小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。金曜ランチビュッフェの購読はこちら(協力:夜間飛行)

夏休み工作、今年の「音友ムック」はQWT型!

毎年夏になると、AV Watchの連載枠で「夏休みの工作シリーズ」を展開している。例年音楽之友社がムックとして出しているスピーカーユニットを使ってスピーカーを自作しているのだが、今年は夏にも面白い製品がいっぱいあったので、やる機会がなかった。

とはいえ今年はどんなスピーカーなのか、気になるところである。そこでメルマガ枠としてスピーカーを制作することにした。

今回使用したユニットは、「これならできる特選スピーカーユニット パイオニア編」で、エンクロージャは同時に発売されている別ムック「スピーカー工作の基本&実例集 2017年版」に付属のものである。

・これならできる特選スピーカーユニット パイオニア編

・スピーカー工作の基本&実例集 2017年版

本家音楽之友社やAmazonでもまだ在庫があるので、欲しい人は急げ。というのも、例年秋頃に完売になると転売が発生し、中古品として倍近くまで価格が高騰するのである。

本ムック用に設計されたドライバー

制作とはいっても、工作精度の高いキットなので、基本的には木工用ボンドとドライバーぐらいあれば作れる。さらに固定するための治具があれば、精度の高い制作が可能だ。こうした工作が好きな方なら、挟み込んで接着するまで固定する「ハタガネ」や、直角を決め込む「コーナークランプ」も持っておくと便利だ。

ではまず、スピーカーユニットのほうから見ていこう。パイオニアの「OMP-600」は直径6cmのフルレンジスピーカーだ。そもそもパイオニアはオーディオメーカーであったわけだが、最近はすっかりカーナビ、カーステレオメーカーとなっている。一方でスピーカー部門はOEM提供用の専門部署があり、今回のユニットもこのムック用として専用に設計・製造したものだという。

ポイントとしては、サイズに似合わない大きな磁石を用いることで、駆動製を高めたところ。加えて軽量な紙コーンを使う事で、レスポンスのよい駆動が可能となった。周波数特性としては、ハイレゾも視野に入れており、フラットではないが40kHzぐらいまでは出るようになっている。15kHzあたりのところに山があるので、涼やかな高音が期待できそうだ。

オリジナルのドライバ、パイオニア「OMP-600」

スピーカー側のムックには、ダイソーで買える材料で作れるエンクロージャの作成方法載っているので、最初から自分で作るのも面白いだろう。保存用のガラスビンを2つ買って来て、フタにスピーカーを埋め込むだけという作例もある。これなら簡単にできるはずだ。

ポイントは「QWT方式」

エンクロージャのほうだが、今回はQWT方式による設計となっている。寡聞にしてQWT型というのを知らなかったが、これはQuarter Wave Tubeの略で、原型となる設計は、音源の背後に波長の長さの1/4となる片側閉鎖管を取り付けるというものである。

とは言え、通常は設置の関係で、スピーカーの背後にラッパのようなストレートの管をくっつけるわけにも行かないので、管を折り曲げて箱の中に入れる事になる。また、管はストレートではなく、末広がりにすることで、音圧が高くなる。いわゆるホーンが朝顔のように拡がっているのは、この効果だ。

ただこれをやると共振周波数、つまり増幅したい音域が高くなってきて、低音を増強するという目的が果たせなくなるため、長さを稼ぐことで低域のほうに引き戻すというバランスで設計されている。

以前本メルマガVol.46では、トールボーイ型のバックロードホーンを作ったことがあったが、あれは大変だった。

・小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」 Vol.046 <お盆明け全力発進号>

とにかく導管が長いので、中の構造も複雑だ。一方QWT型は設計ノウハウもこなれており、非常にシンプルながら効果の高いエンクロージャを作成することができる。

ムックにまとめられたキットは、全体で25cm×18cm、厚さ6cmぐらいのパッケージとなっている。これをバラすと箱のパーツが出てくるわけだが、バックロードホーンと違って中の仕切り板が少ないため、部品点数も少ない。

部品点数は少ない

まずはどんな感じになるか、仮組みである。こうしてみると、スピーカーの背後から真下に向かってストレート管となっており、そこから180°折り返して上に向かって末広がりとなり、もう一度180°折り返してさらに末広がりとなっている。末広がりと管の折り曲げを、たった1つの仕切り板で実現するわけだ。その先は隙間の細いダクトとなっており、ここで共振周波数を調整している。

仮組みしたところ。音道の設計が合理的

ここで全体像がわかったら、あとは木工用ボンドでおりゃおりゃとくっつけていくだけである。スピーカーユニットは、磁石部分が大きく、さらに端子部分が出っ張っているので、一瞬はいらないんじゃないかと思った。斜めからねじ込むように入れると、どうにか入るギリギリのサイズとなっている。

吸音材は、本来ならば音を聴きながら入れたいところだが、いったんフタをすると入れづらい構造なので、設計図通りに入れてみた。取り出すのは難しいが、追加で入れることはできそうなので、その辺は色々試してみたい。

というわけで制作も終わり、いよいよ音出しだが、その結果はまた次次回のこのコーナーでお伝えしよう。

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コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。

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2017年9月8日 Vol.141 <そろそろ散財の秋号>

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01 論壇【西田】
ここから24ヶ月の間にデバイスで起きること
02 余談【小寺】
夏休み工作、今年の「音友ムック」はQWT型!
03 対談【西田】
MastodonからYouTuberまで。松尾公也さんと語る「情報発信」のカタチ(2)
04 過去記事【西田】
スマホが変える「決済」の自由度
05 ニュースクリップ
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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。