地デジ普及率向上に向け、見えてきた課題とは

-NHKが講演。“受信できない世帯”への対策など


NHK 総合企画室(経営計画)担当局長の土屋円氏

4月15日開催


 「アナログからデジタル放送へ! 未来を見据えた各社のテレビ戦略」と題して行なわれた第19回ファインテック初日の基調講演。NHK 総合企画室(経営計画)担当局長の土屋円氏が「放送のデジタル化と未来」をテーマに講演を行なった。

 土屋氏は、まずデジタル放送への完全移行に向けた追加的な経済対策が政府から提示されていることを示した。

 具体的なものとして、エコポイントや家電リサイクルポイント補助による「デジタルテレビの購入支援」、学校をはじめとする「公共施設のデジタル化の推進」、マンションなどの共聴施設に対する支援策である「共聴施設のデジタル化推進」、デジタル放送の受信が難しい地域への対策を図る「受信障害デジタル難視聴解消対策」をあげた。

 「エコポイントは5%に加え、デジタルテレビはさらに5%が追加される。それにリサイクルの3%を加えると、13%となる。その効果は大きい。また、全国40万の小中学校でハイビジョン放送が見られるようになると、学校のテレビがきれいなのに、家のアナログテレビの画像が悪いことが認識できる。少子化の影響もあり、子供の意見を聞いてテレビを買い換えるといった動きもあるだろう。起爆剤になると思っている」などとした。

地上デジタル放送の普及目標と実績

 現在、地上デジタル放送の受信機は、2009年1月時点で、2,455万世帯に普及しており、普及率は49.1%。政府が普及目標として掲げていた2,900万世帯、58%の普及率を下回っていることになる。

 これに対しては「普及台数では2009年2月時点で4,813万台となり、普及目標の4,710万台を100万台ほど上回っている。今後も台数では目標を上回る形で推移するだろう。テレビが90%以上の普及率に達するまでに、白黒テレビも、カラーテレビも約10年かかったが、地デジは2003年2月の放送開始から7年半で置き換えるという強引であり、また期待を込めたものとなっている。視聴者からは、国の施策に、各家庭が負担を強いられることに納得ができないという声もいただく。また、情報インフラという目に見えないものに対して理解しにくいという点もある」とする。

 土屋氏は「デジタル化の目的には、放送サービスの高度化や多様化、電波の有効利用、放送通信の連携、関連産業の活性化や経済効果などがあるが、そうしたことを説明するよりも、孫にきれいな映像を見せるため、子孫に次世代の情報インフラを残すために、ぜひいまデジタル化してほしいという説明をして納得をいただいている」などとした。



■ 集合住宅共聴と、障害対策共聴に課題

 3月には、50%を突破すると見られる地デジの普及率だが、目標を下回っていることは問題だといえる。

 その理由について、土屋氏は「構造的にデジタル化できない世帯がある」と指摘する。

 NHKによると全受信世帯4700万世帯のうち、一戸建て住宅などUHFアンテナを立てれば直接受信が可能な世帯は1,800万世帯。またケーブルテレビによって受信が可能な世帯は1,350万世帯に達する。

 「ケーブルテレビ会社側ではデジタル化の改修が進んでおり、95%においてデジタル化が可能だという。直接受信とケーブルテレビ世帯におけるデジタル化は予定通りに進むだろう」としている。

受信方法別の世帯分布

 一方で、マンションなどの集合住宅における「集合住宅共聴」が4階建て以上の建物だけで約50万施設、770万世帯。ビル陰や送電線、鉄道などの影響による「障害対策共聴」が5万施設、670万世帯。放送電波が山や丘陵によって遮られる地域の「辺地共聴」が約70万世帯、デジタル化によって新たな難視聴地域となることが想定される「デジタル化困難共聴」が19~26万世帯あると見られる。

 「デジタル化困難共聴は衛星やIPを活用した補完措置が検討されているが、集合住宅共聴、障害対策共聴、辺地共聴をあわせた1,400~1,500万世帯の受信をどうするかが、今後の普及の進捗に影響するだろう」とした。

 集合住宅共聴、障害対策共聴、辺地共聴をあわせると、全世帯の3分の1を占め、ここに土屋氏が指摘する「構造的にデジタル化できない世帯」が多く含まれることになる。

 ひとつは、集合住宅共聴における課題だ。基本的には、集合住宅が共同でアンテナを屋上に立て、各戸に放送電波を分配するという仕組みになる。

 だが、アンテナ設置には管理組合の同意が必要である集合住宅が多く、その決議までに数々の手順を踏んで、積立金のなかから予算を計上する必要があるため、実行に移すまでに長い時間がかかっているという状況も少なくない。

 「あるマンションの管理組合では、決定するまでに2年かかったという例もある。時間がかかることを踏まえて、デジタル化対策を検討していく必要がある」と語る。

 さらに大家がアンテナを立ててくれないため、デジタルテレビを購入してきたが、結局、アナログ放送しか視聴できないという問題もあるという。「今後、こうした例はますます顕在化してくることになるだろう」と予測した。

 ちなみに、2008年7月からアナログ放送には「アナログ」の文字が表示されるようになったが、デジタルテレビを購入したのに、アナログ放送を視聴していた家庭が7%もあったという。

視聴形態別のデジタル化対応イメージ「デジタル放送推進のための行動計画(第9次)」での辺地共聴関連の目標と対応率集合受託共聴施設のデジタル化改修状況
デジタル化による受信障害の改善傾向

 障害対策共聴でも課題がある。

 これは、ビルなどの建築物に放送電波が遮られ、受信障害が発生している地域において、建築物の所有者などが障害対策として設備を設置しているものを指す。

 実は、情報通信審議会の試算によると、アナログ放送では障害対策地域となっていた世帯のうち、デジタル化によって約9割の世帯で視聴が可能になるという。これはこれで大きなメリットなのだが、問題は、どこが障害対策地域のままなのか、どこが視聴可能になるのかということがわからない点だ。

 そのため、現在の障害対策地域ではいちいち実測調査をしなくてはならないという手間がかかる。これにはそれなりに時間が必要だというのだ。また、都市部では、ビルが林立しているため、どの建物が障害となっているかを特定することが難しく、設備の費用負担をどうするのかといった問題も発生してくると想定される。

 政府では、施設の改修への一部負担補助、受信調査費およびそれに関する事務費の全額補助に向けて、今年度予算として53億9,000万円を予定。こうした問題の解決に取り組む姿勢だ。



■ アナログ放送終了に向けた周知対策など

1月の受信実態調査結果

 NHKが今年1月に実施した受信実態調査によると、障害対策共聴では88.9%がデジタル放送を未受信という結果が出ており、数字の上からも、今後の普及率向上を目指す上では大きな課題となっている。

 なお、同調査では、都市型CATVにおいては、54.4%でデジタル放送を受信。個別受信では40.3%、集合住宅共聴では35.9%がデジタル放送を受信している。

NHKや民放による放送内での告知

  一方、講演のなかでは、デジタル化に向けたNHKの取り組みなども紹介された。NHKでは毎週日曜日に、地デジの解説番組である「デジタルQ」を放映。さらに、アナログの文字表示や、スーパーの挿入などを通じた周知を開始していることなどを示した。

 「今後は、デジタル放送の視聴世帯が50%と過半数を突破することで、放送コンテンツの画角が4:3の標準画角から、16:9のハイビジョン画角に移行しはじめるだろう。それを、標準画角のテレビで見ると、レターボックスサイズとなり、上下の黒い部分ができる。そこにスーパーを入れてデジタル化への喚起を促すことができるようになる」としている。

 また、総務省が全都道府県を対象にテレビ受信者支援センター(デジサポ)を設置し、ここにNHKから100人の出向をはじめ、300人体制でのサポート体制が確立したこと、人口1万8144人の石川県珠洲市において、アナログ放送終了のリハーサルを実施。課題などを抽出する取り組みを行なっていることなどを示した。なお、同市におけるケーブルテレビの整備率は100%、接続率は58.8%。デジタル化への移行がしやすい地域でもある。

 最後に、土屋氏はデジタル放送のもうひとつの視聴方法として、携帯電話などによるワンセグ視聴をあげ、「どこででもテレビを見られるという点で、ワンセグ視聴の広がりは見逃せない」とした。

「デジサポ」の設置などで受信支援を行なうアナログ放送リハーサルの内容世界の地上デジタル方式の比較と普及状況


(2009年 4月 16日)

[ Reported by 大河原克行 ]