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UEの新最上位イヤフォン「18+Pro」は何が変わったのか? 新ドライバの威力を聴く

 ロジクールのUltimate Earsブランドから、約1年ぶりに発表されたカスタムイヤフォンの新モデル「Ultimate Ears 18+ Pro」(以下UE 18+ Pro)。既存のハイエンド「UE 18 Pro」に、新たな「トゥルートーン・ドライバー」を搭載し、進化させた意欲作。その詳細や背景について、Ultimate Ears本国のセールス・ディレクターのMike Dias氏に話を聞いた。さらに、UE 18+ Proの試聴もできたので、どのようなサウンドかもレポートする。

Ultimate Ears 18+ Pro

 概要はニュース記事で紹介した通りだが、発売時期は12月。正規販売代理店のe☆イヤホンが注文の窓口となり、価格は199,800円(別途耳型採取費用が必要)。既存の「18 Pro」(参考価格189,800円)と比べ、1万円ほどアップしている。また、ユニバーサルモデルの「UE 18+ Pro Universal」も日本でのみ発売。耳型採取などが不要で、UE 18+ Proの音質を楽しめるという。

 バランスド・アーマチュア(BA)ユニットの構成は低域×2、中域×2、高域×2と、片側6基搭載。中域は、中高域、中低域に分かれており、4ウェイ6ドライバ構成となっている。

 注目ポイントは高域用のBA。ここに、BAのデバイスメーカーが新たに開発したという「トゥルートーン・ドライバー」と名付けられたBAが使われている。これにより、高域の特性が向上、再生周波数帯域も3kHzアップし、22kHzまで出るようになっている。

Ultimate Ears 18+ Pro
Ultimate Ears本国のセールス・ディレクターのMike Dias氏

 Mike氏によれば、開発のキッカケは昨年の12月に発売された、レコーディングスタジオのキャピトル・スタジオとの共同開発モデル「UE Pro Reference Remastered」に遡る。このモデルにも、「トゥルー・トーン・ドライバー」が搭載されていたのだ。

 Mike氏は、「我々もメーカーである以上、新製品を作らねばならないというプレッシャーはありますが、“新製品を作る事ありき”ではなく、ユーザーの皆様からの意見や、技術的なイノベーションを受けて開発していくというスタイルです。とはいえ、既存のUE 18 Proはハイエンドモデルとして、ユーザーの皆様から寄せられるのは絶賛の声ばかりで、(優秀な製品に贈られる)アワードも頂き、長年愛され続けるモデルになっています。しかし、(価格としてはUE 18 Proよりも安い)『UE Pro Reference Remastered』で培った技術をそこに留めておいて、フラッグシップモデルであるUE 18 Proに使わないのはどうなのか。やはり18 Proは我々が持てる技術う全て投入したモデルでなければならないというのがUE 18+ Pro開発のキッカケ」だという。

 単純に高域用のBAドライバを新しいものに替えただけではない。その“搭載方法”も刷新されている。

 従来18 Proでは、ハウジングの内部にBAドライバを配置。人の耳に合わせて作られるカスタムイヤフォンは、ユーザーによってハウジングの形状が異なるが、その都度、最適な配置になるよう計算してBAの置き場所が決められてきた。

 しかし、18+ Proでは6基のBAを、あらかじめ1まとめのユニット内に搭載。このユニットには、各帯域ごとにBAを配置する場所や、そこから音が流れるノズルも用意されている。

各BAを内蔵しているユニット
左が従来の18 Proの内部イラスト

 「このようなユニットにBAをまとめる事で、より最適なBAの配置が可能になり、サウンドも改善されます。逆に言えば、トゥルー・トーン・ドライバーの性能を極限まで発揮させるために、このようなユニットが必要だったと言い換える事もできます。様々な形状のハウジングに搭載できるよう、3Dモデリング技術を活用して導き出した形状です。当然、トゥルー・トーン・ドライバーやサウンドエンジンの導入に合わせ、クロスオーバーや各部のチューニングなど、細かな部分も見直し、最適なものにしています」とのこと。

左が18+ Pro、右が18 Pro。中が見にくいが、確かにBAをまとめたユニットが内部にある

 音の傾向については、「18 Proと基本的な方向性は変えないように意識しました。しかし、音場はとても広くなり、また、高域がのびる事で感じ方も変わってきますので、それを踏まえたチューニングにやり直しています。広さや高域が出るので、(既存の18 Proと)聴き比べた瞬間は低域が穏やかになったと感じるかもしれません。しかし、それは全体にバランスが改善され、音場もオープンになったため」だという。

 また、様々なプレーヤーで使いやすくするために、感度も18 Proと比べ、やや抑え気味にしており、「音量のコントロールが、やりやすくなったと感じていただけるはず」とした。

音を聴いてみる

 私は2013年から「18 Pro」をプライベートで使っていたので、音については良く理解しているつもりだ。高価なモデルなのでモニターライクな、優等生サウンドを連想する方が多いかもしれないが、傾向としては、そういった一面を持ちながら、中低域の張り出しが強めで、パワフルな一面が特徴。高域もシャープで、一言で表すと“ゴージャスなサウンド”だ。

 これを踏まえて「18+ Pro」をAK380に接続して音が出た瞬間、「おおーこうきたか」と思わずニヤけてしまう。まず大きく違うのは音場の広さ。広がる音の余韻が、18+ Proの方が遠くまで見渡せ、より開放的なサウンドになった。前の「18+ Pro」を、狭めの部屋で音がグイグイとせり出してくるようなサウンドだとすると、部屋の壁が無くなったように感じる。

 その空間に、音像がシャープに定位。中低域の音圧は豊かだが、空間が広くなったので圧迫感は薄れる。高域がのびるようになったためか、最低域の沈み込みもより深くなったように感じる。奥行き方向だけでなく、低音から高音まで、上下の音のレンジも拡大したような印象だ。

 そのためMike氏が言っていたように、低音だけに注目すると、ちょっと弱くなったように聴こえるかもしれない。ただ、弱いというよりも空間とレンジが広まったので、グイグイ前に出る感じが大人しいというか、そこだけ目立たなくなったという印象を持った。聴き込んでいくと、決して低域は弱くなく、量感も沈み込みも十分なクオリティである事がわかるだろう。逆に言えば、長時間、気持ちよく聴き続けるのにより適したサウンドに進化したと言えるかもしれない。

ユーザーのニーズを踏まえて進化していく

 Mike氏は、UEがこだわっている“製品サポートの充実”についても説明。カスタムイヤフォンは、プロのミュージシャンから、一般のオーディオファンまで、様々な人が使うものになっているが、「あらゆる人達が、“6つ星ホテル”のようなサービスが受けられるように、常に消費者目線で改善を進めている」と説明。

 例えば、3年前に日本で開催されたイベント「ポタフェス」において、ハイエンドモデルのオーダーが1日で一気に約70個入った事を振り返り、「当時の体制では生産能力を超えてしまい、“申し訳ございませんが、通常の納期よりも少しお待ちください”とお願いする事になってしまった。我々にとって売り上げがアップする事は成功ですが、それをお客様にデメリットで返してしまってはいけない。その反省も踏まえ、3Dプリンタも活用し、よりスピーディーに製品をお届けする体制を整えました」。

 サポートについても、「何かトラブルがあった時に、プロミュージシャンを優先し、一般のお客様が後回しになってしまったら、その方をお待たせする事になってしまう。ですから、ミュージシャンでも一般ユーザーでも、どなたでも最短でサービスが受けられる仕組みを、我々のチームが構築し、常に改善していっています。そして、こうした現場からの声をフィードバックし、新たな製品に活かしています」という。

 その新製品である「UE 18+ Pro」。ドライバや内部の構造も変化したので、まったく新しい型番、例えば「UE 19」、「UE 20」などの名前でリリースしようかという話は無かったのかとMike氏にたずねたところ、「製品のラインナップがあまり多くなりすぎると、お客様にどれを選んだらいいかわからないという混乱を与えてしまいます。今回の18+ Proも、あらゆる面で既存の18 Proを凌駕するものができたので入れ替えるというイメージですね」とのこと。

 他社のハイエンドカスタムイヤフォンでは、18+ Proよりも多数のBAドライバを搭載したモデルも存在する。BAの個数についての考えた方を聞くと、Mike氏は墨と筆で描かれた、日本の“書”の芸術性に言及。「墨で描かれた文字に使われている色は、白と黒です。しかし素晴らしいアートであり、まさにシンプル・イズ・ベスト。重要なのは数ではありません。アートを“何色の色を使っているから優れている”なんて評価はしませんよね? 我々は音の分野でまさにアートを追求しています」とコメント。

 また、カスタムイヤフォンは昨年末の「UE Pro Reference Remastered」以来1年ぶり、ユニバーサルモデルとしては2014年の「UE900s」以降、新製品が登場していない点については、「ユーザーのニーズと、それを満たす事を我々は常に考えています。また、UEのサウンドシグネチャーを、より多くの方に理解していただき、体験していただく事も重視しています。例えばUE BOOMのようなBluetoothスピーカーにも注力していますが、あの製品も我々のサウンドをより手軽に多くの方に楽しんでいただきたいと考えた結果生まれたものです。そしてニーズが高まればより大きなモデル(MEGA BOOM)を作る……といったイメージです。こうしたスタイルが我々の特徴ですので、他社とは少し違うように思われるかもしれません」。

 最後にMike氏は日本市場のイメージについて、「日本のユーザーは、我々の成長に大きく関係しています。日本からのフィードバックで、改善されたポイントは山ほどあります。日本にフォーカスして製品を作っていく事で、我々はどんどん良くなっていく。日本語で“改善”という言葉がありますが、英語の“インプルーブメント”を使わず、UE社内では“カイゼン”という言葉が浸透しているくらいです(笑)。日本のマーケットを満足させられれば、他のマーケットも満足させられる、本当に我々にとって重要なマーケットだと考えています」。

 なお、Mike氏は12月17日と18日に東京・秋葉原で開催されるイベント「ポタフェス 2016」の初日に参加する予定。UE 18+ Proの試聴機も用意されるので、実際に、サウンドの進化を体験して欲しい。