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第171回:「SonicStage 2.3 for Mora」を体験
~ 音楽配信サービスの転換期。ソニー版との差異も ~



 既報のとおり、11月17日よりMoraが「SonicStage 2.3 for Mora」を無償で公開した。また、それに先立ち11月10日にソニーも「SonicStage 2.3」を公開している。Net MDやHi-MD、ネットワークウォークマンユーザーにとっては必須とも言えるSonicStageだが、今回のバージョンアップによりどんなメリットが出てきたのか、実際に試した。


■ OpenMG JukeboxやSonicStageと疎遠になった理由

 筆者は仕事柄いろいろなポータブルオーディオプレーヤーを持っているし、使ってもいる。もちろん、Net MDも発売された当初、「MZ-N1」という機種を個人的に購入し、いまでも時々利用している。ただ、ポータブルプレーヤーのメインとして使っているかというと、そうではない。以前は、音楽を聴いたり、取材先でのインタビュー録音用に使ったりもしたが、最近はもっといい機器が出ているので、切り替えてしまった。そのため、現状では、このコーナーでATRAC3を用いる際の実験機器と化している。

 そんな状態になったのには幾つかの理由がある。まず、筆者の場合、製品レビューや実験などのため、PCにさまざまなドライバやアプリケーションを頻繁にインストールする必要がある。そのため、OSをキレイな状態に戻すことが日課のようになっている。実際には、フォーマットしてOSをゼロからインストールしていたら時間がかかってしかたないので、バックアップソフトを利用して、理想的環境に書き戻している。

 そのため、DRMを使った音楽データは、きちんとバックアップをとっておかないと、すぐに再生できなくなってしまう。ATRAC3/OpenMGのデータは、バックアップが取れるので多少は安心ではあるが、それでも面倒であることには変わりない。

 また、自分の手持ちのCDからリッピング/エンコードしたデータでも、転送回数が3回と制限されているのもデータ管理上、億劫に感じるところのひとつだ。さらに、ATRAC3データをCDを書き込もうとは思わないのだが、「できない」と言われてしまうのもちょっと引っかかるところではある。VAIOを使えば、その辺が可能になるということだったが、そのためには、すべてVAIOでATRAC3/OpenMGデータを管理し、ライブラリ構築しなくてはならないため、VAIOは持っているものの、そこに集約したいとは思わなかった。

 OpenMG JukeboxやSonicStageのインストールにやたらと時間がかかるというのも敬遠してしまう理由の1つだ。毎日といわずとも最低週に1回はシステムドライブをフォーマットしてしまうので、アプリケーションのインストールはよく行なうが、たった1つのアプリケーションをインストールするのに何度もマウスクリックをし、10分近く時間が奪われるのもいただけない。

 と文句ばかり並べてしまったが、今回のバージョンアップおよび、Mora版の登場、そして東芝EMIのデータ配信方針の転換などにより、上記の不満点のいくつかは解決されそうである。誰もが筆者のような不満を持っているとは思わないが、近い不満を持っている人は少なくないだろう。


■ インストール時にも大きな違いがある

 まず、SonicStageの最新版にはソニーがユーザーに対して配布している本家SonicStage 2.3とMoraが広く一般に配布しているSonicStage 2.3 for Moraの2種類が存在する。新たにこの2つのソフトを利用する場合、簡単に導入ができるのはMora版である。というのも、ソニーからSonicStage 2.3をダウンロードするためには、前バージョンからのアップデートとなるため、SonyIDの登録と、Net MDなどのカスタマー登録が必要なのだ。

SonicStage 2.3 SonicStage 2.3 for Mora

 もっとも、すでにきちんと登録していて、ユーザーIDを取得している人なら、スムーズに導入やアップデートは進むだろう。ただ、筆者の場合、SonyIDは持っていたが、普段使っているものではないので、メールの履歴などからIDとパスワードを探し出さねばならなかった。また、昔に買ったMZ-N1を登録していなかったため、ユーザー登録証をなんとか見つけ出し、そこに書かれた番号とMZ-N1本体のシリアル番号を入力するなど、かなり面倒なことになってしまった。

 反対に、Moraのほうは登録などは何も必要ない。ただWebサイトからプログラムをダウンロードするだけでいいのだ。どちらからダウンロードしたものも、ファイルサイズ的はたったの600KB弱。「ん? そんなに小さいのか」と思ったら大間違いで、起動すると約36MBものデータを改めてダウンロードし、それからインストールする形になる。もちろん、ソニー版の場合はアップグレードバージョンであるため、あらかじめ前のバージョンがインストールされていないと、インストール作業自体行なえない。

ソニー版のダウンロードには、SonyIDの登録と、NetMDなどのカスタマー登録が必要だ プロラムの本体は36MB程度

 アップグレード対象となるのはSonicStage Ver.1.5/2.0/2.1、SonicStage Simple Burner Ver.1.0/1.1そしてOpenMG Jukebox Ver.2.2。なお、最新版のインストーラを起動すると、アップグレード対象プログラムは、不要になるため削除されてしまう。前述のようにOpenMG JukeboxやSonicStageはインストールに時間のかかるソフトなので、アップグレード版のインストールをするためだけに旧バージョンをインストールすると、理不尽な思いをするかもしれない。

アップデート時に旧バージョンやOpenMG Jukeboxは削除される

 一方の、Mora版はこうした旧バージョンチェックがないので、インストールの度に36MBをダウンロードしなくてはならないのは気になるが、まあ、なんとか許容できるところだ。


■ Hi-MDの活用範囲も広がるかも

 さて、こうして2台のマシンにそれぞれのバージョンをインストールしてみたが、機能を比較してみたら、まったく同じ。違うのはオープニング画面にMoraロゴが入るか否かと、起動した後の壁紙のロゴが「Walkman」か「Mora」かという違いしかない。

起動時のロゴと壁紙の違いしかない

 ちなみに、この壁紙も変更できてしまうので、違いはほとんどないと言っても良いだろう。なお、すでに旧バージョンでライブラリを構築している場合も、ソニー版でアップデートするだけではダメで、あらかじめバックアップ作業をしておく必要がある。

 これでようやくSonicStage 2.3が使えるようになったわけだが、以前のバージョンと比較してかなり使えるものになった。と言っても「機能アップ」というよりも「制限解除」といったほうが正しいだろう。まず、CDからリッピングした際の転送回数制限がなくなった。以前は3回までしかポータブルデバイスへの転送ができなかったのが、無制限になったのだ。まあ、以前もチェックイン/チェックアウトという機能を利用して、一度転送したデータを元に戻すことは可能であったが、無制限になると使う側の気持ちも楽になる。

 さらに、従来はなかったオーディオCDのライティング機能が追加された。これにより、ATRAC3データとして保存したデータを再度CDにライティングできるわけだ。前バージョンではATRAC CDというCD-ROMを作るこはできたが、オーディオCDであれば、より広く活用できる。そしてこれは事実上のコピーフリーデータとなるわけで、DRMの解除手段が搭載されたとも考えられるわけだ。

CDからリッピングした際の転送回数制限がなくなった 新たに音楽CDのライティング機能が加わった

 ただし、もちろん何でもOKというわけにはいかない。手持ちのCDからリッピングしたデータをオーディオCDとしてライティングする回数に制限はないが、Moraからダウンロード購入したデータの場合、そのデータによって回数制限が決まっていて、それに従うことになる。例えば、東芝EMIのデータは現状で、オーディオCDへの書き込み回数が10回までという制限が設けられている。

 1回でもオーディオCD化ができるのならば、多少面倒ではあっても、音楽配信データのダウンロード後の活用の幅が広がる。その一方で、手持ちのCDをATRAC3化したものを再度CDに保存してもメリットは少ない。一度劣化したものは、元には戻らないからだ。しかし、現在OpenMGで保護されるデータはATRAC3に限らない。より高音質を実現できるATRAC3plus、さらに非圧縮のWAVまでサポートされている。ここで思いつくのが、Hi-MDとの連携だ。手元にHi-MDの機材がなかったので、実際には試していないが、Hi-MDで非圧縮の録音を行ない、それをSonicStage 2.3でPCに吸い上げたらどうだろうか?

 従来、せっかくいい音で録音しても、PC側では一切編集することができず、VAIOを使わない限りCDに記録はできなかった。しかし、SonicStage 2.3と同日に「WAV Conversion Tool」が公開されており、これを利用すればHi-MDでアナログ録音して、SonicStageに転送したファイルをWAVファイルに変換できるようになった。これによってHi-MDの活用範囲も広がったといえるのではないだろうか。


■ 東芝EMIのCCCD廃止を暗示?

 最後に考えてみたいのが東芝EMIの対応だ。SonicStage 2.3 for Moraのリリースにあわせ、東芝EMIは配信データのセキュリティ方針を変更した。前述したとおり、オーディオCDへのライティングを10回まで可能にするとともに、ポータブルプレイヤーへの転送回数は無制限としている。

 半年ほど前、別の雑誌の取材で東芝EMIに話を聞いたことがあったが、その際、「CDへの書き込みを可能にすると、CCCDを出しているレコード会社として自己矛盾が生じる」という話をしていたが、結果的にその自己矛盾を起こしてしまっている。エイベックスやSMEが、すでにCCCD廃止の方針なので、まもなく東芝EMIも追随することを示しているのかもしれない。

 また、この取材時に「日本においては、“音楽配信データをCDにライティングできないようにする”、“転送回数は3回まで”といった制限があるので、アップルが米国でサービスしているiTunes Music Storeのサービスをそのまま日本に持ってくることはできない」という主旨の話も出ていた。つまり、iTunesおよびそのDRMであるFairPlay部分を変更しないと、国内でのサービススタートができないだろうということだった。しかし、日本のレコード会社側の方針も変わりつつあるようなので、iTunes Music Storeスタートの下地ができたともいえそうだ。

□レーベルゲートのホームページ
http://www.labelgate.co.jp/
□Moraのホームページ
http://mora.jp/
□ダウンロードページ
http://mora.jp/help/player.html
□関連記事
【11月17日】転送回数無制限になったSonic Stage for Moraが公開
-東芝EMIの楽曲は音楽CDへの書き出しが可能に
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041117/label.htm
【11月12日】東芝EMI、Mora/MusicDropで10回までのCD書出しを許可
-OpenMG/WMA DRM対応機器への転送回数も無制限に
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041112/emi.htm
【11月10日】レーベルゲート、「SonicStage 2.3 for Mora」を17日より無償配布
-コンテンツ供給側で音楽CD書き出し許可も可能に
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041110/label.htm
【11月10日】ソニー、ジュークボックスソフト「SonicStage」を無償アップデート
-リッピングやHi-MDなどで録音した音声の転送回数が無制限に
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041110/sony2.htm
【6月14日】【DAL】日本の音楽配信サービスの著作権管理を検証
~ 各DRMの実際の使い勝手とは? ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040614/dal149.htm
【5月31日】【DAL】音楽配信データの音質を検証する
~ 自分でリッピング&エンコードするよりも高音質か? ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040531/dal147.htm
【2003年10月1日】SME、「レーベルゲートCD」をバージョンアップ
- パソコンで直接再生が可能に。11月6日から順次導入
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031001/sme.htm

(2004年12月6日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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