小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

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夏休みの工作、いよいよ完結

さて今回は先々週の続きで、 音楽之友社から発売されている「これならできる特選スピーカーユニット パイオニア編」のユニットと、「スピーカー工作の基本&実例集 2017年版」に付属のエンクロージャのその後、塗装から音出しまでをレポートしたい。

前回は組み立てまで終わり、エージングを兼ねて少し音出しはしたものの、やはり塗装まではきちんとやってから評価したいところである。今回の「スピーカー工作の基本&実例集 2017年版」でも、塗装の効果について語られているところだ。塗装材による音の違いは、正直それ気のせいなんじゃないかと思わない事もないが、実際塗装すると表面の平滑化や、接着面の隙間が埋まるといった効果は見込めるので、組み立ててそのままよりは状態が良くなることは期待できる。

組み上がったエンクロージャ

今回はコーンが黒なので、全体的につや消しの黒で塗装してみることにした。使用したのはニッペ ホームペイントのラッカースプレーである。ホームセンターで200円程度で買える、比較的安価なものだ。2度塗りで1平方メートルぐらいの分量なので、今回のスピーカーにはちょうどいい。

素材のMDFは、木材の粉を圧縮して接着剤で固めたものなので、木目の方向がない。その特性がエンクロージャに向いているため、好んで使われるわけだが、塗装においても、表面・断面関係なく同程度の色乗り具合となる。ただし、吸い込みはかなりあるので、数回重ね塗りしないと、綺麗に塗れない。今回は2度塗りして一旦乾燥させたのち、もう1回2度塗りした。

軽く1回塗ったところ。数回重ね塗りしないと綺麗に仕上がらない

最後に吸音材を追加してみた。それというのも、仮の音出し時に多少音が固かったので、もう少し背面からの高音を抑えた方がいいと考えたからだ。そこで、ホームセンターの近所などの水槽用品を扱っているコーナーにて、濾過用のワタを買ってきて、薄く引き伸ばし、挿入した。

吸音材を少しだけ追加

課題はあるが、良好な低音表現

では実際の音出しである。

そもそも6cm程度のユニットでは、低音の出は、たかが知れている。それをエンクロージャの設計でどれだけ救えるかが、ポイントになる。今回の設計方式であるQWTは、部品点数も少なくシンプルな構造ながら、低音の増強という点では非常に効率がいいことがわかった。

小型ユニットスピーカー特有の、中高域は十分ながら低音はガッカリというタイプの音ではなく、低音もしっかり認識できる。もちろん、昨今は低域を強調する音楽が主流なので、結果的にちょうど良くなるという結果オーライなところも否定しない。ただ、6cmユニットの音としては、十分満足できるサウンドだ。

なかなかいい感じに仕上がったと思うが、どうだろうか

このエンクロージャは、低音を背面に向かって放出する設計のため、スピーカーの配置には注意が必要だ。つまり壁などにくっつけて設置すると、音導管が塞がってしまって、音がかなり変わってしまうのである。かといって音の反射が全くないと、低音が前方に回り込んでこないので、物足りなくなってしまう。色々試した結果、背面は壁などから15cm程度離すと、良好な結果が得られるようだ。

若干惜しいのは、ニアフィールドで聴くと十分な低音が出ているのだが、2~3m離れたところで聴くと、低音の減衰が大きい。やはり背面から反射して回り込んでくるので、押し出しが弱いのかも知れない。設計の合理性からすれば、背面に放出口を設けるのが妥当だが、底面の構造を工夫して、前方に放出口を回してくるのも面白そうだ。

またこのユニットは、かなりの大音量で聴いても、破綻することがないのはさすがだ。サイズから考えれば、ウソだろと思うほどデカい音が出せる。ハイレゾにも対応可能ということで、高域の表現はかなり伸びがよく、綺麗だ。ボーカルの破擦音も歪むことなく表現できるので、歌モノには向く。

ただしトータルでのバランスとしては、多少高域が目立つので、和室のようなデッドな部屋に置くと丁度いいだろう。音が硬くなりがちな洋室やコンクリート貼りの空間では、イコライザなどで少し高域を下げてやると、うまくまとまるはずだ。

今回はほとんどムックのキットをそのまま作っただけだが、出来としては非常に満足度の高いものに仕上がっている。特に今回のパイオニア製ユニットの素質の良さには、驚いた。音友ムックは以前から質のいいものが多いが、だんだんハードルが上がってきていて、一緒に組むメーカーさんは大変だろう。パイオニアはその大役を見事果たしたと言える。

来年はどのメーカーにバトンが渡されるのだろうか。今から楽しみである。

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

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コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。

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2017年9月29日 Vol.143 <数の論理と新秩序号>

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。