■ 録るから見るへ 次世代DVDの足音がすでに聞こえてきている今年、DVDレコーダというのは微妙に売りにくい商品となっていきている。さらに6月にはワールドカップが開催されるわけだが、やはりスポーツは生で見たい人が多いイベントなだけに、売り場ではレコーダよりはテレビの方が引き合いがあるようである。これまでのレコーダは、とにかく録り逃しがないようにという点に力を入れてきたが、各社尽力のおかげでもはやその点はクリアされつつある。次なる課題は、録画した大量のコンテンツをいかに消化するかであろう。 この5月に発売される新スゴ録は、その点に力を入れた製品と言えそうだ。録画した番組の見所をダイジェストにして見せてくれる「ダイジェスト再生」ほか、PSPに書き出せたり、DLNA対応機器でハイビジョン番組であってもLAN経由で視聴できるなど、効率よく番組を消化するための工夫が目白押しだ。 今回は新モデルのうち、最上位モデルの「RDZ-D97A」(以下D97A)をお借りしている。400GB HDD搭載で店頭予想価格17万円前後と、容量だけ見れば若干割高感はあるのもの、機能の面白さでカバーということだろう。 ではさっそく、この夏商戦を戦う新スゴ録の威力を試してみよう。
■ 印象的なブラックフェイス
上部はパール地の塗装が施してあり、下部はヘアライン仕上げのアルミ張り。これまでのシルバーと比較してグッと精悍な顔になっており、なかなか所有欲をそそられる、綺麗な作りだ。 ボタン類はなだらかに落とし込んだ上部に付けられており、電源が左、録画・再生操作系が右と、シンプルだ。しかし前面下部のパネルを空けると、充実したボタン群が現われる。
左側の操作系ボタンは、基本操作に必要なボタン類をすべて揃っており、ジョイスティックまで装備。リモコンが見あたらなくても、本体だけで操作が困らない作りになっている。一時期レコーダは、低価格競争に晒されて本体ボタンを減らす方向に動いた時期もあったが、非常にリッチな作りだ。 中央部はDVD±R/RWドライブで、DL記録はDVD+Rのみ対応している。このうちCPRMに対応しているのは、DVD-R/RWのみ。従ってデジタル放送が記録できるのは、この両者となる。また今回は、DVD-RAMの再生にも対応した。 右側にはB-CASカードスロットとi.LINK端子、USB端子。本機はHDVカメラのキャプチャにも対応している。HDのままで何かに書き出せるわけではないが、テープで見るのが面倒という人や、とりあえずDVDになればいいという人には役に立つだろう。USB端子は、PSPとの接続に利用する。 背面に回ってみよう。バックパネルを見る限り、前作の「RDZ-D90」と大きな違いはない。RF入力はアナログ地上波が右に、地上デジタル、BS/CSデジタルが左側にある。
LAN端子も備えており、単にデジタル放送対応だけでなく、DLNAや携帯電話からの予約など、ネットワークサービスに活用できるようになったのが、今回の大きな変化だ。また地味なところだが、今回は電源ケーブルに極性表示付きのOFCケーブルを同梱しており、オーディオ品質の向上にも気を配っている。 リモコンは前作と同じで、XMB(クロスメディアバー)を用いたGUI操作に特化したジョイスティックが特徴的だ。新しい機能の操作は、4色ボタンに振り分けられている。
■ 細かい改良が光るXMB 続いてGUI周りを見てみよう。XMBによる直感的な操作性の良さは変わらず、すっかりソニー製品の顔として定着した感がある。番組表はアナログがGガイド、デジタルが独自表組みの点は前作と変わりない。他社ではHD解像度に合わせた高解像度番組表表示といった機能を盛り込みつつあるが、スゴ録はまだそのあたりには手を入れてきていない。
その代わり、番組検索が非常に高速に行なえるため、番組表の一覧性の悪さが気にならない。もはや見たい番組は番組表から探すものではなく、ジャンル検索して見つけるものだというスタイルに移行しつつあるのかもしれない。 なお検索画面においても、すでに予約時間が重なっているものには左側に赤いバーが付く。重複予約は警告画面が表示されるものの、予約を強行することができる。
予約一覧画面に移動すると、先に重複予約されていた番組には、重複マークが付けられている。基本的に、あとで予約したものを優先して録画するようになっているため、そのままほっておいても構わない作りになっている。なお重複したため予約できなかった番組が何だったか、本体のお知らせメールに通知されるのはなかなか親切だ。
なお本機は、デジタル放送のダブル録画には対応していない。可能なのは、アナログ放送とデジタル放送の同時録画だけである。BS/CSと地上波がダブったときは、サイマルのアナログ放送を上手く使って重複を避けるという使い方がキモになるだろう。 録画モードは、デジタル放送にはDRモードが使えるほか、「XP+」と「XP」は切り替え式、以下「XSP」から「SLP」まで9段階の録画モードがある点は、これまでと変わっていない。
■ 見所を見逃さないダイジェスト再生 録画された番組の表示だが、これまでのXMBでは階層表示を行なっていなかったため、大量に録画された番組が縦にズラズラと並ぶだけで、検索性が悪かった。今回は「ビデオ」画面で黄色ボタンを押すと、カテゴリでフォルダ分けしてくれる「オートグルーピング」機能を搭載した。
ボタンを押すたびに、通常表示からおまかせ/予約録画別、ジャンル別、放送波別にローテーションする。グループ表示のときは、便宜的に階層表示と同じことになるわけだ。 再生で新しく搭載された機能として、「ダイジェスト再生」がある。これは番組のジャンルと映像、音声を解析して、番組の盛り上がったところをピックアップして見せてくれる機能だ。 試しにサッカーの試合でダイジェスト再生してみたところ、ちゃんとゴール前の攻防で盛り上がったところがピックアップされていた。これはワールドカップを録画でしか見られない忙しい人には、たまらなく便利な機能だろう。 ダイジェストのスレッショルドは5段階で選べるようになっており、自分の都合のいい時間に合わせて調整することができる。ダイジェスト再生は今回が初めての実装だが、最初からかなりよく練られた機能になっている。
■ ハイビジョンもホームネットワークで ソニーは以前から、ネットワーク経由で番組を視聴する仕組み作りに熱心に取り組んできた。VAIOでは早くからVAIO MediaでDLNAをリードし、ロケーションフリーはPSPに対応したことでブレイクした。これまでのネックは、DRMのかかったデジタル放送を伝送できないことで、そこが一つの壁になっていたわけだが、今回のスゴ録では著作権保護技術としてDTCP-IPに対応したDLNAサーバ機能を搭載した。これにより、同社の一部BRAVIA、VAIO、ルームリンクで、デジタルハイビジョン放送のネットワーク視聴が可能になった。 ただ現実には、そう簡単な話でもない。第一DLNA対応BRAVIA「KDL-46X1000(実売49万円)/KDL-40X1000(同42万円)」は本機よりも高いわけで、そう簡単に買えるものでもない。 またVAIOにしても、単にVAIO Mediaが乗っていればいいというわけではなく、ハイビジョン放送に耐えうるスペックが必要として、2005年9月以降発売のモデルであることのほか、CPUやメモリ、グラフィックスカードなどの条件が厳しい。さらにPCモニタもHDCP対応であることも条件に加わると、結構な物入りである。 本来DLNAとは、メーカーやデバイスの壁を越えてコンテンツが共有できることを目指したはずだったのだが、DRMコンテンツを扱うだけでとたんにハードルが高くなるのでは、本来の趣旨も霞んでしまっている感は否めない。特に放送のDRMが、PCを必要以上に拒んでいるというのが現状だ。 したがってもっとも現実的な線は、DTCP-IP対応のルームリンク「VGP-MR200」を買うことであろう。操作性などについては、すでに今年1月にレビューが上がっているので、参考にしていただきたい。 ただ今回は相手がVAIOではなくレコーダということで、基本的に本機側で自動機器登録に設定しておけば、機器認証の設定などを自分で行なう必要もなく、自動的に認証される。いったん繋がってしまえば、そこはもう囲い込んだハードウェア同士の動作なので、視聴はまったく問題ない。
無線LANも使えることもあって、部屋を跨いだ設置には威力を発揮するだろう。元がHD放送でも、TVタイプで「標準解像度テレビ」を選択しておけば、SDにダウンコンバートして出力してくれる。別の部屋にあるデジタル放送やハイビジョン非対応テレビを生かすこともできると考えれば、実は想像以上に使い出があるデバイスかもしれない。
■ なんでもPSPに転送 次にPSP転送を試してみよう。実は筆者もPSPによる録画番組視聴は、日々活用している。PCで録画した番組をペガシスの「Movie to Portable」で自動バッチ変換し、転送して視聴というルートができあがっている。一方単体の製品でも、この流れに特化した製品がいくつかあり、ソニー純正品という意味では「MSVR-A10」が発売されている。
これまでの製品やPCと違って特徴的なのは、デジタル放送の録画番組も転送できる点だろう。元々解像度の高いハイビジョンファイルからの変換なだけに、PSP上でも良好な画質が得られるほか、PSPのワイド液晶にピッタリサイズのファイルができる点はメリットがある。 ただコピーワンスが原則の現時点では、転送後にはオリジナルの高解像度録画ファイルも削除されてしまう。これを避けるには、転送用にアナログで同じ番組を録画しておくという手は使えるだろう。ただしサイマル放送の地上波だけで使えるテクニックである。 画質モードは、「QVGA768k」と「QVGA384k」の2種類から選択することができる。HDVからキャプチャした映像をエンコードしたサンプルを掲載しておく。
本機の転送機能で面白いのは、番組視聴機能である「ダイジェスト再生」のアルゴリズムを使って、番組のダイジェストを転送できることである。野球やサッカーなどの結果を、スポーツニュースのように短くまとめられたものではなく、自分の時間間隔でダイジェストを作って転送できるのは、面白い機能だ。
ということは、本機でダイジェストを作成するまで待つか、それとも高速転送してPSP上で早送りして見た方がマシか、という選択になる。ちなみにファイルの変換やダイジェスト作成は、PSPを接続していない状態でも行なうことができる。ただ予約録画中は、変換できない。このあたり、うまく時間の使い方が日々のルーティンワークの中にハマるかどうかで、ユーザーの価値観が変わってくるだろう。
■ 総論 RDZ-D97Aは、効率的に録画番組を見るということに主眼を置いたレコーダである。「x-おまかせ・まる録」や高速な番組検索のおかげで、録画することの不便は感じない。というかもはやテレビ番組もインターネットの情報と同じで、検索してひっかからない番組など存在しないも同然、という感覚にさせられる。番組ダイジェスト再生やPSP転送、ホームネットワーク対応など、デジタル放送やハイビジョンという付加価値ならぬ「足枷」をクリアしたスマートさは、ほかには見られないセンスだ。保存ではなく見られればOKという、ライフスタイルにおけるテレビ放送のポジションが、今後の時代感覚にマッチしていると言えるのかもしれない。 ソニーはレコーダ黎明期から、Clip-OnやCoCoonで視聴効率路線を打ち出していたのだが、あまり受け入れられなかった。消費者の意識がそのレベルに到達する前に、やはり一端は散々DVDでイヤと言うほど保存して飽きる、というタームが必要だったわけだろう。 また本機のもう一つの付加価値として、独自NRなどの処理でTV出力が綺麗という点は評価したい。例えば早くからハイビジョンテレビを買った人は、次々と画質向上していく最新テレビが出るたびにガッカリしていることだろう。 テレビはそう簡単に買い換えできるものではないが、高品質レコーダのチューナでテレビを見ることで、テレビの画質をアップグレードするという使い方も有り得る。D97Aはレコーダとしては高価だが、そういうところまで含めた価値が見いだせるモデルとなっている。
□ソニーのホームページ
(2006年5月10日)
[Reported by 小寺信良]
AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp Copyright (c)2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|