MySpace、登録楽曲を購入者がCD化できる「myspaceCD」
-ポニーキャニオン協力。アーティストが価格設定
マイスペース株式会社は、SNS「MySpace」の新サービスとして、登録アーティストの楽曲をアルバム単位で配信し、一般ユーザーがCDに書き込むことで購入する「myspaceCD」を株式会社ポニーキャニオンとの協力で7月13日より開始した。
myspaceCD |
主にアマチュア・インディーズミュージシャンの音源をストリーミング配信しているMySpaceで、新たにポニーキャニオンとの共同でmyspaceCDの専用サイトを開設。登録アーティストはサイト上に楽曲をアップロードすることで販売が行なえ、一般ユーザーは手持ちのパソコンのCDドライブでCD-Rに書き込む形で楽曲を購入する。ジャケットやレーベル面のデザインも合わせて配信可能で、購入者がプリントすることで、1枚のCDアルバムとして保存できる。なお、ファイルとしてのダウンロードはできない。
販売はアルバム単位のみで行なわれ、価格は300~10,000円の範囲でアーティストが設定。登録アーティストは初期費用や月額固定費用などが不要で、CDが売れた場合に初めて販売手数料としてCD価格の50%と、サービス基本使用料として同25%をマイスペースに支払う。なお、CDが101枚以上売れた場合は以降のサービス基本使用料が無料となる。CDが1枚も売れなかった場合はアーティストの使用料金は発生しない。
配信はCD-DA形式で、購入後は通常の音楽CDと同じくプレーヤーでの再生やPCリッピングなどが可能。なお、当初はアーティストのオリジナル楽曲のみ取扱い、既に著作権登録された曲のカバーなどの販売については今後検討するという。アーティストがアップロードしてから、著作権などのサイト審査を経て販売される。
楽曲単位で販売される一般的な楽曲配信と異なり、1枚のCDに収められた楽曲をそのままやり取りするため、曲間の秒数や微妙な音量の差など、制作者の意図したマスタリング音源そのものを非圧縮で聴くことができる点も特徴としている。
購入にはユーザー登録は不要。株式会社ヴィジョネアのActiveXプラグイン「CD Burning」を利用してCD書き込みまでの手続きが行なえる。決済はクレジットカードまたはPayPalを利用。現時点でサイトは日本語だが、アルバムの購入は海外からでも可能。決済にPayPalを利用できれば、どの国からでも購入できるという。
CD販売~購入の流れ | 在庫や金銭面のリスクがなく、CDパッケージとして販売できることから「音楽配信とCD通販のイイトコ取り」とする | アーティストがアルバム構成やジャケットデザインにもこだわりたいというニーズに対応できるという |
今回のサービスでは、CD販売のほかに、サイトに登録したアーティストのオンラインでの“オーディション”も行なうことが特徴。
登録された楽曲をポニーキャニオングループのディレクターやプロデューサーが全曲試聴し、優秀な楽曲やアルバムについて直接本人にコンタクト。アーティストをレコメンドするページも用意される。
また、選出された楽曲/アルバムを定期的に実店舗で販売するインディーズCDとして制作。当初は半年に1回程度で、年間10~20組前後のアーティストが対象となる。さらに、優秀な楽曲/アルバムについてはポニーキャニオンからのメジャーCD発売も検討するという。関連会社によるマネージメントなどのサポートも行なうとしている。
配信ページでは、アーティストのレコメンドなどの情報も | アーティスト登録や、CD購入の手順 | アーティストページの例 |
アーティストにとって、ステップアップへのモチベーションが高まるという仕組みを提案する | マイスペースにとってはアーティスト志望者の拡大、ポニーキャニオンはユーザー視点で評価された才能の発掘とそれぞれにメリットがあるという |
■ 海外展開に大きな期待
マイスペースの大蘿淳司社長(左)とポニーキャニオンの桐畑敏春社長(右) |
MySpaceは2004年1月にアメリカでスタートし、日本では2006年11月に「MySpace Japan」を開始。同12月にアーティストの登録を始めてから12万組のアーティスト(写真家やデザイナー含む)が参加している。
マイスペースの大蘿淳司社長は、「これまで戦略の大事な柱として、“アーティスト支援”を掲げてきた。大事なのは表現者がいかに元気になるかということ。日本の場合、エンターテインメント、音楽の表現者を中心にソーシャルネットを広げていき、そこで一番になっていこうという戦略がある。そのなかで、今回は一歩踏み込んだ取り組み」とした。なお、海外ではサードパーティによる同様のサービスは行なわれているという。
大蘿氏は、今回のサービスに寄せる期待として、“パッケージの力”を挙げ、「パッケージが売れない時代というなかでも、ライブ会場などではCDが売れるように、タイミングなどが合えばパッケージを持ちたいという欲求は高いと信じている。myspaceCDは、無在庫でリスクがなく、関わる人が皆ハッピーになる仕組みでは」とした。
また、「日本のアーティストに対する海外からの興味は我々の想像以上に高まっており、例えば日本では300人のハコしか埋まらないアーティストが、海外ではいきなり3,000~4,000人を集めたりする。しかし、流通面で見ると、いきなり本格的なパッケージ流通は難しい。もちろんiTunesなどのサービスもあるが、なかなかそこでアーティストを見つけるのは難しい。自分のプロフィールを通じてパッケージを世界に販売することは、アマチュアのもう1つの成功モデルになるのでは」と自信を見せた。
左から、ポニーキャニオンの事業開発本部 本部長の小林聡氏、マイスペース大蘿社長、ポニーキャニオン桐畑社長、ヴィジョネアの内古閑宏社長 |
「CD販売」と「オーディション」という2つの側面について、ポニーキャニオンの事業開発本部 本部長の小林聡氏は、「登録している12万組のアマチュアアーティストは、どんなに素晴らしい可能性を秘めていても、才能を世に出す手段がなければ埋もれてしまう。その道筋をつけたいというのが基本理念」とし、「アーティストは住所氏名などの簡単な登録でエントリーできる」と間口の広さをアピールした。
これまで、ポニーキャニオンでは、ヴィジョネアとの共同で、廃盤や旧盤を同様の方式で販売するサービスを行なってきたという。「今回は、販売/購入ともに一般ユーザーという、世界初のサービス」(小林氏)とした。
ポニーキャニオンの桐畑敏春社長は、「音楽ビジネス環境は、何百万枚も売る時代から、ケータイやネットの影響で少量多品種の時代に移行しつつある。メーカーサイドから送り出すアーティストだけでなく、ユーザー側から人気アーティストが生まれてくるトレンドを感じている。こういった中で海外も含め展開できることはうれしい」と述べた。
目標としては、開始から1年で2,000アーティスト、CD販売1億円と設定。「メインはCD売上の収益ではなく、アーティストを育て、世に送り出していくこと」(マイスペースの大蘿氏)としている。なお、ポニーキャニオン以外のレコード会社などとのサービス展開については「共同オーディションなどの連携は他社ともこれまで通り行なうが、myspaceCDと同じ形で増やしていくことはないだろう」とした。
(2009年 7月 13日)
[AV Watch編集部 中林暁]