小寺信良の週刊 Electric Zooma!

スピーカー作りの技術で楽器に挑戦! “カホン”を自作してみた

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スピーカー作りの技術で楽器に挑戦! “カホン”を自作してみた

工作の季節がやってきた

 子供達も夏休みに入ると、なんとなく夏本番という気がしてくる。毎年この時期になると、休みを利用してなにやら工作したくなるのが常である。

 例年いろんなタイプのスピーカーを自作しており、この時期に作ったスピーカーと共に1年過ごすというのが一つのサイクルになっているのだが、今年はちょっと趣向を変えて、スピーカー作りの技術を応用して、楽器作りにチャレンジしたい。オーディオは繊細なので、子供にはなかなか触らせられないが、楽器であれば子供が使っても大丈夫。完成すれば親子で楽しめるだろう。

 さてスピーカー作りのノウハウが活かせる楽器はないかと考えたところ、「カホン」なら簡単にできそうな気がする。カホンとは、言うなればただの箱なのだが、それを叩いてドラムのような音を出す楽器である。電源もアンプも要らないということで、ストリートミュージシャンにも人気があるので、街角で見かけたことがあるかもしれない。

 元々カホン(Cajón)はペルー発祥の楽器で、スペイン語で「箱」という意味なんだそうである。作りは本当に木の箱で、背面にサウンドホールが空けられている。内部には“ジャラジャラ”なるものを貼り付けて、わざとビビリを出すところがポイントのようだ。

 木の箱ならスピーカーで散々作ってきたし、スピーカーは2箱必要だが、カホンは作るのは1つである。早速こしらえてみよう。

まずは材料と設計

 カホンは、箱の上に自分が座って叩く楽器である。従ってだいたい椅子ぐらいの高さの箱を作ると考えればいいだろう。カホンの自作に関しては、いくつかのサイトに情報があるようだ。

 それらの情報を総合すると、スピーカーのようにMDFで作っては、上手く鳴らないようである。むしろスピーカーでは箱鳴りするのでまず使わない、ベニヤの合板がいいようだ。逆に箱を叩いて鳴らさないといけないので、方向性としてはまったく逆である。

 また打面となる正面と背面は、3mm程度の薄い合板のほうがいいという。それ以外は12~15mmぐらいの合板がいいようだ。ホームセンターのカットされた合板は、横300mm×縦900mmのものが多いので、これを利用してうまいこと作ってみよう。

 まずは設計図を引いてみた。4面は厚さ12mmの合板で作り、前後を薄いベニヤでフタをするというイメージである。

寸法図。幅と奥行きは300mm四方、高さ444mmで設計してみた

 材料は以下の通りだ。合計で5,600円程度である。

材料寸法数量
シナベニヤ900×300×12mm2
シナベニヤ900×300×3mm1
カラーMDF900×300×2.5mm1
補強角材900×24×242
木ネジ24
ゴム足4
ゴム足用ネジ4
スナッピー1
材料はこんな感じ

 ベニヤとしてはもっと安いラワン材のものもあったが、見た目が美しくないため、表面が滑らかなシナベニヤをチョイスした。積層は3、5、7とあり、層が多いほどいいようだが、あいにく近くのホームセンターには5層の12mmしかなかったので、それで作ることにした。打面はシナベニヤとMDFのものと2つで、音を比べてみる。

 「スナッピー」とは聞き慣れないと思うが、これはスネアドラムの裏側に張ってあるスプリングだ。スネアにはこれを緩く張ることで、ジャリッとしたミュート音を出す。これをカホンの打面の裏側に張るわけである。楽器通販で600円ぐらいで買える。

これがスナッピー

制作は簡単

 寸法が決まったら、あとはおりゃおりゃと材料を切っていくだけである。まずは12mm厚のシナベニヤから横板を切り出し、続いて300mm四方の天板と底板を切り出す。四隅の補強用の角材は、300mmより短め、250mmぐらいで切る。

横板を切り出す
300mm四方の天板と底板
補強用の角材
板を直角に接着していく

 直角の箱作りは慣れたものである。直角の固定具がホームセンターに売ってるので、これを使えばどうということはない。接着は速乾性の木工用ボンドを使用した。これらも例年のスピーカー作りで揃った道具である。

 接着材が乾くのに時間がかかるので、その隙に打面と背面のシナベニヤを切り出し、背面のほうにサウンドホールを空ける。直径は120mmぐらいでいいようだ。穴の切り出しは毎度おなじみの自在錐である。これもスピーカーを作る時に散々使って来た。

自在錐でサウンドホールを空ける
綺麗に空けられた

さてそうこうしているうちに、平行して箱の接着は着々と進めているのである。穴が空く頃には箱の方はだいたい出来上がっている。

箱部分はほぼ完成

 さてここでスナッピーの出番である。これを打面の裏側に貼り付けるのだが、両端が繋がったままでは綺麗にジャラジャラ鳴らないので、景気よくぶった切る。長いのと短いの、2つを試してみよう。

スナッピーのスプリング部分をニッパーで切断
すぐに交換できるよう、とりあえずガムテープで固定しておく
前後のパネルはネジ留めにした

 前と後ろのパネルは、あとで外して中がいじれるよう、ネジ留めとした。角の部分は叩くときに痛いので、やすりで少し丸くしておくといいだろう。ネジは今回頭が丸い鍋ネジを使用したが、よく考えたら叩くときに手に当たると痛いので、皿ネジのほうがよかった。これはあとで買いに行くとして、とりあえず今は鍋ネジのままで行くことにした。

 底部にゴム足を取り付けたら、だいたい完成である。カホンには底部にサウンドホールを空けたものもあるようだが、それは音を聴いてからの微調整である。あとは座る部分が痛くないよう、角を丸めるなどの処理を行なって、今日のところは完了とした。制作時間はだいたい2時間ぐらいである。うちには電ノコがあるので、木材のカット作業は早いが、手挽きならもうちょっとかかるだろう。

最後にゴム足を付けて完成

材質によるサウンドの違い

 では実際に演奏してみよう。打面は2.5mmのMDFと、3mmのシナベニヤがある。それにスナッピーの長いのと短いのを付け替えて、合計4パターンを試してみた。

 まずシナベニヤの方は、全体的に「ドスン」とした重め音で、鳴りがいいのが特徴だ。音に柔らかさもあり、スナッピーの振動も大きいため、にぎやかな音である。

 一方MDFの方はかなりデッドな音だが、音のキレが良く演奏はしやすい。また低音と高音の差が大きく、ドラムサウンドとしては使いやすい音になっている。

 スナッピーの長さとしては、あまり長いと低音高音関係なくいつもジャラジャラいってるため、演奏にコントラストが着かない。このあたりは各自好みもあるだろうが、個人的には短いほうがスネア音らしい音切れがするので、叩きやすい。

4つの組み合わせで音の違いを確認

 というわけで、実験の結果、“MDF + ショートスナッピー”の組み合わせで行くことにした。なお、スナッピーの代わりに、ギターの弦を緩く張り巡らしたり、鈴を貼り付けたりといった方法もあるそうだ。

 サウンドホールがそこそこ大きいので、内部の鳴り物はいちいち箱を空けなくても取り替えできる。フロントが空けられるようになっていれば、背面は接着してもいいかもしれない。

総論

 今回はとりあえず標準的と思われるカホンを作成してみたが、打面の材質を変えただけでかなり音が変わるのがわかった。この材質をあれこれ変えるだけでも、結構遊べそうだ。またボディ部分も合板の厚みや積層数を変える事で、低域の出方も変わっていくだろう。

 作り方としてはただの箱を作るだけなので、スピーカーを作るよりも簡単である。ただしベニヤは切り口がどうしても汚くなってしまうので、やすりなどをかけて角を丸くしてしまった方が見た目もいいだろう。

 構造的にはシンプルな“バスレフ”だが、内部に仕切りを付けてバックロードホーンのようにしても面白いかもしれない。サウンドホールにパイプを接続して、バスレフの低域をまとめる方法も使えるだろう。スピーカー作りのアイデアと腕があれば、そうとう変なカホンが作れそうだ。フロント部に南米風の模様を描いても面白そうである。

 楽器を自分で作るのは難しそうというイメージがあるが、ことカホンに関してはオリジナルを自作する人も多いようだ。“どのように鳴らなければならない”といったルールは特にないようだし、叩き方次第で音は調整できるので、適当に作ってもそれなりに楽しめてしまうのがカホンのいいところだろう。

 スピーカー作りに飽きたら、リズム派に転向してみてはいかがだろうか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。