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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第247回:大容量化、そして大型化したgigashot「GSC-R30」
~ これは進化か? 別物か? ~


■ gigashotに大容量モデル登場

 東芝がビデオカメラ事業再参入の狼煙としてリリースした「gigashot V10」は、市場で高い評価を得たようだ。当初は東芝直販サイトのみの販売であったが、ついに一般の量販店でも販売されるようになった。

 そんな勢いに乗って登場したのが、1.8インチHDDを搭載して大容量化した「GSC-R60」と「GSC-R30」である。V10が容量4GBであったのに対し、新モデルは型番どおりの60GB、30GBとなっている。

 実機は今年初めのCES 2006で公開されたが、日本では2月25日から発売が開始されている。店頭予想価格はR60が129,800円前後、R30が99,800円前後となっている。

 前モデルV10では、もう少しHDDが大きかったらなぁ、と思った方も多かったことだろう。大容量化し、また本体も大型化した新gigashotを、さっそくテストしてみよう。


■ もはや普通のビデオカメラか

 今回は新ラインナップのうち、30GBモデルのGSC-R30(以下 R30)をお借りしている。全体としてはV10の角張ったイメージを継承してはいるものの、サイズ的にはまったく違って、普通の縦型ビデオカメラ並みとなっている。

 もちろん主な要因はHDDの大型化だが、光学的にもかなりビデオカメラらしくなっており、光学10倍ズームのキヤノンレンズを採用している。フィルタ径は30.5mmでV10と変わらないが、レンズの前玉はV10よりも大きい。また開放F値もV10の3.3から1.8と、レンズ自体も大幅に明るくなっている。

サイズ的にはいわゆる縦型DVカメラ並みとなった キヤノンレンズを採用、白色LEDのビデオライトも搭載

 画角は35mm換算で、動画撮影時が48.7~487mm、静止画撮影時は38.9~389mm。V10ではビデオでもワイド端で38mmという広角が特徴であったが、それに比べるともの足りない感じがする。


撮影モードと画角
撮影モード ワイド端 テレ端
動画 Normal
48.7mm

487mm
動画 Wide
静止画 Wide
静止画 Normal
38.9mm

389mm

 本機は16:9モードもあるが、画角としては上下が切れるだけというのはV10と同じ。ただ今回は、手ブレ補正のON/OFFで画角が変わらないようになっている。

 撮像素子は1/3.6型CCDで、212万画素。V10は1/2.5型519万画素だったのだが、光学10倍ズームのトレードオフとして、スペックの減退が気になるところだ。

 液晶モニタは2.5型で、画角は4:3。液晶内側にはボタン類がなく、シンプルだ。

 戸惑ったのは、対面撮影時だ。多くのビデオカメラでは、液晶面を上に回していって対面状態になるものだが、R30では上面は水平までしか回らない。対面撮影するには、ぐるっと反対に下向きに回す必要がある。

モニタの内側にはボタン類もなく、シンプル 対面撮影時は、通常の液晶とは逆回転する必要がある

 対面撮影機能を使う頻度はそう多いとは思わないが、液晶モニタは大抵上向きの角度で使用することが多く、対面方向もその便宜を図ってそっち方向から回るようになっているものだ。このあたりの作りは、まだビデオカメラというものを作り慣れていない感じがある。

 メニュー操作や設定は、背面のジョイスティックとジョグダイヤルで行なう。MENUボタンで設定メニューが表示できるほか、ジョイスティックの4方向にも機能が割り振られており、頻繁に使う機能はここからアクセスできる。

 ビデオライトと逆光補正は、小さなボタンが設えられており、「あっ」と思ったらすぐに使えるようになっている。

特徴的なジョイスティックとジョグダイヤル操作 ダイヤルで操作するGUIも健在 小さいながらもビデオライトと逆光補正は独立ボタンを装備

 電源や録画/再生モードの切り替えスイッチはスライド型だが、位置が元に戻る、ノック式になっている点は変わらない。V10の頃になぜこの手のスイッチを採用するのか質問したところ、「自動でモード切替した時の混乱を避けるため」ということであった。

 例えば電源は、液晶を閉じた状態で自動でOFFになるが、USB接続の際には閉じたままでも強制的にONにできる。また録画/再生モードは、意識的に再生モードに切り替えなくても、USB接続をすれば自動で転送モードになる。このあたりの柔軟な発想は、後発メーカーならではだろう。

 背面下部にはSDカードスロットがあるが、構造として動画と静止画をセットでどのメディアに撮るか、という設定しかできない。従来のビデオカメラのように、静止画だけSDで、という使い方ではないのだ。そういう意味では、必ずしも撮影時にSDカードが必要というわけではない。

 左側面には、電源とアナログAV出力ポートがある。カメラとPCのUSB接続は、底面の端子と専用ケーブルで行なう。R60にはさらにEthernet接続が使えるクレードルが付属しているが、R30には付属しない。

外部端子といえば、底面以外にはここだけ USBは専用ケーブルで底部のクレードル端子に接続

バッテリは平形で大きめのサイズ リモコンも付属

 またR30にはEthernet用の専用ケーブルのようなものもないので、別途12,800円出してクレードルを購入しないと、Ethernetによる接続機能が使えないことになる。このあたりは値頃感だけで選ぶと、失敗しそうな部分だ。

 ズームレバーと静止画用のシャッターは、前方に設けられている。ズームのテレとワイドの方向は、通常の縦型ビデオカメラと逆になっている。この設計の評価については、CES 2006のレポートで詳しく述べているので、ここでは割愛する。

ズームレバーは通常のカメラとは逆 上部の後方にマイク。前方の穴はスピーカー

ベルトの切り口が内側にあり、手に当たる

 実際にホールドして気になったのは、グリップベルトの作りだ。ベルトの切れ目が内側にあるため、この切り口が手に当たって痛い。

 今でこそビデオカメラのシェア第2位まで上り詰めたキヤノンも、実は5年前に同じ問題を指摘したことがある。キヤノンではそれ以降の全モデルでこの問題はキッチリ改善されており、そういう前向きの姿勢がシェア拡大の原動力となっている。はたして東芝は、この作りを改善してくれるだろうか。次期モデルにも注目したい。



■ 手動でいじれる動画

エンコーダの質は高く、水面も破綻がない

 では実際に動画撮影から試してみよう。今回は容量に余裕があるということで、SHQモードのワイドサイズを中心に撮影してみた。なお、サンプルとして、キャプチャした動画を切り出した静止画を掲載している。

 MPEG-2圧縮ではあるものの、さすがにSHQでは9Mbpsも使うだけあって、水面などランダムな動きでも破綻はなく、解像感も落ちない。もともとV10でもエンコーダの質はかなり良かったのだが、それを継承しているようだ。

 撮ったあとで思い出したのだが、ワイドモードではスクイーズで撮るわけではなく、単に上下が黒の4:3のファイルができあがるだけ、という仕様はそのままであった。V10ぐらいのコンパクトカメラならともかく、普通のビデオカメラ然としたこのガタイで今どきそりゃねーだろと、ガッカリした。



記録モード HDD記録時間 ビットレート 記録画素数
SHQ 6時間40分 9Mbps 720×480ドット
SHQ Wide 720×360ドット
HQ 10時間20分 6Mbps 720×480ドット
HQ Wide 720×360ドット
SP 15時間00分 4Mbps 720×480ドット
SP Wide 720×360ドット
LP 27時間40分 2Mbps 352×480ドット

 前モデル同様、液晶モニタの開閉で電源がON/OFFするため、バッテリの持ちはいい。仕様では動画連続撮影約110分、実時間で約60分となっているが、約2時間の撮影でようやく1目盛り減る程度であった。

 今回気になったのは色味で、どちらかといえば黄色っぽいバランスになるようだ。赤っぽい肌色を好む日本人にとっては、あまり受けない絵作りである。

ポートレートモードで撮影。ホワイトバランスは昼光 美白モードで撮影。確かに白くはなるが、絵にならない

 今回もプログラムAEに美白モードがあるが、どうも極端にチューニングされてしまっているようで、肌が白飛びして使えない。ホワイトバランスも、日陰ではちょうどいいバランスのモードがなく、マニュアルでバランスを取っても、あまりいいバランスにはならない。人肌の表現には、難がありそうだ。

こういったシーンの肌色はかなり苦手。ホワイトバランスはオート ホワイトバランスはもっともマシな蛍光灯1 マニュアルでホワイトバランスを取っても、この程度

カラーなどの設定で積極的に絵を作ることも可能

 その一方で、カラー、コントラスト、シャープネスに簡単なモードがある点は評価できる。少し色味が欲しいとき、少し柔らかく撮りたいときなど、ある程度の絵作りに対応できる。

 前回気になったCCDのスミアは、かなり軽減されている。その反面、レンズのフレアはちょっと逆光気味のアングルになっただけで、比較的目立つような気がする。露出バランスも、積極的に逆光補正を使っていかないと絵にならないケースが多い。今では多くのカメラがオートでもそこそこ逆光で撮れてしまうことを考えると、このあたりの作り込みはこれからの課題だろう。


逆光補正は積極的に使っていく必要がある

 また前作ではあまり目立たなかった絞りの形が、今回は比較的目立つように思う。季節的には前回V10の方が光量があったはずなので、今回は若干絞り気味でバランスを取るよう変わったのかもしれない。

 撮影中に気になったのは、RECボタンの作りだ。出っ張りが少ないので、撮ったつもりが撮れてない、止めたつもりが止まってない、ということがよくあった。このようないわゆる「逆スイッチ」は、ビデオ撮影では致命的であるため、改善を期待したいところだ。

スミアは軽減されたが、フレアが目立つようになった RECボタンは出っ張りが少なく、逆スイッチになりやすい


動画サンプル

ezsm01.mpg (42.4MB)
掲載の都合で、SHQで撮影したものを5.5Mbpsに2passエンコードした。エンコーダはカノープスのProCorder Expressを使用

再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 音は良く拾えるほうだが、マイクの位置が上部後方ということもあって、後ろの音まで広範囲に拾ってしまう。撮影者の鼻息まで相当拾ってしまうのにはまいった。もう少し前方に指向性を持たせないと、ビデオカメラとしては辛い。

 メニューの操作系では、前回同様の特徴的なGUIを搭載している。ただこれぐらいの本格的なサイズと光学系を積むと、設定も頻繁に変更したくなる。

 例えば手ブレ補正などは、設定がON/OFFの2つしかないわけだが、それでもダイヤルを回す向きが逆だと選択が移動してくれないというのには、苛立ちを覚えた。設定変更の操作は、ジョイスティックだけで操作してしまった方が、手っ取り早いようだ。

 またいったん電源がOFFになると、撮影メニューの最初が必ず「ドライブ&アルバム」に戻ってしまうのは使いづらい。最後に設定した場所で止まっておいてくれると良かっただろう。



■ 色味がいい静止画

 gigashotの特徴の一つは、動画と静止画を切り替える必要がないという点だろう。さらに動画撮影中でも、高解像度の静止画が撮影できる機能は継承されている。



静止画記録画素数
画質 モード 記録画素数
2M Normal 1,600×1,200ドット
Wide 1,600×900ドット
1.2M Normal 1,280×960ドット
Wide 1,280×720ドット
0.3M Normal 640×480ドット
Wide 640×360ドット

 動画の録画を止めた状態での静止画撮影は、シャッターボタンの半押し時に画角が広がって表示される。指を離しても3秒ほどはその状態をキープするので、ちょっとしたアングル替えなどにも対応できる。

 色の傾向は、動画よりも若干赤系になるようだ。ただ前作よりCCDサイズが小型化したこともあって、深いボケが出しにくくなっており、写真としての良さが後退しているのは残念だ。

色味は動画よりマゼンタ寄りで、人肌も安心感がある 動画と同時撮影でもディテールは通常の静止画並み ボケに菱形絞りの形が顕著で、若干うるさい

1cmまで寄れるマクロモードを装備

 一方でレンズ前1cmまで寄れるマクロモードを備えており、小さいものの撮影やクローズアップが好きな人には面白いだろう。

 今回ISO感度は100、200、オートの3種類のみとなり、V10よりもシンプルになった。レンズが明るくなったため、ISO 400まで増感する必要がなくなったということだろう。


ISO感度は上限が200までとなった 空の部分にノイズを感じる

 ただISO感度が下がっても、それほどS/Nが良くなった感じはない。また前回よりも撮影できる静止画サイズが大幅に小さくなっていることもあって、昨今のビデオカメラのレベルから見ても、静止画機能は見劣りしてしまう。


■ 編集機能はもう一声欲しい

サムネイルは動画静止画混在で時系列順に並ぶ

 続いて再生機能を見ていこう。基本的にはV10と同じく、構造としてはまずトップに「アルバム」があり、その中に撮影したファイルが格納される。撮影と同様、サムネイル一覧表示には動画と静止画が混在して並び、時系列でソートされている。

 サムネイルを選択すると、動画クリップであればサムネイルのままで再生され、内容を確認することができる。

 いわゆるスライドショーに相当するのが「オートプレイ」で、動画と静止画を混在して、間にエフェクトを挟んで再生するという機能を備えている。レジャーで撮影したあと、テレビに繋いでみんなで見る、といった使い方ができるだろう。

 他にもオートプレイの対象は、動画のみ、静止画のみといった選択の他に、「DVD作成リスト」も使える。これは元々は付属ソフト「CyberLink PowerProducer」と連携して、ファイルの自動転送に使うリストだが、それをオートプレイ用のプレイリストとして使い回しているわけである。

スライドショーに相当する「オートプレイ」の設定 DVDに書き出すための「DVD作成リスト」

 これは逆に言えば、本体にある唯一のプレイリストだからこうなっちゃう、という事でもある。DVDビデオカメラではすでに、複数のプレイリストの作成が可能になっているものもあり、大容量がウリのHDDでは、もうちょっと気の利いたプレイリストの使い方があってもいいだろう。

編集もできるが、前後方削除のみ

 編集機能では各クリップに対して、前方削除か後方削除しかない点は、R30/60では弱く感じる。大容量HDDを搭載しているからには、長回しのカットが増えることも想定される。例えば長時間回した1クリップ内で、使いどころが3カ所あるようなときにはどうするのか。クリップの分割機能がない現状では、同じクリップを複数個コピーして、それぞれに対して個別に編集するという、めんどくさいことになってしまう。

 DVDでもそうだが、リライタブルなノンリニアメディアのメリットは、映像を本体で編集できるという点にある。各カメラメーカーはこれまで、とにかく撮ることのみに全能力を集中させていたが、今後はファイル管理や編集機能の充実も、差別化要素と成り得るだろう。



■ 総論

 大容量HDD搭載のメリットはいろいろあるが、少なくともリムーバブルメディアではないことから、映像の管理にはPCの介在が必須となる。この点において、値頃感を出すためとはいえクレードルを省略してしまったR30の製品構成には、若干の疑問を感じる。

 長時間撮影については、バッテリの大型化によりメリットが出てきている。ただ大型バッテリが装着できる構造ではないため、撮影時間を拡張する手段がないという意味では、限界がある。

 光学10倍ズームレンズを搭載して、ビデオカメラらしいスペックになったが、そのトレードオフとしてワイド端が他社のビデオカメラ並みになったり、CCDが200万画素に減ったりというのでは、V10のとんがった魅力をスポイルしてしまった感がある。ただ東芝としてはVシリーズとは違い、Rシリーズは一般的なビデオカメラスペックをHDDで実現する、という方向性なのかもしれない。

 確かに「テープ交換いりませんよ」、「動画と静止画の区別なしに撮れます」よ、という点では、DVカメラに対してアドバンテージはある。ただDVカメラと競るということは、ある意味レガシーユーザー層に飛び込むということでもあり、それがPC接続必須のHDDで大丈夫か、という心配はある。

 いずれにしてもgigashot Rシリーズは、V10とはあきらかに違う道を歩む製品と言えるだろう。それが吉と出るか凶と出るか、市場の動向を見守っていきたい。


□東芝のホームページ
http://www.toshiba.co.jp/index_j3.htm
□ニュースリリース
http://www.toshiba.co.jp/about/press/2006_02/pr_j0801.htm
□製品情報
http://www.gigashot.net/mobileav/movie/r_series/index.html
□関連記事
【2月8日】東芝、HDD MPEG-2カム「gigashot」の60/30GBモデル
-1.8型HDD内蔵。キヤノンレンズ搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060208/toshiba1.htm
【2005年10月26日】動画と静止画同時撮り! 東芝「gigashot V10」
~ リーズナブルな価格で、かっちりした絵が魅力 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20051026/zooma226.htm
【10月3日】東芝、「gigashot V10」の予約が5日間で千台を突破
-CEATECで初の一般公開
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20051003/toshiba2.htm
【9月28日】東芝、0.85型4GB HDDビデオカメラ「gigashot V10」
-光学5倍/手ぶれ補正搭載で59,800円。LANにも対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050928/toshiba6.htm

(2006年3月8日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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