ソニー、第92回定時株主総会を開催
-「ネット時代に再び打ち負かされない」
ソニー株式会社は19日、東京・品川のグランドプリンスホテル新高輪で、第92回定時株主総会を開催した。
インターネットなどによる議決権行使を含めた出席株主数は18万3,621人(昨年は16万292人)、議決権行使個数は674万4,228個(同684万6,048個)。なお、総議決権数は1,000万8,692個となっている。また、会場への出席株主数は午前10時の開会時には5,564人。12時時点では8,167人(同7,883人)と、昨年に続き過去最高を更新した。
午前10時からスタートした株主総会で、議長を務めたハワード・ストリンガー会長兼社長は、「本日はご出席をいただきありがとうございます。第92回定時株主総会を開催します」と日本語で挨拶。会場の株主から大きな拍手が湧いた。その後の進行は逐次通訳を交えて、英語で進行した。
総会では、まず、大根田伸行代表執行役EVP兼CFOが、2008年度の事業報告を行なった。その中で、「テレビ事業に関しては、液晶テレビ『BRAVIA』が前年比46%増となる1,520万台を出荷し、目標販売台数を達成したが、営業損失は拡大した」と説明したほか、2009年度の事業計画については、「当社の営業損益については、持分法や構造改革費用が盛り込まれており、他社との比較には留意をいただきたい。これらを除くとと300億円の営業利益となり、為替が2008年度と同じベースとなれば、さらに1,300億円以上の改善が見込まれる」と説明した。
また、2009年度の事業への取り組みについては、ストリンガー会長が説明。4月1日付けで、エレクトロニクス事業およびゲーム事業の組織を再編し、コンスーマプロダクツ&デバイスグループとネットワークプロダクツ&サービスグループを設置したこと、その狙いとして、競争力強化や収益力の強化、ネットワーク対応製品の強化などに取り組んでいくことを示した。
また、「株主からは、テレビ事業の収益改善、ゲーム事業の今後の展望についての質問をいただいている」として、コンスーマプロダクツ&デバイスグループ担当の吉岡浩執行役副社長、ネットワークプロダクツ&サービスグループ担当の平井一夫執行役EVPがそれぞれ説明を行なった。
■ 平井執行役EVP「今こそ、プレイステーションで培った資産、ノウハウを有効活用」
吉岡執行役副社長は、エレクトロニクス事業の取り組みについて説明。「コンスーマ事業は、今年6月から、製品ごとに分類していたものをホームとパーソナルに分類した。コンシューマエレクトロニクス事業は、デジタル化、グローバル化のなかで、異なるコスト構造、異なるビジネスモデルを持つ企業と競合している。そのために、スピーディーで、効率的な組織を作らなくてはならない。ホームとパーソナルに分類したのは、それぞれの顧客の視点に立った製品を開発するためのもの。中期的な成長に向けては、新たなライフスタイル、新たな感動、体験を実現できる製品を投入する。ネットワーク時代に相応しい製品の開発を進めること、製品と連携したデバイスの開発、新たな技術へのチャレンジ、新興国市場での開拓および成長に取り組む。ハードの製品価値は重要であり、製品へのこだわりには一層磨きをかける」とした。さらに、「テレビ事業の収益性については、需要の減退、価格下落、為替の影響によって、厳しい内容となっている。改善策として、今年度末までに3か所のテレビ工場を閉鎖し、設計者を3割減少するほか、設計領域においては、シャーシの種類を削減し、部品購入をソニー全体で見直すことによって、一歩進んだコスト削減に取り組む。また、サプライチェーンについても、スピーディーな体制へと改善することで、外部変化があっても耐えうる強い収益構造に生まれ変える。家庭の中心となるテレビ事業の収益改善は、最大のプライオリティとして、事業を推進していく」とした。
一方、平井執行役EVPは、「ゲーム事業においては、ハードのコストダウンや販売拡大、ゲームのラインアップの強化、新たな楽しみ方の提案といった点から取り組み、早期の黒字化を目指す。ソニーはグループ内に数多くのコンテンツを持ちながらそれを十分に生かし切れていない反省がある。豊富な資産や知識を、統一したマネジメントに統合していく」とし、「ハードウェア技術の差異化に加えて、ネットワークを通じたサービス、コンテンツを提供し、複数の製品をつなぎ、各製品の付加価値を高めていく。いまこそ、プレイステーションで培った資産、ノウハウを有効活用できる。明日のソニーを作るべく努力していく」とした。
また、ストリンガー会長は、「ソニーは、エレクトロニクス事業における構造改革を進めており、生産調整、在庫圧縮、投資計画の削減および延期、生産拠点の再編、人材配置の再編などを行い、2009年度は3,000億円の削減が可能になる。株主からはソニーらしいワクワクする製品が見あたらない、エレクトロニクスのソニーであって欲しいという意見をいただいているが、ソニーのDNAであるイノベーションを今後も継続していく考えであり、魅力のある製品群、他社にはない幅広い事業領域といった特徴を生かしたい。新たなマネジメントを信頼していただき、引き続き支援していだきたい」とまとめた。
■ 「iPodのように顧客の価値が異なるところにも対応していく」
会場からの質疑応答では、中鉢良治副会長が進行を務め、9人の株主が質問した。「ソニーからワクワクする製品が出てこない」、あるいは「技術のソニーの復活」を求める質問に対しては、ストリンガー会長が回答。「ユーザーに夢を与えるのはソニーの役割である。ソニーは、ハード、ソフト、コンテンツをソニーならではの形で融合できる、世界で唯一の会社であると認識している。新しい世界に踏み出すことで驚異的な強みを発揮できる。プレイステーション事業を、エレクトロニクスグループのなかに初めて統合したことで、すべての資産を生かし、目標達成に向けた事業を推進できるユナイテッドな体制ができた。3Dをテレビで見られ、映画館でも、プレイステーション上でも楽しめる世界がやってくる。これらの環境はソニーによって実現されるものである。数年前には足を踏み入れていなかった、ネットワークの市場に、しっかりとポジションを確立している。かつて、盛田昭夫氏が音楽会社、ハリウッドの映画会社を買収する決断をしたときには評価する声ばかりではなかったが、これは将来を見据えた判断であった」とした。また、吉岡執行役副社長は、「ソニーがユニークな製品を投入するために、どんなカルチャー、組織を作ればいいのか、どうすればエンジニアが頑張れるのかといったことに取り組んできた。ひとつめには、ネットワーク時代のなかで、思いついたものをいち早く出せる体制づくりが必要であり、ネットワークの専門組織、ソフトの力を強くするための専門組織を設置した。テレビを設計する速度は、約2カ月早まった。今年もさらに早くできるようにしたい。2つめとして、モノづくりの観点からは、これまでの軽薄短小を追求することでヒット商品を開発するという体制だけでなく、iPodのように顧客の価値が異なるところにも対応していく。潜在ニーズがどこにあるのかを、外に出て掴む努力を各部署で行う。そして、最後に、ソニー社内の優れた技術を楽しい商品として仕上げていく努力を、新鮮な視点で取り組んでいく」とした。
テレビ事業については、ホームエンタテインメント事業本部の石田佳久本部長が説明。「昨年は世界最薄となる9.9mmのZX1を発売し、今後も差別化できる秘策を考えている。ネットワークにつながる製品も投入しているが、もっと価格が安いところで、コンテンツやアプリケーションを、ネットワーク利用したいという声がある。鋭意努力して、満足できる製品をいち早く投入したい。3DやIPTVへの取り組みも加速していく考えである。3Dにおいては、テレビだけではなく、放送局向けカメラや、コンテンツを持っている。必要な技術、資産が揃っている。ここでも業界のなかでいち早く商品化し、感動体験の実現に努力する」とした。
ストリンガー氏が会長、社長、CEOを兼務していることは中央集権主義ではないのかという質問に対しては、ストリンガー会長が回答。「中央集権ではなく、CEOとそれぞれのビジネス、事業を担当するトップとの間を短くする試みであり、よりコミュニケーションを密接にするものである」と反論した。
また、ソニーの将来的な方向性についての質問では、「ソニーは、20世紀においては、チャンピオンといえる製品を生み出してきた。プレイステーション、バイオ、ウォークマンといったものである。だが21世紀では、iPodのように、ソニーが生み出した製品に、ネットワークにつながる機能を搭載して成功したものが登場した。プレイステーションでは、マイクロソフトがマイクロソフトオンラインサービスというネットワークを付け加えて、Xboxの競争力をつけた。ソニーは、ネットワーク時代に再び打ち負かされるということはしない。当社には、極めて優れたハード技術者がいる。これがソニーの基礎であり、中核である。ここに強力なソフトを組み合わせて勝利する。顧客はネットワークにつながる製品を求めている。ハード、ソフト、コンテンツを融合させることで、ネットワークにつながる製品を作り、必要とされるパートナーとの関係づくりを行う。3D、IPTV、PLAYSTATION Network(PSN)など、新しい世界を作り、そこでリーダーとなる。ソニーとっては挑戦であり、課題があり、まだやり終えたわけではない。歩み続けなくてはならない」と、ストリンガー会長が回答した。
ストリンガー氏個人の報酬を開示することを求める質問に対しては、報酬委員会議長を務める社外取締役の橘・フクシマ・咲江氏が回答。「業績、株主価値に連動することが重要である。常に役員報酬における在り方を求めている」として、明確にはしなかった。
■ ストリンガー氏「私の役割は、事業を回復させ、正しいと思うことを実行していくこと」
また、ソニーに対する相次ぐ経営陣にネガディブな報道については、「私自身、過去に20年間ジャーナリストをやってきた。ソニーはどうしても憶測の対象となってしまうことが多い。昨年初めには欧州の大手雑誌で、ソニーは転換を成し遂げたという記事が出たが、それをそのまま鵜呑みにすることはしなかった。そう判断するには時期尚早だと感じたからだ。また、本日付けの日本の日刊紙では新たなマネジメントに肯定的な記事がある。私の役割は、事業を回復させ、正しいと思うことを実行していくことに尽きる」とした。
なお、「定款一部変更」、「取締役15人の選任」、「ストックオプション付与を目的とした新株予約権の発行」の第1号議案から第3号議案については可決。12時21分に閉会した。
(2009年 6月 19日)
[Reported by 大河原克行]