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第262回:PCIオーディオボード「SE-200PCI」開発者に聞く
~ S/N比115dBを実現した設計のこだわりとは? ~



オンキヨーのPCIオーディオボード「SE-200PCI」

 オンキヨーからPCIサウンドカードの新製品「SE-200PCI」が発売された。従来あった「SE-150PCI」の後継という位置づけで、見た目もそっくりではあるが、まったく新たに設計し直し、端子レベルでS/N比115dBを実現したという。この発売に先駆けて、SE-200PCIの開発コンセプトや、設計についてオンキヨーに話を聞くことができた。

 伺ったのはSE-200PCIの商品企画である野中孝則氏と設計を行なったエンジニアの中坊真敏氏の二人。インタビューの後に、実際の製品についても検証した。(以下、敬称略)



■ 全てを一から設計し直した“オーディオボード”SE-200PCI

藤本:今回のSE-200PCIは、SE-150PCIの後継とのことですが、どのようなコンセプトで製品化されたのでしょうか?

オンキヨー AVC事業本部 商品企画部 商品企画課 野中孝則担当課長(左)、技術部 回路技術グループ 第2回路設計課 中坊真敏氏(右)

野中:150PCIを開発する際、従来の他社のサウンドカードとは違う、「あっ」といわせるものを作ろうと取り組みました。近年、デジタル機器の普及などで、入手可能となった高性能パーツや新しい回路技術を取り入れることでさらなるリファインが可能となり、2年という年月が経過し、それが200を開発する出発点になりました。

 当社としては、もともとサウンドカードではなく“オーディオボード”と呼んでおり、オーディオ機器としてS/N比に着目し、そこを磨いてきました。その後他社もS/Nと言い出しましたが、当社としてはそのもう一段上を行きたいと200PCIを開発したのです。具体的には150PCIで110dBであったのを115dBへと引き上げています。

藤本:見た目は150PCIと200PCIは、とてもソックリで区別がしにくいほどですが、これはマイナーチェンジと捉えていいのでしょうか?

野中:外観上は確かによく似ていますが、設計をまったく新たにしなおした、完全なメジャーチェンジです。パーツのレイアウトも150PCIで一部シンメトリカルになっていなかった部分もありましたが、今回はそこを完全に仕上げています。またDACやクロックなども一段上のものに載せ変えています。

見た目はそっくりのSE-200PCI(右)とSE-150PCI(左)

藤本:もし150PCIのDACを、その新しいものに交換すれば、それなりの効果が得られるものですか?

野中:いいえ、単にDACだけを交換してもDACの性能を引き出すことができません。まわりの回路や全体の設計を、その高性能なチップに合わせたものにしないと、チップ性能をロスしてしまうのです。

中坊:パーツのクオリティーアップも図っています。コンデンサを中心にした部品類のグレードを一段あげています。非常にコアなユーザーや、マザーボードなどでも定評のあるサンヨー製の「OS-CON」を搭載しているのも特徴です。もっとも、全部のコンデンサをOS-CONにすればいいというのではなく、部品特性を生かし一番効果のあるところに置いています。

野中:その他の電解コンデンサにおいても、「AUDIOコンデンサ」というオーディオ専用のものを採用しています。これはニチコンのものですが、当社にしか供給しないということが前提となっている特殊なコンデンサですから、同じ音を他社は絶対に作ることはできません。

藤本:そのAUDIOコンデンサというのは、SE-200PCIで初搭載というものなんですか?

野中:すでに、当社の各種オーディオ機器に搭載されており、約1年ほど前から使っています。それ以前に使っていたコンデンサも当社専用のものとなります。

中坊:デジタルコネクタのパーツのクオリティーアップも図っています。光コネクタは150PCIでは24bit/96kHzまでしか対応できませんでしたが、「SE-90PCI」で24bit/192kHz対応させたので、それを200PCIにも搭載させました。

高品質コンデンサとして定評のある「OS-CON」を搭載 コネクタ部の比較。SE-200PCI(右)では、光コネクタもより高品質のものに変更している 24bit/192kHz対応の「SE-90PCI」

野中:そして銅のバスプレートの追加です。ステレオ2chの回路部分だけでなく、マルチチャンネル回路にも採用してPCIのバスからくる電流の安定化を図っています。そして最後はクロックです。

中坊:サンプリングレートを幅広く対応させるために2系統のクロックを搭載しています。

藤本:44.1kHz系と48kHz系の2つを搭載しているということですね?

中坊:そうです。またそのクロックの精度を非常に高精度なものにしているのも特徴で10PPM以下という精度です。温度変化に対しても10PPM以下という精度のクロックで、経年変化にも優れております。

藤本:それは特殊なクロックなんですか?

野中:モノとしては、従来のクロックと同じメーカーの同じ製品ですが、メーカー側に精度の高いクロックだけを選別して納入してもらっています。これだけの精度になると機械での選別は不可能で、人を介しての選別になるため、部品代も大きく上がっています。



■ コントロールチップを変えずに安定性を重視。DACも安定性で選択

オーディオコントローラは前モデルと同じVIA「Envy24HT」を採用

藤本:ところで、今回のSE-200PCIもメインのコントロールチップは150PCIと同じVIAのEnvy24HTを使っていますね?

野中:他のチップを使うという選択肢はありましたが、不安定要素を避けるため、あえて実績のあるEnvy24HTを採用しました。いたずらにデバイスを変更し、環境やドライバが変わったために問題が起こったら元も子もありません。また150PCIではEnvy24HTの性能を出し切れていなかった部分もあったので……

藤本:24bit/192kHz対応のチップなのに、150PCIではDIGITAL OUTが24bit/96kHzまでだったところですか?

野中:はい。そこで、200PCIでは24bit/192kHzまで対応させるとともに、アナログ性能を向上させました。デバイス変更という派手な手法を使わず、熟成というところに主眼を置いたわけです。VIAと弊社の関係もこれまでの製品展開で強固なものになりました。VIAとのエンジニアの関係も密になり、オンキヨーが求めているものを理解してもらえるようになりました。


DACにはWolfson製「WM8740」を採用

藤本:DACに英Wolfsonの「WM8740」を搭載したことを大きく謳っていますね。

中坊:そうです。150PCI、90PCIでもDACはWolfsonの「WM8716」を積んでいましたが、当社でもC-1VL(S)など一部の高級オーディオに使用しているWM8740に載せ替えたことで、性能を大きく向上させています。もちろん、単にWM8716をWM8740に交換すれば性能が上がるというものではありません。それにあった設計をしないと、WM8740の性能を最大限に引き出すことができないので、先ほど言ったようなさまざまな新部品の採用や回路構成の変更をしているのです。

藤本:WM8740は2chのメイン出力用のDACですよね。マルチchのほうのDACや外部入力用のCODECはどうなっているんですか?


SE-200PCIのブロックダイアグラム

中坊:これはブロックダイアグラムを見た方が分かりやすいと思います。マルチchのフロントL/RのDACを内蔵したコーデックとしてWM8776を搭載しています。また残りの6ch用には別のDAC、WM8766を搭載して、作業分担しています。ちなみにマルチch側のフロントL/R出力のS/Nは105dBとなっています。

藤本:マルチchのS/Nが多少落ちるのはいいとして、入力のほうもやはり落ちてしまうのが残念です。オーディオファンとしては、入力もメイン出力同様のS/Nを求める声も多いのではないでしょうか?

野中:ぜひ、今後の製品設計の参考にさせていただきたいと思います。ただ現状ではなかなか難しかったのが実際のところです。というのも安定して使えるCODECチップとしてWM8776以上の選択肢がなかったからです。

中坊:もちろん、性能のいいADCは存在しますが、Envy24HTからコントロールするためには、そのためのデジタル回路を設計する必要があるのです。しかし、ここでデバイスドライバ側の無用なトラブルを発生させないために、安定したCODECを選択したのです。

藤本:ここでいうコントロールというのは、入力の切り替えやミキサー制御などですよね。

中坊:そうです。今後はWM8776よりも性能のいい後継チップに期待したいところです。



■ SE-90PCIを上回る高音質設計。4層基板採用によるシールド効果も

藤本:オーディオの再生用としてSE-90PCIのユーザー評価は非常に高いと思います。今回の200PCIは150PCIの後継との位置づけですが、90PCIのユーザーから見て、200PCIへアップグレードするメリットはあるものでしょうか?

野中:200PCIは入力もあるし、マルチch出力にも対応しているので、90PCIとは方向性が明らかに異なる製品ではあります。しかし、2chの再生専用で利用すると考えても90PCIよりも性能を向上させています。それはDACの向上に加え、独自のアナログ波形生成技術「VLSC(Vector Linear Shaping Circuitry)」にもさらに磨きをかけていることによります。実際、90PCIのDAC自体の性能が112dBで、出力レベルで110dBを実現していましたが、200PCIではDACの性能が117dBで出力レベルは115dBです。

中坊:VLSCを左右別回路で使うという面では90PCIも同様ですが、90PCIではオペアンプが3つの回路構成でした。200PCIは先ほどのブロックダイアグラムからも分かるように、オペアンプを完全に左右別々にシンメトリ且つ独立配置したため、動作も安定し、チャンネル間でのクロストークも非常によくなり、素直な特性を出しています。また、4層基板であることも、性能向上に大きく貢献しています。

藤本:150PCIでも4層基板だったと思うのですが?

中坊:150PCIでも4層基板で、一部2層イメージという構造でしたが、200PCIでは完全に4層パターン化しています。これによってシールド効果を出しており、パターン密度は上がっていますが、これが音質に貢献しているのです。

藤本:一般にはパターンの面積が増え、配線が多くなればなるほどノイズを受けやすくなって輻射ノイズという面ではマイナスになりますよね?

中坊:そのとおりですが、各回路ブロックごとにグランドへの落とし込みを適切に行ない、グランドインピーダンスを十分に下げることでノイズを抑えています。ちなみに、内側のパターンが外部からは見えなくなっているので、簡単に技術を盗まれないというメリットもあるんです。

藤本:基板全体を銅でシールドカバーしてしまうのが手っ取り早いようにも思えますが、それはどうなんでしょう?

野中:周辺を完全に固めてしまうというのならいいのですが、軽くカバーしただけでは問題が数多く発生します。ある特定の機器、環境に合わせるのであればチューニングもできますが、多種多様な機器、環境で安定的に動作させるのは困難です。

 ファンなどにより、どうしても振動の問題があり、それが状況によっては共振し、各部品を振動させてしまうことになりかねません。その振動がかなり音質にも影響を与えるのです。ですからそうしたシールドカバーによるリスクをとるよりも、4層基板をうまく活用したり、銅バスブレードを使うことで、ノイズ対策を行なっています。



■ OS-CON搭載とコネクタ改善でジッター対策

藤本:もうひとつ伺いたいのがジッター対策です。どのような対策をとっているのでしょうか?

中坊:そこに関連するのが、先ほども少し触れたクロックです。音の時間軸に関するジッター成分は全部クロックで決まります。これはとくに、ドライバも関係なく、クロック精度がすべてに配分されていくのです。そこで、ひとつひとつ職人の手で選別された精度の高いクロックを採用しているのです。また、先ほどのOS-CON搭載によって、デジタル出力の波形をキレイに生成することができています。

 OS-CONは中身に液体を使わない固体コンデンサであるため、非常に安定しています。通常のコンデンサは高電圧を加えると爆発する危険性があるため、上部に切り込みが入っていますが、OS-CONはそうした心配がないため、切り込みもありません。

藤本:なるほど。そういう視点から基板を眺めると、どれがOS-CONなのか一発で判別できますね。

「Audio Precision」での測定結果

中坊:そうした結果、開発部門にある「Audio Precision」というジッターを測定するための機材でチェックしたところ、2.247mUIと非常に小さいものになりました。SE-150PCIの半分程度ですね。オプティカルのコネクタを改善した点も大きかったと思います。

藤本:当然、このジッターがアナログ部分の音質向上にも効いてくるわけですね。

野中:もちろん、そのとおりです。

藤本:今、世の中的に、オーディオインターフェイスは内蔵よりもFireWireやUSBなど外付けが主流になってきていますが、そうしたものについては今後どうしていくのでしょうか?


オンキヨーの高音質PC「HDC-7」

野中:当社では、PCIのオーディオボードを開発のベースと位置づけています。ボードの裸レベルでの性能を上げるだけ上げておけば、それをUSBなどに展開するのは容易です。VLSCという技術を磨き上げるのをPCI上で、と考えているのです。また、メディアコンピュータ「HDC-7」というものを出しており、今後もこのようなオーディオ機器の顔をしたコンピュータを出していこうと考えています。そうした場合、やはり外付けのデバイスというのはマッチしません。内蔵してスッキリさせるのが基本なので、今後もPCIは重要と考えています。もちろん、PCI Expressなどに切り替えていくという可能性は高いと考えていますが。

藤本:なるほど。とすると、今後はSE-200PCIをベースにUSB展開させた製品なども登場する可能性があるわけですね。

野中:どのような仕様にするか、また時期については申し上げられませんが、今後もいろいろな機器を展開していくつもりですので、ご期待ください。



■ ピュアオーディオ機器クラスの高音質を再現

 さて、インタビュー後、オンキヨーのAVルームにて、高音質音楽配信サービス「e-onkyo music store」からダウンロードした24bit/96kHzの素材をSE-200PCIで試聴した。確かに非常に高音質であり、PCが出す音とは思えないほどの、ピュアオーディオ機器といったニュアンスのサウンドであった。いわゆるレコーディング機器のオーディオインターフェイスとはちょっと異なる音でもある。


オンキヨーのAVルームで試聴。SE-200PCI内蔵PCを使って、アナログ出力をプリメインアンプ「A-933」に接続し、スピーカーは「D-TK10」を使用。24bit/96kHzの素材を再生した

 また、そこで試聴に使ったSE-200PCIを持ち帰り、恒例の「RMAA(RightMark Audio Analyzer)」でループテストを行なった結果は以下のとおりだ。SE-200PCIの場合、その仕様上192kHzは再生のみで録音はできないため、24bit/48kHzでのテストと24bit/96kHzでのテストの2通りを行なった。またこの際に利用したケーブルは、製品付属のものだ。

 これはメインとなる2chの出力と、WM8776を使ったアナログ入力を直結しているため、出力の本来の性能を現すものではない。また48kHzでの周波数特性が他の結果に比べるとあまりよくなかったが、SE-150PCIとほぼ同じ結果だった。48kHzでの周波数特性以外では、かなりいい結果になっているのが確認できた。


SE-200PCI(24bit/48kHz) SE-200PCI(24bit/96kHz)


【参考資料】(オンキヨー提供)
SE-150PCI/200PCIの結果比較 SE-150PCI(24bit/48kHz) SE-200PCI(24bit/48kHz)


□オンキヨーのホームページ
http://www.jp.onkyo.com/
□ニュースリリース
http://www2.jp.onkyo.com/what/news.nsf/view/se200pci?OpenDocument
□オンキヨーマーケティングのホームページ
http://onkyo.jp/
□製品情報
http://onkyo.jp/wavio/se_200pci/index.htm
□関連記事
【11月20日】オンキヨー、S/N比115dBのPCIスロット用サウンドカード
-「SE-200PCI」。192kHz対応でWolfson製DACを搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20061120/onkyo1.htm
【2005年3月28日】【DAL】最廉価モデルで最高音質を実現?
~2ch出力に特化した「オンキヨー SE-90PCI」~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050328/dal184.htm
【2004年11月15日】【DAL】オンキヨーの新サウンドカード「SE-150PCI」をテスト
~ 人気のカードが一新。外観は石油コンビナート? ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041115/dal168.htm

(2006年12月11日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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