックレンジを圧縮した録音だが、そういう録音であることがはっきりわかる。あまりにもまっとうな鳴り方をする。正直というかストレートな音。実力はかなり高いのだが、趣味のオーディオ用と考えると好みがはっきりと分かれるような気もする。

気持ちよく良い音で音楽を楽しめる。Edifier「QR30」

最後はEdifierのQR30。見た目の奇抜さはあるが、音は現代的なHiFiスピーカーらしい音がする。基本的には色づけは少なく、個性的なクセもない。だが、明るく見通しのいい音で、解像感が高くオーディオ的な面白さも豊かだ。

「チャイコフスキー/交響曲第6番」を聴くと、楽器の音色は自然だしホールの響きまで豊かに再現する。バイオリンが何人居るかがわかるような細かな再現も得意だ。

そして、他と比べて特に大口径ではないウーファーだが、低音の伸びや解像感はもっとも優れる。難しいティンパニの連打もサイズは考えれば上等な連打感がある。

Edifier「QR30」。バッフル面がミラー加工ではあるが、イルミネーションをオフにすると印象が変わる

サラ・オレインの「One」はボーカルとコーラスのバランスがよく、それぞれの分離と調和がうまい。センターに一歩前に立つボーカルの実体感も好ましい。「二時間だけのバカンス」でも、ボーカルのピシッとした定位、実体感と質感は素直にリアルな感触だと感じる。聴いていて気持ちがいいし、オーディオ的にもよくできた音だ。

Qobuzで聴く「ホルスト/木星」も、カラヤンらしい、すがすがしく颯爽とした演奏の雰囲気もよく伝わるし、ホール感もよく再現できている。細かな音も含めて情報量もたっぷりと良いことばかりだが、クライマックでたくさんの楽器が一斉に音を出すようなところではやや混濁感も感じる。これはさすがにスピーカーのサイズなどを考えると限界なのだろう。

「米津玄師/Plazma」は音像定位はしっかりとしているし、歌唱も明瞭だが、広がり感はやや乏しい。どちらかというと音場よりも音像をしっかりと立てるタイプなのだろう。これは比較的近い距離での試聴を意識したバランスなのかもしれない。

ドラムなどのリズム楽器も歯切れ良く鳴るのでリズム感が気持ちいいし、楽しく鳴らすことを考えた音だと思う。

比較的手頃なアクティブスピーカーだが、選択はかなり悩ましい

いずれも手頃な価格だが、優秀な実力を備えたアクティブスピーカーばかりで、聴き応えがあったというのが今回の試聴の感想だ。

特にヤマハのHS4Wはプロの現場で実績もあるガチンコのプロ仕様だ。音楽制作や録音をする人にとっては頼りになるスピーカーだと思うが、個人的には音楽を楽しむ目的で使うには辛口すぎると感じた。

EdifierのQR30は、一般的なオーディオ向けスピーカーとして優秀。フォステクスはその中間(少しヤマハ寄り)にあると感じた。わかりやすくそれぞれの立ち位置を言ってみたが、ヤマハとEdifierの距離はかなり遠い。

このくらいの価格でもこんなに個性豊かならば、これらを全部聴いてみるのも楽しいし、オーディオ経験は豊かになるだろう。

安価なモデルなので購入前に試聴というのはなかなか難しいかもしれないのが、聴く機会があればぜひ試聴してみてほしい。「同じようなスピーカーなのにこんなに音が違うんだ!」と驚くはず。

高価なスピーカーではなくても、こうした驚きや、“高音質にはさまざまなタイプがある”ことがわかるはずだ。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。