~ DAW機能を更に強化した「ACID Pro 6」 ~ |
ACID Pro 6.0 |
元祖ループシーケンサ「ACID」のフラッグシップ版、「ACID Pro」の日本語版がメジャーバージョンアップして「ACID Pro 6」となる。すでに国内でも英語版については先行発売されていたが、日本語化された製品が株式会社フックアップから9月29日に発売されることになった。
今や、どのDAWもループシーケンス機能を備えるようになったので、ACIDの魅力は落ちてきたようにも感じるが、元祖としての使い勝手はどうなのか、また他のDAWと比較したときの機能、性能を試してみた。
'98年、ループシーケンサという音楽の制作の方法そのものを大きく変えてしまう画期的なソフト、ACIDの初期バージョンが登場してから8年。ACID的なループシーケンス機能は「SONAR」、「Cubase」、「Logic」、「Live」など、DAWにも備えるようになり、いわゆるアシッタイズされたループ形式のWAVファイル=グルーブクリップもデファクトスタンダードとして広まった。
また、初期のACIDの開発メンバーの一部がAppleに参加して、見せ方を変えて作ったGarageBandも大ヒットとなり、音楽制作はまったくの素人でもマウス操作だけで簡単にできることを世の中に知らしめた。その意味では、音楽制作の手法を大きく変えるというACIDの当初の目的は十分に達したわけだが、現在のACIDにはどいういう価値があるのだろうか? 久しぶりにACIDを使ってみたので、基本的な機能を含め、各種機能を見ていこう。
ACIDの基本的な機能や標準的な画面のイメージは当初のものからほとんど変わらない。まさにループシーケンスのためのソフトであり、非常にわかりやすい。画面の下のエクスプローラウィンドウで、グルーブクリップをプレビューし、気に入ったら上のトラックビューへとドラッグ&ドロップで持っていくだけ。あとは、そのトラック上で、エンピツカーソルでクリップを伸ばしていけば簡単にトラックデータが完成する。
テンポやピッチの変更も自由自在。そしてドラムトラック、ベーストラック、ギタートラックなどと重ねていけば曲が出来上がる。トラックでの演奏にあわせて、グループクリップをプレビューできるのも初期バージョンからの便利な機能だ。
グルーブクリップを検索するメディアマネージャ |
SONARやLogicなどは数多くある機能の中にループシーケンス機能もあるという構成なのに対し、最新のACID Pro 6もループシーケンサであることが前面に出ているのは大きな特徴。なお、前バージョンからではあるが、GarageBandのように楽器名やジャンルなどからグルーブクリップを検索するメディアマネージャが用意されているのも便利なところだ。
ところで、ひとつのグルーブクリップに対してトラックが1つ割り当てられるというのも、ACID特有の概念であるが、後発のソフトはMIDIシーケンサを母体として進化してきたDAWであるために、トラックとグルーブクリップの関係がちょっと異なっていた。1つのトラックに複数のグルーブクリップを並べることができたのだ。
ループシーケンサとしての使い勝手はやや悪くなってしまうものの、1つのトラックで、複数のグルーブクリップを扱えるとドラムデータをすべて1つのトラックにまとめたり、ベースデータを1つにまとめられるといったことができるため、エフェクトをかける際などの使い勝手は向上する。
複数のグルーブクリップを1つのトラックに置いて利用可能 |
そこがACIDの欠点ともいわれていたが、今回のバージョンで、従来の基本概念を踏襲しつつも、複数のグルーブクリップをひとつのトラックに置けるようになった。
使い方は単に、トラックへ別のループデータをドロップするだけだが、トラックとしては、複数のグルーブクリップが関連付けられていることを明示的に表示できる。またクリップセレクタというもので、クリップを選択すれば、エンピツカーソルでトラック上を書いたときに扱うグルーブクリップを決めることができる。
ループシーケンサとしての顔は残しつつも、よりDAW化を進めるACIDとしては、MIDI機能もさらに強化してきている。
たとえば、ほかのシーケンスソフト同様、タイムライン上でMIDIノートの打ち込みやコンティニアスデータの操作、録音と編集が行えるようになった。また、ここ数年で各DAWが対応したMIDIのインラインエディタへの対応も、今回の新機能のひとつだ。つまり、トラック上に表示させたMIDIのピアノロール画面上で直接編集作業ができる。
MIDIトラックに関連した今回のACID Pro 6の目玉機能のひとつが、Native Instrumentsのソフトサンプラー「KOMPAKT」を同梱したこと。正確には「Kompakt Sony ACID Pro エディション」というもので、オリジナル版とは多少ライブラリなどに違いはあるようだが、基本的には同様の機能を持った非常に強力なサンプラーだ。ただ、このNative Instrumentsへのライセンス料が結構高かったようで、ACID Pro 6の価格は従来より少し上がり、57,750円となっている。
KOMPAKTを同梱 | 通常のKOMPAKTとはライブラリなどが異なる |
ちなみに、このKOMPAKTはVSTインストゥルメントとして組み込まれるのだが、当然VSTインストゥルメントのソフトシンセはほかにもいろいろ組み込むことは可能。もちろん、外部に接続したMIDIキーボードからリアルタイムで鳴らしてレコーディングすることも可能なので、こうした点でもほかのDAWと同様だ。
エフェクトのプラグインのほうも、VSTプラグインおよびDirectXプラグインに対応しており、各オーディオトラックに対し、複数のエフェクトをチェーン接続していくことができる。さらに、今回のバージョンでは、このエフェクトに対し、オートメーションでコントロールしていくことを可能としている。この際、MackieControlなどのフィジカルコントローラも設定することができるようになった。
VSTインストゥルメントのソフトシンセを色々組み込める | 複数のエフェクトをチェーン接続していくことができる | エフェクトを自動制御できるほか、フィジカルコントローラでの操作も可能 |
エフェクトに限らず、オーディオ機能もいろいろと強化されている。とくにDAW的な進化を遂げたのは、マルチトラックレコーディングへの対応だ。ACIDにどこまで本格的なDAW機能を求める人がいるかはわからないが、複数のトラックで同時に別々の音を録音できる。さらにパンチインレコーディング後、録音した複数のクリップをショートカットボタンで切り替えながら試聴も可能など、レコーディング用のソフトとしても、かなりこなれてきている。
なお、従来から対応していたが、ReWireのホストアプリケーションとしても利用できるため、「Reason」などとの連携も可能。ACID側からはVSTインストゥルメントなどと同様に扱うことができるので、使い方はとても簡単だ。
Reasonなどとの連携も行なえる | VSTインストゥルメントなどと同様に扱えるため、使い方は簡単 |
そのほか、今回のACIDのインストールディスクはKOMPAKTとは別で、しかもDVD-ROMとなっているが、ここには約1,000個、約1.25GBにも及ぶループデータが付属している。結構使える素材集なので、これも魅力のひとつだろう。
今回、個人的には久しぶりにACIDをいろいろと使ってみたのだが、改めてループシーケンサとして非常に洗練されていて、使いやすいことを感じた。機能だけで並べればどのソフトも同じようになるが、やはり便利なのだ。
また、「Beatmapper」の簡単・正確さも感心した。このBeatmapperはWAVファイルやMP3ファイルなど、既存の音楽ファイルをトラック上へ反映させるためのツールで、だいぶ前のバージョンからあり、機能的には何も変わっていないようなのだが、他のDAWの同様の機能に比べて簡単で使いやすいのだ。
多くのDAWでも、既存の曲をうまく読み込んで、テンポ、拍子をピッタリ合わせるための機能はある。しかし、手弾きなど、テンポに揺れがあっても追従するように、ヒットポイントなどを分析するため、使い方が難しい。それに対し、このBeatmapperは曲の頭を指定し、1小節分を波形上で指定できたら、もうおしまい。さすがにテンポに揺れがあると厳しいが、シーケンサを使っている曲などは、ドンピシャで取り込むことができる。その後は、ここに別のリズムやベースを追加したり、もちろん、レコーディングで新たなトラックを増やすなど、応用範囲は大きく広がる。
既存の音楽ファイルを取り込める「Beatmapper」 | 曲の頭を指定し、1小節分の波形を指定するだけで、簡単に取り込める |
もうこれ以上、追加するべき機能も見当たらない。ループシーケンサとしての完成度は極めて高く、しかもDAWとしても十分に使えるACID Pro 6。ループシーケンサ機能が主目的であれば、ぜひ選ぶべきソフトといえるだろう。
□フックアップのホームページ
http://www.hookup.co.jp/
□製品情報
http://www.hookup.co.jp/software/acidpro/
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(2006年9月4日)
= 藤本健 = | リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
[Text by 藤本健]
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